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一回戦終了

 

 ゼティがヴィルダリオに勝ち、これで一回戦の全ての試合は終了したことになる。

 ただまぁ、最後の試合がアレだったせいで、闘技場は静まり返っていて、試合が終わった後って雰囲気じゃないけどね。


「さて、帰ろうか」


 賑やかで楽しい雰囲気だったら、それをちょっと味わうために残っていても良いんだけど、今は辛気臭いから、あんまり長居したくないんだよね。剣神祭の初日は一回戦の八試合までだから、終わったら帰っても問題はないしさ。


「厄介事は起こすなよ?」


 席から立ち上がった俺へ、後ろの席に座っていたセレシアが言う。

 そいつは無理な相談だね。俺は厄介事が無いと生きていけないんだよ。

 厄介、揉め事、トラブルに首を突っ込むことだけが俺の生きる原動力だからさ。

 そう言って、俺が反論しようとした矢先、アリーナに運営スタッフが立ち入るのが目に入った。


「──アイツらは何をしてるんだい?」


 スタッフはアリーナに散らばっているシャルマーとヴィルダリオのバラバラの体を集めて、担架に乗せていた。まぁ、死体の回収はしないといけないんで、それはおかしくないんだけどね。ただ、血の一滴も残さないように念入りに回収作業に従事しているのは少し違和感がある。

 そのまま乾くまで放っておいても良さそうなもんなのに、わざわざ丁寧に回収する理由は何なんだろうか?


「剣神祭の試合で出た死体はどうすんの?」


 一応は神聖な祭りらしいからね。祭りってのを宗教的な儀式と捉えると、その中で死んだ奴ってのは殉教者と同じ扱いとも取れる。まぁ、生贄とも言えるけどさ。

 殉教者にしろ、生贄にしろ、そういう死体は丁重に扱うだろう。そこら辺に埋めておしまいってことは無いと俺は考えるんだが、どうだろうか?


「聞いた話では剣神祭で亡くなられた方は勇士として、赤神の元に送られるとか」


 システラの話を聞き、俺はありがちな話だと思う。

 それはそれで別に良いんだよ。俺が疑問なのは、それは観念的な話なのか、物質的な話なのかだ。

 地球なんかだと神様は実体を持ってるわけじゃねぇから、肉体という物質を求めない。

 対して、この世界みたいに神様が実在する世界の場合、物質を求めることだって普通にあるはずで、その場合だと、死体を赤神に直接届けるようなルートがあると思うんだが、そこら辺はどうなんだろうか?


「ちょっと探ってみるかな」


 もしかしたら、赤神と会うための別ルートを確保できるかもしれんしさ。


「やめろと言った矢先に厄介事を起こそうとしている奴がいるんだが」


 まぁ、良いじゃない。勘弁してくれよ。

 あぁ、そう言えば、それはそれとして、セレシアやシステラに頼んでおきたいことがあったんだった。

 とりあえず、それを伝えておこうか。


「俺はこのまま帰るけど、ちょっとキミらに頼んでおきたいことがあるんだよね──」



 ──俺はセレシアとシステラに頼みごとをした後、真っ直ぐに帰らず、闘技場の中を探索していた。


 俺の頼み事は、俺に関わることではなく別の奴らに関わる事なんで、セレシアもシステラも素直に了承してくれた。日頃の行いのせいで、俺の知り合いは俺の利益になりそうな頼み事は、すぐにウンと言わないんだよね。まぁ、だからといって俺は自分の行動を省みたりはしないんだけどさ。


 俺は自分の行動を反省することはやめて、観客が帰っていく気配がする闘技場の中を歩いて、シャルマーとヴィルダリオの死体が運ばれた先を探すことにした。

 行き先として考えられるのは──と考えようとしても、そもそも俺は闘技場の内部の配置に関しては殆ど理解してないんで、考えようが無いんだよね。だから、どうしても虱潰しに探すことになり、そうして探していると自然といろんな場面に出くわすことになるわけで──


「──すまんのぅ、負けてしもうたわい」


 人の気配を感じたの控室を覗いてみると、俺に負けたダグラスとグランベル流の門弟たちが集まっていた。

 くたびれた様子のダグラスの周りには膝をつき、すすり泣く門弟たち。門弟たちは師匠俺に負けてしまったことを嘆いているんだろうね。


「そう泣くでない。儂が未熟だっただけの話じゃ」


 見た目こそくたびれた様子だがダグラスの表情や雰囲気は晴れ晴れとしている感じだ。


「そのようなことはありません、師匠! 今回はただ──」


「いいや、儂の力が及ばなかっただけの話じゃ。言い訳ができんほどの敗北であったことは、おぬしらも分かっておろう?」


 運が悪かったなんて言ったら、乗り込んでもう一回ぶちのめしてやろうかと思ったけど、そうならなくて良かったぜ。


「いつまでも、現役にしがみついていた報いということかのぅ。老醜を晒してしまったわい」


「そんなことはありません!」


「よいよい、分かっておる。おぬしらがどう思っておるかも。いい機会じゃ、儂も隠居を考えるべきかもしれんのぅ」


 その方が良いぜ。そう言おうと思ったけど、口を挟むのはやめておいた。

 ここで俺が何か言うとこじれそうだったし、たぶん中に入っても俺の好みの展開にはならないだろう。

 仮に喧嘩を売っても買ってくれる気配は無さそうだしさ。


「儂は身を引き、これからはおぬしらに流派を盛り立てて貰うとしようかの。きっと、そのほうが良かろう」


「しかし……」


「心配するでない。おぬしらを見捨てるようなことはせんわい。おぬしらが流派を継ぐに足るほど立派になるまで面倒をみようではないか」


「いえ、そうではありません。このまま師匠が御隠居なされたら、グランベル流はどこの馬の骨とも分からん輩に負けたという汚名を晴らすこともできません。せめて、あの男と再戦するまでは、御隠居については考えていただけませんか?」


 どこの馬の骨とも分からん男ってのは俺の事かね?

 まぁ、盗み聞きしてる身分では偉そうなことは言えねぇし、どこの馬の骨ともって言われても仕方ないんで、怒ったりはしませんよ。


「汚名返上はグランベル流の名代として出場しておる、ゼルティウス殿に期待するしかあるまい」


 ダグラスはゼティの名前を挙げる。

 そういえばアイツはグランベル流に世話になってるから、グランベル流の人間として剣神祭に出てんだよね。だからまぁ、アイツが勝てばグランベル流が勝ったと言えなくもないけどさ。


「──しかし、あの方は……」


 門弟たちは口ごもり、なんとも言えない表情だ。

 ゼティに関して複雑な想いがありそうなのは、ゼティの試合を見たからだろう。

 あの試合を見て、ゼティがグランベル流の関係者だなんて言っても誰も信じないだろう。

 技が違うとかじゃなく、観客の眼からはゼティは完全に別枠に存在になってしまっただろうしな。

 ちょっと強い所を見せすぎだぜ、ゼティ。

 ゼティ自身は義理堅いから、グランベル流として扱われても何も言わないだろうけど、グランベル流の人間からすればゼティを同門として扱われんのは嫌だろうね。


 ──もういいかな。これ以上、盗み聞きしてても面白い話は出なさそうだ。

 俺はそう判断し、その場を後にしてシャルマーとヴィルダリオの死体を探しに戻る。

 そうして、探索を再開するとほどなくして、闘技場の奥に人だかりを発見する。


「何やってんの?」


 その集団の雰囲気はあまり良くなかったが、俺は気にせずに話しかける。

 すると、集まっていた奴らは俺の方を振り向き、俺が何者か気づいた瞬間、殺気を向けてくる。

 俺はそいつらが何者かは分からなかったが、そいつらの中心にいた奴の顔を見て、こいつらの素性を察する。

 集団の中心にいたのはガレウス・ザールヴァルト。ならば、周りにいるのはザールヴァルト流の門弟だろう。


「何用だ!」


 話しかけただけで俺はザールヴァルト流の門弟に怒鳴られた。

 理不尽だぜ。せっかく優しい気持ちで話しかけてやったのに、優しくなくなっちまいそうだよ。

 俺をそんな気持ちにさせた責任はこいつらの主に取ってもらおうかな?

 そんなことを考えながら、俺はザールヴァルト流の当主のガレウスに目をやると、ガレウスはシャルマーとヴィルダリオの死体が運ばれていた担架を見下ろしていた。周りには担架を運んだ神官がおり、そいつらは沈んだ表情を浮かべている。


「何を見ている! 立ち去れ!」


 俺の視線がガレウスに向かっていることに気づいた門弟たちは俺の前に立ちふさがってくる。

 おいおい、邪魔すんなよ。ちょっと見てるだけじゃないか、そんなに怒らなくても良くないかい?

 ……もしかして、俺に喧嘩売ってる感じ? それだったら、ここでキミら全員と今すぐってあげてもいいぜ? 後ろにいるガレウスも含めて10人程度、相手にするのに問題はない数だしな。

 さて、それじゃあ、戦ろうか──


「やめよ」


 俺が戦る気になったのにガレウスが水を差す。

 弟子の代わりにキミが俺と戦う気かい? それならそれで構わねぇけど?

 むしろ、そっちの方が望む所なんだけどね。


「お通ししろ」


 お通ししろ──ね、随分と丁寧な物言いだぜ。


「こちらへ」


 ガレウスが俺を手招きすると俺の前に立っていた門弟たちは素直に俺を通す。

 その態度に俺はちょっとガッカリ。もっとこう、そんなの納得できないって感じで俺に喧嘩を売ってきて欲しかったんだけどね。まぁ、話が早いのは良いことだって思うことにしとこう。


「随分と礼儀正しいね」


 以前に会った時はのことな俺なんか道端に落ちてるゴミみたいに見てたような気がするけど。


「貴殿の実力を知れば、当然だろう」


 俺の実力ねぇ?

 俺はキミらに実力を見せたつもりはねぇんだけど?

 いったい、何を見たのやら。ダグラスとの試合? あれで見せた俺の強さが俺の実力と思われるとか心外なんですけどね。


「ダグラス翁との試合を見れば分かる。貴殿は見た目通りの歳でもないのだろう。武の円熟を見れば、貴殿が私よりも遥かに長い時を生きていることは察することはできる。であるならば、年長者であり武芸者としても上である貴殿に礼を尽くさぬわけにはいかない」


 俺は目上の人だから失礼にならないようにしようって?

 そりゃ素晴らしいね。面白くはないけどね。いや、むしろつまらないね。

 俺は楽しい展開にならないことを察したんで、さっさと用事を済ませようと担架にかけられた布をめくり上げる。すると、そこにあったのは俺の想像通りシャルマーとヴィルダリオの死体。


 俺は死体を見つめ、とりあえずの確認を済ませる。

 その確認ってのは、こいつらが完全に死んでるかの確認だ。

 残機を完全に使い尽くし、魂の気配も無くなっているなら死んでいるはずだが──それを確かめるために俺はシャルマーとヴィルダリオの死体を眺めるが、バラバラになったシャルマーとヴィルダリオの死体からは何の気配も感じられなかった。

 これはつまり二人は間違いなく死んでいるということになるのだが──


「いまいち納得できねぇんだよなぁ」


 これで死に切るなら、俺もヴィルダリオを始末できていてもおかしくは無いんだけどね。

 それとシャルマーもなんか変だね。あんなに自信満々で出てきたのに、こんな簡単に殺されるとか、あっけなさすぎて逆に変じゃねぇか? まぁ、実際はシャルマーもヴィルダリオも死んでいるんで、俺の違和感は杞憂なのかもしれんけどさ。


 そこんところ、どう思いますか?

 ──と、俺はどういうわけかシャルマーとヴィルダリオの死体を見に来ていたガレウスの横顔を見ると、その表情は沈痛そのもので、軽口を叩きづらい雰囲気だった。


「知っている顔なのかい?」


 俺は気になったので訊ねてみる。知らない奴に向ける顔じゃなかったからさ。 

 だけど、ガレウスの答えは──


「いや、知らぬ顔だ。だが──」


 だが? 何かあるのかい?

 ガレウスの眼はヴィルダリオを見つめている。


「どこか面影がある」


「誰かに似ているってことかい?」


 それで気になって死体を見に来た?

 知らない顔なのに知ってる奴の面影があったら、確かに不思議には思うけどさ。


「……息子に似ているのだ」


 息子って言うと事故死した息子さんのことか?

 観客席で俺もその噂は聞いたね。将来有望だったけど事故で亡くなったとか、自分の息子を赤神に蘇らせてもらうためにガレウスは剣神祭に出場したとかさ。


「でも、こいつはキミの息子じゃねぇぜ? キミは似てるって言ってたけど、前に会った時は顔も違ってたし、整形でもした結果、偶然、キミの息子に顔が似たとか、そういうこともあり得るんじゃねぇの?」


 整形って言葉が通じるかは分からないけど、俺は押し通した。

 すると、ガレウスは首を振り、自分の頭に浮かんだ考えを振り払おうとする。


「……息子が生きているはずはない。私自身も息子の遺体を確認している。だが、この男の纏う雰囲気がどうしても息子を思い出させるのだ」


 俺は周りにいたザールヴァルト流の門弟を見ると、そいつらもガレウスに心から同意しているようだった。

 ……他人の空似って感じじゃねぇな。雰囲気と言う抽象的な話が出ると俺にはどうしようもない。感じ方は人それぞれだから、俺の感性でこいつらの感じたものを否定するのはできない。


「……このようなことを言うのはおかしいとは理解しているが、この男を見ていると、まるで孫を見ているような……いや、それはおかしいな。この男は私の息子よりも明らかに年上だ」


 赤の他人に血縁関係を感じるってヤバくねぇ?

 つーか、周りの門弟たちもヴィルダリオに対するガレウスの言葉を聞いて腑に落ちた表情になっている。

 ガレウスの思い込みだけじゃなく、周り奴も納得できるような説得力の話なのか?


「……疲れてんじゃねぇの?」


 なんか変な気配を感じる話だぜ。でも、俺は気のせいだとガレウスに言った。

 たぶん……じゃなく、間違いなく、この話はガレウスみたいな強くても一般人に属する奴が関わって良い話じゃない。使徒や仙理術士が関わる話だ。


「キミらも跡継ぎが事故に遭って、ちょっとナーバスになってんだよ。そういう時は物事に対して正常な判断力が働かなくなるから、変な思い込みをしちまうんだよ」


「……そうだろうか」


 少なくとも俺はそうだと思うけどね。

 だから、キミらは死んだ奴に似た雰囲気のヴィルダリオのことなんか忘れて、次の試合のことだけ考えてれば良いんだよ。で、それはそうとして、ちょっと聞きたいんだけど──


「この死体って、どこに運ばれんの?」


 俺は担架のそばに立っていた神官に訊ねる。すると神官は──


「赤神様の御許へと旅立つ勇士です。せめて遺体と言ってください」


 あぁ、そうね。死体って言うのは良くないね。

 理解したから、何処へ運ばれるか教えてくれませんかね。


「勇士の御遺体は闘技場の地下に安置され、山の奥底へと運ばれ赤神様の元へと辿り着きます」


「その説明で充分さ。どうも、ありがとね」


 闘技場の地下に運ばれるってのが分かれば充分だ。

 これで剣神祭とは別ルートで赤神の所へ行くこともできるかもしれない。

 それが分かったら、もうこの場に用は無い。辛気臭い所にはいたくないし、帰らせてもらおうか。

 そう思って、俺はスッとこの場から抜け出そうとしたが、そんな俺に向かってガレウスは──


「……貴殿には一つ伝えておきたいことがある」


 おもむろに開いた口から出る言葉は重い響きを持っている。

 俺は何か重大な話でもあるのかと思い、足を止めて続きを待った。


「私の息子は事故に遭ったのではなく殺されたのだ」


 ……まぁ、そういう噂もあったね。

 お気の毒にとしか言いようが無い話だね。


「私は剣神祭に出場できなかった息子の無念を晴らすため、そして息子を生き返らせるために、この戦いに臨んでいる」


「だから、負けろって言いたいのかい? こっちには大事な理由があるからって?」


「そうではない。戦いとなったら容赦はできないと言っているのだ。たとえ貴殿の方が私よりも強かろうが、そんなことは関係ない。私はどんな手段を使ってでも優勝を勝ち取るつもりだ」


 そう言っておいて、この場で俺を袋叩きにしようとしないって所で分別はあるし、手段も選んでると思うけどね。まだまだ理性がある方だと思うよキミはさ。わざわざ忠告してくれたわけだし。

 俺の方もキミの事情は分かるし、キミの想いも分かるんだけどね。でも、残念ながら、それとこれとは話が別なんだよなぁ。


「キミには悪いけど、俺は棄権をするつもりはないぜ?」


 そもそも、俺のいるブロックは誰が勝ち抜けるか分かんねぇしなぁ。

 俺はラ゠ギィには負けないつもりだけど、ゼティには勝てるか分かんねぇしさ。

 それに、そもそもガレウスの望み通りに俺が負けても、結局はラ゠ギィかゼティが出てくるわけだしガレウスに勝ち目はないんだよね。

 だからまぁ、ガレウスの要望に従うってのは俺はできないし、しても意味が無い。とはいえ──


「わざわざ忠告してくれた礼だ。俺もキミに一つ忠告しておくぜ」


 何も返さないってのも。

 俺はガレウスがそんなに嫌いじゃないみたいだし、忠告の一つくらいはしてやろう。


「あまり赤神を信用しない方が良い」


 ガレウスは息子を生き返らせようと思ってるみたいだけど、そんな力が赤神にあるとは思えない。

 今のまま赤神を信じていると、ロクな事にはならねぇと思うんだよね。良いようにこき使われてポイ捨てって末路だってあり得るぜ?


「……心に留めておこう」


 そうしてください。じゃ、俺は帰るんで。

 さようなら──


 ──俺が力を失ってなければ、ガレウスの息子くらい、パッと生き返らせてあげるんだけどね。

 俺はそんなにガレウスが嫌いじゃないし、アイツの息子を生き返らせるくらいなら別に構わない。

 ただ、残念なことに今の俺にそんな力は無いからね。でも、それは赤神も一緒。ただまぁ、赤神の場合はもとからそんな力は無いだろうけどさ。

 力が無いのに有ると偽って人間を良いように操ってるとしたら、そういう神は俺の好みじゃない。言葉を交わして交渉の余地は無いぜ?


 俺はそんなことを考えながら闘技場を出る。すると、その出口には──


「あ、出てきた。一回戦突破、おめでとう」


 カイル君とその仲間達が俺を待っていた。


「何してんの?」


 聞く必要も無いのに思わず訊ねる。

 だって、どう考えても俺を祝福か応援に来た感じじゃん。聞くまでもねぇよ。


「知り合いが出場してるんだから、応援には来るよ」


「そいつは嬉しいことだね。俺の知り合いは薄情な奴しかいねぇから、キミらの優しさが身に染みるぜ」


「……普段の行いが悪いからじゃないかな」


 なんか呟きが聞こえたのは間違いないし、何を言ったかもハッキリ聞こえたが無視だ、無視。ところで──


「来てくれたのはありがたいけど、俺の頼んだ仕事はどうした?」


 カイル君たちにはちょっと探し物をしてもらってる。

 剣神祭が始まるまでには見つけてくれると思ったけど、依頼してから何の音沙汰も無しだ。

 どうなってるのか訊ねた結果、カイル君はバツの悪そうな顔で俺に謝る。


「探してるんだけど、全然、見つからなくて。もう少し頑張ってみるから、待ってくれないかな?」


 まぁ、見つからないのをとやかく言うつもりはねぇよ。

 ただ、早く見つけてくれねぇと、ちょっとマズいことになりそうな気もするんだよね。

 この感じだと、おそらくラ゠ギィとの試合開始には間に合わないだろうし、それを考えると──


「追加でもう一つ頼みがあるんだけど、良いかい? その頼みってのは──」


 俺はカイル君に新しく頼みごとをした。

 別に大したことじゃない、カイル君たちの労力もほとんど変わらないだろう。

 それに必要にはならないかもしれないな。だけど、もしものことを考えたら、頼んでおくにこしたことはない。


「そんじゃあ、よろしく頼むよ」


 俺はカイル君たちによろしく頼んでその場を後にしようとしたが──


「あ、ちょっと待って」


 カイル君が俺を呼び止める。

 何事かと思い、俺が方を振り返ると、カイル君は懐から手紙を取り出し、俺に手渡してきた。


「冒険者ギルドから、あなた宛ての手紙を預かっているんだ」


 へぇ、そうなんだ。

 俺に手紙を送ってくる奴って誰だろうね?

 そう思って俺は手紙の入った封筒を見ると、その差出人はマーク・ヴェインとなっていた。

 マー君から俺への手紙ってなんだろうね? 俺への応援のメッセージでも添えられているんだろうか?

 俺はそれを想像しながら封筒を破り、手紙を手に取り出し、それに目を落とす。そこに書かれていたメッセージは一言──



『殺す』



 俺は素晴らしい言葉が書かれていた手紙を破って道端にポイ捨て。「あぁっ!?」とカイル君たちが声を上げるが俺は無視する。


「いやぁ、感動的なメッセージだった」


 さぁ、明日は二回戦だ。

 そんでもって、ついにラ゠ギィとの戦い。

 さっさと帰って身体を休めようか。




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