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墓荒らし

 

 ──時はアッシュの手へと刀が届けられる数時間前に遡る。

 その頃、アッシュに刀を探すことを依頼されたカイル達はイグナシス近郊にある武具の廃棄場、通称『鉄の墓場』にいた。


「あーあ、俺も観戦したかったぜ」


 カイル達のパーティーの前衛役のギドが不満を露にしながら、地面に落ちていた金属片を拾って放り投げる。


「アッシュもゼティさんも試合に出るんだぜ? 二人の応援をしたかったぜ」


 アッシュもゼティも顔見知りだ。

 知り合いの晴れ舞台なのだから応援したかったとギドは素朴な想いを口にし、それにクロエもコリスも同意して頷く。

 そんな中でリーダーのカイルだけは微妙な表情を浮かべていた。カイルとしては可能な限り、アッシュには関わりたくない。そんな心情であるからアッシュを応援をしたいなどとは思う筈も無かった。

 カイルにしてみれば、今のようにアッシュの依頼で行動している今の状況も避けたいのだが、それでも生真面目な性分のカイルは受けた依頼は必ず達成しなければいけないという使命感や責任感といった気持ちだけで、この場にいるのだった。


「まずは依頼を達成しなきゃいけないよ。応援に行くにしても剣を見つけてからにしないと」


 カイルは自分は行きたくないけれど──などとは口にしない。

 どういうわけか、カイルのパーティーはカイル以外は皆アッシュの事を好んでいる。

 パーティーメンバーの関係性を考えれば、アッシュの事を否定するのは避けるべきだろうとカイルは判断し、アッシュに対して否定的なことは仲間たちの前では言わないことにしている。

 もっとも、アッシュに対して直接、避けるような態度を見せているが。ただ、カイルは知る由も無いが、アッシュは──というか、アスラカーズは自分の事を好いている人間よりも自分の事を嫌っている人間を好むので、カイルの態度は逆効果になっているのだが。


「そういえば、カイルってアッシュに何か頼まれてたみたいだけど、何を頼まれたの?」


 第一試合が終わった後にアッシュと遭遇したカイルはアッシュに頼まれごとをされていた。

 秘密にするように言われていたわけではないので、カイルは訊ねてきたクロエにアッサリとのその内容を話す。


「別にたいした話じゃないよ。剣を見つけたら、すぐに闘技場に届けて欲しいって言われただけ。次の日にとかじゃなく、見つけたらその足で届けに来いって言われたんだよ」


 困った顔で言うカイル。しかし、周りは逆に俄然とやる気を出す。


「じゃあ、さっさと見つけて届けに行こうぜ」


「剣を渡してアッシュとゼティさんを応援に行きましょ」


「……がんばろう」


 ギド、クロエ、コリスの三人が気合いを入れる姿を見てカイルは逆に「えぇ……」と引いてしまう。

 そうして、やる気に差はあれどカイル達のパーティーがアッシュの剣を探そうとした、その矢先の事だった。カイル達の前に一人の男が姿を現したのは──


「やぁ、がんばってるね」


 そんな気安い言葉をカイル達に投げかけた男は鉄の墓場に積まれていた壊れた武具の山の陰から姿を現した。しかし、その男の姿を見てもカイル達は動じない。何の気配も無く現れたのにも関わらず、慌てないのはその男が顔見知りだから。


「ヘイズ?」


 男はアスラカーズの使徒、その七十二位ルゥ゠リィ・ヘイズだった。

 ヘイズは誰をも魅了する美貌に柔らかな笑みを浮かべながらカイル達の前に立つ。


「どうしてここに?」


 カイルは当然の疑問を投げかける。

 アッシュから依頼を受けたのは自分達だけである。

 ヘイズは何も聞いていないはずなのでカイル達の居所も知っているはずがない。なのにヘイズはカイル達に自然な様子で姿を現した。まるで、ここにいるのを知っていたかのように。


「どうしてって、君たちの手伝いをアッシュに頼まれたんだよ」


 そんな話はカイルは聞いていない。

 だが、カイルはヘイズの顔を見た瞬間にその言葉を疑う気にはなれず、素直に感謝の気持ちが芽生える。


「あぁ、そういえばアッシュはボクに君たちの代わりに働けって言っていたな」


「代わり?」


「そう、代わりだよ。君たちは一生懸命働いてくれているから、アッシュは君たちにお休みをあげるってさ。それで君たちが休んでいる間、ボクが代わりに働くようにもアッシュは言っていたね」


 ヘイズは困ったような笑みを浮かべ、そして美貌に柔らかな表情を浮かべて言う。


「せっかくだし、ボクの代わりにアッシュを応援してきなよ。ボクが代わりに探し物をしていくからさ」


 ヘイズの申し出にカイル達のパーティーは飛びつく。ただし、カイルを除いてだが。

 カイルだけはヘイズの言葉を信じつつも、ヘイズの言葉に若干の疑問を抱いていた。更に、カイルは疑問を心の中に留めてはいられず、思わず言葉にしてヘイズに投げかける。


「……それって本当にアッシュが言ったことですか?」


 ヘイズの言葉に疑問を抱くわけではない。だが、アッシュが言ったとなれば疑問が生じる。


「人手を増やすと言うなら、そのことも僕に伝えると思いますし、休んでいいということなら、そのことも伝えておくんじゃありませんか?」


 自分達を驚かせるために秘密にしていた?

 それもおかしな話だとカイルは思う。剣を見つけたらすぐに届けるように頼むほどアッシュは切羽詰まっている状況の筈なのに、そんなことをする余裕があるとは思えない。

 カイルはヘイズの言葉を疑う気にはならないが、どういうわけかヘイズの言葉をそのまま信じる気にもなれなかった。


「ボクの言葉を疑うのかい?」


 そう言ったヘイズの顔の前には手が置かれていて、どんな表情をしているか確認できない。しかし──


「いや、すまない」


 すぐに露になったヘイズの表情は笑みを浮かべ、申し訳なさを顔に出していた。


「良かれと思ってボクが嘘をついたんだ。アッシュが休めなんて言うわけが無いのは君たちも承知していたね。すまない、休んだ方が良いというのはボクの独断なんだ」


「それはありがたいですけれど、僕達は冒険者として、まず依頼を果たす必要があるので──」


「うん、そうだね。いやぁ、すまなかった。君たちの仕事に対する誠実さをボクは軽く見ていたようだ。少しくらいは羽を伸ばしても良いんじゃないかと思って言ったんだけど、余計なお世話だったようだね」


 ヘイズは表情を曇らせ、カイル達に謝罪する。

 一目見ただけでどんな相手も魅了する美貌の存在に謝られ、カイル達は何も言えなくなる。


「でも、君たちを手伝うように言われたのは本当だよ」


「手伝ってくれるのはありがたいけれど……」


 カイルはヘイズの申し出をありがたく受けるべきか考える。

 だが、考えているカイルを無視してヘイズは辺りに積まれている武具の山へと近づき、掘り起こす作業を開始してしまった。


「ほら、早く済ませてしまおう。ゆっくりしてたら日が暮れてしまうよ」


 ヘイズが作業を始めてしまったことから、なし崩し的にカイルはヘイズの参加を認めざるをえない。

 確かに、少しでも人手は欲しいが──


「アッシュから道具は貰ってないんですか?」


 闇雲に掘り起こそうとするヘイズを見てカイルが言う。

「道具?」と口には出さないものの疑問を顔に浮かべたヘイズに対して、カイルは懐からアッシュに貰った金属片を見せる。それには紐が括りつけられていて、カイルは紐を持って金属片を吊るしてみせる。


「こうやって紐で吊るすと、これの先端がアッシュの剣のある方を向くらしくて──」


 言っている最中につるされた金属片がある方向を指し示す。


「これまでの作業で、鉄の墓場のどこにあるかまでかなり正確に分かってるんです。後はゴミの山を掘り起こして、見つけるだけで──」


 ギドもクロエもコリスも金属片を取り出している。そして、それらが向いている先はカイルと同じ方向。

 カイル達はその方向へと歩き出し、ヘイズもその後をついて歩く。そうして少し歩いた先、そこにあったのは一際うず高く積まれている廃棄された武具の山だった。


「後はここから見つけるだけなんですけどね」


「……これは大変だね」


 ヘイズはこれから待ち受けている作業を思ってつぶやき、カイル達は何も言わずに作業に取り掛かる。

 5人はそれぞれ武具の山に取りつき、自分の目の前にある武具をどけていく。

 武具であるから当然、刃がついている危険物も多い。それに加えて重量のある鎧など捨てられており、それは重さだけで危険なものだった。それを慎重に取り除きながら、少しずつカイル達は山を崩していく。


 普通に考えれば、武具は素材の金属を再利用するためにこうして捨てることはない。だが、この世界、特にイグナシスの人々は武具をそのまま捨てることに躊躇いは無い。

 なぜなら、この世界は鉱脈が枯れることはないからだ。鉱脈ごとに産出量の差はあるものの、鉱石が取れなくなるということは無く、鉱脈が枯れたように見えても、数年休ませれば、また鉱石を採掘できる。

 資源が無限にあるのだから、再利用を考える必要も無い。特にイグナシスはこの世界で最大の鉱床を確保しており、使える鉱石は日々、湯水のごとく採掘される。

 そのため、むしろ廃棄された武具の素材の再利用が禁止されているくらいだ。素材をリサイクルしてしまうと、鉱夫が毎日、掘ってくる鉄鉱石などが使われず、鉱石の価値が下がってしまう。そうなったら鉱夫の収入が減少することにもなるので、鉱夫の収入を維持するためにイグナシスでは、素材の再利用がされていなかった。


 その結果が鉄の墓場だ。

 使い物にならなくなった武具は捨てられ、放置される。

 カイル達は捨てられた武具をかき分け、アッシュに依頼された剣を探す。

 そうして数十分が経った──


「もう無理」


 最初に音を上げたのはクロエだった。続けてコリスも諦めて地面に腰をおろす。

 カイルとギドは平気だが、ヘイズはカイル達の様子を見て態度を決めようとしているようだった。

 いったん休憩したほうが良いだろうか? そんなことをカイルが思ったその時だった。

 クロエが思いもがけない提案をする。


「ふっ飛ばさない?」


 あまりにも乱暴な言葉が聞こえたのでカイルはクロエに驚きの表情を向ける。


「魔術で吹っ飛ばした方が絶対早いわよ。山になってるから探すのが大変なんだから、崩して平らにした方が見つけやすいでしょ?」


 そんなことをすれば依頼された剣がどうなるか分からない。

 カイルは止めようとするが──


「いいね、そうした方が良い」


 ヘイズはクロエの提案に賛成する。

 すると、ギドもコリスも賛同し、慎重に行動すべきだと言おうとしたカイルの言葉が届くよりも早く──


「じゃあ、魔術を使うわよ」


 クロエが魔術を発動する。

 カイルとギドは慌てて武具の山から飛び降り、ヘイズはいつの間にかクロエの隣に立っていた。

 クロエの持っていた杖から火球が放たれ、それは武具の山に直撃し、大量の武具を辺りに撒き散らす。

 衝撃で吹き飛び、宙へと舞い上がった剣や槍がカイル達の元へと降り注いでくる。


「あぶなっ──」


 カイル達は雨のように降ってくる武具を躱し、危険な状況を何とか無傷でやり過ごす。

 そして、落ち着いて辺りを見回すと、先程まであった武具の山は跡形も無くなっていた。

 代わりに周囲に武具が散乱しており、それを見たカイルがげんなりした表情でつぶやく。


「……これって探す範囲が広がっただけなんじゃないかな?」


「いや、そうでもないようだよ」


 ヘイズはうつむくカイルの隣に立つと、先程まで山があった場所を指差す。

 その指先の方を見ると、そこには鞘に収まった一本の剣が地面に突き刺さっていた。


「アスラカーズの刀──君たちが探しているのはアレじゃないかな?」


 刀と言われてもカイルはピンと来ないが鞘に収まった姿を見ると、その形状は細く刃は反っているようでカイルが良く知る剣とは違うものであることは一目で明らかだった。

 カイルとその仲間は地面に突き刺さった刀に吸い寄せられるように近づく。そして、そのそばに集まると、カイルが刀を手に取り、確認するように鞘からその刃を引き抜こうとするが──


「抜けない?」


 どんなに力を込めても鞘から刀を抜けない。

 それを見てクロエが表情をパッと明るくする。


「きっと伝説の武具なのよ! 選ばれた者にしか抜けないとか、そういう奴!」


「ということは、アッシュにしか抜けないってことか?」


 カイルが力を込めて必死に刀を抜こうとしている横でギドがクロエと会話をしている。


「そりゃあ、そうでしょ。だって邪神の武器よ? 邪神にしか扱えないに決まってるじゃない」


「でもよぉ、鞘の中身が分かんないんじゃ、アッシュの武器かもわかんなくねぇ?」


「……とりあえず持っていって、本人に確認させれば良い……」


 コリスも会話に加わり、カイルの努力を眺めていたが、そこでとうとうカイルも諦める。


「──とりあえず、この刀を持っていこうか」


 カイルは抜けない刀の鞘を持つ。

 パーティーメンバーの意見はだいたい一致している。

 後はヘイズだ。カイル達はヘイズを見て、意見を伺おうとしたが、逆光のせいかカイル達にヘイズの表情は見えず、声だけしか分からない。


「うん、ボクもそれに賛成だ。もし違ってたら、また探しに来ればいいだけだしね」


 顔は見えずとも声から発見を喜び、カイル達の意見にも賛成していることが分かる。

 全員の同意を得られたカイル達は、まだハッキリとはアッシュの物か分からない刀を持ちイグナシスへ戻ろうとする。だが、その時だった──


「いいや、それは許さん」


 再び、物陰から声がする。だが、今度の声はカイル達が知らない人物のもの。

 そして、声と同時に感じられたのは──殺気だった。


「誰だ!」


 カイル達は即座に戦闘態勢を取り、声の主に警戒する。

 しかし、声の主はカイル達に対して、全くの無警戒で姿を現すのだった。

 それはまるで、カイル達を全く取るに足らない存在と決めつけているかのような振る舞いであった。


「──我が名はヴィルダリオ。白神教会の宣教師にしてアスラカーズの敵だ」


 そうして物陰から出て露になる姿。

 それは剣神祭でゼルティウスと戦い、命を落としたヴィルダリオ。

 死んだはずのヴィルダリオが全くの無傷でカイル達の前に立っていた。


「奴が人を使って何かを探していると知り、様子を見ていたが、まさか奴の刀を探しに来ていたとはな。それを届けさせるわけにはいかん。これ以上、奴に強くなってもらっては困るからな」


 カイル達はヴィルダリオの濃密な殺気を受けて、無意識に後ずさる。

 それでも虚勢を張り、ギドはヴィルダリオに食って掛かる。


「こっちは5人もいるんだぜ! 自信はあるみたいだけど、アンタだけで勝てるかよ!」


 ヴィルダリオはギドの言葉を鼻で嗤う。

 実際、嗤われても仕方ない。それだけカイル達とヴィルダリオには実力差がある。

 アッシュやゼルティウスには敗れたものの、ヴィルダリオの強さはこの世界においては最上位と言っても過言ではない。現状では一介の冒険者に過ぎないカイル達には太刀打ちできる相手ではない。

 そして、その上でヴィルダリオは──


「なるほど、頭数で勝っているから、身の程知らずなことが言えるのか。ならば、これならどうだ?」


 ヴィルダリオが指を鳴らす。すると、天から無数の光の柱が降り注ぎ、その光の中から大量の天使が姿を現す。

 背中に翼を持ち、武具を握りしめる天使たちは白神が生み出した白神に仕える忠実な戦士たち。

 ヴィルダリオはそれを自身のしもべのように呼び出し、カイル達を取り囲ませる。天使たちはヴィルダリオの命令に従うことに何の疑問も抱いていない。


「これで数でも上。どうだ? まだ俺に何か言えるか?」


 カイル達は何も言えない。それどころか指先一つ動かすことが出来ない。

 天使たちもヴィルダリオには劣るとはいえ、カイル達が束になっても勝てないほどの強さを有する。

 それを肌で感じ取ったカイル達は威圧され何もできなくなっていた。何が引き金になって天使たちが動き出すか分からない。そんな恐怖感でカイル達は自身の動きを止めていた。

 だが、そんな中でも平然としている男が一人。天使たちに対してもヴィルダリオに対しても、何の恐怖も抱いていないヘイズは小声でカイル達に話しかける──


「君たちは逃げた方が良い。彼らは君たちの手には負えない相手だ」


 ヴィルダリオに聞こえないように言葉を交わすカイル達とヘイズ。


「でも、どうやって?」


 ヘイズの視線がカイルの手に握られた刀に向けられる。


「ボクが囮になる。奴らが狙っているのはその刀。ボクが刀を持って逃げれば、奴らは全力でボクを追うだろうから、君たちのことは目に入らなくなる。その隙を突いて逃げればいい」


「でも、一人では──」


「心配はいらない。これでもボクはアスラカーズの使徒の一人だよ? あの程度の連中に遅れは取らないさ」


 ヘイズの表情には余裕があった。

 それを見たカイルはヘイズに刀を渡そうとする。

 しかし、それを遮るように──


「相談は済んだか? では──」


 ヴィルダリオが手を振り上げる。

 それを見てヘイズがカイルの手にある刀に手を伸ばす。


「君たちは逃げろ!」


「──死ね」


 ヘイズが刀を奪い取ると同時にヴィルダリオが振り上げた手をおろす。

 それが号令となって、カイル達の周囲を取り囲んでいた天使たちが一斉に動き出し、そして──


 ──その瞬間、カイル達に襲い掛かろうとした天使たちを雷が貫いた。


「なんだと!」


 思わず声をあげるヴィルダリオ。

 その視界は雷の直撃を受けて落ちていく天使たちで埋まっていた。

 カイル達の仕業ではないことは明らか、カイル達にはそんなことができる実力は無いことをヴィルダリオは見切っている。ならば、何者かの横やりに違いない。

 ヴィルダリオは雷を何者かの攻撃と判断し、それを行った者の姿を探そうとする。が、そんな必要はなかった。雷を放った乱入者は探すまでも無くヴィルダリオの前に姿を現した。


「まったく、クソを殺しに、クソの気配を辿ってみたら、別のクソに出くわすことになるなんて、クソみてぇな日だぜ」


 その声の主は崩れていない武具の山の上に立っていた。

 顔が完全に隠れるほど長い前髪が印象の男だ。その男は、この場を見下ろすとヘイズの手にある刀に目を留める。


「あのクソの刀じゃねぇか。気配の原因はそいつかよ、クソが」


 吐き捨てるように男は言うと、刀から視線を外し、今度はヴィルダリオと天使たちを見る。

 前髪から覗く眼差しには強い敵意があった。


「詳しい状況は分からねぇが、なんとなくは分かるぜ。お前らの方がクソだってのがな」


 男の体から殺気を乗せた魔力が溢れ出る。

 それを感じ取り、ヴィルダリオと天使たちが戦闘態勢を取る。


「何者だ?」


 問いかけるヴィルダリオ。それを受けて、この場を見下ろしている男はヴィルダリオを見据える。

 だが、そうして視線を向けた瞬間、男の背後から天使が襲い掛かる。しかし、男は右手の指だけを背後に向けると、その指先から魔力の弾丸を放ち、天使の頭を撃ち抜いて自分に奇襲を仕掛けてきた敵を仕留めて見せる。


「名乗ろうとした瞬間に不意打ちとはクソらしい、クソな真似だな」


 男は長い前髪をかき上げると、後ろに撫でつけ後頭部で縛る。

 そして、懐から煙草を取り出すと、それを口に咥え、指先に灯した魔術の火で煙草に火を点ける。

 男は落ち着いた仕草で煙を吸い、ゆっくりと吐くと、ヴィルダリオを睨みつけ──


「──アスラカーズ72使徒、序列49位マーク・ヴェイン。それが俺の名だ。クソがクソなことをしてるのは見過ごせないでな。助太刀させてもらうぜ」


 突如として、この場に現れたマーク・ヴェインはそうしてヴィルダリオとの敵対を宣言したのだった。




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