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vsラ゠ギィ

 

 剣神祭の二日目、二回戦の第一試合はガレウスとリィナちゃんの試合から始まる。

 もっとも、俺はその試合は見ないけどね。だって、勝敗は分かり切ってるしさ。

 まず間違いなくリィナちゃんの負けで、ガレウスの勝ちだ。リィナちゃんには可哀想だけど、万に一つも勝ち目はねぇよ。結果の分かった勝負を見てられるほど、今の俺は暇じゃないんだよね。


 そんな忙しい俺がいまどこにいるかと言うと、俺は控室にいる。

 自分の試合の順番は先だけれど、少し早めに会場入りして、試合までの時間の全てを準備にあてる。

 常在戦場のつもりで常に備えておくべきとは言うけど、それは心構えの話であって、戦いの日時が決まってるなら、その時に合わせて調整をするのが当然。常に備えているからって、特別な準備をしないってのは怠慢だと俺は思うね。


 なので、準備をする俺はまずは瞑想から始める。

 座禅を組み、目を閉じ、息を整える。

 瞑想なのに無心にならず色々と考えているわけだけど、別に精神を集中するためにやってるわけじゃないんで、頭で何を考えていても別に構わない。

 瞑想する意味は内力の流れを整えるため。全身の細胞に内力を染み渡らせ、毛細血管の一本一本にすら内力を含ませる。


 内力が整ったら、そこから段々と試合に向けてウォーミングアップを始める。

 全身をくまなく伸縮させるストレッチで身体をほぐし、身体を戦闘へと切り替える。


 次にパンチやキックの基本の動きの確認。自分の身体の調子を確かめるための素振りだ。

 相手を想定せず、単純に拳や蹴りを出す。それで今日の自分の調子が分かる。


 そしてそこから段々と動きを激しくしていき、シャドーボクシングに移行する。

 単純な打撃の動作から、コンビネーションの動作を行い、それを可能な限り激しく続ける。


 最後は対戦する相手を思い浮かべてのシャドー。

 当然、相手はラ゠ギィ。相手の攻撃を想定しながら、回避や防御の動作も加え、最後のイメージトレーニング。ただし、うっすらと汗をかく程度に留める。


 最後の仕上げにコップ一杯の水を飲み、大さじ一杯の蜂蜜と小さじ一杯の塩を口に含み、最後に水をもう一杯。これで準備は完了。

 そして、終わったと同時に丁度良いタイミングでアリーナへ案内してくれる神官が現れる。まぁ、俺がタイミングを計ってたんだけどね。


「準備はよろしいですか?」


「問題ねぇよ」


 俺は真紅の布を腰に巻きつけ、神官の後に続いてアリーナへと向かう。

 薄暗い通路を抜けて、アリーナへと足を踏み入れた俺を待っていたのは、いつも通りの罵声と怒号。


 みんなが俺を嫌ってて嬉しくなるぜ。

 嫌いすぎて逆に俺から目が離せなくなってるからね。そんなに想われてるなんて俺は幸せ者だぜ。

 俺は観客の声援に応えるように手を挙げる。すると、すぐさま──


「くたばれーっ!」

「負けろーっ!」

「死ねーっ!」


 どうも応援ありがとう。

 みんな俺の事が好きすぎて困っちまうね。嫌いすぎて逆に俺のこと好きになってるだろ、キミら?


 ──さて、観客はともかくとして俺の対戦相手は何処にいるんでしょうね。

 アリーナにラ゠ギィの姿は見えねぇし、もしかして俺が先に来ちまった感じかい?

 嫌だねぇ、俺は人を待たせるのは好きだけど、自分が待つのは好きじゃないんだよね。

 俺に不快な思いをさせるとか、あの野郎、調子に乗ってやがるね。

 どんどん容赦しようって気持ちが無くなってくるよ。まぁ、最初はなから容赦するつもりは無いんだけどさ。


 ──そういえば、リィナちゃんの試合はどうなったんだろうか?

 全く関心を持ってなかったから、どんな結果になったか分かんねぇや。

 まぁ、ガレウスが勝ったのは確実だろうし、別に考えなくてもいいか。

 そんなことより、いま大事なのはラ゠ギィとの試合だ。あの野郎、何をしてやがるんだろうね?

 もしかして、俺の不戦勝とか? そうなったら、個人的にアイツをぶちのめしに行かなきゃいけなくなるんだけど。試合とか関係なく、アイツと戦うのは俺の確定事項だしさ。


 そんなことを考えながら、アリーナの入場口を見ていると、ラ゠ギィが姿を現す。

 そして、それと同時に俺への罵声に満ちていた闘技場が一瞬にして静まり返る。

 何事かと思い、俺は改めてラ゠ギィを見ると、別にラ゠ギィにおかしい様子は無い。違う所があるとすれば最近は着ているところを見ていなかった、白神教会の宣教師の祭衣カソックを着ているくらいだろうか……つーか、それが原因だわな。


 俺が気付いたと同時に観客たちが堰を切ったようにラ゠ギィに向かって罵声や怒声を叩きつけだす。

 イグナシスは赤神を信仰する奴が多く住む街だし、白神を信仰する白神教会を気に入らないって奴も多いんだろう。それを思えば、ラ゠ギィがわざわざ祭衣を着てきたのは挑発以外のなにものでもない。赤神を讃える剣神祭に白神を日常的に讃えている奴が参加しているわけだしな。


「俺のファンを取るなよ」


 ラ゠ギィがイデオロギー的に観客を挑発する服装をしてきたせいで、歓声はラ゠ギィにも向けられ、声援は俺とラ゠ギィに平等に降り注いでいる。


「失礼しました。貴方が羨ましかったもので、つい」


「うっかりやっちゃったって? じゃあ、仕方ないね」


 審判が何か言っている気がするけど、俺とラ゠ギィはお互いしか見ていない。

 俺達は言葉を交わしながら、互いに間合いを調整するために歩き出す。


「──実を言うと、貴方との接触は教皇猊下に禁じられているのです」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、なんでまた、俺に絡んでくるんだい?」


 俺とラ゠ギィは足を止める。

 距離は一挙手一投足の間合い──の一歩外。

 俺にとってはそうだけど、ラ゠ギィにとってはどうなんだろうね?

 一瞬で距離を詰めたとして、ほんの僅かに攻撃が届かない間合いだ。だが、俺にとってはこれでいい。いや、これがいい。


「単に貴方と戦ってみたかったからという理由で納得いただけますか?」


「全然、納得できなくて笑えてくるぜ」


「当然です。嘘ですので」


 ぶっちゃけ、俺もラ゠ギィもマトモに会話をするつもりはない。

 単に口を動かしてるだけで、相手の言葉の意味を理解しようとすらしていない。

 俺達はお互いにこれから始まる戦いのために精神を集中している。


「私に勝てれば、理由をお教えしますよ」


「俺が勝った時にはキミはマトモに口も動かせなくなってると思うけどね」


 俺は軽く息を吐き、対して、ラ゠ギィは軽く息を吸う。その時だった──


「──始めっ!」


 審判が試合開始の宣言をする。

 その言葉が耳に届いたと同時に俺は地面を踏み切って飛び出す。

 対してラ゠ギィも滑るような動きで前に出る。


 速度は俺の方が速い。つまり詰める速度は俺が上であり、遅いラ゠ギィに俺が近づく形になる。

 それを想定しているラ゠ギィは俺の速度も考慮したうえで間合いを調整している。だが──


 俺はあえて一歩だけ間合いを外している。

 一瞬で距離を詰めたとしても、それでも僅かに攻撃は届かない。

 迎撃の構えを取っていたラ゠ギィの拳も俺には届かない。


 迎撃を狙っていたラ゠ギィはタイミングが外されたことから、自分からの攻めに移る。

 スッと踏み込み、拳を繰り出そうとしてくるだろう。その拳は俺の眼では捉えられない速度。

 前にった時は散々にやられた拳だ。だが、俺はその拳を──


 ──右手の甲で弾いて防いだ。

 ラ゠ギィの放ったのは左の拳。それを防いだのだから、当然、次は右の拳が来る。

 だが、それよりも早く俺は自分の左の拳をラ゠ギィの顔面に叩き込む。しかし──


 ラ゠ギィの顔面を捉えた拳の感触と同時に俺の顔面を衝撃が襲う。

 俺が拳を叩き込んだと同時にラ゠ギィの拳も俺の顔面を捉えていた。

 互いに拳を叩き込んだ俺達はその衝撃で仰け反る。けれど、即座に体勢を立て直し、俺はラ゠ギィを見据えて攻撃を仕掛けようとするが、その瞬間、ラ゠ギィの拳が俺の顔面を三度打ち据える。


 相も変わらず異常な速さの打撃。だが、威力は低い。

 耐えられるし、それに──防げる。


 ラ゠ギィの四発目の打撃。俺はそれを手で叩き落とす。

 見切って防いだわけじゃない。攻撃が来ると予測し、そこに手を置いて防いだだけだ。

 その証拠に五発目を俺はマトモに食らい、だが同時に殴り返してもいる。


 俺の拳を食らい、たたらを踏んで後ずさるラ゠ギィ。一発の威力は俺の方が上だ。

 もっともラ゠ギィの表情には自分の拳が防がれたことに対する驚きも、反撃を受けたことに対する驚きも無く。ラ゠ギィは続けて淡々と打撃を放ってくる──が、俺は放たれたラ゠ギィの拳を手で掴み取る。


「段々と見えてきたぜ?」


「勘で防いでいるだけでしょう」


 秒も掛からず嘘がバレる。まぁ、実際、勘で防いでるんで否定はしないよ。

 ラ゠ギィは俺の手を振りほどいて躊躇わず再度の攻撃を仕掛けてくる。

 その拳はやはり俺の動体視力でも見切れない速度。だけど──


「こんだけ食らえば、いい加減、防御もできるさ」


 慣れってのは大きいよな。何発も食らったせいで感覚でいつ攻撃が飛んでくるのか分かるようになってきた。それに加えて、ラ゠ギィとの戦いに備えてコンディションも万全な今の俺なら一発は止められる。

 俺は放たれたラ゠ギィの左拳を右手で払って防ぐ──が、既に放たれていた二発目が俺の胸を強く打ち、俺の身体を突き飛ばす。


 一発は防げても二発目は無理だね。

 俺は軽く息を吐くと、俺に近寄ってくるラ゠ギィを見据える。

 散々、食らったんで何となくだが、ラ゠ギィの打撃の秘密も分かってきた。

 もっとも、大した秘密じゃないけどね。


 ラ゠ギィの打撃は恐ろしく速いけれど、その速さの理由は拳速だけじゃない。

 相手の身体の最も近い位置を最短距離に叩き込むことで、反応できない速度の打撃を生み出してるってわけだ。

 ラ゠ギィの拳が軽く、そこまで効かないのも当然、なにせ効く場所を狙って撃ってるわけじゃなく、ただ一番当てやすい場所を撃ってるだけなんだからな。もっとも効きの悪い場所でも何発も殴られてりゃダメージは蓄積するし、偶然に当てやすい場所と攻撃が効きやすい場所が重なって、クリーンヒットになることだってある。

 つまりラ゠ギィの打撃は数撃ちゃ当たるって考えのもと繰り出される打撃ってことだ。だけど、それも馬鹿にできない。だって、現に俺が苦戦してるわけだしな。


 ──とにかく一発返す。ラ゠ギィの連打の感覚が加速してくれば、反撃のチャンスは無くなる。その前にラ゠ギィに一発入れて、流れを俺の方に戻す。

 そう考え、俺はラ゠ギィの連打の中から反撃の隙を伺おうとした、その矢先だった。突き出されたラ゠ギィの拳が俺に当たる寸前で止まり、直後にラ゠ギィは拳を開いた。それによって、俺の視界はラ゠ギィの掌で遮られ、そして──


 死角から放たれたラ゠ギィのアッパーカットが俺の顎をかち上げる。

 衝撃で意識が飛びそうになる。だが、俺もやられるだけじゃない。ラ゠ギィの拳が当たると同時に俺は爪先蹴りをラ゠ギィの鳩尾にねじ込んでいた。


「──っ」


 しっかりと入ったカウンターの蹴りは、その威力でラ゠ギィを後ずさらせる。

 しかし、逃がしはしない。俺はラ゠ギィに飛び掛かると頭を押さえ、飛び膝蹴りをその顔面に叩き込んだ。そして、その勢いのままラ゠ギィを押し倒し、マウントポジションを取ろうとするが、ラ゠ギィは倒れた同時に俺の身体にしがみつき、マウントを取らせない。それどころか、俺にしがみついた状態から身体を捻り、俺が下になるように回転すると、マウントを取ろうとする俺から逃れる。


「グラウンドも出来るんじゃねぇか」


 結構いいタイミングの仕掛けだと思ったけど、簡単に対応された。

 これは寝技もできると考えて良いだろう──と考えた矢先にラ゠ギィの拳が俺に向かって放たれる

 俺よりもラ゠ギィの方が早く立ち上がっている。対して、俺は膝をついて起き上がる寸前の体勢で、躱すことは難しい。ラ゠ギィもそう判断したのか、数撃ちゃ当たるの連撃ではなく、狙いすました力強い一撃をここに来て遂に解禁し、俺へと放っていた。


 ガードするタイミングも意識して躱すことも不可能。

 そんな状況で俺が取った行動は立ち上がるのをやめて、その場に寝転がるというもの。

 俺が地面に倒れると俺の頭の上をラ゠ギィの拳が通過した気配がする。そして、直後に俺は立ちあがる──と見せかけ、高速で前転して、ラ゠ギィの横をすり抜け、その背後に回り込む。


 そして、俺はラ゠ギィの背中に組み付くとその体勢から大きく背中を逸らすと、ブリッジをするような動きでラ゠ギィを投げ飛ばし、その頭を地面に叩きつける。

 いわゆるジャーマンスープレックス。ただしプロレスで使っているのとは違う、あえて頭から落ちるように意識した殺すための投げ技だ。

 これで一回殺せていれば御の字、そう考えながら俺はラ゠ギィから離れるが──


「……かなり効きますね」


 流石に殺すのは無理だったようだ。

 普通の相手だったら頭蓋骨が陥没し、首の骨も折れているはずなんだが、ラ゠ギィは無傷。思っていたより頑丈のようだね。


 ま、この程度の殴り合いで仕留められるとは俺も最初から思ってないさ。

 ここまではウォーミングアップ。本気マジの戦いはここからだ──


駆動せよドライブ、我がカルマ。遥かなそらに至るため」


 キミもそうだろ? 見せてみろよ。キミの仙理術をさ。


「──羅派仙理術らはせんりじゅつ活身功かっしんこう


 俺の業術の発動に合わせてラ゠ギィも何かの術を使ったんだろう。その内力が跳ね上がる。

 良いじゃねぇか。お互い、ここから段々と本気マジを出していこうぜ?


 さぁ、ろうぜ!




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