主役
闘技場に足を踏み入れた俺を待っていたのは満員の客席と割れんばかりの大歓声。
観客は俺の登場を待ちわびていたようで熱い応援が俺へと投げかけられてくる。
「死ねぇぇぇーっ!」
「くたばれぇぇぇーっ!」
「負けちまえっ!」
俺は聞こえてくる応援に手を振って応えながら、アリーナの中心に向かって歩く。
既にそこには俺の対戦相手のダグラス・グランベルが待ち構え、観客に応えながらゆっくりと歩いて近づく俺に、不敵な笑みを向けていた。そういうツラは俺の専売特許なんだけどね。
まったく大物ぶってやがるぜ。
「随分と嫌われておるようじゃのぅ」
ダグラスが皺の刻まれた顔に微笑みを浮かべ、俺に話しかけてくる。
余裕のつもりだろうかね? 俺相手にそんな余裕をぶっこけるほどキミは強いかな?
キミの所に世話になっている、キミより強いゼティは俺相手にそんな余裕は見せないんだけどね。
「嫌われてる? 俺には応援にしか聞こえねぇよ」
俺は改めて観客席を見回すと割れんばかりの大歓声もとい凄まじいブーイングと野次が闘技場に轟く。
素晴らしいね、嬉しくなっちまうぜ。
「負け惜しみかのぅ?」
「本心で言ってんのさ。万人に好かれることを目指すなんて、タフな男の生き方じゃねぇからな」
俺の生まれた国の格言にもあるんだよ。
『男子、門を出れば七人の敵あり』だったっけ?
まぁ、とにかく男ってのは敵をいっぱい作って一人前って話さ。
どうして一人前かは……まぁ、今語ることでもねぇな。
「それに嫌われてるだけだとしても、この場で誰よりも注目を集めてるのは俺だ」
俺は客席にいるグランベル流の門弟たちの姿を見る。
ダグラスに精一杯の声援を送っているが、その声は俺へのブーイングにかき消されて、何も聞こえない。
今、この闘技場の中に満ちる声は全て俺へのものだ。
「この場にいる奴らが俺に向けているのは、俺に負けて欲しいって願いかもしれないけど、それでも誰もが俺を見ている。全ての観客の注目を集めている以上、この場においては俺が中心。つまり俺が主役で、キミは脇役」
分かるかい?
この場にいる奴らが望んでいるのは『キミの勝利』じゃなく『俺の敗北』だ。
意味が同じ? いいや、違うね。
「仮にキミが勝っても、この場にいる大勢の記憶にキミの勝利は刻まれず、俺が敗けたって記憶だけが残り、勝った奴の事なんか記憶には残らねぇだろうよ」
ダグラスは下馬評では優勝候補なのかもしれねぇけど、こうして実際の試合になったら、この爺さんの事なんか目に入っておらず、悪役の俺を見ている奴が殆ど。
それはつまり、ダグラスがイグナシスの住人にとっては俺以下の存在感であることを証明だ。
それは、こいつにとって、どうなんだろうね。
流派の面子とか本人は息巻いて出てきたのかもしれないけど、面子がどうこう以前に、観客に認識されてないってのは、どういう気持ちだろうね。
剣神祭に勝ってグランベル流の強さを証明する。そりゃ良いけど、仮にこの状況で俺に勝っても、『グランベル流の~』じゃなく、『アッシュ・カラーズに勝った~』になるけど、それは果たして望んだ結果なんだろうか?
「……武具を掲げよ」
おっと、審判が睨みつけてやがるぜ。おしゃべりが過ぎるって?
戦う前に話をさせてくれてもいいじゃないか。まぁ、駄目って言うなら、おとなしく従うけどね。
それで? 武具を見せびらかせって?
何処の誰が作った武具かを知らしめて、宣伝しろってことかい?
「儂の武具を誰が打っておるかなどは皆、知っておるじゃろう」
ダグラスはそう言いながら手に持っていた杖を掲げ、そして観客席の最前列にいた鍛冶師らしき男に一礼する。鍛冶師の男は誇らしげな顔で立ち上がり、そこで会場に拍手が起きる──のだろうけど、俺はそれをさせない。
「俺は素手でやらせてもらうぜ!」
ダグラスの言葉の直後、食い気味に俺は観客に向けて宣言する。
ダグラスも鍛冶師もまだ何か言うことがあったのかもしれないけど、俺が割り込んだ瞬間──
「ふざけんな!」
「剣神祭を舐めるんじゃねぇ!」
「くたばれぇ!」
会場が俺への罵声と野次に満たされる。
もう誰もダグラスの使っている武具や、それを作った鍛冶師の事など気にしておらず、俺への怒りを言葉にすることしか頭に無い。
もはや、観客席には俺の敵しかいない。それはつまり──この会場が俺の味方となった言うことだ。
「応援ありがとう」
俺は客席に向けて恭しく、そして仰々しく一礼する。
その瞬間、闘技場に響いていたブーイングが一層激しくなる。
その感情が怒りだろうが、何だろうが、観客は俺の行動にいちいち反応してくれる。こんなに楽しいことはねぇだろ? 会場が味方ってのはそういうことだ。
俺の一挙一動に数万人が注目し、俺が何かしらの行動をする度に沸き立つ。それはまるで、俺が数万人の観客を自由に操ってるかのようにも錯覚するような感覚だ。
まぁ、そういうのが無くても、何かする度に野次でも何でも大袈裟に反応してくれる奴がいるってのは、テンションが上がるし、応援になるんだぜ?
「良く喋るのぅ。弱い犬ほど良く吠えると聞いたことがないようじゃな?」
なにが言いたいかわかんないっスねぇ。
俺は犬じゃなくて人間なんだけど? まぁ、何が言いたいかは分かるけどね。生憎と俺は馬鹿じゃないからさ。
「おいおい、おじいちゃん。俺は人間だぜ? 犬の例を当てはめるとか、俺のことちゃんと見えてます? 俺が犬に見えるくらい、ボケていらっしゃるなら、介護してやろうか?」
まぁ、年齢的には俺の方が上なんだけどね。
「口の減らん奴じゃ。口を閉じるということができんと見える」
「黙るのは死んでからで充分だってのが俺の持論なもんでね」
ダグラスが俺を睨みつけてくるが、俺はその視線を軽口で受け流す。
いい加減、お喋りも充分だろう? 審判はアリーナから出て審判席に戻った。
「そろそろ、俺を斬りたくて堪らなくなったんじゃないか?」
俺はダグラスに訊ねながら、視線を横に向けると審判が大きく息を吸うのが見えた。
もう、間もなく大声で試合開始を宣言するだろう。俺はダグラスの答えと共に、その宣言を待ち、そして──
「──始めっ!」
その合図と同時にダグラスが一瞬で距離を詰め──
「ずっと前から斬りたくて堪らんかったわ」
ダグラスの手に握られた白刃が閃く。それは杖から抜き放たれた剣。
杖の石突と頭で重心にズレがあったので分かっていたが、ダグラスの持つ杖は仕込み杖であり、そこから抜き放たれた剣が俺に襲い掛かる。もっとも、俺は、その攻撃が来るのが予想できていたので、後ろ一歩下がって躱す。
──だが、躱したはずなのにも関わらず、ダグラスが剣を振り抜いた瞬間、俺の額から血が噴き出す。
俺の額から噴き出た血が舞い上がると、観客席にはどよめきが広がっていく。
そういえば、俺は街で喧嘩してる時は一滴も血を流してなかったしな。イグナシスの住人にとっては、俺が血を流すところを初めて見ることになるのか?
俺が傷を負わない生き物だとでも思ってのだろうか、客席から感じられるのは俺が傷を負った喜びよりも困惑だった。
「……なるほどね。まぁ、悪くはないんじゃない?」
俺はダグラスの持つ仕込み杖の剣を見る。
それは杖の中に隠せるだけあって細身の剣だ。だが、注目すべきは剣自体ではなく、剣を覆う内力だ。
「剣に闘気を纏わせてリーチを伸ばしてるってところか」
そんでもって実際に俺を斬ったのは闘気──内力と言っても通じないだろうから、この世界の人間にも通じる闘気という言葉を使うことにした。
ダグラスの技は見切ったつもりで躱そうとすると、闘気の刃でバッサリって技だろう。何処まで刃の長さを伸ばせるかは分からねぇけど、タネが分かれば対処は簡単な技だ。
別にそこまで注意しておく必要もねぇだろう。そう思って、俺は額の血を手で拭い、傷を再生しようとするが──
「治らんじゃろう?」
普段だったら、既に塞がっているはずの傷がいつまで経っても塞がらない。
死ぬような傷も放っておけば治る俺の再生力でも全く傷が塞がる様子が無かった。
塞がらない額の傷から流れる血が俺の左目に入り、視界の左側を真っ赤に染める。
「随分と儂を甘く見ていたようじゃな」
ダグラスが細身の剣を振るうと闘気の刃が飛翔し、俺に襲い掛かる。
俺はそれを横に跳んで躱すと、その回避を狙っていたかのようにダグラスは距離を詰め、剣を振るう。
その刃を、俺は腕を盾にして防ごうとするが、ダグラスの振るった刃が内力を纏わせ強化した俺の腕に食い込む。
「ぬぅ?」
「骨までは斬れないようだね」
俺は肉を斬らせて剣を防ぎ、カウンターでダグラスの腹に蹴りを入れた。
反撃が来るのに反応できていたのか、ダグラスは後ろに跳び、衝撃を殺している。
俺は間合いが開いた状況でダグラスを見据えながら、腕の傷が治らないかを試すが、やはり再生は機能しない。俺は改めて自分の腕の状態を注視すると、その傷口には、俺の物ではない闘気がへばりついていた。
「なるほど、剣で斬った際、その傷口に闘気を付着させ再生を妨害するって所か?」
血を流す俺を見て歓声を上げる観客たち。
その声をBGMにしながら、俺はダグラスに話しかける。
「傷口に張り付いたキミの闘気が邪魔で傷が再生しない。おそらく、これって回復の魔術とかにも効く奴だろ?」
「二度、斬っただけで気付くとはのぅ」
認めてくれて、どうもありがとう。
回復不能の傷を負わせるとか、えげつないね。でもまぁ、魔術で簡単に傷が治る世界なら、そういう技が編み出されるのも、おかしくはないか。
そんでもって、これは恐らくグランベル流の奥義に類する技だと思うね。斬れば、どんな手段を使っても傷が治らずに死ぬようなエグイ技とか、信頼のできる門弟にしか伝えられないだろうし、奥義に設定するしかなかったと思うね。
「実用性のある良い奥義だね。まぁ、高名な流派の奥義としてはどうかと思うけどさ」
俺の言葉にダグラスが鋭い目を向けてくる。
本心で言っているわけじゃねぇから、許してほしいね。
実際、いろんな剣術の奥義を知ってる身としては、グランベル流の技みたいなのは良くあるタイプの奥義だって知ってるしね。俺の知ってる中には剣に塗布する毒の調合法が奥義って剣術もあるしな。
それ以外にも色々な奥義があるし、グランベル流の奥義をショボい技だなんて本心から馬鹿にするようなことはしないよ。
「もっと派手な技を見せて欲しいもんだね。これがキミの底だって言うなら、キミは俺に勝てねぇぜ?」
「大口をたたくならば、傷を塞いでから──何っ!?」
ダグラスが驚愕したのは俺の傷口が塞がっていく様を目にしたからだ。
ぶっちゃけ、タネさえ分かれば何とでもなる技なんだよね、これって。
闘気が傷口にへばりついて再生を妨害しているなら、その闘気を消し去れば解決するわけで。
俺は自分の傷口に内力を流し込み、へばりついている闘気を吹き飛ばした。単純に相手が付着させた以上の内力を使えば無効化できる程度の技だ。
「この程度で終わりじゃねぇだろ?」
俺が挑発的な眼差しを向けるとダグラスは老体に鞭を打って、距離を詰めてくる。
動きは素早く鋭い。なるほど、イグナシスじゃ最強クラスってのも間違いじゃなさそうだ。
ダグラスの振るった剣が俺の胸を掠め、服を切り裂き、その下の皮膚に斬る。
「斬鉄の技も使えるなら、この世界じゃ向かうところ、敵無しだっただろうね」
俺の身体をスパスパ斬れるのはゼティも使う斬鉄の技が使えるからだ。
剣に纏わせた内力を使い、剣を振るわせることで、ただの剣を高速振動させて切れ味を上げるって技だ。
その技で俺の内力による防御を上回る威力の剣を放っている。だけど、それも俺に届かなきゃ意味が無い。
俺は連続して繰り出されるダグラスの剣を紙一重で躱しながら後退する。
ダグラスに圧倒され、後ずさっているにように見える俺の姿に歓声が上がる。
それがダグラスの応援になり──ということはないんだよなぁ。
結局の所、この歓声も俺が負けることへの期待であり、俺へ向けられたものであり、ダグラスが勝つことを期待しての物ではない。
ダグラスもそれを気付いているだろうか。歓声に背中を押されるというよりは、歓声によって俺へと引き寄せられているように感じているんじゃないかな?
「気付いているかい? 誰もキミを求めてねぇことにさ」
この会場に満ちる全ての声は俺へと向けられているものだってことにさ。
まぁ、それが分かっているからこそ、焦って太刀筋は雑になり、そのせいで──
「簡単に防がれる」
俺は振るわれたダグラスの細身の剣に合わせて拳を振り、横合いから殴りつけて剣を叩き折る。
焦っていたとしても、鋭い太刀筋だったと思うぜ? でも残念。今の俺には届かねぇな。
「俺も何も準備をしてなかったわけじゃないんだぜ?」
武器を失ったダグラスが即座に後退しようとするが、その動きより早く俺のつま先がダグラスの鳩尾にねじ込まれ、そのダメージによりダグラスは腹を押さえてアリーナの地面に倒れこむ。
その姿を見下ろしながら俺は──
「今回は俺もベストコンディションに仕上げてきたのさ」
そう言いながら、俺はダグラスの剣で切り裂かれた服を破り捨て上半身を露にする。
その瞬間、鳴りやまなかった俺へのブーイングが一斉にとまり闘技場がどよめき出す。
「鋼かよ……」
静寂に包まれた会場のどこからか聞こえてきた呟き。
それは露に俺の肉体を評する言葉だ。
「身長188cm、体重98kg。現状で可能なベストな身体だ」
俺が最高のパフォーマンスを発揮できる体重だ。
何時戦いになるか分からねぇのに状況で身体を維持するのは難しいが、試合の日程が決まっているなら、そこに照準を合わせて体を作ることができるんでね、せっかくだからキッチリ仕上げさせてもらったぜ。
「どうする? まだ戦うかい?」
俺は倒れているダグラスに問う。
もっとも、聞いたところで仕方ないんだけどね。
ダグラス自身はどう思ってるかは知らねぇけど、勝負は着いてるんだよ。
倒れる瞬間に見せたダグラスの顔を見れば分かる。
俺の蹴りを食らって倒れる瞬間のダグラスの顔には逆襲の意思が見えなかった。
立ち上がれる奴は倒れた瞬間にも苦悶じゃなく怒りの表情を見せるけど、ダグラスには痛みに耐える顔しかできていなかった。
どんな攻撃を食らっても『ぶっ殺してやる』って瞳の光を持ってなきゃいけないのに、ダグラスにはそれが無い。本人は口では戦る気があるというだろうけど、精神は既に折れているだろうね。
そんな奴と戦っても仕方ねぇよ。戦いっぽい形にはなるだろうけど、本気の戦いにはならねぇからな。
「儂は──負けておらん!」
立ち上がろうとするダグラス。
俺は産まれたばかりの子馬みたいな動きのダグラスを爪先で突っつく。
すると、ダグラスは力なく転倒し、尻餅をついた姿勢で俺を見上げる形になる。
「もう良いだろ。これ以上、やっても仕方ねぇよ」
俺は審判を横目で見る。
審判の方も勝敗は分かっているようだが、ダグラスがグランベル流って有名流派の当主であるからか、敗北の判定をするべきか迷っているようだ。
「まだだ、まだ儂は──」
「もう良いって。歳を取り過ぎて相手にならねぇんだよ、キミは」
老いたことで心技体のバランスが崩れたダグラスは強さのピークを過ぎている。
十年くらいは若ければ、もう少し俺とも戦えただろうね。少なくとも、一発蹴られただけで気持ちが折れるようなことは無かっただろう。
「儂はグランベル流の誇りを取り戻さなければならんのだ」
「むしろ、今のキミの姿の方が誇りを汚してると思うけどね」
傍目から見れば爺さんが息巻いて出てきて負けてるだけだ。
老醜を晒し、恥を晒しているだけだって自分の姿を客観視した方が良いと思うね。
「そもそも誇りも何もねぇよ。この状況を見りゃ気付くだろ? 誰もキミ自身になんか期待してねぇってことをさ」
観客が抱いているのはダグラスが勝つことへの期待ではなく、俺が敗けることへの期待だ。
観客にとってダグラスは俺を倒せる可能性のある相手から声援もあるだけで、ダグラス自身は眼中に無い。そもそも観客はダグラスを求めておらず、誇りだとか言う前に自分がろくに認識されてないってことに気付くべきだったね。
それに気づけていたら、ダグラス自身は負けようがどうなろうが、話題は俺にしかいかないってことにも気付けただろうし、それが分かっていたら、もう少し気楽に戦えたんじゃないかな?
「まぁ、俺に言わせりゃ出しゃばり過ぎだぜ、キミはさ。ダンジョンの時もそうだけど、自分の弟子を差し置いて出場してるとか、結局の所、自分の所の弟子を信用していなかったってことだし、その結果がこのザマだ。これだったら、負けても良いから弟子を出しておいた方がカッコがついたと思うがね」
ロートルは大物ぶって後ろで腕を組んでるのがお似合いのポジションなんだよ。
そんで弟子が負けても、シレっとした顔で『未熟な弟子だ』とか言ってれば、それで済む。
そうやって当主が堂々としてれば、グランベル流はまだ力を隠してるって偽れたのに、こうして出てきたせいで、言い訳が効かない状況になってるじゃねぇか。
「キミは責任を感じて出てきたのかもしれないけど、逆にそれが無責任なんだよ」
責任者が現場にいたら有耶無耶にできねぇだろ。で、その結果、誰もが不利益を被ることになる。
それが分かってねぇから、こんなことになるんだ。
「年寄りの冷や水って言葉を知ってるかい?」
俺は言いながら審判を見る。
だが、俺と眼が合った審判は首を小さく横に振る。
どうやら、この状況では俺の勝利を宣言できないということだろう。
ダグラスが喋れている以上、今、止めると後で面倒が起きる。
審判は赤神神殿の神官達だけど、あいつらはイグナシスの有力者には配慮しないといけないから、グランベル流にも気を遣ってるせいで、簡単にグランベル流の敗北を宣言できない。
だからか、審判は文句のつけようのない形で勝つことを俺へ視線で訴えていた。
「何と言われようと儂が勝てば、問題はなかろう!」
ダグラスは折れた剣を握り、立ち上がろうとする。
だが、俺は立ち上がろうとした瞬間に足の裏で踏みつけるようにダグラスの顔面を蹴る。
その一撃で吹っ飛んだダグラスは立ち上がることができず──
「勝者アッシュ・カラーズ!」
審判が速やかに俺の勝利を宣言し、その瞬間、闘技場に轟く罵声、野次、ブーイング。
俺はその歓声に応えるように、観客に向けて手を挙げると、ブーイングは一層激しくなる。
こんなに分かりやすく反応してくれるなんて素晴らしいファン達だね。
「ありがとう、次も応援よろしく!」
俺は観客に感謝の言葉を述べ、ブーイングに満ちた会場を後にした──
土日にあと一回投稿したら、一週間休みます。(3月5日現在)




