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剣神祭の始まり

 

 ──そんなこんなで剣神祭の初日を迎えた。

 俺は何事も無く……一日に何度も刺客に襲われるのを何事も無かったと言えば何事も無い日々を過ごして、俺はこの日を迎えた。


 イグナシスの街中はそれこそお祭り騒ぎで賑わい、そして祭りの中心となる闘技場には人が押し寄せていた。

 活気があるといえば、まぁそうだけど、どちらかと言えば狂騒の部類だ。

 俺は戦うのが好きだから別に良いんだけど、よくもまぁ闘技場の客席を埋め尽くすだけの人数が好き好んで人間同士の殺し合いを見に来るもんだと思うぜ。そんなに人が戦う所と死ぬ所を見たいんだろうかね?


 でもまぁ、地球人も似たようなもんか。

 古代ローマのコロッセオの収容人数は5万人くらいだったらしいし、席が全て埋まることは無かったにしても、相当な数の人間が剣闘士の殺し合いとかの血なまぐさい見世物を喜んで見ていたってことを考えれば、どこの世界でも人間ってのは戦いを見るのが好きな生き物なんだなぁって思うよ。

 まぁ、俺も好きだから偉そうなことは言えねぇけどさ。自分を高みにおいて人類は愚かだなんて言える立場じゃねぇしな。


 そんなことをボンヤリと考えながら俺は闘技場の観客席の最前列に座っている。

 そんでもって闘技場のアリーナでは開会式が行われており、一回戦第一試合に出るガレウス・ザールヴァルトが本戦出場者を代表して開会の挨拶をしている。

 挨拶の内容は月並みで取り立てて語るようなもんじゃない。一瞬も頭に残らない御立派な挨拶をしている様子を、俺は椅子のひじ掛けに頬杖をついて、ボンヤリと眺めている。


 ……出場者全員の顔見せとかをやる感じではなさそうだね。

 色々とトラブルが続出したせいで予選会をやる羽目になり、本来出場させる予定だった奴らを出場させられなくなった神殿側としては、本来の出場枠の連中に気を遣ったせいかな。

 元はコインを多く集めた奴が本戦に出場できるってルールだったけど、そのコインを供給している神殿が出場させたい奴に出場できる量を裏で渡してるって出来レースだったけど予選会のせいでそれが出来なくなり、出場を約束してた奴らを出場させられなくなった。

 その詫びってのは如何ほどのものだったんだろうね。まぁ、俺にはどうでもいいことだけど、とりあえず今回の出場者をあまり目立たせるなとかのお達しは行ったのかな? 目立たれると本戦にでられなかった奴らが恥ずかしいしさ。


 集中していないせいか、思考があっちへ行ったりこっちへ行ったり。

 気付けば、ガレウスの挨拶は終わっており、次は来賓の挨拶だ。それも俺の興味を引くようなものではなく、俺は欠伸をしながら、椅子の背もたれに身体を預ける。


「試合が始まる前に退屈過ぎて死んじまうぜ」


 死んじまったら不戦敗になるんだろうかね?

 その時は俺を退屈にさせて死に追いやった剣神祭の運営に賠償とか請求できるんだろうか。

 まぁ、俺が知る限り退屈が原因で死んだ奴はいないから、そんなことを考えても意味は無いんだけど。


 もっとも退屈な時間はそこから長くは続かずに、開会式は赤神神殿の神官長の言葉で締めくくられ、そこから剣神祭の第一試合が始まる。

 第一試合は優勝候補と巷で評判のガレウス・ザールヴァルトと……ちょっと名前を覚えていられない程度の強さの剣士の対戦だ。


「へぇ、武具のお披露目もするのか」


 試合が開始される前にアリーナに立つ二人は自分の持つ武具を掲げ、その武具を作った鍛冶師の名を観客に向けて伝える。

 イグナシスは剣の街らしいし武具が特産なんだから、それをアピールする場としても剣神祭は重要なんだろうね。

 実際、二人が持つ剣は客席から見ても相当な業物であるのが分かるような代物だ。

 ちなみに試合であっても刃を引いてない真剣。つまり、そんな武器を使うということは剣神祭の本戦というのは殺し合いだ。


「──始め!」


 武具のお披露目が終わると、闘技者は向き合い、武器を構える。

 そして、両者の準備が完了したのを見て、審判が試合開始の宣言をする。

 ただ、その審判はアリーナの外にたって試合を見ているので、どこまでその役を果たせるのか、そもそも審判は何を審判するんだろうか? 

 まぁ、審判に関しては今は良いや。そんなこともよりも試合の方に注目しよう。

 そう思って、俺は向かい合う二人の闘技者に対して目を向けるが──


「──こりゃ駄目だ」


 見た瞬間に試合にならないと理解した。

 何で試合にならないか? 簡単な話でガレウスが強すぎるせいだ。

 剣を構えるまで、そこまでとは思わなかったけど、剣を構えた姿を見ると、おそらくこの世界で俺が出会ったただの・・・人間たちの中では間違いなく最強クラスだ。


 試合が開始されると、ガレウスは長剣で八相のような構えを取り、どっしりとした足取りでゆったりと相手に近づく。それに対して対戦相手は正眼の構えを取っているが、明らかに腰が引けている。どうもガレウスの威圧感に怯んでしまっているようだ。


 こうなってしまったら、どうにもならない。

 ガレウスは怯えた相手に対して、力強く重い足で踏み込みながら、渾身の一太刀を放つ。

 相手は自分の身を守るために剣を盾にするが、ガレウスはその剣に対して、自身の剣を叩き込み、容易く断ち切った。

 武器を破壊された対戦相手は呆然とし、その相手にガレウスは長剣を突きつける。

 その瞬間、対戦相手は反射的に──


「参った!」


 降参を大声で宣言し、それがアリーナの外から試合を見ている審判に届き、そして、審判は告げる。


「勝者──ガレウス・ザールヴァルト!」


 堂々たる勝利って奴だ。

 横綱相撲って言うのかな、小細工も何も用いず正面から圧倒的な力の差でねじ伏せるスタイルだ。

 相手が弱すぎるってのもあるのかもしれないけど、真剣勝負でここまで堂々とやれるってのはガレウスを評価しても良いのかもしれない。


「流石ガレウス様だなぁ!」

「あぁ、本当にイグナシスの誇りだよ!」


 観客にもガレウスの強さはハッキリと伝わっているようだ。

 俺もその強さに関しては異論はない。だけど、思う所はあって──


「ちょっと強すぎじゃねぇ?」


 まぁ、俺らには劣るけど、それでもガレウスに関して言えば、既に誰もが納得し否定できないだけの強さの証明ができている。

 実際、ガレウス自身にも剣神祭の優勝経験もあるようだし、今更、剣神祭に出なくても誰もガレウスとザールヴァルト流の強さを疑うような奴はイグナシスにはいないと街の奴らを見てると、俺は思う。

 なのに、どうして、わざわざ剣神祭に出るのかが俺は腑に落ちない。

 いったいどうして出場しているのか、そのことについて俺が考えようとした矢先──


「やぁ、久しぶり」


 俺の思考を遮るようにかけられた声の方を見ると、そこにはルゥ゠リィ・ヘイズが立っていた。

 ヘイズは俺の応答も待たずに俺の隣に座る。その瞬間、ヘイズの美貌に意識を奪われた周囲の観客の視線の流れ弾が俺にも当たる。


「キミも来てたのかよ?」


 俺の使徒であっても、俺はこいつを良く知らないんだよね。

 隣に座っているヘイズの人間とは思えないほど整った横顔を見ながら俺は訊ねる。


「何か用かい?」


 まぁ、こんなところにいるんだから、俺の応援でもしに来てくれたんだろう──ってのは冗談で、正直な所、俺はこいつの考えていることが分からないので、何をしに来たのか見当もついていない。


「ちょっと聞きたいことがあってね」


 そのために、わざわざ闘技場までご足労いただけるとは、まことに申し訳ないっスね。

 ──そんな感情は全くないけど、俺は申し訳ない雰囲気をほんのちょっぴり出しながら、本題を言うように促す。


「カイル達がいないんだけど、どこに行ったんだろうか? 貴方から仕事を受けたみたいなんだけど……」


 そういえばヘイズは一応カイル達のパーティーの一員だったよな。

 でも、俺が俺の刀を探すのをアイツらに依頼する時に一緒にいなかったから放っておいたんだった。


「アイツらには探し物を頼んでるんだよ」

「へぇ、そうなんだ……」


 ヘイズはカイル達が何をしているのか表面的な情報だけ理解すると、考えるように僅かに目を伏せ──


「何を探してるんだい? ボクも手伝おうか?」


「質問は一度に二つするなよ。僕ちゃんの脳味噌じゃ、そんな高度な情報処理はできなくてフリーズしちゃうよ」 


 俺がはぐらかすように、ふざけた物言いをするとヘイズは愉快そうに笑いながら肩を竦める。

 ここでキレてくれると面白いんだけど、流石にそこまで単純じゃねぇか。


「別にキミまで行く必要はねぇよ。あるかどうかも確かじゃねぇものだし、そんなもん探しにいくくらいなら、俺の応援でもしててくれ」


 実際、カイル君たちだけで人手は充分……ってことはないかもしれないが、ゴミ捨て場漁りに使徒を使うのも勿体ないしな。ヘイズには何も無くても闘技場で待機してもらっている方が良いような気がする。

 だから、それを納得してもらうために、探してる物が大した物じゃないっていう風に言ったし、見つからずに徒労に終わるだけかもしれないと俺は言った。

 ただ、これには嘘もあって、徒労に終わるってことはまず間違いなくありえない。俺の刀は確実にあそこに眠ってるはずで、探していればいつかは必ず見つかるはずからだ。


「……分かった。ボクはここで貴方やゼルティウスを応援してるよ」


「そうしてくれよ。ただ近くにいられると人の目を集めるから、どっかに行ってくれてると嬉しいけどね」


「それを言ったら、貴方も相当に人目を集めているようだけれどね」


 ヘイズはそう言うと俺の隣から立ち上がり、別の席を探しに観客席の中を移動し始めた。

 実際ヘイズが言っていたように俺も視線を集めているんで、ヘイズだけが悪いみたいに言うのも良くないんだよね。まぁ、俺の場合は恨みの眼差しだけどさ。


 ──さて、そんなことしている間に第二試合が始まるようだ。

 対戦カードはリィナちゃんとナサニル。

 どうやら因縁のある二人同士の対戦だけど、その因縁なんかは俺も知らないし、観客席の誰も知らないから、盛り上がりも何も無い。

 そのせいか、試合が始まっても話題は前の試合のガレウスのことで、俺はガレウスについて近くの席に座っている奴らの話が意識せずとも耳に入ってくる。


「何故、ガレウス殿が自ら剣神祭に出場なされたのだろうか?」


 武芸者らしき連中の会話だ。それが自然と耳に──ってのは無理があるね。実際は盗み聞きだ。

 俺は武芸者たちの話を盗み聞きする。


「なんだ知らんのか? 本来は跡取りの御子息が出場されるそうだったが、何でも事故があったらしくてな……」


 事故ねぇ。

 事故で息子さんがお亡くなりにでもなったのかな?

 それで代わりに出場とか、そんな感じかな?


「なんと! 跡取りが亡くなられたのか。それはガレウス殿の口惜しいことだろう」 


「そのため、ガレウス殿はザールヴァルト流が健在であることを見せつけるために急遽、出場を決めたそうだ。そして、それとこれは噂なのだが……」


 跡取りが死んだけれど、自分の流派は元気ですって見せつけるために参戦か。

 まぁ、分からなくもねぇけどさ。


 イグナシスの剣術流派ってのは、イグナシスの中だけならば、いわゆる貴族と同じ程度には権力があるようだし、この状況はイグナシスの剣術流派を貴族と同じに考えた場合は、大貴族の跡継ぎが死んだって感じだとも言えるんじゃないかな?


 力を見せられなければ衰退していくのが権力者の常ってもんだからガレウスはザールヴァルト流の面目を保つために剣神祭に参加したって感じかな。

 まぁ、本心が何処にあるかは本人にしか分からねぇわけだけど、その本心に関するのが噂なんだろう……


「剣神祭に優勝すれば、赤神様が願いを何でも一つ叶えてくれるらしい。それを使ってガレウス殿は御子息を蘇らせようとしているのではないかという噂があってだな……」


 優勝すると願いが叶うねぇ。

 まぁ、ありがちだわな。実際、優勝すれば赤神と対面できるわけだし、願いを叶えて貰うってことも……あれ? これって前に聞いた話だっけか? 全然、覚えてねぇや。


 ──でも、改めて聞くと、ちょっとおかしいよな。

 死者を蘇らせる? そんな力が赤神にあるとは俺は思えねぇだけど。

 だって、アイツってさぁ──


「おい、何を話している!」


 突然の声が武芸者たちの会話を遮り、俺の盗み聞きを妨害する。

 その声の主はザールヴァルト流の門弟で、自分達の主の事で噂話をしているのを咎めたんだろう。

 盗み聞きをするのもここまでかな? 噂話をしていた武芸者たちはそれっきり会話をやめてしまったしな。


 もう少し聞きたかったこともあるが、これ以上は無理。

 となれば、今は大人しくリィナちゃんとナサニルの試合を見ているとしようか。



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