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出陣

 

 ガレウスの試合から続けて俺はリィナちゃんとナサニルの試合を観戦することにした。

 まぁ、知らない奴らじゃないし、応援くらいはしてやろうと俺も思ったわけだけど、肝心の試合が──


「じ、じ、じ、地味~」


 リィナちゃんとナサニルの試合はクッソ地味な試合だった。

 俺は客席とアリーナを隔てるフェンスに寄りかかり、最前列で試合を観戦しているけど、そんな場所にいても臨場感なんてものは欠片も感じない。

 まぁ、そもそも盛り上がる要素が無かったけど、これはちょっとなぁ……

 試合が始まる前にリィナちゃんとナサニルは盛り上がってたみたいだけど、俺を含めて観客は二人の事情とか過去に興味ねぇからなぁ。あの二人が──


『こうして相対するのはアカデミー以来ですね』


『そうね』


『随分と差がついたものです。私は聖騎士団の隊長、対して貴女は冒険者にまで落ちぶれた。どうです? 下に見ていた相手に上をいかれる気分は?』


『別に何も思わないわよ。そもそもアンタなんて眼中に無かったし』


『っ! いつまでも見下せると思うな。昔の私とは違うことを教えてやる』


『それは私の台詞よ。もうアンタの実家に気を遣う必要も無い以上、昔ように手加減はしないわ』


 ──とまぁ、こんな感じのやり取りがあってから試合が始まったわけだけど、まぁ、どうでもいいよね。

 昔って言っても、リィナちゃん達は良いとこ20歳だから2、3年前の話だし、その因縁もアカデミーって言ってたから学生時代の話だと思うけど、リィナちゃんがナサニルとかに舐めた態度取ってた結果、恨まれてるって感じかな?

 ナサニルはリィナちゃんに劣等感や嫉妬心を抱いていて、その感情をこの機に解消しようって感じで、リィナちゃんも学生時代から絡んでくる鬱陶しいナサニルを、この機会に痛めつけてやろうとか、そんな感じだろう。まぁ、因縁なんて言っても、その程度の話だ。

 当人に聞けば、もう少し深い話でも聞けるのかもしれないけど──でも、わざわざ聞きたいかぁ? 俺はそうは思わねぇし、観客も俺と同じ気持ちだと思うぜ?


 ──っていうか、二人の会話が聞こえたのは最前列にかぶりつきで見てる俺だけだと思うし、観客の殆どはリィナちゃんとナサニルの因縁なんか知る由もないし、ただひたすら地味な試合を繰り広げる二人にしか見えてないだろうね。


 ──で、俺が地味と評する試合の実際はどんなもんかというと、リィナちゃんは長剣と盾、ナサニルの細剣と短剣の二刀流で、リィナちゃんが盾を使ってナサニルの攻撃を捌きながら、隙を見て剣で反撃。しかし、ナサニルはすぐに後ろに下がってリィナちゃんの攻撃を避けて、攻撃後の隙を狙って反撃に出るが、リィナちゃんの防御に阻まれて……って感じで、延々とループを続ける試合だ。

 たまに二人とも魔術を使うけど、そうしても結局、一進一退の攻防を繰り返すループに陥ってしまう。盛り上がりも無く、延々と同じことの繰り返しだぜ?


 そんなん、地味としか言いようがないじゃないか。

 最初は玄人好みの試合って感じで二人の攻防を評価してた観客も面白みも無く同じような攻防を繰り返す二人にウンザリしてきてるんだぜ?


 でもまぁ、評価するべき点はあるよ。

 リィナちゃんに関しては、ナサニルとここまでれるとは思わなかったしさ。

 二人の間だとリィナちゃんの方が格上という認識みたいだったけど、この試合が始まるまでは俺の中では、ナサニルの方が明らかに上だったしね。

 試合が始まればナサニルの余裕勝ちだと思ってたけど、蓋を開けてみれば一進一退の互角の勝負。まぁ、一進一退と言えるほどには、どっちも進んでもいないし、退いてもいない停滞状態だけどさ。


 特にリィナちゃんの盾の使い方が良いね。

 おそらくセレシアから習ったのかな? それに加えて長剣のキレも良い。こっちはゼティの教えた技術だろうか。

 俺が教えてあげた物は何一つないのが、ちょっと気になるけど良い感じに色んな奴の技術をつまみ食いできているのは良いと思うぜ。そんでもって、それをちゃんと自分に適した形に直してるしな。

 そういう所は素直に評価しようと俺は思う。でも──


「いつまでチンタラやってんだ、つまんねぇぞ!」


 つまんねぇ試合には変わりなかったので、俺はとうとう我慢の限界を迎え酒瓶をアリーナの中に投げ込んだ。

 ビールの売り子みたいな感じで闘技場の客席には酒を売る奴がいるので、俺はそういう売り子から酒を瓶で何本も買って飲んでいたので、投げる物には事欠かない。

 もっとも、試合の最中に物を投げつけるなんて、そんなことをやっているのは俺しかいないわけで──


「物を投げ入れないでください!」


 唖然としつつも売り子の一人が剣神祭の運営スタッフの立場から俺を注意する。しかし、既に瓶は投げられている。

 俺が投げた酒瓶は綺麗な放物線を描き、ナサニルの頭に直撃し、ナサニルの身体がぐらつく。

 その隙を突いて、リィナちゃんが攻撃に転じようとするが──


「おっと、そりゃ良くねぇな」


 俺はもう一度酒瓶を試合中のアリーナに投げ入れ、それはリィナちゃんの頭に直撃する。

 片方に当てたんなら、もう片方にも当てないとね。そうじゃなきゃ、勝負は公平フェアじゃなくなるしさ。


「物を投げ入れんなって言ってんだろ!」


 売り子の女の子がマジギレしたんでここまでにしておこう。

 おや、リィナちゃんとナサニルくんが俺の方を見てますね。

 その視線に気づいた直後、二人は俺の方に魔術を撃って攻撃してきた。

 それは殺意のこもった一撃で、俺が投げつけた酒瓶を酔っぱらいの悪ふざけと許してくれる寛容さは二人には無かったようだ。

 さて、ここは攻撃を素直に受けておいた方が後腐れが無さそうな気もするけど──


「おっと、残念」


 二人の放った魔術は俺に届く前に見えない壁によって阻まれた。

 どうやら、アリーナには結界が貼られているようで結界の中からの攻撃は外へと届かない。

 これは観客を守るための配慮としては当然の措置だよね。

 もっとも、その結界は内から流れ弾を防ぐための物で、外からの妨害を防ぐ効果はないみたいだ。

 まぁ、今までは観客が物を投げ入れるってことは無かったみたいだし、わざわざそんな効果を付与する必要も無く、そっちに力を割くより、内側からの影響を遮断する力を強めた方が良いって判断したんだろう。


「俺に集中するより、相手に集中しろ~」


 俺は、俺を睨みつけているリィナちゃんとナサニルに声をかける。

 すると、ハッとした様子で二人は試合相手に向き直り──


「別にどっちが勝ったって、次のガレウスには勝てねぇんだから、さっさと勝負をつけろや!」


 俺が野次を飛ばした瞬間、対戦相手のナサニルより早く思考を切り替えたリィナちゃんが盾でナサニルを殴りつける。その一発がクリーンヒットとなり、ナサニルは吹っ飛ばされると、そのまま倒れて起き上がらない。


「勝負あり──勝者リィナ!」


 審判が勝者を告げ、試合は終了する。

 勝ったのはリィナちゃん。勝っても負けても、どっちでも良かったけど、一応は俺の陣営に属するわけだし、勝ったこと自体は喜んであげよう。どうせ次のガレウスで負けるだろうけど。

 ナサニルに関してもラ゠ギィはきっと頭数に入れてないだろうし、勝とうが負けようがどうでも良いと思ってるだろうね。

 リィナちゃんもナサニルも良かれと思って参加したんだろうけど、戦力的にはあんまり役に立たないんだよなぁ。気持ちだけ貰っておくけど、貰えるのが気持ちしかないってのは何とも言えねぇぜ。


 まぁ、このブロックに関してはガレウスが勝つのは分かり切ってたから、二人は別に良いや。

 そんなことより、一回戦の第二試合も終わったから、そろそろ──


『──第五試合に出場する選手の方は控室に集合してください』


 闘技場の中にアナウンスの声が響きわたる。

 そろそろ、俺も試合の準備をしねぇとな。第三と第四試合は見られねぇけど、まぁ、知ってる奴が出るわけじゃないし、別に良いや。

 そんなことより、さっさと控室に行かねぇとな。俺は第五試合だし、遅れて失格になるとかつまらねぇからな。


 そうして俺は観客席から控室の方に移動する。

 控室は関係者以外立ち入り禁止の通路奥にあり、薄暗い場所だった。

 その中に入ってみると、部屋の中には俺以外誰もいない。

 まぁ、試合の少し前に来ればいいわけだし、始まる直前まで自分なりに調整とかしてるんだろうね。


 俺は控室にあったベンチに腰掛け、試合が始まるまで待つ。

 対戦相手はダグラス・グランベル。こいつも優勝候補の一人だ。

 もっとも、結構な年寄りだから、下馬評はガレウスには劣るけど。

 ちなみ、年寄りといっても、俺の方が長く生きてるけどね。


 試合が始まるまで待っていると、外から二回ほど大きな歓声が聞こえてきた。

 試合が終了した際の歓声だろう。それが二回ってことは第三試合と第四試合は終わったってことか。

 そんなことを考えていると控室の扉が外から開かれ、神官たちが入ってくる。


「試合の前に装備を確認させていただきます」


 ボディチェックっていうやつだね。

 まぁ、どこの世界でもやることだ。剣神祭は細かいルールがあるって感じではないけど、試合に持ちこんじゃいけないものとかはあるんだろう。


「武具を着けている姿を見せていただけますか?」


「そんなもんねぇよ」


 鎧も来ておらず、素手の俺を見て神官が訊ねる。

 素手で剣神祭に参加する奴はいなかったんだろうね。俺が素手で参加するとか全く予想していなかったようだ。


「まさか、素手では参加できないってルールがあるとか言わねぇよな?」


「いえ、それはありませんが……」


 神官はどうしたものかって顔で一緒にいた同僚に視線を送る。

 同僚の方が仕方ないといった感じで肩を竦めると、俺の前にいた神官も仕方ないといった感じで頷く。


「鎧もつけず、素手で戦うとなると命の保証はできませんよ?」


 神官が念を押すように言うけど、俺の意思は変わらない。

 つーか、試合の直前で武具なんか用意できねぇしな。


「構わねぇよ、そんなことよりボディチェックをさっさと済ませてくれねぇかな」


 俺がそう言うと、何か言いたげな表情で神官たちは俺を調べて、何も問題ないのが分かると、俺をアリーナへと誘導し、俺はアリーナの入場ゲートをくぐり抜ける。


 そうして、アリーナへと足を踏み入れた俺を待っていたものは──





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