後続者達
煩わしい。
予選会のスタート直後からラ゠ギィの頭を占めるのはそんな思いだった。
スタート同時にラ゠ギィはアッシュの仲間と誤解され、他の参加者から攻撃を受けていた。
「私の話を聞いてはいただけませんか?」
スタートから既に10分以上が立っているが、ラ゠ギィはダンジョンの中に入ることすらできていなかった。
当然、ラ゠ギィを邪魔する参加者たちもダンジョンに入れていないわけだが、彼らはそんなことは気にしない。何故なら、彼らは最初から予選を通過しようなどとは考えていないからだ。
ラ゠ギィの邪魔をしている──というよりは参加者の大半は様々な剣術流派に雇われている者たちであり、本命が本戦に出場できるように他の有望な参加者を潰すために参加していた。
「何か誤解があると思うのですが」
ラ゠ギィは何とか説得を試みる。
だが、ラ゠ギィを取り囲む参加者たちは聞く耳を持たない。
「チッ、面倒な……」
ラ゠ギィは隠すこともせずに舌打ちを漏らすと、説得を諦め、戦闘態勢に入る。
次の瞬間、ラ゠ギィを取り囲んでいた参加者たちは何が起きたかも理解できずラ゠ギィの拳を食らい、意識を刈り取られて倒れる。
「何を──」
「理解した所で、貴方がた程度には認識できませんよ」
残った参加者たちもラ゠ギィの放った拳を顎先に食らい、脳を揺らされて意識を失う。
全力で殴れば容易く命を奪うことのできるラ゠ギィの拳であるが、ラ゠ギィはそれを振るうことはしない。シャルマーやヴィルダリオと異なり、ラ゠ギィはむやみに人の命を奪うことは避けていた。もっとも、必要があれば躊躇いなく命を奪うのだが。
「随分と遅れてしまいましたね」
邪魔するものを排除したラ゠ギィはようやくダンジョンの中に足を踏み入れる。だが、すぐに──
「いたぞ、アッシュの仲間だ!」
「ぶっ殺せ!」
ラ゠ギィをアッシュの仲間と誤解した参加者たちに襲い掛かられる。
ダンジョンの中は迷路となっており、そのうえ更に遭遇する参加者の大半がアッシュに痛い目に遭わされている。となれば、アッシュの仲間に矛先が向くのも当然であり、ラ゠ギィの弁明も襲い掛かってくる参加者たちには届かない。
「待ってください。私は白神教会の──」
「僧侶がこんなところにいるかよ!」
この日のラ゠ギィは白神教会の関係者が赤神に関わることに参加していると知られると面倒なことになるのではないかと考えたため、宣教師の黒い祭衣を着ていない。
そのため、ラ゠ギィを見ても教会とは関係ない只の参加者にしか見えなかった。もっとも、着ていたところで、参加者たちが刃を収めるということは無かっただろうが。
「他の奴も呼んでこい! アッシュの仲間がいるぞ!」
参加者たちは声をかけ合い。
アッシュの仲間と彼らが認識しているラ゠ギィを追い詰めるために動く。
妨害の対象として本命となっているアッシュに追いつくことは不可能と考えている彼らは、せめてその仲間だけでも妨害し、本戦への出場を阻もうとしていた。
「待ってください。これはあの方の罠です」
当然だが、ラ゠ギィはアッシュの仲間ではない。
ラ゠ギィはアッシュを出し抜いて自分だけが本戦に出場するつもりだった。
そのために協力すると偽り、ダンジョンの中でアッシュの妨害をする予定があった。
だが、そんなことはアッシュに恨みを抱いている参加者たちは知らないし、例え教えられても信じるつもりは無かった。彼らにとってはアッシュの仲間と思しき輩の弁明よりも、自分達が見たアッシュとラ゠ギィの友好的な様子が全てだ。
「言い訳ならあの世でしろ!」
参加者の一人が真剣を振るい、ラ゠ギィに斬りかかる。
だが、その瞬間、斬りかかった参加者は眼にも止まらぬ速さで放たれたラ゠ギィの拳によって意識を刈り取られる。
「……煩わしい」
仲間が倒されたことにより、参加者たちが一斉に襲い掛かる。
だが、襲い掛かった参加者たちもまた一瞬にしてラ゠ギィの拳を食らい意識を失う。
「私の邪魔をしないでいただきたい」
斬りかかってくる参加者。
だが、近づいた瞬間にラ゠ギィの拳で顎先を打ち抜かれて崩れ落ちる。
「こいつ魔術士だ!」
「理解できないもの対して、自分の理解できる事象を当てはめて答えを出そうとするのは悪い事と言い切ることはできませんが──」
ラ゠ギィを取り囲む参加者たちは眼にも止まらぬ速さのラ゠ギィの拳を魔術による攻撃だと錯覚する。
彼らの知る範囲ではそこまで速い拳などは存在しないが故に、魔術という特殊な攻撃によるものだと思い込み、その思い込みからラ゠ギィに対して間違った対応を取ることになる。
「この状況ではその考えは大きな間違いです」
距離を取ったことでラ゠ギィの包囲に隙間が生じる。
ラ゠ギィはその隙を見逃すことなく、一気に駆け出し、参加者たちの間をすり抜けて躱すと、ダンジョンの奥へと進む。
戦えば戦うだけアッシュの思惑通りになると判断したラ゠ギィは戦闘を回避するという選択肢を選んだのだった。
「逃げたぞ、追え!」
ラ゠ギィは大部屋を抜けて通路へと飛び込む。
だが、そうして通路へと飛び込んだラ゠ギィを待っていたのは──
「おいアイツ、アッシュの仲間だぞ!」
通路を進んでいた参加者はラ゠ギィの姿を見つけると、即座にアッシュの仲間と判断し、攻撃を仕掛けようとする。
「まったく、どれほど嫌われているのですか」
ラ゠ギィは通路の前と後ろから迫ってくる参加者たちを躱すために、通路の壁を蹴るとそのまま垂直の壁を走り、自分に迫る参加者たちの頭上を越えて通路を先へと進んでいく。
こうしてラ゠ギィは自分を狙う参加者たちを躱し、ダンジョンの最初の階層を踏破すると、その後もそんな参加者たちを同じように乗り越え、ダンジョンの最深部を目指していき、そして、遂にはダンジョンの最下層へと辿り着く。
「ふぅ、まったく無駄な時間を……」
最下層ともなると残っている参加者も純粋に予選の突破を目指す者だけになる。だが、だからこそ、熾烈な戦いとなっていた。
他の参加者を無視し、最深部へと辿り着けば、本戦への出場権を得られるが、そう簡単にはいかない。参加者同士はお互いに先を行こうとする相手の妨害のために動くことから、他の参加者を無視することは難しく、結果として戦闘によって自分以外の相手を行動不能にする以外、相手の先を行く方法はないからだ。
そして、そんな状況の中に足を踏み入れたラ゠ギィもまた同様に──
「──ッ」
ダンジョンの最下層、その最初の大部屋に足を踏み入れたラ゠ギィの耳に届いたのは唐突な炸裂音。
それは、この世界の文明レベルからすれば存在することはありえないはずの銃声だった。
だが、ラ゠ギィは殆ど動じる様子は無く、何事も無かった様子で部屋の中心へと足を進める。その間にも幾度も部屋の中に響く銃声。
だが、ラ゠ギィは銃声など関係ない様子で歩み、そして自分へと仕掛けてきた相手の姿をハッキリと視界に捉えるのだった。
「……攻撃する相手を間違えていませんか?」
ラ゠ギィと相対するのはセレシアとシステラ。アッシュ・カラーズの仲間──いや、アスラカーズの配下たちだとラ゠ギィが認識している者たちだった。
「いいや、間違えてはいない」
セレシアは部屋の中央に立ち、対するラ゠ギィを見据えると剣を抜き放ち、盾を構える。
そして、その隣に立つシステラは拳銃を構え、銃口をラ゠ギィへと向けていた。
「……まぁ、良いでしょう」
ラ゠ギィが仕方ないといった様子で肩を落とした瞬間、システラが拳銃の引き金を引く。
その瞬間、ラ゠ギィに向けられた銃口から銃声が轟くが、銃口の先にいるラ゠ギィには何も起きていない。ラ゠ギィに届くはずの弾丸。しかし、それはラ゠ギィに何の影響ももたらしておらず──
「かませ犬の相手など戦いの内に入りませんからね」
そう言いながらラ゠ギィが握っていた拳を開くと、そこから零れ落ちるのは無数の弾丸。それらは全てシステラが放った銃弾だった。
ラ゠ギィは自分に向かってきた銃弾を全て掴み取り、しかもその動きをセレシアとシステラの目で認識できない速度で行っていた。
「私たちを甘く見ないでもらおうか?」
「その台詞を吐くには貴女は100年早い」
拳を握りしめ、踏み出すラ゠ギィと盾を構え、駆け出すセレシア。
そして、セレシアとシステラ対ラ゠ギィの戦闘が始まった──
一気に書き切れれば良かったんだけど、途中で力尽きた。




