vsイザリア(2)
「──駆動せよ、我が業。遥かな天に至るため」
仙理術を解禁し、槍を手にしたイザリアを相手に俺は業術を発動。感情の昂ぶりに合わせて俺の内力の量が際限なく上昇する。対して、イザリアも──
「──活魂霊起功」
そう呟くと同時にイザリアの内力量が爆発的に増える。いいね、そうじゃなくちゃな。
俺は増えた内力を身体能力の強化に回し、イザリアに向かって駆け出す。
間合いは一瞬で詰められ、俺はその勢いのまま刀を振るう。
突進の勢いがそのまま乗った一撃。マトモな奴がマトモに受ければ即死の一撃をイザリアは槍で辛うじて防ぐ。イザリアも内力を身体能力の強化に回しているんだろう。そうじゃなきゃ、受けきれるわけがないからね。だけど──
「パワーが足りてねぇなぁ!」
俺は力任せに刀を振り抜く。すると、その衝撃に耐えられずイザリアは吹き飛んだ。内力による強化込みでも身体能力は俺の方が上だ。
俺は吹っ飛んだイザリアに追撃をかけるために前に出ようとするが、そんな俺の視線の先でイザリアは空中で体勢を変え、地面に槍を突き立てて、飛んでいく自分の体をその場に留める。
「最初から力で勝てるなどと思ってはいない」
イザリアはそう言うと、大きく息を吸う。
マズい。俺がそう思った瞬間、イザリアは息を大きく吐く。
そうして吐かれた吐息は、イザリアの内力と混ざり合って炎となって俺に襲い掛かった。
流砲──流撃と並ぶ仙理術士が使う技の一つだ。
吐息に内力を混ぜ合わせて、いわゆるドラゴンのブレスのようにする技。
使う奴は殆どいない。その理由は──
俺はイザリアの口から放たれた炎の息を刀で振るい、掻き消した。
流砲が使われなくなったのは技の修得難易度が高い割に威力が低いからだ。
それをイザリアも理解しているのか、この攻撃を牽制にイザリアは槍を構えて急降下する。
仙理術には空気を内力で固めて足場にする術もあり、イザリアはその術によって空を蹴って加速して俺に向かってくる。
頭上から串刺しにしようと構えて落下してきたイザリアを躱すと、イザリアは槍を右手に持ち、俺に向けて突き出してくる。
俺は刀を振り下ろして、突きを叩き落とし、そこから距離を詰めて、イザリアに向けて振り下ろした刀を跳ね上げて斬り上げる。
俺の刀はイザリアの胸元を掠め、僅かな鮮血が俺の視界に舞い、その直後に衝撃を受けて、俺の体がよろめく。
どうやら、槍の柄でおもっくそ顔面を殴られたようだ。歯が折れたのか、口の中に血が溢れるが、そんなことは気にしていられない。
イザリアは右手に持った槍を翻し、剣を振るうように片手で槍を振り抜く。
俺は咄嗟にガードし、槍の柄を受け止めるが、衝撃までは流しきれずに、後ずさる。
そこにイザリアが槍の穂先を振り下ろしてくる。その一撃を刀で受け止めると、イザリアの槍は即座に翻り、片手で振り抜かれた槍の穂先が俺の首を狙ってくる。
「っ──」
俺は直感で刀を放り捨て、その場に倒れこんで槍の穂先を躱す。
そして倒れこみながら、同時に足を跳ねあげて、放り捨てた刀を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた刀はイザリアの胸元に突き刺さり、イザリアの体勢が大きく崩れる。
「ボンヤリしてんじゃねぇよ!」
俺は倒れこんだ体を腕で支え、腕の力だけで体を起こすとイザリアに殴りかかる。
だが、イザリアは殴りかかった俺の右腕を左手で掴み、俺の打撃の勢いも利用して投げ飛ばした。
投げ飛ばされた俺は受け身も取れずに、その場に転がされる。
「鈍いのは貴様だ」
倒れた俺の頭をイザリアがサッカーボールのように蹴り飛ばす。
衝撃で意識が途切れそうになる俺の胸元にイザリアは自分の胸から引き抜いた刀を突き立てた。
「死ね」
槍の穂先を俺に向けて振り下ろす。
俺は仰向けの体勢で首を振って槍を躱し、体を起こす。
そこへイザリアが槍を両手で持ち、フルスイングの一撃を叩き込んでくる。
ガードもできずに俺は、洞窟の壁に激突するまで吹っ飛ばされた。
衝撃で体のあちこちの骨が砕け、激痛が走る。だけど、それだけだ。
「どうした! 俺は死んでねぇぞ!」
全然余裕だぜ。キミもそうだろ?
もっと本気を出せよ。俺を殺してぇんだろ?
「ほざいてろ」
イザリアは仙理術で掌に水の玉を生み出す。
すると、ほどなくしてその玉が手を離れて、イザリアの周囲に浮かぶ。
水遊びはよそでやってくれませんかね?
そう思った瞬間、水の玉から超高圧で作り出された水の刃がレーザーのように撃ち出された。
俺は横に跳んで、水の刃を躱すが、イザリアの弾幕はそこで終わらない。
水の刃は続け様に放たれ、俺は走って攻撃を避け続ける。
「プロミネンス・アロゥ!」
走りながら、指先から真紅の内力をイザリアに向けて撃ち出す。
俺の攻撃を右手に持った槍を振って弾き落とそうとするが、受けた瞬間にイザリアの体が大きくよろめいた。
イザリアは自分の右腕を忌々し気に見ている。俺はそれを隙と判断し、回避から攻撃に転じる。
体勢が崩れた隙と右腕を睨みつけた隙が重なり、反応が遅れたイザリアでは、俺の踏み込みに対応することが出来ない。
イザリアは右手に持った槍を盾にするようにして防御を固めるが、俺は刀を振り抜き、槍の上から渾身の一撃を叩き込んだ。その結果イザリアの右腕はへし折れ、イザリアは大きく後ずさる。
「っこの、軟弱者が!」
イザリアが怒りを叫ぶ。
俺に対してじゃなく、自分が操っているイザリアの体への文句のようだ。
自分の体なら、余裕で防げたとでも? 負け惜しみだぜ。
「──魔鏖剣四の型、雷足四電」
俺はイザリアに追撃を行うため、俺の使える最速の技を放つ。
地面に刀を突き立て、その威力と衝撃を推進力に変えて突進する。
だが、走り出した俺の目の前に突如、岩の壁が生み出され、俺の突進は岩の壁に激突したことで止まる。
その岩の壁がイザリアの仙理術で作り出されたものだと気付くまでにかかった時間は一秒未満、しかし、その一秒未満の思考が致命的な隙だった。
「鬱陶しい、鬱陶しいんだよ、お前は!」
壁の向こうからイザリアの激昂が聞こえ、その次の瞬間には壁の向こうから水の玉が弾丸のような勢いで放たれ、俺に襲い掛かる。だが、水の刃ほどの速さと威力も感じられない。俺は躱すのではなく身構え、飛来する水の玉を刀で斬り払おうとした。
だが、その瞬間だった。俺に届く前に水の玉は弾け飛び、霧となって辺りに漂う。
「霧に紛れて不意打ちでもするのかい?」
俺の問いへの返答なのか、岩の壁が崩れて、岩の弾丸となって俺に襲い掛かってきた。
霧で視界が悪い中、飛んで来た岩の弾を俺は全ては躱しきれずに、何発かが俺の体を掠める。
骨の何本かが折れた程度なのでダメージは無し。四肢が潰れたわけじゃないならノーダメージ。死ななきゃノーダメージだ。
「かくれんぼでもするのかい?」
不意打ちで攻めてきたってことはそういうことだろ?
だが、イザリアの狙いはそうじゃなかったようで──
「消し飛んで死ね」
霧の向こうから、その声が聞こえた瞬間、周囲の霧の臭いが変化する。
それは化学薬品のような臭いで、さらに言えばガソリンのような──そんな思考が頭をよぎった瞬間、俺の耳に爆音が轟き、衝撃で高熱に焼かれて俺の意識が飛ぶ。
「──別に貴様は熱や炎に耐性があるわけではないのだろう?」
──炎の向こうからイザリアの声が聞こえ、俺は意識を取り戻す。
重度の火傷、肺も内臓も焼かれてる。こりゃ、間違いなく一回死ぬと俺は確信を抱く。
おそらく仙理術で霧を可燃性の物質に変えたんだろう。そして霧状になった可燃性物質に着火して、ボンと爆発。お手軽な燃料気化爆弾攻撃って感じか。
良い攻撃だが、一発で仕留めきれなきゃ、まだまだだぜ。
俺は炎の向こうにいるイザリアの声だけを頼りに刀を投げつけた。
炎を切り裂き、俺の刀が回転しながらイザリアの方へと飛ぶ。
「苦し紛れの攻撃が私に効くか!」
イザリアは俺の投げた刀を軽く躱し、刀はイザリアの遥か後ろに。だが──
「……天之縒絹紅衣」
死に際の俺の呟き。その言葉に応えるように俺の投げつけた刀がイザリアに背後から襲い掛かる。
だが、イザリアは突然の出来事にも動じずに、背後を振り向くと急に方向転換をして襲い掛かってきた刀を弾き飛ばした。
その様を見届けて俺は息絶える。だが、即座に復活し、俺に背を向けたイザリアに向かって駆け出す。
俺は腰に差した鞘を引き抜き、左手に持つ。
そして右手に持っていたのは、真紅の紐。その紐は遥か遠く、俺が投げた刀に巻き付けられていた。
俺は紅衣を紐の形状に伸ばして刀に巻き付け、操る。
右手の真紅の紐を引くと、その先に結ばれていた刀が俺の手元に戻る。
俺は背中を見せたイザリアとの距離を詰め、その背中を刀で斬りつける。
だが、咄嗟に危険を察知したイザリアは前へと飛び、その結果、ダメージをかすり傷に留める。
もっとも、それだって予想の内。俺は脚を止めずにイザリアを攻め立てる。
イザリアは振り返り、右手に持った槍を突き出すが、俺は左手に持った鞘で槍を叩き落とし、右手に持った刀をイザリアの首筋目掛けて振り抜く。
俺の振るった刃はイザリアの喉を掠め、血が噴き出る。
しかし、イザリアの戦意は衰えず、武器を持たない左手が俺の腰を叩いた。
それもまた打撃ではなく投げ技。イザリアの左の掌が触れたと思った瞬間、俺の視界の天地が逆転し、俺は頭から真っ逆さまに地面に落ちる。
受け身も取れず、脳天から落ちたことで首に多大な負荷がかかる。けれど、折れていない。
まだ、俺は死んではいない。そう思った瞬間、イザリアは槍で足元を払い、そこにあった俺の頭はその一撃をくらって砕ける。
「まだまだぁ!」
「アスラァァァ!」
頭が砕けて俺は死に、喉を切り裂かれてイザリアも死んだ。
お互いに死んでも、俺達は互いを殺し切るために、残機の数だけ復活する。
復活した俺達は、一瞬前に死んだことも気にせずに、何の躊躇もなくお互いを殺すために必殺を放つ。
「流撃!」
「プロミネンス・ペネトレイトォ!」
イザリアが左手を突き出すと同時に膨大な力の流れが俺に向かってくる。
それに対して、俺は左手を突き出し真紅に染まった内力の奔流を放つ。
俺とイザリアの必殺の一撃は互角の威力で相殺され消滅する。
その結果が予測できていた俺は既に駆け出し、イザリアの首を刎ねるために刀を構えて突進している。
単純なスピードとパワーは俺の方が上。一気に距離を詰めて、接近戦で仕留める。
そう考えた直後、俺以上の速度でイザリアが俺の懐に突っ込んできて、槍で俺の胸を貫いた。
「ッッらぁっ!」
俺は懐に飛び込み、俺を槍で貫いたイザリアの体を抱きとめて固定。そして、腕をイザリアの首に絡ませると、力任せにへし折ってイザリアを殺す。そして、心臓をブチ抜かれた俺も同時に死ぬ。
そして、一秒もかからず俺とイザリアは間合いを取って復活。
問答無用で互いに向かって襲い掛かる。そして、その際もイザリアは恐ろしく速い。
おそらく『流翼』を使っているんだろう。仙理術士の使う実戦的な高速移動術で使える奴は滅多にいなかった技だ。
「流撃、流砲、流翼まで使えるなら、アレも使えるのかい?」
イザリアは答えず、流翼の高速移動で俺の背後を取る。
だが俺は慌てずに、その動きを予測したように振り向き刀を振るう。
流翼の弱点は内力を放出して加速するせいで、自分の居場所がバレやすいことだ。
何処にいるのか分かれば、防ぐことなんて簡単だぜ。
振り向きざまに放たれた俺の刀をガードしたイザリアが後ずさった。
だが、そこで引かずにイザリアは左の拳を構えて踏み出す。対して、俺も左の拳を握りしめ──
「流撃!」
「プロミネンス・ブロゥ!」
イザリアの必殺が俺の腹に叩き込まれ、殺意の込められた内力の奔流が体内を食い荒らし、俺の命を奪う。だが、同時に真紅の内力を纏った渾身の拳がイザリアの頭を消し飛ばしていた。
「──殺してやる」
「──ぶっ殺す!」
その場で即座に復活した俺は同時に復活したイザリアの左肩に刀を振り下ろす。
肩を切り裂き、心臓まで刃が到達しながらもイザリアは止まらず、左手で俺の服の襟元を掴むと、俺を投げ飛ばして地面に叩きつけると、間髪入れず、俺の頭を踏みつぶした。
「──最っ高だぜ!」
俺は即座にその場で復活すると、俺の頭を踏みつぶしたイザリアの足首を掴み、力任せにへし折った。
その結果、転倒したイザリアへ俺は馬乗りになり、顔面を刀の柄頭で滅多打ちにした。
腕を押さえつけられたせいで流撃も撃てず、脱出方法も無いこの距離で意識を失うまで俺はイザリアを殴る。俺達の戦闘で一番マズい状況は死ぬことよりも意識を失うことだ。死んだとしても復活できるが、意識を失うと意識を取り戻すまでは何もできなくなる。その間に拘束でもされたらどうにもならない。
「このまま失神するまでぶちのめしてやるよ!」
でも、そうはさせないんだろ?
分かるぜ、こんだけ殺し合いやってんのにテメェの心は全然、折れてねぇもんなぁ!
まったく、好きになっちまいそうだぜ。
「──流撃」
不意に放たれたイザリアの呟きが俺の耳に届く。
その瞬間、イザリアの体が弾け飛び、その肉片と鮮血が俺に浴びせかけられる。
どうやら、俺に流撃を撃てなかったから自分に撃ってイザリアは自殺したようだ。
「ッアスラカァァァァズ!」
復活したイザリアが槍を構えて俺に突進してくる。だが、槍を持つ手は右手ではなく左手だ。
それを見て俺の直感が危険を告げる。
ここまでの戦闘でイザリアの必殺と言える攻撃は、全て左手から放たれていた。理由は知らない──というか、単純に左利きだから、左手でしか強力な技が使えないのか?
そんなことを考えた瞬間、イザリアの持つ槍の穂先が内力を帯びて、突き出された。
軌道の読める突きだ。俺は反射的に刀でその突きを受け流そうとし──しかし、それをせずにその一撃を無防備で食らうことにした。
「……流爪だったか?」
胸を槍でぶち抜かれた俺は瀕死の状態。
だが、同時に俺の刀もイザリアの腹に突き刺さっていた。
流爪──仙理術士が使う攻撃用の技だ。武具に内力を纏わせて威力を上げるって単純な技だが、極まるとどんな物で切り裂き破壊できる。イザリアの狙いは俺の刀を破壊することだったんだろう。だから、敢えて刀で防御させようとしたんだろう。
「浅い考えだぜ」
そう言って俺はイザリアの顔面に頭突きを叩き込んだ。
その衝撃でイザリアの頭が仰け反るが、イザリアは怯まず俺の喉元に噛みついてくる。
ブチブチと喉が噛み千切られる音が聞こえる中で俺はイザリアの体を蹴り飛ばし、引き剥がした。
同時に力任せに刀が引き抜かれたことで、イザリアの腹から内臓がこぼれ落ち、俺の胸からは槍が引き抜かれたことで血が噴き出る。
「──絶対に許さん! 私から全てを奪った貴様だけは絶対に許さん!」
イザリアが血走った眼で俺を睨みつけてくる。
俺はキミが何処の誰か全く分からないんだけどね。でも、キミが俺を憎んでるってのは良く分かるぜ。
だから──
「だったら、俺を殺して見せろぉっ!」
憎いんだったら殺せよ! 俺を殺し尽くせ!
もっともっと本気で、自分の全てを曝け出して俺をぶち殺せ!
絶望して泣き喚き、心が折れて立ち上がれず、全てを諦める。
俺をそんなドン底に叩き落とせ!
俺はテメェに殺されてやっても良い。テメェだけじゃねぇ、誰にだって殺されても良いんだ。
俺は言ってないかい? 殺せるのならどうぞ殺ってみろってさ。
アレは嘘じゃねぇよ。どうぞ御自由に殺してくださいってのは俺の本心だ。だけど──
──だけどな、代わりに俺を絶望させろ!
言い訳のできないくらい徹底的に俺を叩き潰せ。
俺の全てを出し切っても、それでも俺は勝てないと俺に諦めさせろ。
それができる奴なら、俺を殺していい! 誰だって俺を殺していい!
「究竟──修羅闘獄陣!」
だから、見せてやる! 俺の本気を!
これがテメェが俺を殺すために乗り越えなければいけない俺の全てのうちの一つだ。
さぁ、どうした!?
俺が憎いんだろ? 俺を殺したいんだろ?
だったら、俺の全てを喰らってくれよ。そして、それを踏み潰して乗り越えろ。
俺は誰に殺されてやっても良いが、それが出来ないなら誰だろうと殺されてはやれねぇ!
「あぁ、クソ! 楽しくなってきちまったなぁ! 本気で挑んでくる奴に俺の本気を返す。こんなに心躍ることはねぇよ!」
世界とか俺の事情とか他人の都合とか、この瞬間は何もかもどうでも良くなっちまう。
さぁ、衝動に身を委ねる時間の始まりだ。




