隠し子
「俺の名前を知ってやがった」
領主の城の窓から飛び降りた俺達は無事に着地し、領都イクシオンの街中を走り、イクシオンから脱出しようと移動している最中。その状況で俺は並走するゼティと話をしている。
「そいつが黒幕か?」
ゼティは自分が担いでいるカイルとジョンの内、重い方であるジョンを俺に投げ渡してきた。
「それは分からねぇなぁ」
意識を失っているジョンを受け取り、肩に担いだ状態で俺はジャンプし、建物の屋根の上に上がる。
「じゃあ、それ以外の誰が俺達の正体を知っているっていうんだ?」
ゼティも同じようにカイルを肩に担ぎ、俺に続いて屋根の上に飛び上がってくる。
下の通りを見ると領主の兵士が巡回しているが、屋根の上までは注意を向けていないようで、俺達に気付くことは無い。
「他所の神の手下か、それとも……」
「お前の使徒かだな」
勘弁してよ。
俺の手下が俺を罠に嵌めるとか、思い当たる節が多すぎて、それ以外の可能性を考えられなくなるだろ?
「だが、使徒の中に奴の顔はいなかったと思うが、どうなんだ?」
ゼティの質問に関しては俺は「さぁ?」としか言いようがない。だって、俺は使徒の顔と名前が一致しないからな。
俺が使徒に選んだ連中だけど、あんまり絡みない連中も多いしさ。
実を言うと使徒が何人いたか人数だって怪しいぜ?
アスラカーズ七十二使徒なんて名前をつけたけど、七十二人いないってことは確かなんだが、実際は20人だったか、30人だったか、どれくらいいるのか覚えてなかったりする。
「忘れてないか?」
「憶えてねぇだけだよ」
ゼティの疑いの眼差しを向けつつ俺に尋ねてきたので俺は正直に伝える。
ゼティだって憶えてねぇんだから、俺に偉そうなことは言えないはずだ。
「使徒の可能性も無くはないってことで良いだろ? ただ、その場合だとちょっと変な感じもするけどな」
「変な感じとは?」
俺の言葉に疑問を抱くゼティだったが、すぐに自分で答えを出す。
「そうか、奴は転生しているのか」
そういうこと。
奴が使徒だった場合。領主の子供になるには赤ん坊の状態に転生しないといけない。だけど俺の使徒は基本的に大人の状態で異世界に送り込むんで、どっかの子供になりすますのは難しい。
俺は基本的に赤ん坊に転生させたりしないんだよね。俺は使徒にはさっさと成果を出してもらいたいんで、赤ん坊から成長を見守るなんて面倒くさいことはしたくないのよ。
「なので、考えられるのは俺の使徒をわざわざ転生させたって場合だが」
「そんな手間をかける奴がいるか?」
いないよなぁ。なので、自然な考えとして俺達をこの世界に閉じ込めている奴の手下って考えるのが妥当かな? まぁ、なんにせよ──
「あいつとは戦るつもりだから、その時に色々とハッキリさせれば良いだろ」
「結局やるのか。相手はこの世界の権力者だぞ?」
だって喧嘩を売られた感じだしな。
向こうも俺と戦り合いたいみたいなんだし、相思相愛だぜ。だったら遠慮することも無いよな。
それに権力者? そんなもん俺には関係ないって。人間だった頃から、そういう連中とは揉めてたし今更だよ。つーか、ゼティだって色んな連中と揉めてたから、俺に偉そうなことは言えねぇと思うんだけどね。
「まぁ、俺は構わないが。面倒なことにならないようにしてくれ」
そんなことを言うゼティ君だけど、俺はこいつが色んな世界で王族とか貴族とかを問答無用でぶっ殺していることを知ってる。
本人は悪党しか殺していないので問題ないって言ってるし、実際、悪い連中だったりするんだけどね。
面倒なことにならないようにと言ってるけど、面倒を起こす可能性が高いのは俺よりゼティだったりする。俺は俺と戦る気のある相手としか戦わないけど、ゼティは悪党だったら割と相手を選ばずに喧嘩を売るからさ。
「まぁ、戦るにしてもこいつらを置いてからかな」
俺は担ぎ上げてるジョンの体を叩く。戦うにしても、こいつらは邪魔だからな。ついでにこいつらに関わる面倒ごとを片付けてからの方が落ちついて取り組めるからな。
話している最中も俺達は屋根の上を飛び移りながら、街を脱出するためイクシオンの城壁を目指して移動していた。イクシオンの街中では俺達を探しているようだが、もう遅い。俺達は既にイクシオンの街の端に到着している。
俺とゼティはカイルとジョンを担いだ状態で、街の端の建物の屋根から軽くジャンプし、城壁を跳び越える。俺達は今の状態でも20メートルくらいは跳べるんで、城壁なんか跨げば越えられる程度の障害物でしかない。
イクシオンの街中にいる兵士たちは市内に出入りするための門を閉じれば、イクシオンから出ることは不可能だと考えているだろうし、俺達が壁を跳び越えて脱出したなんて思わないだろうから、そのまま街中を探すだろう。
その間に俺達はさっさとイクシオンから離れる。
「これからどうする?」
「ドレガンの所に行くべきだろうな。ちょっと届けるものもあることだしな」
ゼティの質問に答えて俺達はドレガンの所に向かう。
ドレガンはラザロスから兵を引き連れてイクシオンに向かっているらしいから、二つの都市を結ぶ街道を進んでいれば出くわすんじゃねぇかな?
そう考えてイクシオンからラザロスまでの道を俺とゼティはジョンとカイルを連れて進む。
「僕の仲間は?」
「村に帰りてぇ」
途中でカイルとジョンが目を覚ましたので、二人を担ぐのをやめて歩かせようとしたのだけれど、カイルは仲間のことでうるさいし、ジョンは村に帰りたいって駄々をこねるので気絶させて、再び俺とゼティで二人を担いで進んでいくことにした。
不眠不休で全速力の移動をすると十数時間くらいでドレガンの率いる軍が野営している場所に辿り着いた。
平原のド真ん中で野営しているドレガンの軍はあまりにも無警戒で、それを見るとドレガンがどういう考えを持っているのかなんとなく察することが出来る。
そんでもって俺はあんまり面白いことにはならないんだろうなぁって直感が働いたりもするが、それでもドレガンからは仕事を頼まれているわけだし、それだけは果たさないとな。
俺とゼティが野営地に近づいてもドレガンの兵士たちは警戒をする様子は無く、野営地の雰囲気はノンビリとしたもので、戦いに来たとは思えない様子だった。
俺達は通りがかった兵士を呼び止め、名を名乗るとすぐにドレガンの天幕に案内された。
「よく来たな」
案内された天幕の中にはドレガンとダンジョンの前でシウスの兵士に捕まらなかったリィナちゃんがいた。
それを見て、俺は逃げ出したリィナちゃんが代官に助けを求めて、それに応じてドレガンが兵を動かしたとか、そんな推理をする。
「そこの冒険者の少女に聞いたのだが、俺の依頼の手がかりを見つけたそうだな。そしてギースレインに捕まったと聞いたが」
ドレガンの視線は俺を値踏みするような不躾なものだった。ついでに最初に会った時の豪快さは感じられず、見ためこそ髭面の熊だが、雰囲気は知的な役人のもので、俺はちょっとガッカリする。
もう少し楽しい人物かと思ったんだけどね。まぁ、それでも依頼を受けた以上、仕事は果たすよ。
「お前たちの背負うどちらが伯爵の血を引いている? こんな場にわざわざ連れてくるくらいなのだから、なんでもない者達ではないだろう?」
ドレガンの言葉を受けて、ゼティが背負っているカイルを下ろそうとするが、俺はそれを手で制する。
どういうことだ?とゼティが視線で俺に問う。どうやら、ゼティはまだカイルが領主の隠し子だと信じているようだ。シウスには否定されたのにな。
俺がわざわざダンジョンに潜ってまで探しにいったもんだから、何かあると思ってるんだろうが、そんなことは無いんだよな。
そりゃあ、ダンジョンに行った時はカイルかなぁとか思ってたけどさ。でもシウスに会う直前には、カイルが隠し子だって考えは無くなってたんだよな。
だから俺はシウスにカイルが隠し子であるって可能性を否定されても特に何も思わなかったってわけ。じゃあ、誰が隠し子なのかって? その答えは出てる。
「こいつが領主の隠し子だ」
そう言って俺は背負っていたジョンを下ろし、活を入れて意識を戻させる。
「は!? え、あれ?」
意識を取り戻したジョンが間の抜けた顔で辺りを見回す。
ちょっと頭の足りない農民に見えるが、こいつが領主の血を引いている奴だと俺は思って連れてきたんだが、さぁどうだろうか?




