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信用できる強さ

 

 俺が殺した筈のヴィルダリオがどういうわけか生きていて、剣神祭に出ている。

 そして、ゼルティウスと試合の真っ最中だ。


「どういうことだろうね?」


 魂まで完全に消滅させたはずなのに、生きているってのはおかしいだろ。

 そう思って俺は客席からヴィルダリオを見る。だが、改めて見てみると、どうにも違和感がある。というか、パッと見でヴィルダリオと分かるせいで、よく見なかったが、以前とは明らかに異なる点がある。それに、そもそもの雰囲気自体も以前とは異なっている。


 まず、ヴィルダリオの顔には以前にはあった傷が無い。

 それに加え、以前よりも体格がほっそりとし、顔の輪郭も痩せたとかではなく以前とは骨格自体も若干変わっているような感じがする。だが、顔のパーツ自体は以前のヴィルダリオと変わらない。

 なんというか、七割分のヴィルダリオに三割分の別人を足したような感じで、今のヴィルダリオは、本来のヴィルダリオに別の誰かを混ぜて作り上げたような存在であるように俺には感じる。


 俺がヴィルダリオを見ていると俄かに客席も騒がしくなる。

 その騒ぎはザールヴァルト流の連中が陣取っている客席の一画で起きているようで、詳しいことは分からないが、俺のいる場所からはザールヴァルト流の門弟たちがヴィルダリオを指差し、何事かを話し合っている様子だ。


 でもまぁ、それはどうでも良い。

 問題は雰囲気が変わっているとはいえヴィルダリオが生きて現れたことだ。

 シャルマーが生きて現れるのは別にいい。そっちの方は俺が逃がしたから生きてるだろうしな。

 でも、ヴィルダリオが現れるのはおかしいだろ。俺は確実に仕留めたはずなのに、こうして出てこられると俺がしくじったみたいじゃねぇか。


 それで、どうする?

 もう一度、殺すか? 今度こそ確実にこの場で殺す?

 どうせ、生かしておいたってロクなことはしねぇ奴だ、殺したって問題はない。けど、今は試合の最中なんだよな。今から乱入してヴィルダリオをブチ殺す?

 そうしたら、剣神祭は台無しになっちまうし、優勝して赤神と対面するって計画もおじゃんだ。それに、俺が乱入して剣神祭が中止にでもなったら、剣神祭を楽しみにしていたイグナシスの住人可哀想だしな。そういうことを考えたら乱入するのは避けた方が良いように思える。だけど──


「──別にそんなのどうでも良くねぇ?」


 実際、そんなのどうでも良いだろ。

 大事なのは俺がヴィルダリオをぶちのめしたいと思ってることだ。

 剣神祭がどうなろうと、イグナシスの住人がどう思おうが知った事じゃねぇよ。


 後先を考えたり、他の誰かがどう思うかを考えてどうすんのさ。

 俺にとって一番大事なのは、今の俺が何を望んでいるかだ。

 そもそも、俺は長期的な視点を持って生きられない男だからね。今この一瞬が気持ちよければそれでいいと思って生きているんだ。


 そんな俺にとって、今一番大事なのは仕留めそこなったヴィルダリオをこの場でぶちのめすことだ。

 先の事も、他の誰かも知った事じゃねぇ。俺は今の感情に従って、衝動のままに動くだけだ。

 俺はアリーナでゼティと対峙するヴィルダリオを見据え、客席からその場に乱入するために立ち上がる。だが、俺が立ち上がった瞬間、背後から誰かが俺の肩に手を置き、飛び出そうとした俺の動きを制する。


 誰だ?

 そう思い、俺は後ろを振り向くとそこにはセレシアが立っていた。

 セレシアは俺の肩に置いた手に力を込め、握り潰しかねないくらいの力で俺を押さえつけようとしていた。


「何してんの?」


 俺はセレシアの手を軽く振り払い、後ろに立っていたセレシアに向き直る。

 まぁ、「何してんの?」なんて聞く必要もねぇわな。俺が乱入しないように止めたってだけだ。

 俺がセレシアを睨みつけていると、セレシアは自分の上腕についている腕章を俺に見せつけてきた。


「私は今日の警備担当だ。私の目の黒いうちは好き勝手はさせんぞ」


「おいおい、何言ってんの? 俺はトイレに行こうとしただけだぜ? 警備員ってのは客をトイレに行かせないのが仕事なのかい?」


 俺は平然と嘘をつく。

 俺は嘘を吐くことに全く抵抗の無い男なもんでね。

 ただまぁ、嘘を言ったからと言って騙せるとは限らないんだけど。


「嘘を吐くな。何処の世界に殺気を出しながら便所に行く奴がいる」


 いなくはないと思うけどね。

 そりゃあ、セレシアのいた世界は便意を催したら、そこら辺の草むらですりゃいいから、トイレで切羽詰まる奴はいないだろうから、分からないだろうけど。


「漏れそうだったら殺伐とした気配になるのも仕方ないだろ? とにかく通してくれると助かるね」


 ここから飛び降りるのは面倒臭そうだから、別の所からアリーナに降りよう、そう決めて俺はセレシアの横を通り過ぎようとしたが、そんな俺の腕を誰かが掴んだ。誰がそんなことをしたのか、見るとそこにはシステラがいて、システラは抱え込むようにして俺の腕を押さえつけて、この場から去ることを許さない。

 もっとも、許すか許さないかを決定する権利はシステラにはないけどね。許す許さないを決めるのは何時だって俺だ。俺は俺の行動の決定権を他人にやったことは一度もないぜ。

 俺は腕にしがみついていたシステラを振り払う。その姿を見てセレシアが──


「ゼルティウスのことが心配なのかもしれないが、少し落ち着け」


「はぁ?」


 俺はセレシアの発言に思わず声を出す。

 実際、コイツが何を言っているか分からなかったからだ。


「相手は手強いようだが、もっとゼルティウスを信用してやるべきだ」


 あぁ、なるほどね。

 もしかしてセレシアとシステラは俺がゼティを助けるために乱入しようとしてるとか思ってのか。

 ははは、何言ってんだこいつら? とことん分かってねぇなぁ。


「ゼティがあの程度の奴に負けるわけねぇだろ」


 あんまり的外れなことを言うもんだから気持ちが萎えちまったぜ。

 俺は仕留めそこなったかもしれないヴィルダリオを今度こそ俺の手で確実にぶち殺したいから乱入しようと思っただけだぜ? ヴィルダリオの試合相手のゼティがどうとかは関係ないんだよ。

 俺は俺が暴れ出さないか警戒しているセレシアとシステラの二人を尻目に再び席に腰をおろす。


「俺は他はともかく戦闘に関してはゼティを信用してるんだぜ。ヴィルダリオを始末するだけなら、ゼティ一人でおつりがくる」


 ゼティがヴィルダリオに負けることは万に一つもあり得ない。ヴィルダリオに関しては仕留めそこなったから俺がこの手で始末をつけたかっただけで、単純に殺すだけならゼティで問題無いんだよね。だって──


「俺がゼティの強さを疑っていると思われんのは心外だぜ。キミらはゼティの本気を知らねぇから、ゼティが負ける可能性なんか思い浮かべるんだろうな」いい機会だし、一緒に見てようぜ? ゼティがどんだけ強いのかをさ」


 ──ぶっちゃけ、ゼティは俺より強いしさ。

 まぁ、俺が本来の能力を失っている今の状況だけの話だけどね。

 俺はそれを分かってるから、俺が一回勝ったヴィルダリオにゼティが負けるってのはありえないっても分かってる。


「いい機会だし、一緒に見てようぜ? ゼティがどんだけ強いのかをさ」


 急に物分かりが良くなった俺を訝しんでいるセレシアとシステラに俺の隣の席に座るように促す。

 こいつらは、自分達が原因で俺のやる気が無くなったってのに気づいていないようだね。まぁ、それはどうでもいいや。

 大事なのはこいつらにゼティの強さを見せつけてやることだ。こいつらはゼティを侮ってはいないだろうけど、間違いなくゼティを過小評価している。その勘違いを正してもらおうじゃないか。


 セレシアとシステラは仕方なくといった感じで俺の隣ではなく、斜め後ろに座る。

 ここは本戦出場者用の席なので、周りに他の観客はおらず席は空いている。なので、俺の隣に座らなくても別に構わない。そういえばセレシアは警備担当とか言ってたけど、仕事を放棄して良いのかな? まぁ、俺の監視も仕事の一環だし、監視ついでに一緒に試合を見るのも仕事か。


 とまぁ、そんなやりとりを終えてアリーナを見ると、どうやらゼティとヴィルダリオも何やら会話をしていたようで、試合は止まっていた。

 何を話していたかは分からねぇけど、まぁ仙理術士相手にゼティが聞く耳を持ってるわけはねぇし、お互いに喧嘩を売っただけだろう。

 その会話も終わりを迎えたようで、試合が再開されゼティとヴィルダリオは互いに剣を構える。


 ヴィルダリオは長剣を両手で持ち、いわゆる八相に近い構えで、剣を身体の横に立てて構える。

 その構えを見てゼティは腕を下ろし、だらりと力なく右手で長剣を持つ構え──とはいえない無造作な体勢を取る。

 それを見た瞬間、俺の脳裏に脱力した状態から一転し、鮮烈なカウンターを決めるゼティの姿がイメージされる。もっとも、それはこの闘技場にいる全ての人間、そしてゼティと対峙しているヴィルダリオも同じだったようで、構えだけでゼティは会場の全ての人間に勝利のイメージを想起させる。


 対して、ヴィルダリオの方は自分が斬られるイメージが頭に思い浮かんだだろうが、それを振り払い。

 先手を取ろうと剣を構えて走り出す。ヴィルダリオが抱いたイメージはカウンターを決められる自分。

 ならば、ゼティは『待ち』を選ぶはず。そう思ったんだろうヴィルダリオは先手を取ることを確信し、l距離を詰めるが──


 ──同時にゼティも動き出していた。

 俺も含めて、会場にいる全員が意表を突かれる。

 誰もがゼティのカウンターをイメージし、それが現実に起きると思い込んでいた。

 だから、ゼティの『仕掛け』など誰も予想していなかった。

 だけど、良く考えるまでもなく、結局の所、俺達は思い込みをしていただけだから、俺達はそもそも予想をしていない。ただ、あまりにも剣を構える姿が完成されすぎていて、俺を含めて誰もが、それ以外はありえないと思い込んでしまっただけだ。


 ゼティは戦闘中とは思えないほど、ゆったりとした歩みで迫るヴィルダリオに対して自分からも距離を詰める。その速さは普通に歩いているのと変わりない。

 だけど、誰もゼティの動きに対して反応できていない。見えてるのに体がついて行かないっていう感じで、ゼティの歩みを見送るしかない。それは対峙しているヴィルダリオも同じで、明らかにゼティの動きに反応ができていない。


「──桐生きりゅう真陽しんよう流の奧伝、『抜き』」


 どっかの世界の剣術の奥義、俺はゼティが使った技の名をセレシアとシステラに聞こえるように呟く。

 その名の通り、反応の隙間を『抜ける』技だ。人間の五感と反応ってのは常に連続しているわけじゃなく、隙間がある。普通は『見た』『聞いた』の情報は何のタイムラグも無く瞬間移動して脳へと届くわけじゃなく、神経を通って伝達される。そして伝達して処理され、反応する。

 ゼティは──というか、ゼティが異世界を放浪している時に会得した真陽流って流派の剣士は『見る』や『聞く』から、反応に移るまでタイムラグという隙間を抜ける技術を編み出した。魔法的なもんじゃない、才能と鍛錬による純粋な技術だ。


 相手を間合いに捉えたゼティが剣を振る。

 その太刀筋は蠅が止まりそうなほど、ゆっくりだが闘技場にいる全員、対峙しているヴィルダリオでさえ反応できず、振るわれる剣を見送ることしかできない。これも『抜き』によるものだ。

 ゼティの振るった刃はこの上なく綺麗な軌跡を描き、ヴィルダリオの喉笛を切っ先で斬り裂いた。


 首から血を噴き出しながらヴィルダリオが後ずさる。

 斬られるまで、体が動かないのが『抜き』だ。だけど、一回斬られれば、それでお終いだけどね。

 一回の戦闘中はよっぽどのことが無いと二度目は引っかからないってのも『抜き』の特徴だ。

 普通の人間なら、その一回で始末できるんだから、何も問題ないが、生憎とヴィルダリオは残機持ちだ。

 喉を掻っ切っても、その程度じゃすぐに治るから死なない。


 次の瞬間にはヴィルダリオの傷は治り、ヴィルダリオは後ろに跳び、態勢を立て直そうとする。

 身のこなしは悪くないし、仕切り直しを図るために下がる距離も適切。それだけ見ただけでも、少なくとも、この世界の並の剣士じゃ歯が立たない程にはヴィルダリオが完成された剣士であることは分かる。

 だけど、今回の相手は──


「俺の使徒の中で最強の剣士だぜ」


 下がったヴィルダリオに対してゼティが距離を詰める。

 その動きは先程とは打って変わって、力強く眼にも止まらない速さだった。

 ヴィルダリオが反応できない速度で接近したゼティはその速度のまま、ヴィルダリオの胸に剣を突き立てる。柔らかい動きの攻めから、一転して強引な攻めだ。だが──


「ぬぅああぁぁっ!」


 ヴィルダリオが咆哮を上げながら胸を貫かれた状態のまま、逆に前に出る。

 判断は悪くない。ここで剣を引き抜こうと後ろに下がったら逆にやられるからな。

 下がるよりも前に出る方が良い時もある。一回殺されたくらいじゃ死なない奴なら、特にな。


 ──だけど、それが通じるのは普通の相手だけだ。

 ヴィルダリオが前に出た瞬間、ゼティは剣を引き抜いて僅かに下がると、前に出たヴィルダリオを横に躱し、背後へ回り込む。そして背後を取ったと同時にヴィルダリオの首筋に鋭い一太刀を叩き込んだ。


った!」


 セレシアが声を上げる。だけど残念、殺ってない。

 ゼティの放った剣はヴィルダリオの首を刎ねたかと思いきや、その刃はヴィルダリオの皮膚で止まっていた。見ると何時の間にかヴィルダリオの首は鋼で覆われており、それによってゼティの剣を防いだんだろう。


「取り込んだ金属を操って即席の鎧にしたかな? まぁ、仙理術士ならそれくらいはやるか」


 特に金属を操作することに長けたバ゠派の仙理術士なら造作も無いだろう。

 まぁ、それはともかく、どうやらヴィルダリオは仙理術を解禁するつもりなんだろうね。

 最初は剣だけで勝負をつけるつもりだったのかもしれないけど、剣だけじゃ勝てないって分かったから、仙理術を使うことにしたんじゃないかと俺は想像してみる。ま、実際の所は分かんねぇけどね。


「キミらはマトモに仙理術士とったことないだろ? よく見とくと良いぜ、俺と俺の使徒の宿敵だった・・・奴らが、どんなふうに戦うのかをさ」


 今も俺達の前に立ちはだかっているから宿敵のように思えるけど、実際には仙理術士との戦いは俺達の勝ちで決着がついているんだよね。今の仙理術士がどういう素性なのかは分からねぇけど、こいつらは残党みたいなもんだよ。


「ラ゠ギィとは戦ったぞ?」


「本気で戦ったわけじゃねぇだろ」


 いいから、おとなしく見てろって。

 もしかしたら、今後はセレシアとシステラも仙理術士と戦うことになるかもしれないんだからさ。


「質問してもいいですか?」

「なんですかシステラさん」


 偉いですね、質問してくれるとかさ。

 俺だって、そういう態度の子には優しくしたくなるぜ。

 まぁ、質問内容によっては、秒でそんな気持ちは無くなるだろうけど。


「取り込むと言っていますが、仙理術士はどこに取り込んでいるんですか?」


 微妙な質問だなぁ。まぁ、教えてやるけど。


「アイツらは体内に『虚穴こけつ』っていうブラックホールみたいな仮想臓器を持っていて、そこに取り込んだ物を蓄えてるんだよ」


「仮想臓器?」


 そこから説明しねぇといけねぇのかよ、面倒くせぇ。

 試合中だから説明は後で良いだろ。


「詳しい話はマー君に聞いてね」


 アイツは新人の使徒に仮想臓器の作り方を教えるって仕事もしてるからさ。


 さて、それはともかくゼティの試合だ。

 皮膚を鋼にしてゼティの剣を防いだヴィルダリオは、そこから反撃に打って出る。

 ヴィルダリオは使っていた長剣に仙理術で操った鋼を纏わせ、大剣に変えるとそれでゼティに斬りかかった。


 身の丈ほどもある大剣に変化したヴィルダリオの剣をゼティは正面から受け止める。

 正面から受け止めると言ってもそれはゼティ自身は逃げないというだけで、ヴィルダリオの強烈な一撃に対して、剣を僅かに傾けて衝撃を逸らしてゼティは防御する。

 そうして防がれたことにより、あらぬ方向に勢いが逃がされたことでヴィルダリオは自分の剣の勢いで体勢を崩す。だが、そうして崩れながらも、自分の攻めの流れを崩さないように続けて攻撃を放つが──


「強く打たれれば柔らかく受け、弱く打たれればつよく受ける」


 ゼティは体勢を崩しながら振るわれたヴィルダリオの大剣に対して、自分の長剣を叩きつけるようにして受ける。すると、その衝撃で攻撃した筈のヴィルダリオの方が押し負け、後ずさる。


「攻めも守りも剛柔自在。ゼティの剣に隙はねぇよ」


 攻撃だろうと防御だろうと、相手に合わせてスタイルを自由に変えられる。

 強引に守る、柔軟に攻める。その逆も何だってありなのがゼティの剣術だ。


 ヴィルダリオは態勢を立て直すために再び後退する。

 攻め方を考えなきゃならねぇもん。そうするしかないよな?

 でも、それはゼティにも態勢を整えさせることになるぜ。


 ゼティは弓を引くように剣を持った右腕を引きつつ、剣の切っ先をヴィルダリオに向ける。

 そして、剣を持たない左手はヴィルダリオに狙いを定めるように前に突き出している。

 誰が見ても突進しての突きを放つ構えであり、闘技場にいた殆どの奴とゼティに対峙しているヴィルダリオにゼティの攻撃が鮮烈にイメージされる。


「真陽流目録『魅せ』」


 それは、自身の攻撃を予測させるという真陽流の技術だ。

 構えだけで何をするのか、わざとイメージさせることで、相手の行動を縛る。

 そして、予測し態勢を整えさせるということは、特定の対応や反応を起こしやすくなる。だが、そうなった場合、予測した以外の出来事に対しての対応や反応を起こすのに遅れが生じやすくなる。そして、その遅れによってできる反応の隙間を真陽流は『抜き』、殺す。

『魅せ』で相手の反応の隙間を作り出して、そこを『抜き』で仕留めるって流れだ。『魅せ』が上手ければ二度目でも『抜き』は決まる。

 そしてゼティの『魅せ』は剣術の素人にすら、その先を鮮烈な現実感を持ってイメージさせる。タネが分かってないなら下手すりゃ何回でも嵌まるぜ。


 実際、ゼティの『魅せ』は綺麗に決まり、ヴィルダリオは近づくゼティが見えているのにも関わらず、反応できない。けれど、その表情に危機が見えないのは自分の防御力に自信を持っているからだろうか?

 それなら、俺は過信だと言うしかねぇな。鋼程度の硬さでゼティの剣が防げるかよ。いや、鋼以上だって無理だぜ。


 ゼティはゆっくりと見える動きで距離を詰めると、片手で持った長剣を大きく上段に構える。

 剣を持つ腕とその手に握られた剣は真っ直ぐ天を衝くように伸ばされ、切っ先も天に対して垂直に向けられている。


「真陽流、『天位剣』」


 俺が技の名を呟いた瞬間、ゼティの剣が振り下ろされる。

 振り下ろす以外が不可能な構えから、たった一つの太刀筋しか生まれない──だが、それでいい。

 これは、その一太刀に全てを掛ける技だからだ。その一太刀に必要な要素以外のありとあらゆるを省いたことによって生み出される最速の刃は全てを両断する。つまり一撃必殺だ。


 ヴィルダリオの小細工じみた防御能力で防げるわけはない。

 なにせ、ゼティの天位剣は使徒最強の防御力を持つガイの頭をかち割るくらいだ。


 そんな必殺の一撃を反応もできない速度で食らったヴィルダリオは何もできず、竹を割ったように真っ二つになる。そして、二つに断ち切られたヴィルダリオの身体がアリーナに倒れたことで、ようやく闘技場の観客は状況を理解し、凄惨な光景を見たことによる一瞬の空白の後、闘技場は大歓声に包まれる。


「殺しもありなんだなぁ」


 聞こえてくる歓声に俺は呆れた気分になってくる。

 事情を知らない観客からすればヴィルダリオは殺されたように見えるはずだけど、そんなの関係なく喜んでやがるぜ。

 審判もヴィルダリオを殺したゼティを咎める様子も無く、ヴィルダリオが死んだと確信してゼティの勝利を宣言しようとしていた。

 こうなるまでにヴィルダリオは何回も死んでるが、すぐに再生し、何事も無いように試合を続けていたから審判もゼティの勝ちを宣言できなかったが、流石に真っ二つになれば間違いなく死んだと判断できる。


「勝者、ゼルティ──」


 だが、審判の勝利の宣言は途中で止まる。

 なぜなら、審判の目の前で真っ二つなったヴィルダリオの身体がくっつき、ヴィルダリオは何事も無く立ち上がったからだ。


「まだ俺は死んでいないぞ、審判!」


 声を上げ、審判の宣言を遮るヴィルダリオ。

 その姿を見てゼティは冷酷な表情を浮かべて剣を構える。


 力の差は歴然だ。

 このままゼティが勝つか、それともヴィルダリオに奥の手があるのか。

 さて、これからどうなるだろうね?


 まぁ、どんな奥の手があろうとゼティが負けることはありえないだろうけどさ。




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