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揉めるという選択肢しかない男

ようやく総合評価が1000ポイントを超えました。(2021年2月15日)

 

 剣神祭の予選、一位通過を確信してダンジョンの最深部に辿り着いた俺の前には見知らぬ男がいた。

 そいつが俺に何者か訊ねてくる。


「……何者だ?」

「キミの方こそ何者だよ」


 俺は訊ね返しながら、相手の姿を見る。

 外見の年齢は50代ってところだろうか? スッと背筋が伸びたいかにも武人って感じの男だ。

 ……結構、強いかな? 立ち姿を見ただけで、それなり以上の実力があるってことが窺える。


「私を知らないのか」

「そっちこそ俺を知らねぇのかよ?」


 どうやら有名人なんだろう。でも、俺だって負けてねぇと思うぜ?

 イグナシスの街じゃあ俺だって有名人。まぁ、悪名だけどね。

 でも、悪名は無名に勝るっていうだろ? 街中の人間が「ああ、アイツね」って頭に浮かぶ『クソ野郎』と街の人間の誰に聞いても「そいつ誰?」ってなる『透明人間』のどっちが良いかって話さ。

 仮に俺がそんな質問をされたら『クソ野郎』って即答するね。ま、そう思わない奴がいるってのも想像できるけどさ。


「イグナシスに住んでるくせに俺の事を知らねぇとか、とんだ世間知らずだね」


 俺がそう言うと見知らぬ男の眉尻が僅かに上がる。

 おや、世間知らずって言われて怒った? そいつは申し訳ないね。

 それなら、イグナシスに住んでいるってことを教えてくれたお返しに謝罪してやろうか?


 さっきまで、何処の誰かは分かんなかったけど、俺の「イグナシスに住んでるくせに」って言葉に反応を示したから、イグナシス在住ってことは分かったぜ?

 それと、立ち振る舞いからそれなり以上の立場の人間であるってことも分かるし、剣を持ってることから剣士だってのも分かる。なんとなく素性が読めて来たぜ。


「……卑賤の輩と言葉を交わす舌は持たん」


「そりゃ御立派なことで。流石、堂々とズルをする方は違いますねぇ」


 俺の言葉が耳に入ったようで、男は俺を睨みつけてくる。

 そんな睨みつけられてもね。だって、おかしいだろ? 

 俺はスタートから一度も誰にも追い抜かれていないわけだし、普通の手段で俺より先にここに来るのは不可能だぜ?


「いやぁ、あの試練を俺よりも早く乗り越えられるとは思わなかったぜ」


 更に確信を得るために俺はカマをかけてみる。

 男は俺の言葉を聞いても表情は変えないが、否定もしてこない。

 なんで、否定しないんでしょうね。試練なんて無いのにさ。いたのは白神教会の聖騎士達だぜ?

 あいつらがダンジョン内で待ち伏せしてたのに、真っ当に順路を通って俺の先をいっていたなら、それに気づかないってのありえないぜ? となれば、考えられるのは──


「──ほう、儂が三番目とは」


 俺が確信し、核心を突こうとした矢先、最深部の部屋に三位が入ってきた。

 まさかの三位は腰こそ曲がっていないものの顔を見ただけで結構な歳と分かる爺さんだ。

 見たことのある顔だが、何処のどいつだったっけ?


「……ダグラス翁」


 俺を差し置いて一位になった見知らぬ男が三位の爺さんを見て呟く。

 その呟きを聞いて、俺はゼティが世話になっているグランベル流の爺さんであることを思いだす。

 つーか、この爺さんも何でいるんでしょうね?

 俺のすぐ後ろに気配は感じなかったし、ゼティやセレシアより早く来れるはずもないと思うんだが?

 どうやら、この爺さんも一位の男と同じようだね。あぁ、嫌だ嫌だ、ズルいことをする奴ばっかりでウンザリだぜ。


「久しいのう、ガレウス殿」

「まさか、貴殿も来ているとは」


 どうやら、このオッサンと爺さんは知り合いのようだ。

 まぁ、生きている期間とか実際の年齢は俺の方が上なんですけどね。


「やむを得ずのことじゃ。今回の剣神祭は儂の流派の名誉がかかっておるんでのう。手段は選んでおられんのよ」


 ダグラスとかいう爺さんはグランベル流の名誉のために出場しているようだ。

 スタート地点には他にはグランベル流の奴らもいたと思うけど、もしもの時に備えて自分の参加していたんだろうね。


「おぬしもそうじゃろう? 既にイグナシスの最高の剣士という名誉を持つお主とザールヴァルト流が出場しているのも、やむを得ない事情があるからじゃろう?」


「こちらの事情を語るのは控えさせてもらう」


 この二人はどうやらイグナシスのトップクラスの実力者らしいね。

 ダグラスとガレウスはお互いに見つめ合って相手の腹を探ろうとしている。

 羨ましいね、熱い眼差しで見つめ合う二人とかさ。俺も間に混ざりたいもんだぜ。

 背景に百合の花が見えてきそうな、熱く見つめ合う女と女の間に挟まると文句が出そうだけど、男と男の間に挟まっても誰も文句は言わねぇよな。


「おいこら、俺を差し置いて何を楽しそうに話してんだよ。俺も混ぜろよ」


 俺はダグラスとガレウスの間に割って入る。

 すると、二人は俺に不快気な眼差しを向けてくる。

 なんだよ、キミら同士はあんなに楽しそうだったのに、俺は除け者かい?


「おぬしの相手は後でしてやるから、今は下がっておれ」

「私の視界に入るな小僧」


「はぁ? なんだキミら、俺に対して偉そうじゃねぇか」


 こいつら、不正ズルしたくせに何をカッコつけてやがるんだ。

 こいつらもナサニルとかと同じで、予選が始まる前にダンジョンの中に入ってたのは間違いない。

 おそらく神官たちの手引きもあったんだろう。こいつらはイグナシスの有力者だし、赤神神殿はこいつらには逆らえないだろうしね。

 参加者の確認をしてないってのも、こいつらを勝たせるためにわざとやってたのかもな。参加者の確認をしていなければ、いつの間にか参加者が増えたとしても、問題にならないしね。それを考えると色々と雑なのも、運営している神殿が勝たせたい奴に有利な工作をしやすくするためかもね。ルールとかがキッチリしてると、不正をするのが難しくなるしね。

 でもまぁ、それは今は置いといて──


「こそこそとズルしなきゃ勝てないような連中が俺に偉そうにするんじゃねぇよ」


 俺は自分の事は棚に上げて言う。

 他人を責める時に自分を引き合いに出すのは良くないからね。

 シレっとした顔で自分は何も悪いことしてませんって感じを出すのが大事なんだ。

 まぁ、そもそも、こいつらは俺がフライングかましたところは見てないだろうから何も言えないだろうけどね。スタートの時にはダンジョンの中にいただろうしさ。ズルしてたせいで、俺のズルに何も言えないってのは考えようによっては因果応報って奴だね。


「小僧、口の利きかたに気を付けろ」


「確かにのう、不正したと決めつけられてはこちらとしても面白くはないのう」


 ガレウスとダグラスは俺を見据え、鋭い眼差しで俺を射抜こうとする。

 オーケー、オーケー、これはアレかな? 俺に脅しでもかけてるんですかね。

 それとも舐めた口を利いてる俺にキレてる感じ?

 なるほどね、こいつらから見たら俺は生意気なガキってことね。まぁ、見た目は10代のガキだから仕方ねぇけど、だけど──


 俺は肩を竦め、その次の瞬間、ガレウスに拳を叩き込み、ダグラスに蹴りを叩き込んだ。


「大物気取ってんじゃねぇよ。俺とキミらを比べりゃ俺の方が大物だぜ?」


 だって、キミらは只の人間。対して俺は一応は神様だからね。まぁ、邪神だけどさ。

 とにかく、俺を差し置いて大物のふりをするとか面白くねぇなぁって思うわけよ。

 そんでもって、自分達が特別みたいな感じで、自分達の世界に入って俺を蚊帳の外に置くとか更に面白くねぇ。そんな真似されりゃ、俺だってちょっとキレるぜ?


「なるほど、今ここで命を失いたいか」

「手を出された以上はタダで済ませるわけにはいかんのう」


 ガレウスとダグラスは俺の打撃を鞘に入った剣で受け止め、防いでいた。

 そして二人は俺を見据えると剣を鞘から抜き放ち、構える。


「何をカッコつけてやがるんだか。大物気取って、圧かけて言えば、言い聞かせられるとでも思ったんだろ? キミらの今のザマは脅しかけても、脅しが効かずにぶん殴られたって感じだぜ?」


 超カッコ悪いね。思わず笑っちまうよ。

 おっと、笑い声が聞こえてしまった? お二人とも、お顔に青筋が立っていらっしゃいますよ。

 お怒りですか? でもなぁ……


「俺の方がキレてるぜ? せっかく一位取ったと思ったのに、ポッと出の奴に一位を奪われた俺の怒りは簡単には収まらねぇよ」


 キミら二人をぶちのめさなきゃ気が済まねぇってもんさ。

 キミらだって、俺をぶちのめしたいみたいだし、それじゃもうるしかねぇよなぁ。

 俺は剣を構えるダグラスとガレウスを見据え、戦闘態勢を取る。だが、その時だった──


「……これはどういう状況だ?」


 部屋の中に四人目が入ってきて、部屋の中を見て困惑の言葉を口にする。

 その声は俺が良く知る人物の物で、部屋の入り口を見ると、そこにはゼティが立っている。

 俺はやって来たゼティに声をかけた。


「手伝え、ゼティ。こいつらをぶちのめす」


 俺が声をかけるとゼティは部屋の中にいる俺を含めた三人を見回し、そして──


「なるほど、状況は分かった」


 状況がわかったらしいゼティはそう言うと俺を見据え、剣を構える。

 剣を向ける相手が違うんじゃねぇかな? そう思ってゼティを見ても、ゼティは俺を睨んでいた。


「ぜんぜん状況が分かってねぇじゃねぇか」


 俺が非難するとゼティは剣の切っ先を俺に向けたまま、俺に言う。


「どうせ、お前が何か余計なことを言ったか、何かしたんだろう。お前に非があるのは間違いない以上、俺がお前の側につくことはない」


 どうせってなんだ?

 まるで俺が日常的に悪い事をしてるみたいじゃねぇか。

 俺が悪いのが間違いないってのも酷くねぇか?

 ゼティはいったい俺をどういう奴だと思ってんの?


「決めつけるなんてヒデェなぁ。向こうが先に手を出したかもしれねぇのに」


 良く見てみろよ、この状況?

 俺みたいな人畜無害な若者が年寄り共に袋叩きにされそうなんだぜ?

 向こうが先に手を出したって思えないかい?


「お前が先に手を出したんだろう?」


 ……まぁ、いいや。今更、何を言っても仕方ねぇし、ポジティブに考えるとしよう。

 剣を抜いて臨戦態勢の三人に囲まれた俺。さて、この状況をポジティブに考えるとしたら──


「は、上等だぜ。キミらが俺と戦いなら本戦まで待つ必要はねぇ。今ここでイグナシス最強決定戦をやってやろうじゃないか」


 これが一番ポジティブな考え方。

 本戦で戦うより、今の内に強い奴らを始末しておいた方が楽だし、その良い機会がやってきたって考えようぜ? しかも、一対三で、強そうな相手を全て俺が総取りできると考えたら悪くねぇ。


「さぁ、ろうぜ? 俺に文句があるんだろ? だったら、かかってこいよ」


 俺は三人を手招きする。だが、その時だった。

 突然、俺達の視界が赤い光に包まれ、気付く俺達はダンジョンから外へ出ていた。

 周りを見回すと、赤神の神官たちが俺達を歓迎するような表情を浮かべ──


「予選通過者の皆さんですね! おめでとうございます!」


 どうやら、赤神が俺達の戦闘を止めるためにダンジョンの外へ転送したようだ。

 本戦出場者同士で争うなって言いたかったんだろう。余計なことをしてくれやがるぜ。

 場が変わったことで仕切り直しになり、盛り上がった気分もシラケちまったよ。


「えぇと、あぁ貴方も本戦出場が認められたんですね」


 戦闘態勢を解いた俺を見て、神官達は俺に対して露骨な嫌悪感を浮かべている。

 他の奴には歓迎している感じで声をかけていたけれど、俺に対しては嫌々って感じだ。


 まぁ、フライングしたしね。でも、フライングしても赤神は俺の本戦出場を認めてくれたんだから、文句はねぇだろ? キミらが仕える神様が認めてくれたのに、神官であるキミらが認めないってのはおかしいからね。


「では、皆さん、残りの本戦出場者が決まるまで、お待ちください」


 そうして俺達はダンジョンの外で次の本戦出場者を待つことになった。

 その間のギスギス具合と言ったら、凄まじいぜ。


 俺以外の奴は、みんな俺のことを親の仇のように憎んでるからね。

 最初は俺の事を知らなかったガレウスも神官や脱落した他の参加者、そして俺らの後に合格して転送されてきた奴らから話を聞き、俺がどういう奴か理解してくれたようで、凄い顔で睨んでくれてたぜ。


 ま、そういう空気の悪さも関係なく本戦出場者が続々と決まっていき、そして残り一人となる。

 俺達はその最後の一人を待ち、そして最後に現れたのは──






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