強制強化
「展開せよ、我が業。果てなき天に至るため」
俺が詠唱を始めた瞬間、シャルマーが危険を察知し、妨害に動く。
蜘蛛の下半身、その八本の足を動かし、俺に向かって突進してくるシャルマー。
「眼下の命の輝きに、天上の星は夢を見た。永き旅路が終わりを迎える」
俺は詠唱を続けると、接近してくるシャルマーに対し、逆に距離を詰める。
すると、腕から伸びた骨の刃を振るい、シャルマーは足を止めて俺を迎撃しようとしてきた。
本気の姿という割には自分の大きさに振り回されているような動きだ。
「恐れも勇気も枯れ果てた。輝く世界はこの身を残して過ぎ去った」
俺は刀を振り上げ、骨の刃を弾いて防ぐと、続けて地面に刀を突き立てる。
刀が帯びた熱で地面がドロドロに溶け出す。俺は地面に刺さった刀を勢いよく持ち上げ、溶岩となった地面ごとすくい上げて、シャルマーにぶっかける。
「天に座する我が身は敗者の遺骸。この身が放つ光は栄華の残光」
真正面から溶けた岩を被ったシャルマーが身をよじり、苦痛に耐える。
そうしてできた、親の隙を守ろうとシャルマーの子が俺に襲い掛かる。
「故に我が身を光を越えて、人よ飛べ。空を貫き、閃光すらも追いぬいて、天き宙の果てを目指せ」
迫ってくる子蜘蛛とゴムのような質感をした純白の肌を持つ人型。
俺は腰に巻いていた紅衣を解いて手に持つと、マントから帯状に変化したそれを伸ばし、周囲に向けて振るう。
俺の意思に応じて伸縮自在、その上、内力を通せば鋼鉄以上の強度になるそれを鞭のように振るい、俺は取り囲んでいたシャルマーの子らを薙ぎ払った。
「輝くその身は遥かな恒星。己の全てを燃やし、無限の天を征く栄光の光」
倒れた人型の間から一匹、二匹と抜け出して俺に襲い掛かってくる。
正面から襲ってきた人型を斬り捨て、背後から襲い掛かってきた人型を後ろも見ずに裏拳を叩き込み倒す。
そうして、二匹を倒すと溶岩を顔面に被ったシャルマーが復活し、俺に向かって突っ込んできた。
だが、もう遅い。俺の詠唱は完了した。
「展開──星よ耀け、全て燃え尽きるまで」
詠唱の完了と同時に俺の業術が展開され、周辺が俺の衝動に基づく領域に呑み込まれた。
それと同時に、俺に突っ込んできたシャルマーが勢い余り、俺の横を通り過ぎ、巨体が洞窟の壁へと激突する。
言っておくけど、俺は悪くないぜ。100%シャルマーの過失の事故だ。
「何をした」
すぐさま体勢を整えたシャルマーが警戒するように俺を見る。
どうやら、俺の業術の効果までは知らないようだ。
知っていたら、こんな反応はしないし、そしてその後のような反応もしないからね。
シャルマー俺に対して警戒の眼差しを向けていたのも一瞬、すぐに呆然としたような表情を浮かべ、状況を理解できずに自身の体を見る。
「なんだ? 力が溢れてくる」
そいつは素晴らしいね。
俺は弱くなった相手をボコる趣味はないから、そっちの方が良い。
相手は強ければ強い方が良い。つまりは、そういうことだ。
「もしかして失敗したのか?」
シャルマーが可愛らしい顔にニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて俺を見る。
いやぁ、どいつもこいつも同じ反応をしてくれて面白いね。
俺の『展開』をくらった奴は、みーんな、俺がしくじったと思って勝ち誇ったような顔をしてくれやがる。
「いいや、大成功──」
俺が言い終わるより早くシャルマーは俺の捉えられない速さで俺へと接近し、俺を長大な骨の刃の生えた腕で薙ぎ払った。吹き飛ばされた俺は壁へと叩きつけられ、あまりの衝撃で意識が吹っ飛びそうになる。
「俺が望んだ通りのパワーアップだぜ」
俺は立ちあがり、シャルマーを見据える。
見ただけでシャルマーの内力量が10倍以上になっているのが分かる。
ついでに、シャルマーの子も同じくらいにパワーアップしている。
だけどまぁ、焦るってことは無い。だって、これは俺の業術の効果によるものだしね。
「俺の業術が『展開』された場合、その効果は範囲内の俺の敵の強化だ。だから、キミとキミのお子さんが強くなってるのは何もおかしくはないし、俺の業術が発動に失敗したわけでもない──」
シャルマーが再び俺に襲い掛かる。
やはり目で捉えられない速さ。巨体であるとか何も関係ない。
俺は直感で背後に向かって刀を振り上げる。すると、その刃は背後に回り込んでいたシャルマーの骨の刃を偶然に防いでいた。
だが、そこにシャルマーの生み出した純白の人型の内の一匹が飛び掛かってくる。そいつが放ったのは何の工夫も無い大振りのパンチ。しかし、俺の反応できない速度で放たれた拳は防御しようと咄嗟に上げた俺の左腕を貫通すると、俺の胴体にも風穴を開けて俺を殺す。
「これでも失敗じゃないと?」
さっきまで余裕な感じだったシャルマーに歯が立たなくなり、その子にも簡単にぶっ殺されるようになった。まぁ、一見すると失敗に見えるかもね。敵をこんなに強化するなんて、失敗としか思えないよな。
だけど、俺にとっては──
「あぁ、むしろ大成功さ」
一回殺された俺は蘇って言う。
「改めて言うが、俺の『展開』の効果は強化だ。ただし、その強化の対象の限界を無視する。体がぶっ壊れようが、どうなろうが、そんなのは関係なく、問答無用でどこまでも強化する。持っている才能、潜在能力、何でもかんでも限界まで引き出し、全てを振り絞らせる。そして、その結果──」
俺はシャルマーの子の内の蛭と蜘蛛、犬を指差す。
シャルマーの子は動こうとしても、自身の力に耐え切れずにその体を破壊する。
業術の効果を説明すると効きが良くなっていいね。
理解が深いほど、効果が相手に染み込みやすくなるからね。
「自滅するとか関係なく、展開された俺の業術は範囲内にいる奴を敵とか味方とか関係なく、ひたすらに強化し続ける」
続けて、俺を殴った純白の人型の腕と、シャルマーの蜘蛛の下半身を指差す。
人型はともかくシャルマー、そうして俺に指差されてようやく気付いたようだ。
人型の方は俺を殴った腕が自分自身の力に耐え切れずに千切れ、シャルマーの蜘蛛の下半身も自分の移動速度に耐え切れずに、千切れそうになっていることに。
「痛いのも気づかないだろ? そもそも痛みがないのかもしれないけど、俺の業術の範囲内では痛みへの耐性も極限まで上昇する。業術による強化の影響で闘争本能が極限まで高まってるからね」
内緒にしておくけど、俺が展開した業術の範囲内にいる奴は逃げるってことが考えられなくなる。
どんなにピンチになっても、強化されて昂った精神が逃亡を選択しなくなるからだ。
「それと俺の業術の強化は一定じゃない。強化の度合いは『展開』開始から加速度的に上昇していき──」
シャルマーは時間をかけるのは危険と判断したのか、即座に俺を仕留めようと動く。
だが、強化された自分の力を制御できずに、俺を通り過ぎて洞窟の壁に巨体を激突させる。
それと同じように純白の人型も俺に襲い掛かろうとするが、強化された自分の力を制御できずに自滅していく。壁に激突する者もいれば、強化され続ける自分の力に耐え切れず、自壊していく者も。
ほどなくして、シャルマーの子は強化された自分の力に耐え切れずに全て死に耐えた。
「強化されたとしても、その力を制御できるかは別の問題だよな」
テレビゲームとかではポピュラーな強化だけど、あれだって現実的に考えると相当にきついよね。
自動車で例えると、時速50kmで走ってたのが自分の意思とは関係なく、いきなり時速100kmになるような感じだ。それでも問題なく運転できる奴はいるんだろうけど、運転できない奴だって大勢いるだろ?
そもそも同意の無いバフがマナー違反になるゲームだって結構あるぜ? ダメージ計算が狂ったり、操作感が狂ったりもするからね、ゲームでそれなんだから、現実はもっと影響が出るもんだ。
「小賢しい真似を──!」
「強くしてやってんだから文句を言うなよ。そもそも本当に才能がある奴は、これをやられても問題はないぜ?」
潜在能力も引き出してやってんだから、実は対応できる奴は結構いるんだよ。
それでも、強化された自分の力を制御できない奴はそもそも才能がないってことだけどね。
そんな俺の言いたいことが分かったのか、シャルマーは顔を怒りに染めて俺に向かって襲い掛かってくる。どうやら、シャルマーは多少なりとも才能がある方だったようで、強化に対応して動きを調整できている。
──でもまぁ、キミにとっての問題はそっちじゃないんだけどね。
「気付いているかい? 俺の業術で強化されたせいで、キミは自分の内力を浪費していることを」
俺はシャルマーの動きを捉え、その突進を躱しながら言う。
「俺の業術は対象を強化し、才能や潜在能力を引き出すが、対象が持つ内力の総量自体を増やすことはできない。そんでもって、限界まで強化するのに使う内力は対象のもともと持っていた内力だ」
俺の言葉で気付いたのか、シャルマーは即座に自分の強化に使われている内力を抑えようとする。
それは賢明だね。だって、強くなるのに使っている内力は、元を正せば自分に秘められた内力なわけだし、その内力は俺達がよく言う残機すら消費して引き出してもいる。
つまり、シャルマーは無意識に自分の残機を使って、自分を強化しているってわけ。それに気づいたら、自分の力を抑えようとするよな。だけど──
「そんな風に自分の力を制限するのは俺は好きじゃないね」
全ての力を振り絞って俺に挑んでくれなきゃつまらないだろ?
俺の業術は俺のそんな想いがこもっている。だから、業術の範囲内にいて、俺の業術の対象となっている奴には全力を出さないということは許さない。なので、強制的に自分の力の限界を振り絞らせるという効果もあるんだよね。限界を振り絞るってのは、内力を振り絞って自分を強化するわけでもあるから──
「気付いているかい? キミは俺の業術の展開範囲にいるだけで、どんどん残機を減らしてるんだぜ? 自分の限界を超えるために、自分の持つ資源を全て吐き出させるということを俺の業術が強制しているからだ」
俺は自分の力を抑えようとするシャルマーに刀でかすり傷をつける。
すると、即座にシャルマーは傷を癒すために内力を消耗するが──
「なんで、止まらない!?」
シャルマーが狼狽えた様子を見せる。
そりゃそうだよね。だって、放っておいても良いような、かすり傷だぜ?
それに一回死んで蘇るのと同じ量の内力を使うとか、内力の無駄遣いにもほどがあるよな。
でも、それを馬鹿にしたりはしないぜ? だって、俺の仕業だしさ。
「止まるわけないだろ? だって、今のキミは俺の業術で限界を超えて強化されてるんだぜ?」
俺は続けてシャルマーの人間の上半身に小石を投げつける。
小石はシャルマーの頬を掠め、その頬に薄っすらと赤い線をつくる。
そして、シャルマーの意思とは関係なく、その体はかすり傷を治すためだけに残機を一つ消費する。
「自己再生能力だって、キミの意思を無視して限界を超えて強化されてるんだ。ただ、かすり傷を治す程度に残機を一つ使うのは無駄遣いが過ぎるかもしれないけどね」
まぁ、アレだ。
最下級の回復魔法で治るダメージに最上級の回復魔法を使う。
それを本人の意思とは関係なくオートで強制されてる感じかな
嫌だよね。MP管理は大丈夫ですかって聞きたくなるぜ。
まぁ、俺のせいなんだけどね。
「っアスラカァァァズッッ!」
そんなに怖い顔をするなよ。
俺はキミを強くしてやってたんだぜ? 自滅するかもしれないけどさ。
だから、もっと命を燃やして、俺を殺しに来いよ。
突っ立ってるだけで自己強化を強制されて残機を消耗するし、かすり傷程度でも残機を消耗するけど、残機が無くなる前に俺を殺せば良いだけだぜ? もっとも──
「俺は相手が強くなればなるほど、強くなるんだけどね」
俺は瞬時に距離を詰めてシャルマーの首を刎ねる。
つまり、俺はレベルを上げれば上げるほど強くなるっていう嫌がられるタイプのボスキャラだ。
どんな敵を強化したとしても、俺も強化されるんだから問題はないんだよね。
我ながら詐欺臭くて酷い業術だと思うぜ。
「──ふっっっざっけんなっっ!」
瞬時に自身を蘇生し反撃に出るシャルマー。
いいね、いい具合に俺の業術の効果で戦うことしか考えられなくなっている。
だが、気付いているかい? キミの残機の消耗は俺の業術の展開前の100倍以上だ。
このまま戦えば、あと1分も保たないぜ?。
「どうせ戦るなら、楽しく戦ろう。そんでもって最後の瞬間まで俺を楽しませてくれよ」
──限界を超えて強化され続ける肉体が自壊を迎えるよりも早く。
──更に強制的な強化によって内力を消耗しきるよりも早く。
──自分の意思に反した過剰な自己再生に残機を使い切るよりも早く。
キミは、とにかく短期決戦で俺を仕留めるしかないといけない。
さぁ、自分がくたばるより先に俺を殺し切ってみせろよ!
※ゲームっぽい雑な効果説明
『星よ耀け、全て燃え尽きるまで』(スターレイジ・オーバーロード)
・範囲内にいる自分以外のキャラクターにタイムリミット付きの強化を与える。
・ステータス限界突破、時間経過でステータス強制上昇。
・レベル限界撤廃、時間経過で強制レベルアップ。
・未所持スキル強制獲得、隠しステータス強制解放。
・タイムリミットを迎えると死亡。
・MP消費増大、時間経過でMP消費、MPが0になった際に死亡。
・ステータスが一定値を超えると持続ダメージが発生し、そこから更に一定値を超えると死亡。
・その他いろいろとデメリット




