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抜刀

 

 ──今、俺の手の中には鞘に収まった刀がある。

 カイル達が俺の元へと届けてくれた刀は間違いなく俺の物だ。この世界に来た時に持っていたはずなのに消えた俺の刀。

 鞘に収まった姿は日本刀。その中でも打刀と呼ばれる類の物。ただ、刃だけが90cmほどと一般的な打刀よりも長い。


 俺は柄を握り、一息に刀を抜き放つ。すると、鞘に隠された刃が白日に晒される。

 その結果、闘技場に生じたのは──観客席から感じられる僅かな嘲笑と、息を呑む音。

 なんで嗤われるかって? そりゃあ簡単な話さ。見ただけナマクラって分かる刀をかっこつけて抜けば嗤われて当然。じゃあ、なんで息を呑む奴もいるのかって?

 ちなみに、俺と対峙しているラ゠ギィも俺が刀を抜き、その刃を目にした瞬間、目を見開き息を呑んでいた。


「──なんだ、それは」


 おや、普段の慇懃無礼な口調はどうしたんだい?

 俺の刀を睨みつけてくるし、怖いねぇ。


「なんだと言われてもね、ただの刀だぜ? それもナマクラの部類」


 俺はラ゠ギィに良く見えるように刀を持つ手を前に突き出す。

 そうして刀を見せるとラ゠ギィは声も出ない様子になり、同様に観客席にいる連中も声が出なくなる。

 まったく、そんなにビビることはないだろ? よく見ろよ、この刀をさ。

 見て分かんねぇなら、ちゃんと口で説明してやるよ。


「──切っ先は欠け、刃はこぼれて、しのぎも削れ、身には錆が浮き、鍔にひび、なかごは腐り、柄は歪んでいる。そんなシロモノに怖い顔を向けんないでくれよ」


 俺は欠けた切っ先をラ゠ギィに突きつける。

 ほら、よく見てくれよ。ボロ刀だろ? 観客の皆さんも、どうぞご覧くださいってな。


「御冗談を……多少なりとも武芸の心得があるもの、そうでなくとも武具を見る目のあるものであれば、一目で分かります。その刀が貴方の言う通りのナマクラではないことなどは」


 そうみたいだね。

 観客席の黙ってる連中ってのは武芸者や鍛冶師だし、俺の刀を見て色々と思うところがあるんだろう。でも、この刀自体は本当に、たいした物ではないんだよね。


「そんなにビビるなよ。神様の千や二千を斬ってきただけだぜ? 誇れるのは斬った数だけ。だけど、そんな刀だが──」


 実際、ショボい武器だぜ? 特殊な能力なんか何も無いからね。

 だって、そもそもは元々は俺が人間だった時に手に入れた模造刀だしさ。

 まぁ、人間だった時から今に至るまで何度も打ち直しをしてるから、元々の部分ってのはゼロに近いんだけどね。ただ、打ち治しても元の質が悪いんだから、そこまで良くはならなかったんだけどさ。

 だから、武器として見れば下の下。だけどな──


「──俺の手にこれ以上、馴染む武器はない」


 俺はボロボロの刃に内力を纏わせる。

 ただし強く力を込めることはしない。極めて軽く刀身に薄く塗るような感覚だ。だが、それだけでも──


「だけど、馴染み過ぎるせいで、こうなっちまうんだよね」


 俺の内力を纏った刀身が真紅の光を帯びる。

 その光が強すぎるせいで元の刀身は見えなくなり、真紅の光が刀の形を作っているようにしか見えなくなる。

 俺はそんな姿になった刀を片手で無造作に持つと、ラ゠ギィを見据える。


「お話は充分だろ? さぁ、決着をつけようぜ」


 俺が刀を持ったことを警戒し、俺の出方を伺う様子のラ゠ギィ。

 俺は俺を待ち構えるラ゠ギィの思惑を無視し、躊躇なく距離を詰めた。

 ラ゠ギィの視線は俺の全身を捉えているが、意識は俺の刀に向かっている。

 俺は走りながら右手に持った刀を放り投げ、左手に持ち変える。

 自然とラ゠ギィの意識もその刀を追って、そこに隙が生じる。俺は左手に持った剣を振りかぶり──右の拳をラ゠ギィの顔面に叩きつけた。


「くっ──」


 頭にくらった衝撃でよろめくラ゠ギィ。それでも反撃に棍を突き出してくる。

 俺は刀で突きを弾くと、刀を上段に構えて間合いを詰める。

 しかし、ラ゠ギィは即座に態勢を立て直し、刀の間合いから逃れるために大きく飛び退くが──


「狙い通りだぜ」


 刀を嫌がって後ろに下がることは分かっていた。

 俺は刀を振り下ろすために踏み込むのではなく、下がるラ゠ギィを追うために駆け出し、飛び退く速度より更に速く接近すると、その勢いのままラ゠ギィの顔面に飛び膝蹴り叩き込んだ。

 その衝撃で倒れそうになるラ゠ギィだが、棍を支えにしてこらえる。

 まぁ、これくらいじゃ倒れねぇわな。


「──流撃」


 ラ゠ギィが棍を持たない手を突き出し、流撃を放ってくる。

 飛び膝蹴りを放った直後の着地の隙を狙った一撃だ。横に跳んで回避は難しい。となれば──

 俺は即座に刀を地面に突き刺し、刀の柄頭に手を乗せて、刀の上に逆立ちしてラ゠ギィの攻撃をやり過ごす。そして続けて、逆立ち状態からラ゠ギィの方に倒れ込み、浴びせ蹴りを放ち、ラ゠ギィはそれを躱すために後ろに下がる。


「やりづらそうだね」


 俺は地面に突き刺した刀を抜き、そのまま握るということはせず真上に大きく放り投げる。


「刀が一本増えるだけでも大変だろ?」


 俺の場合、刀を持ったからって刀だけで攻撃するわけじゃないからね。

 今まで通りに四肢の打撃が飛んでくる中で、更に刀まで意識しなきゃいけない。対応しなきゃいけない行動が増えれば、今まで通りには防げないし、間合いだって、刀のリーチを考えないといけないから調整が大変だろう。


「攻撃力の増加だけが武器を持つメリットじゃないってことさ」


 放り投げた刀が落ちてくる。

 俺は落ちてきた刀を掴み──損ねた。

 刀が地面に落ちる──寸前で俺は刀の柄を思いっきり蹴った。

 俺に蹴飛ばされた刀は一直線にラ゠ギィの元へと向かう。

 ラ゠ギィは咄嗟の判断で棍を振るい、俺の蹴飛ばした刀を弾いて防ぐ。だが、防げたのはそれだけ。

 俺は刀を蹴ると同時に駆け出し、間合いを詰めている。俺は俺の拳の間合いにラ゠ギィを捉えると内力を込めた拳を振りかぶり──


「プロミネンス・ブロゥ!」


 真紅の光を纏った拳をラ゠ギィに叩き込んだ。

 その威力でラ゠ギィの上半身が蒸発し、消し飛ぶ。

 だが、これで殺し切れるほどラ゠ギィは簡単相手じゃない。

 即座にラ゠ギィは肉体を再生し、棍を振りかぶり俺に反撃を仕掛けてくる。


「さっきまでビビってたくせに急にやる気になってどうしたんだい? 俺の刀を警戒してたんじゃないのかい?」


 突き出された棍が俺の体を打ち、俺はたたらを踏んで後ずさる。

 すると、そこに都合よくラ゠ギィに弾かれた刀が落ちてきたので、俺はそれをキャッチして構える。


「その刀がハッタリやブラフに使うものだということを理解すれば恐れる必要はありません」


 なるほど、刀を抜いても殴る蹴るの攻撃しかしないから、この刀は見せかけだけって言いたいのかい?

 まぁ、そう思ってるから、俺の刀を警戒せずに自信を持って間合いを詰めて来てるんだろうけどさ。


 ──でも、それは大きな間違いだ。

 ラ゠ギィは棍で突きを放つ。その突きに合わせて、俺も前へと踏み出し、右手に持った刀を振り抜いた。

 その刃はラ゠ギィの突きが届くよりも速くラ゠ギィへと届き、ラ゠ギィの体を──消し飛ばした。


「──言ってなかったけどさ。俺の刀は普通に当てるだけで、さっきキミに当てたプロミネンス・ブロゥくらいの威力があるんだよね」


 俺は蒸発した肉体を再生し、復活する最中のラ゠ギィに教える。

 まぁ、何が言いたいかという、刀を使うと通常攻撃が必殺技と同じくらいの威力になるんだよね。


「さぁ、俺がハッタリやブラフで刀を抜いたわけじゃないってことを理解してもらえたところで、クライマックスと行こうじゃないか?」


 いい加減、ケリをつけようぜ。

 もちろん、俺の勝ちでな。





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