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vs赤神

 

 ゼルティウスと赤神イグニルフスが刃を交える。


 ゼルティウスの長剣とイグニルフスの大剣が鍔迫り合うが、膠着は一瞬、イグニルフスがゼルティウスを力任せに押し飛ばした。


「膂力では我が上。そして──」


 後ろに飛ばされたゼルティウスは危なげなく着地し、イグニルフスからも視線を逸らしてはいない。だが、イグニルフスは瞬時に距離を詰め、ゼルティウスの反応速度を上回る。


「速さでも我が上だ」


 ゼルティウスは冷静な眼差しで眼前に迫るイグニルフスを見据えて、長剣で防御の構えを取る。

 対して、イグニルフスは接近した勢いのまま大剣を振り抜く。その刃は尋常ではない剣速でゼルティウスに迫り、速さのあまり一本の剣が二本に見える二連撃。

 ゼルティウスは長剣で攻撃を受け止めるが、ほぼ同時に襲い掛かる二つの衝撃によってたたらを踏んで後ずさる。

 イグニルフスはそれを好機と見て、追撃を──しなかった。


「見え透いた誘いに乗ると思うな。不愉快だ」


 ゼルティウスのよろめきはイグニルフスの攻撃を誘うための物だった。

 イグニルフスが好機と思い、追撃を仕掛けてくればゼルティウスはそこにタイミングを合わせてイグニルフスを斬り捨てていただろう。


「殺し合いの相手を愉快にさせる必要があるか?」


 ゼルティウスは表情には出さないが舌を巻く思いだ。

 イグニルフスはゼルティウスの想像していた以上に腕が立った。

 それは単純な強さではなく剣士としての技量についての評価である。


「どうやって、技量を積んだ?」


 ゼルティウスの問いにイグニルフスはシレっと答える。


「我に仕える戦士たちから献上された記憶と技を我が身に宿しただけのこと」


「……そうか、自分で磨いたものではないか」


 ゼルティウスの目がスッと鋭くなる。

 その眼差しにはイグニルフスへの非難の色があった。


「気にくわんか? だが、我のしたことの何が悪い? 剣の技も記憶もそのままにしておけば、人の命と同じく消え去り、失われるもの。そのまま失われるのを忍びないと思えばこそ、不滅の我が身に宿してやっているのだ」


「貰い物の力を誇るべきではないな」


 ゼルティウスは言葉を続けながら長剣を構えて距離を詰める。

 そして、自分の間合いにイグニルフスを捉えた瞬間に長剣を突き出す。

 刃の輝きが瞬く間に放たれる閃光のような突きだった。


 だが、イグニルフスは容易く反応すると、大剣を器用に操り、自分の壁としてゼルティウスの長剣を逸らす。

 しかし、そうして防がれてもゼルティウスの攻撃は止まらない。突きを逸らされた勢いを利用してゼルティウスはその場で体を捻り、その勢いのままイグニルフスの脚を払うように回転斬りを行う。


 イグニルフスは大剣を地面に突き立て、足元を狙って放たれた剣を遮る。

 大剣に長剣がぶつかり、防がれたゼルティウスは即座にその場で反転、身を翻しながら、イグニルフスの肩口を狙い袈裟斬りに刃を振り下ろす。


 足元から上半身への攻撃へとつながる上下のコンビネーション。

 ただでさえ反応が遅れる連撃。それに加えて、イグニルフスは剣を地面に突き立てている。

 普通の相手ならば、直撃は免れない。だが、イグニルフスは地面に突き立てた大剣を逆手で持って、引き抜くと、そのまま腕を振り上げゼルティウスの袈裟斬りを大剣の柄で受け止め、弾く。


「我の剣を貰い物だからと侮っているな?」


 剣を防がれたことで隙が生じたゼルティウスにイグニルフスは逆手に持った大剣を振り抜いた。

 その一撃をゼルティウスは問題なく防ぐが、腕力の差でゼルティウスは大きく吹き飛ばされる。


「確かに侮っていたようだ」


 ゼルティウスは思っていた以上にイグニルフスの反応が良いことに驚いていた。

 単純に奪い取っただけならば、体に技が染みついていないため、反応が遅れがちだが、イグニルフスにそんな様子は見られない。それどころか──


「その侮りが貴様を死に導くのだ」


 吹き飛んだゼルティウスが着地し、イグニルフスの姿を捉えようとした瞬間、ゼルティウスの視界はイグニルフスの体躯で埋め尽くされていた。

 イグニルフスはゼルティウスを吹き飛ばしたと同時に駆け出し、距離を詰めていた。肉体の反応速度でもイグニルフスはゼルティウスを上回っていたのだった。


「貴様こそ、俺を甘く見過ぎだな」


 全力で振るわれるイグニルフスの大剣。ゼルティウスは迫る刃を前に冷静な態度を崩さない。

 その態度は自分の技量への絶対の信頼によるもの。ゼルティウスは振り下ろされた大剣を自身の長剣で軽々と受け止め、その威力を受け流す。


 渾身の攻撃を防がれたイグニルフスだが、即座に切り返し、大剣を再度振るう。

 振るわれた大剣は最高の力と速度を持ち、イグニルフスにとっては会心の一太刀であった。

 当然、そんな一撃をゼルティウスは防ぎ切れる筈も無く、剣で受け止めたものの、ゼルティウスは落ち葉のように吹っ飛ぶ──だが、その軌道は横方向ではなく真上、ゼルティウスはイグニルフスの頭上を越えるように吹き飛ばされていたのだった。


「力を受け流すということは、力の向かう方向をコントロールするということだ」


 受け流すことは防ぐだけではなく、相手の力を利用することでもある。

 ゼルティウスはそうして、イグニルフスの必殺とも言って良い一撃を受け流しダメージを防ぐと共に、その攻撃の威力を利用して自分の吹き飛ぶ方向をコントロールし、イグニルフスの虚を突いた。


 イグニルフスからしてみれば、自分の攻撃が当たり、敵が吹き飛んだと思ったら自分の頭上を飛び越えていたのだから、予想外の出来事に反応が遅れるのも当然。そして、ゼルティウスはその隙を見逃す筈も無い。


 ゼルティウスはイグニルフスの頭上を飛び越えながら、空中で身を捻り剣を振るう。

 その刃はイグニルフスの肩口を切り裂き、神であるイグニルフスに血を流させる。

 だが、傷を負わせるという結果にも関わらずゼルティウスは舌打ちを漏らした。


「浅いな」


 もっと深く斬り裂いたつもりなのにも関わらずイグニルフスの傷はかすり傷も同然で致命傷には程遠い。

 もっとも、その傷でもイグニルフスを激昂させるには充分だったが──


「我に血を流させたな」


 頭上を飛び越え、背後に回り込んだゼルティウスにイグニルフスは素早く向き直ると、一瞬の躊躇もなく全力の一太刀をゼルティウスに叩き込んだ。

 その一撃をマトモにくらい、ゼルティウスがボールのように吹っ飛ぶ。そして、その体は遠く離れた壁に激突するが、ゼルティウスはその壁を蹴って、イグニルフスの許へと吹き飛ばされた時以上の速度で突っ込んでくる。


「調子に乗るな!」


 迫るゼルティウスを叩き落とそうと剣を振り下ろすイグニルフス。

 対してゼルティウスは剣を突き出したまま突進し、両者の刃が交わる。

 その時だった。イグニルフスの大剣にゼルティウスの長剣が触れた瞬間、ゼルティウス突進の勢いがイグニルフスに受け流され、その力が向かう方向を変えられ、突進していたゼルティウスは自分から地面に突っ込む。


「数度見れば、充分だ」


 イグニルフスはゼルティウスの技を盗んだと宣言する。

 相手の力を受け流して、利用するという技術。それによってイグニルフスはゼルティウスの突進を防いだ。


 ──と思い込んでいた。

 ゼルティウスは地面に突っ込んだと見せかけて、その勢いのまま地面を滑り、イグニルフスの足元へと迫り、その体の真横を駆け抜けた。そしてその次の瞬間、イグニルフスは自分の脚が斬り落とされていることに気づき、体勢を崩す。


「技だけを真似た所で意味は無い。重要なのは戦いの中でどう使うかだ」


 ゼルティウスは追撃に移る。

 長剣を振るい、倒れこもうとするイグニルフスの首を刎ねようとするゼルティウス。

 だが、それは果たされなかった。


 倒れこむ寸前のイグニルフスが苦し紛れに振るったはずの大剣。

 しかし、その反撃はゼルティウスの剣速を遥かに超え、ゼルティウスは咄嗟に刃を止めて、身を守ろうとするが、力の入らない姿勢で放ったイグニルフスの大剣が防御ごとゼルティウスを吹き飛ばした。


「──やはり、手を抜くものではないな」


 イグニルフスが悠然と立つ。

 斬り落とされた脚の断面から噴き出している炎が脚の形を取り、炎なのにも関わらず生身の脚のようにしっかりと地面を踏みしめている。


「人間如きに我が力を見せつけるのも業腹ではあるが、無様に首を刎ねられるよりはマシか」


 そう言葉を漏らすイグニルフスの大剣は炎を帯びていた。

 それはイグニルフスの神の権能によって生み出された炎。火を司る神である赤神イグニルフスの本領とも言える力だった。

 そうして本来の力を見せつけたイグニルフスは見下ろすように視線をゼルティウスに向ける。

 悠然と佇むイグニルフスに対してゼルティウスは酷い有様だった。


「死んだか? もっとも、一度や二度殺したところで貴様らは死なんようだが」


 地面に倒れるゼルティウス。

 その両腕は焼け爛れ、へし折れている。吹き飛ばされた際に地面に強く叩きつけられたせいか、内臓を損傷しているようで、口からは血が溢れている。

 だが、その傷もイグニルフスが見ているうちに元通りになり、ゼルティウスは何事も無かったかのように立ち上がる。


「……生憎とこの程度では死なないように鍛えているものでな」


 ゼルティウスは負け惜しみのように言いながら手に持っていた剣を放り捨てる。

 使っていた剣はイグナシスの街で購入した安物の剣。だが、それは先程イグニルフスの一撃を受けた際に、半ばから折れて使い物にならなくなっていた。


「……剣霊具現、一刃創成──」


 瑜伽法ユーガ・アルスによってゼルティウスは新たな剣を創り出し、それをイグニルフスに向けて構える。


「──硬剣クルエダ」


 ゼルティウスの手に握られるのは、柄から刃まで一つの金属の塊から削り出した漆黒の長剣。

 何の飾りもない武骨の極みといった外見の剣であり、見た目同様に特殊な力も何も無い。

 そのうえ切れ味も劣悪で、重量も中途半端に重く使いづらい。だが、この剣はとにかく頑丈。

 元の持ち主はどんなに乱暴な扱いをしても刃こぼれ一つなく使い続けることができた。


「ナマクラだな」


 火を司る神であり、同時に鍛冶も司る神であるイグニルフスはゼルティウスの手にある剣を見ただけで、その剣の性能を見抜く。


「だが、折れない」


 イグニルフスの攻撃の威力を考えれば、とにかく頑丈な武器が望ましいというのがゼルティウスの判断であり、ナマクラと評される剣を選んだ理由だった。


「剣は折れずとも、その使い手が無事でいられるかは、また別の話だろうに」


 呆れたように言うイグナシスは大剣だけではなく全身に炎を纏う。

 そして、次の瞬間、ゼルティウスの視界の中にいたイグニルフスの姿が掻き消え、瞬時にゼルティウスの眼前に現れる。

 体から噴き出した炎を推進力に変え、自身を加速させたイグニルフスはゼルティウスの動体視力を遥かに上回る速度を獲得し、それに加えて──


「──っ」


 イグニルフスの動きに合わせて大剣から炎が噴射され、斬撃が加速する。

 その攻撃を目で捉えられないゼルティウスだったが、直感で剣を盾にしてイグニルフスの一撃を受け止める。だが、当然のように吹き飛ばされて、大きく飛び退くことになる。

 剣の頑丈さに助けられたのかイグニルフスの渾身の一撃を受けても腕は折れていない。もっとも熱までは防げなかったようで、腕には酷い火傷を負っていたが。


「耐えるだけか?」


 イグニルフスが身に纏う炎を炸裂させて加速させ、ゼルティウスに迫る。

 急加速を連続で使用して、ジグザグに動きながら距離を詰めるイグニルフス。

 ゼルティウスは高速で動く敵を待ち構えようと剣を構えるが、そこにイグニルフスの手から放たれた無数の火球が飛翔し、ゼルティウスに襲い掛かる。


「チッ」


 立ち止まっていたら的になるだけと判断したゼルティウスはその場から駆け出す。

 しかし、イグナシスの放った火球はゼルティウスを追尾する。ゼルティウスは追いかけてくる火球の方を振り向くと、長剣を振るい、迫る火球を掻き消した。だが、そこに──


「足を止めたな?」


 イグニルフスが迫り、大剣を振りかぶる。

 それを見て、不敵に笑うゼルティウスも同時に長剣を振りかぶる。


魔鏖剣まおうけん、八の型──剛衝八破ごうしょうはっぱ


 炎を炸裂させて加速した大剣の一撃に、ゼルティウスはただひたすらに強く重い一撃を重ねる。

 その結果、両者は互いの剣の衝撃で大きく後ずさる。

 ゼルティウスがこうして防げたのは勘によるもの。ゼルティウスの直感はイグニルフスが放つ必殺の一撃の軌跡を読んでいた。


「しぶとい奴め」


 イグニルフスは大剣を振り抜くと、その刃から炎の奔流を解き放ち、ゼルティウスを焼き尽くそうとする。対して、ゼルティウスは長剣を眼にも止まらぬ速さで幾度も振り抜き、空を切る。そして──


「……フローゼリア式氷剣舞──凍波いてなみ


 ゼルティウスがイグニルフスに向けて遠間から剣を振り抜くと、その軌道に合わせて無数の氷柱が地面から生えてイグニルフスの放った炎の方と衝突する。


「氷で炎を止められるとでも思っているのか!」


「止められるさ」


 果たしてゼルティウスの言う通り、ゼルティウスが放った氷の波はイグニルフスの放った炎を凍り付かせ、更にイグニルフスへと迫る。


「煩わしい真似をするな」


 イグニルフスはその身から更に強い炎を放出し、氷の波を消し飛ばす。

 だが、同時にゼルティウスが──


「フローゼリア式氷剣舞──零下静界れいかせいかい


 ゼルティウスは眼前に剣を突き出したまま、その場で静かに時計回りに一回転。

 そして、地面に剣を突き立てる。すると、周囲の温度が一気に下がり、イグニルフスの放った炎も凍り付く。


「魔術に頼るとは剣士の風上にも置けん奴め!」


 イグニルフスは怒りの感情も露に全身から炎を噴き出し、辺りを焼き尽くそうとする。

 だが、感情のままに行動しようとした瞬間、イグニルフスの意識に隙が生じ、ゼルティウスはその隙を『抜く』。


「魔術ではなく剣術なのだがな」


 意識と知覚の隙間をすり抜けて、イグニルフスの気付かぬ間に懐へと飛び込んだゼルティウスはイグニルフスの脇腹を深々と斬り裂く。


「この程度で──っ」


 イグニルフスは全身に纏う炎を炸裂させて、大きく飛び退く。

 その炎に巻き込まれるゼルティウスだが、全身を焼かれながらもゼルティウスは自分から距離を取ったイグニルフスを見据え──


「魔鏖剣奥義──五十四式」


 神速の斬撃を放つ五の型と、神速で距離を詰める四の型を合わせた奥義。

 それを放ったゼルティウスは一瞬でイグニルフスとの距離を詰め、駆け抜けながらイグニルフスの胴を斬り払った。


 しかし、それでもイグニルフスは倒れない。

 完全に背を向け、回復のためにゼルティウスから逃れようとする。

 それを見てゼルティウスは──


「魔鏖剣奥義──四十五式」


 再び放つ四の型と五の型の組み合わせ。だが、今度は技の組み合わせ方が違う。

 五十四式は神速の一撃を最速のスピードで駆け抜けながら叩き込む技。

 対して、四十五式は神速で敵を追いながら最速の一撃を叩き込む技。


 ゼルティウスは逃げるイグニルフスを追って高速の一撃を叩き込む。だが、それだけでは終わらない。ゼルティウスは縦横無尽にイグニルフスを追い詰めながら、無数に高速の斬撃を叩き込み続ける。

 そして、イグニルフスの動きが止まったタイミングを見計らいゼルティウスは──


「トドメだ」


 限界まで内力を込めた剣をイグニルフスの首に向けて放った。

 その刃は正確にイグニルフスの首筋を捉え、その首を刎ね飛ばす。だが──


「……所詮はこの程度か」


 声が聞こえたと同時に、宙を舞うイグニルフスの首がただの火球となって散っていく。

 それと共にイグニルフスの胴体も人の型をした燃え盛る炎となる。


「余興と思い、付き合ってやったが興も冷めた」


 ゼルティウスは炎に向けて剣を振り抜く、その炎の中から人間の腕が現れ、その腕が握る大剣にゼルティウスの剣は防がれる。ゼルティウスは即座に後退し、体勢を立て直そうとするが、人型の炎が巨大化し、そこから更に新しく巨大な腕とそれに合わせた大きさの大剣が現れ、間合いを取ったはずのゼルティウスに振り下ろされる。


「……剣士として戦うのではないのか」


 振り下ろされた巨大な剣を辛うじて受け止めたゼルティウスは振り絞るような声でイグニルフスに問う。

 しかし、その問いに対してイグニルフスは嘲るような口調で──


「何故、神である我が人と対等に戦わねばならんのだ。剣士として戦う? 我は神であるぞ。人間と同じ土俵で戦うわけがあるまい」


 炎の人型から更にもう一本の腕が現れ、それもゼルティウスに振り下ろされる。

 ゼルティウスは何とか避けたが、衝撃までは防ぎ切れずに地面に転がる。


「我は炎の化身。貴様に見せていた姿など仮初かりそめの物にすぎん」


 人型の炎は巨大なまま姿を変えイグニルフスの真の姿が現れる。

 全身から炎を噴き出す、巨大な角を持つ悪魔。それがイグニルフスの真の姿だった。


「我に形などは無い。それ故、このようなこともできる」


 イグニルフスの背中から無数の複数の関節を持った長大な腕が現れる。そして、それらは人型だったイグニルフスが持っていたのと同じ大剣を持っていた。


「これで分かっただろう? 我は最初から加減をしていたのだ」


 言いながらイグニルフスは背中から生えた無数の腕とそれらが握る大剣をゼルティウスに振り下ろした。

 だが、ゼルティウスは勝利を確信して油断しているゼルティウスの隙を『抜く』。

 意識の隙間をすり抜けたゼルティウスはイグニルフスの知覚の外を駆けて、その背後に回り込んだ。だが──


「我はこういったこともできる」


 イグニルフスの体が揺らめいたと思った瞬間、その前後が逆転する。


「我は炎の化身であるぞ? 炎に前も後ろもあるまい?」


 嘲るように笑うイグニルフス。

 虚を突いたはずなのに虚を突かれたゼルティウス。

 それによって生じた一瞬の隙を突いて、イグニルフスはゼルティウスを大剣で刺し貫いた。


「──愚かで弱き人の子よ。我が手にかかる栄誉に歓喜しながら死ぬがよい」


 大剣を引き抜いたイグニルフスはゼルティウスを投げ飛ばすと、その体を自身の体から噴き上がる炎で焼き払った。そして、何度もゼルティウスを殺すため、イグニルフスはゼルティウスの復活を待つのだった。



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