表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/379

観戦

 

 ダグラスが担架で運ばれていく音を背中で感じながら、闘技場のアリーナを後にした俺は控室に戻る。すると、そこには次の試合を控えたラ゠ギィがいた。

 ラ゠ギィは椅子に座り、目を閉じて自分の試合を待っていたようだが、俺が控室に入ると目を開け、こちらを見て言う。


「勝ちましたね」


 俺の姿を見てラ゠ギィは俺の勝利を察したようだ。

 まぁ、負けていたら、意気揚々と戻っては来れないし、ダグラスみたいに担架に運ばれて戻ってくるしね。

 ラ゠ギィは俺の勝利の言葉を口にしてから、そのまま俺の身体をジロジロと見ている。


「随分と仕上げてきたようですね」


「そうでもねぇよ。現状で出来る・・・・・・ベスト程度さ」


 俺の身体を見て言ったラ゠ギィに俺が大したことはないと答える。

 だって、俺が最高のパフォーマンスを発揮するにはもう少し体重を増やす必要があるからね。

 ただ俺は体重を増やすってのが体質的にかなりキツイから、短期間で本来のベストコンディションにするのは無理だったから、とりあえず現状は今できるベストの体型を目指して仕上げた。


 人間時代から続くコンプレックスなんだけど、俺って身長に対して骨格の作りがちょっと細目だから、体を大きくすんのが大変なんだよね。何もしないでいると骨格に合わせて筋肉も脂肪も無くなってドンドン体重が落ちていき、体重が80kg台、酷い時は70kg台まで簡単に落ちる。


「ま、俺のことはいいじゃない。キミだって次の俺との試合に備えて、だいぶ鍛えてきただろ? そっちはどうなんだよ?」


 俺は話を変えてラ゠ギィを見ながら訊ねる。

 ラ゠ギィの方もどうやら、戦闘モードに仕上げてきたようで、つい先日会った時よりも雰囲気がある。


「貴方との試合の前に私は一回戦がありますよ」


「キミがそこらの奴に負けるわけがねぇだろうが」


「油断して足元をすくわれたくはないので──」


 ラ゠ギィは俺の質問に答えることもなく、目の前に迫った試合に集中しているようだった。

 まぁ、俺はそんなに集中する必要も無いと思うがね。


「山の頂いる奴が足をすくわれて、すっ転んだとしても、地上までは落ちていかねぇよ」


 油断した所でラ゠ギィと対戦相手は天と地ほどの力の差がある。

 ぶっちゃけた話、剣神祭の出場者は俺やゼティ、ラ゠ギィを除けばセレシアの足元にも及ばない連中で、そのセレシアを圧倒したラ゠ギィが負けるってことはあり得ないだろ。


「──試合の時間です」


 控室に運営スタッフをしている神官が部屋の入り口から顔を出す。

 ラ゠ギィはそれを見て立ち上がると、神官の後に続いて部屋から出ていこうとし、その寸前で俺の方を見ると──


「私の仕上がり具合に関しては試合をご覧ください」


 ラ゠ギィはそう言い残しアリーナの方へと向かっていった。

 そして、ほどなくして試合が始まり──


「勝者──ラ゠ギィっ!」


 俺は出場者に用意された席でラ゠ギィの勝利を見届けた。

 試合は一瞬で終わった。開始の合図と同時に距離を詰めたラ゠ギィは短棍で相手の顎先を打ち据え、昏倒させて、それだけで決着だ。

 あまりにも攻撃が速すぎたせいで、観客は何が起きた理解できておらず、勝敗が宣言されても呆然として言葉が出ない様子だ。だけど、俺は──


「──見えたぜ」


 思わず口もとに笑みが浮かんでくるぜ。

 俺はラ゠ギィの攻撃が確かに見えた。一発だけだが、何をしたかまでハッキリと分かった。

 何度か見ているのと、攻撃の予測ができているからだろう、俺は一発までならラ゠ギィの打撃を見切ることが出来る。


 ラ゠ギィが静寂に包まれたアリーナから出ていく。

 歓声も何もない中、立ち去ろうとするラ゠ギィの視線は客席にいた俺へ向けられていた。

「どうだ?」と問うような眼差しに対して、俺は余裕の笑みを返してやった。


 ──ラ゠ギィの試合が終わると、すぐに次の試合が始まった。

 組み合わせは獣人の剣士とイグナシスにある剣術流派の門弟の対戦。

 獣人の方は何回か前の剣神祭で優勝した奴らしい。

 そいつは優勝した褒美として、イグナシスでの獣人差別を無くすように赤神に訴えたらしく、イグナシスの獣人差別解消に貢献したとして、獣人たちからは英雄として扱われているようだ。

 それと、そいつの対戦相手の剣士なんだが、そいつは良く知らんので語れることが無い。

 ちなみに二人とも、俺は街中で喧嘩をしたことがある相手なんで力量は知ってる。勝つのは獣人の剣士の方だって確信があるけど、どっちもそこまで強くないんだよね。

 どっちが勝っても二回戦はゼティと当たるから、そもそもどうでも良い奴らだしな。


 そして俺にとってどうでもいい試合の結果は獣人の剣士の勝ちだった。

 実力が拮抗してるし、二人とも観客にも理解できるレベルの強さだったので試合を見ていた観客はそこそこ盛り上がっていた。まぁ、俺の試合ほどは盛り上がってないけどね。

 とりあえず、これでゼティの試合相手は決まったわけだし、後は肝心のゼティが勝ちあがるだけだな。

 ゼティの試合相手はヴィルマーとかいう奴だけど、コイツに関しては俺は何も知らねぇんだよな。

 そもそも顔も分かんねぇしさ。チラッと見た時はフードで顔を隠していたしね。


「ま、ゼティが勝つだろうし、相手の事はどうでもいいわな」


 俺はゼティが負けることは万に一つもないと確信している。

 つーか、俺でも勝てるかどうか分かんねぇんだもん、他の奴らが勝てるわけねぇだろ。

 仮にゼティとラ゠ギィのどっちが勝つかって賭けをするなら、俺は一瞬の迷いも無くゼティに全財産を賭けるぜ? それくらい俺はゼティの戦闘能力には信頼を置いている。まぁ、戦闘以外はあてにしてないけど。

 まぁ、そんなわけで俺は勝つ奴が決まってる試合を真剣に見る気は起きないし、観客もあまり熱心に見ようとはしていないようだ。観客の方はゼティもヴィルマーも無名だし、最初から試合に期待してないからね。そんな調子だから観客の中にはメインは見終えたし、帰りに混雑するのが嫌だからと帰る奴もチラホラと──


 こういうことがあるから運営とか興行側は無名の選手を使いたがらないんだよね。実力だけで言えばゼティは客を呼べるレベルだけど知名度が無いから客を留められない。弱かろうが何だろうが、観客に知名度があって、観客を会場に縛り付けられる選手を欲しがるんだよ。


 そんなこんなで観客が少し減った会場にほどなくしてゼティとヴィルマーが姿を現す。

 普通に登場したゼティに対し、ヴィルマーはマントを羽織り、フードで顔を隠している。

 観客から顔を見せろと野次が飛ぶが、ヴィルマーは気にせずアリーナの中央でゼティと対峙する。


 思ったより雰囲気のある相手だ。

 ゼティと並んでも存在感がゼティに負けていない。

 それだけで、剣神祭の本戦の参加者の中では俺達と並んでぶっちぎりの強さだってのが分かる。


「これはちょっと読みが外れたか?」


 まだ、ゼティが勝つという俺の確信は揺らいでいないが、楽勝では終わらないだろうという予感が俺の中で生まれはじめている。そんな感覚をよそにアリーナでは試合が始まろうとしていた。

 ゼティとヴィルマーは互いに自身の武器を観客に見せつけ、そしてそれが終わると自然な動作で互いを見据え、剣を構える。

 どうしてか、ゼティは相当にる気が入っているようだ。客席の俺からは良く分からねぇけど、目の前に立ってみて、ヴィルマーに何かを感じ取ったんだろうか?

 ゼティは戦意を隠さずに剣を構え、相手を見据え、そして──


「──始めっ!」


 試合開始の合図と同時にゼティとヴィルマーが互いに相手へ向かって駆け出す。

 どっちも相当に速い。だが、ゼティの方が上だ。

 ヴィルマーが自分の間合いにゼティを捉えるより早く、ゼティはヴィルマーを自分の間合いの内に捉え、長剣を一閃させる。

 首を刎ねるような太刀筋で振るわれたゼティの剣はヴィルマーの首が刎ね飛んだように錯覚させるが、しかし、ヴィルマーは紙一重で躱していた。そして、攻撃の隙を狙ってゼティへ剣を振り下ろすが、ゼティの剣の切っ先が跳ね上がり、ヴィルマーの腕を斬り飛ばす。


 宙を舞う腕に観客の眼が釘付けになった瞬間、ゼティは返す刀で相手の胸を剣で貫く。

 情け容赦の無い殺意のこもった連続攻撃だ。ゼティは自分が悪と認めた相手なら、これくらいやってもおかしくはない。ただ──


「ここまでやる相手か?」


 客席にいる俺はヴィルマーの目の前に立ったゼティがヴィルマーに対して何を思ったのかまでは正確には分からない。だが、ただの試合相手なら、ゼティはここまで徹底的にはやらないだろう。

 おそらくヴィルマーには何かある。それもゼティが即座に殺すことを決めるような何かが。

 そして、ゼティにそんな判断をさせる奴が、こんな簡単にられるわけはない。


「そこまで! 勝者──」


 審判が勝利を宣言しようとする。

 そりゃあ、心臓をブチ抜かれてんだもん、普通に考えりゃヴィルマーは死んだし、ヴィルマーの負けだと思うだろう。だが、ヴィルマーは──


「待て」


 声を上げて審判を制止すると、自分の胸に剣を突き立てているとゼティを殴りつけようとする。

 だが、そうして拳を振った時には既にゼティはヴィルマーの身体から剣を引き抜き、飛び退いていた。

 ゼティは距離を取って、再び剣を構え、ヴィルマーを見据える。

 そんなゼティに対し、ヴィルマーは何かを探すように周囲を見回していた。


「──まったく、容赦がない」


 俺は聴力を内力で強化し、アリーナの声を拾う。

 そうして、聴こえたヴィルマーの声はどこか聞き覚えのあるものだった。

 俺が誰の声だったか思い出そうとしていると、ヴィルマーはようやく探していた物を見つけたようで、それはゼティに斬り飛ばされた自分の腕だった。ヴィルマー見つけたそれに対して、斬り飛ばされた腕の断面を向けると──


「──仙理術士と言っただけ殺しに来るとはな」


 仙理術士という言葉が確かに聞こえた直後、ヴィルマーの腕から液体金属の触手が伸びると、遠くに落ちている自分の腕へと絡みつき引き寄せ、斬り飛ばされた腕と自分の腕の断面をつなぎ合わせて元に戻す。

 それは仙理術士のバ派の技であり、その技を使うのは確か──


「だが、そうでなくてはなぁ!」


 自分が間違いなく一度殺されたのにも関わらず歓喜の声を上げ、顔を隠していたマントとフードを脱ぎ捨てるヴィルマー。そして露になった素顔は──


「ヴィルダリオ……」


 そこには俺が完全に殺したはずの仙理術士ヴィルダリオの姿があった。

 だが、しかし、その姿は以前とはどこか違うもので、俺は二重の意味で困惑させられるのだった──





一週間くらい休みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ