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アロンデイルの技

 

「ツラは同じようだけど、どこのどなたかな?」


 ラ゠ギィを追っていたら、ラ゠ギィの顔をした別人と出会った。

 顔こそ同じだが、雰囲気だけで中身が別人だってのが分かる。

 俺がそのことを指摘すると、ラ゠ギィの顔をした別人は何が面白いのか笑いをこらえる。


「私が誰かだと? あぁ、そうか、まだ気づいていないのか。アスラカーズともあろうものが、まだ私が何者か分からないというのか──」


 そうして笑いをこらえきったと思いきや、ラ゠ギィの顔をした別人は──


「──ふざけるな」


 ──豹変し、怒りの表情を俺へと向けてくる。

 俺には怒られる理由が全く見当もつかない。

 まぁ、怒られる理由自体は思い当たる物がいくつもあるけど、何処のどいつか分からない奴をどんな理由で怒らせたのかまでは正確には把握してねぇよ。


「思い出してほしいのか、それとも気付いてほしいのか、どっちにしろ、名乗ってくれなきゃ分からねぇよ」


 俺がそう言うと、ラ゠ギィの顔をした別人は呆れたような表情に変わり、そして気を取り直したのか、態度を改めて、尊大な雰囲気を身に纏う。どうやら、今のラ゠ギィの中身はどっかのお偉いさんのようだ。

 まぁ、その時点で何となく想像はつくけどさ。


「良いだろう、私の名を教えてやる──」


 そうして聞かされたのは別に驚くような名前では無かった。


「私はイザリア。白神教会の教皇イザリア・ローランだ」


 ここでボスの登場ですか。

 でもまぁ、ラ゠ギィの体を好き勝手に操ってる時点でラ゠ギィの上司っぽい奴かもなぁって想像はできたよ。そんでもって、ラ゠ギィの直属の上司は教皇だし、その教皇本人がラ゠ギィの体を乗っ取っていてもおかしくはないと思ってたしさ。だから、特に驚きも無いんだよね。


「なんだ、そのツラは? では、私が貴様をこの世界に閉じ込めている張本人だと知っても、平静を保っていられるか?」


 それに関してはちょっと驚きだね。

 まぁ、そんな情報をポンポンと出しちまう所の方に驚いているんだけどさ。

 一応、キミは組織のトップなんだろ? そいつが色々とペラペラしゃべって良いのかよ?

 まぁ、それはともかく、なんで俺が平然としてるのか、俺の方も教えてやろうじゃないか?


「キミは俺が驚くのを期待してるんだろ? 俺は他人の期待を裏切るのが大好きでね。キミの望むような反応はしてやりたくないんだよ」


 だから、驚いてやらないってわけ。お分かりかい?

 もっとも、ラ゠ギィの体に入っているイザリアはそんなことよりも、何よりも気に食わないことがあったようで──


「……キミ・・だと? 貴様が私に対してキミ・・? ふざけるなよ? 私と貴様の関係はそんな他人行儀な呼び方をするようなものであってはならない!」


 なんなんだよ、コイツ。

 ラ゠ギィの上司ボスって聞いたから、どんな奴かと思ったけど、中身はガキじゃねぇか。

 つーか、俺に対して感情的すぎるだろ。


「構ってもらいたくて大騒ぎするガキみたいな反応をする奴だなぁ。俺に相手をしてもらいたいなら、どっかで整理券を貰って、順番待ちをしてくんねぇかな?」


 キミみたいに俺に対して文句がありそうな奴は数えきれないくらいいるし、正式な苦情は窓口を通してお願いしますよ。まぁ、窓口がどこにあるかは知らねぇけどさ。


 こんな舐めくさった態度を取ったら、怒るかと思ったけれど、イザリアは思いのほか冷静で──というか、逆に冷静になったようで、わざとらしく溜息を吐くと、俺に背を向けた。


「二度と減らず口を叩けないようにしてやりたいところだが、私にはやらなければならないことがある。貴様に関わっている暇など無い──」


 俺はこの場から去ろうとするイザリアに対して何も言わなかった。

 だって、俺に背を向けていても、イザリアの体の重心は後ろに傾いていたしね。

 それはつまり、イザリアにはそのまま立ち去ろうというつもりはなく──


 そう考えた瞬間、イザリアは傾けた体の重心の方──つまり俺のいる方に振り向き、同時に俺に向かって駆け出した。


 イザリアは獣のように身を屈め、俺に突進してくる。

 殴りかかってくるような構えじゃない。イザリアの突進してくる構えはタックルのそれだ。

 イザリアが仕掛けてくるのを予想していた俺は慌てることなく、タックルに合わせて足を振り上げた。

 組み付いてこようとする動きなのは想定外だったが、それでも問題なく対処できる。このまま突っ込んできたイザリアの顔面を蹴り上げて──


 ──だが、次の瞬間、俺の視界に洞窟の天井を映り、続けて背中に衝撃が走る。

 気付くと俺は背中を洞窟の地面に叩きつけられ、仰向けに倒れていた。


「あぁ、やはり駄目だ。貴様の顔を見ると我慢がならない。どうしても殺してしまいたくなる」


 何が起きた?

 考えようとした矢先にイザリアの声が聞こえ、俺の眼前にはイザリアの靴底が迫っていた。

 頭を踏み砕く気だろう。

 俺はそれに気づいた瞬間、その攻撃を防ぐことを諦め、生存よりも復帰の方を強く意識する。

 次の瞬間、俺の頭はイザリアの足に踏み砕かれ、俺は死ぬ。だが、砕かれたと同時に俺の体は光の粒子となって散り、その粒子がイザリアの背後に集まって再び俺の形を作り上げる。


「俺にケツを見せて逃げるような奴がラスボス候補じゃなくて嬉しいぜ」


 俺は拳を振りかぶり、殴りかかろうとする。

 だが、俺の拳が届くより素早くイザリアは俺の方に向き直ると、すぐさま俺との距離を詰めてくる。


「私はラスボス候補ではなく貴様のラスボスだ」


 イザリアが殴り合いの間合いより更に深く俺へと詰め寄る。

 懐へと飛び込まれたことで俺の拳は間合いを外され、空を切る。

 そして、俺の攻撃を躱したイザリアはそのまま俺へと密着すると俺に組み付いてくる。


 ハグするような組み付き方だ。

 即座に俺は組み付いてきたイザリアを投げ飛ばそうするが、イザリアの投げは俺より速かった。

 イザリアはハグをするような体勢のまま、俺を抱え上げて地面へと投げ落とした。

 俺は受け身も取れず背中から叩き落とされ、背骨がへし折れる。


 だが、俺はまだ生きている。

 俺を確実に殺すための追撃が来ると察し、踏みつけを防ぐために腕で顔をガードするが、イザリアは顔ではなく俺の側頭部をサッカーボールのように蹴飛ばし、俺の頭を粉砕して俺を殺す。


「──私の技を見て思うことはないか?」


 一旦、仕切り直しだ。俺はイザリアから距離を取って復活する。

 いやぁ、強い。地味だけどクソ強い。

 こんな、ちょっとの攻防で俺が二回も殺されてんだぜ?

 教皇とかいう響きのせいで、術士系かと思いきや、ゴリゴリの組み技系グラップラーかよ。


「俺のスゲェ好みだぜ、キミは」


 思うことと言えばそれくらいかな? それじゃ不満かい?

 ……不満のようだね。殺気が増してしまったよ、困ったね。

 困った困った、困り過ぎて、むしろ嬉しくなってきちまうくらいだぜ。


 実際、凄いと思うぜ?

 何より技量が凄いよ。だって、イザリアが乗っ取ってる今の肉体はラ゠ギィの物だぜ?

 ラ゠ギィの戦闘スタイルは打撃系ストライカーだし、体の鍛え方や筋肉の付き方も打撃向けにしてるはずだ、そんな体にも関わらず、イザリアは問題なく自分の技を使えている。それはつまり技を体に染みつけるのではなく、意識に技が染みついているってことだ。

 技が体に染みついているって言うと凄い気もするが、結局のところそれって慣れの話だからね。慣れで無意識に技が出せるのと、自分の技を理屈を頭で完璧に理解し、どんな条件でも常に自分の技が使えるのが意識に染みつかせるってことなら、どっちが上かは何となく分かるだろ?


「そうか、この程度では何も思い出さないか」


 おっと、褒めてやったつもりなのに、ご機嫌斜めかい?

 コイツは困った。バッドコミュニケーションだったかな。

 そいつは失礼。キミの頭をぶん殴って記憶を飛ばしてやるから、最初から関係をやり直そうぜ?


「では、何度でも殺してやる」


 ラ゠ギィの体を乗っ取ったイザリアが駆け出し、対して、俺は反省の気持ちを込めて、再び突進してきたイザリアに拳を振り上げる──のではなく、刀を抜き放ち、抜き打ちの刃を浴びせかける。

 だが、イザリアは俺の抜き打ちに合わせて脚を振り上げ、刀を持つ俺の腕に蹴りを叩き込む。その衝撃で腕が弾かれ、刀を振る軌道がブレる──ということは無かった。

 なぜなら、イザリアの最初の蹴りが当たったのとほぼ同時に、イザリアのもう片方の脚も刀を持つ俺の腕を捉えていたからだ。


 両の脚を上げていれば当然、イザリアの体は宙に浮いている。

 しかし、それでもイザリアは左右の脚で俺の右腕を挟み、そして自分の体が落下するより早く、空中で体をきりもみ状に捻る。すると、刀を持つ俺の腕も捻じれ、その腕の動きに合わせて俺の体もきりもみ状に回転、そして地面に叩きつけられる。


「流石にドラゴンスクリューをくらうのは初めてだよ……」


 ドラゴンスクリューってプロレス技がある。

 ただし、あれは蹴ってきた相手の脚を両腕掴んで回転して、相手を転がす技だ。

 対してイザリアのそれは相手の腕を両脚で挟んで回転して、相手を転がす技になっている。

 俺は地面に転がされたが、すぐに立とうとする。しかし、俺が立つより先にイザリアが俺の顔面を蹴り砕いて俺を殺し、死んだ俺は復活してイザリアの前に立つ。


「いいね、キミのことは好きだぜ」


 こんな短時間で三回も殺してくれるとか最高の相手だよ。


「このまま殺し切ってやろう」


 そいつは最高だし、望む所だね。

 ただまぁ、殺し切るまで楽しませてくれるのが条件だけどね。

 あと、作業的ルーティンワークに殺さず、創意工夫オリジナリティを出して殺してくれないと困るぜ? だって、ワンパターンじゃ俺は殺し切れねぇからさ。


Come on(来い)!」


 俺は拳を構えて、イザリアを迎え撃とうとするが、イザリアは一瞬で俺の懐に飛び込み、俺の腰に正面から組み付いた。

 俺は組み付いたイザリアを引き剥がそうともがこうとするが、それすらさせずにイザリアは俺の腰に組み付いたまま背後へ回り込むと、そこから俺を地面に押し倒す。

 顔面が洞窟の地面に叩きつけられて、鼻がへし折れ、更にその直後に後頭部を砕かれ、俺は死んだ。


「こんなヤワな身体では貴様を殺し切ることなどは出来ないだろうと思っていたが、この結果は予想外だったな」


 生き返った俺にイザリアが言う。

 確かに予想外だったね。まさか、俺と揉めてる敵のボスがこんな武闘派だったなんてさ。

 でもまぁ、そのことはどうでも良いや。そんなことより大事なのは──


「……アロンデイル柔術」


 俺はイザリアの使っている技を言葉にしてみる。

 ……いや、アロンデイル相撲だったかな? アロンデイル式レスリングだったような気もするし──


「グレカン・アロンディオだ」


「あぁ、そんな正式名称だったね。アロンデイル柔術って」


 アロンデイル柔術もしくはアロンデイル相撲。正式名称はグレカン・アロンディオ。

 今は滅びた世界、アロンデイルに伝わる格闘技だ。

 格闘技といっても歴史と伝統を持つ格式高いものであり、言うなれば宮廷格闘術。

 アロンデイルの貴族ならば、剣や槍、魔術を学ぶよりも先に学ぶことを義務付けられる武芸だ。

 相手を倒すよりも転がす方向に特化した技術を有し、地球の格闘技で言えば、柔道、ブラジリアン柔術、サンボ、プロレス、アマレス、合気道、モンゴル相撲をミックスしたような組み技系の格闘技だ。

 その特徴は相手を打ち倒すのではなく、転がすことへ特化した技術の秀逸さにある。


「それを使えるってことはキミはアロンデイルの貴族ってことかい?」


 貴族ではなかったとしてもイザリアがアロンデイルの生まれであることは間違いないだろう。


「私の事を思い出したか?」


「いいや、全然」


 アロンデイル柔術のことは思い出したけど、それを使う奴のことなんか一々覚えていらんねぇよ。

 でもまぁ、イザリアが誰かは思い出せないけども、確実に言えることはある。


「アロンデイル柔術を使えるってことはアロンデイルの生まれだろう? なら、俺を恨む自由はあるし、俺に復讐する権利もあるわな」


 俺の言葉を聞き、イザリアの気配が変わる。

 俺はその変化を無視して言葉を続け、そして俺は──


「アロンデイルは俺が滅ぼしたわけだし、俺が責められるのはおかしくはない。だから、俺に復讐しようとするのも間違ってはいないわな」


 俺は俺が悪い事を認める。

 他のはともかくアロンデイルに関しては全面的に俺が悪い。

 俺がちゃんとしなかったせいで、アロンデイルという世界に生きる全ての人間が死に、アロンデイルという世界は滅びた。

 俺はそれを否定しない──というか、否定できない。だってまぁ、俺が悪いしね。


「あぁ、何となく分かったよ。キミが誰かは分からねぇけど、キミは俺に復讐をしたがってるってわけね。いいぜ、アロンデイルの人間なら俺に復讐する権利がある」


 俺はイザリアを見る。イザリアの眼には俺への憎しみしか映っていない。

 でもまぁ、それも仕方ねぇよ。だって、アロンデイルの人間だもん。

 俺のせいで人間が死に絶え、滅んだ世界。その原因となった俺を怨むのは当然だろ?

 だけど、そんな俺の予想に反してイザリアは──


「アロンデイルの民など知った事ではない。あんな世界などはどうでもいい。私にとっては──」


 あぁ、なるほど、恨みがあるのはそっちじゃなく、あっちの件か。

 まぁ、どっちにしろ恨まれているのは間違いないけどね。


「俺の嫁の仇討ちをするために、俺を殺したいってことか」


 アロンデイルの全ての人間は俺の嫁にイカレてたからね。

 俺の嫁が死んだ時に、その後を追って世界中の全ての人間が殉死するくらいにさ。

 そんでもって、嫁が死んだ原因は俺にあるわけだし、崇拝する存在を死に追いやった俺を憎むのは当然だろう。


俺の嫁・・・だと? 貴様があの人を自分の妻だとっ!? 貴様が──貴様が、あの人を──!」


 俺が自分の嫁さんをどう呼ぼうが勝手だろう? 実際に結婚してたんだしさ。

 呼び方程度でキレんなよ。これだから、アイツにイカレてる奴は困るぜ。

 だけど、よくよく考えると変だな? なんで、コイツは──


「なんでキミは生きているんだい?」


 アロンデイルの人間は全て死に絶えた筈なのにイザリアは生きている。

 あの世界の全ての人間は俺の嫁が死んだ時に生きる意味を失ったと感じて、自ら死を選んだ。

 なのにイザリアは生きている。それはつまり、口で言うほど俺の嫁にイカレてなかったってことじゃないだろうか?


「あぁ、なるほど。死に損なったのね。いや、キミにとっては崇拝する存在の後を追うよりも自分の命の方が大事だったってことかな?」


 どうやら、触れられたくない話のようだ。

 イザリアの眼が据わり、俺を睨みつけてくる。


「黙れ、俺は・・あの人の仇を討つため、俺の・・全てを奪った貴様に復讐するために生き残ったのだ」


「あぁ、そうですか。でもまぁ、大層なことを言ってるけど、キミはキミ自身の都合のために自分の命を惜しんだんだろ? いやでも、そっちの方が良いと思うぜ? 後追い自殺なんて馬鹿げてるしね。だから、うん、生きることを選んだキミは正しいよ」


 おいおい褒めてやってんだぜ?

 それなのに、なんで段々と怖い顔になってくるんだい?


「殺す」


ってみろよ」


 俺の言葉に応えてイザリアが動く。

 さぁ、ここからが本番だぜ。

 

 




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