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一位通過

 

 ラ゠ギィの命令で参加者を待ち伏せしていた白神教会の聖騎士達。

 ナサニルに率いられたそいつらが俺の行く手を遮っている。


「陣形を崩すな!」


 ナサニルの指揮に従って盾を持った二人の聖騎士が魔術を発動し光の壁を作り出す。

 さっきは三人で作って、俺はそれを殴り砕くことはできなかったけど、二人だったらどうだろうね。

 それを確かめるために俺は光の壁に全力の拳を叩きつけた。その瞬間、俺の拳が与えた衝撃によって光の壁は大きく震え、その壁の後ろで盾を構える二人の聖騎士が踏ん張るのが見えた。


 この感じだったら、何発か殴れば割れるか?

 俺がそう思った瞬間、光の壁が解除され、盾を持った聖騎士の真後ろから、別の聖騎士が槍を突き出してくる。俺を盾持ちから遠ざけようとする動きだ。

 味方を守ろうとしたんだろうけど、それは逆に俺に狙うべき奴を教える行為だぜ?

 俺は盾を持った聖騎士の後ろから突き出された槍に対して逆に前に出ながら、穂先を拳で跳ね上げ、盾持ちの聖騎士に接近する。


「連続で魔術は使えないみたいだな?」


 それと、おそらくタイミングを合わせないと使えないんじゃない? 乱戦じゃ使い辛そうだね。

 あと、本来その魔術って戦場で使うようなもんだろ。俺の勘だと敵軍の騎兵突撃に合わせて使うような魔術なんだと思うけどな。


「魔術ではなく聖術だ!」


 そんなんどっちでも良いよ。

 盾を持った聖騎士が俺の拳を受け止めるために盾を構える。

 それに対して俺は拳を振りかぶる──ふりをして、殴ると見せかけて盾を掴み、俺は掴んだ盾を力任せに奪い取った。

 盾を腕に固定していた革のバンドがちぎれ、盾を持つためグリップから聖騎士の手が外れる。俺はそうして奪い取った盾で、兜の上から聖騎士の頭をビンタするようにぶっ叩いた。その衝撃で脳を揺らされて、その場に倒れこむ聖騎士。


 即座にもう一人の盾を持っている騎士が俺へと盾を構えて体当たりを仕掛けてくる。

 仲間のカバーのつもりだろうけど、本当の狙いは違う。その後ろで槍を持った二人の聖騎士が配置についている。おそらく、盾持ちで俺の動きを押さえつけ、その隙に槍で串刺しにしようとか、そんな考えだろうね。

 俺は奪い取った盾を槍を持った聖騎士の片方に投げつける。その直撃を食らって槍持ちの片方の動きに遅れが生じる。

 そして俺は続け様に盾を構えて体当たりしてきた聖騎士の盾を殴りつけ後退させると、結果的に一人で攻撃してきた形になった槍持ちの聖騎士が突き出してきた槍に対して、踏み込んで穂先を躱しながら柄を掴み、俺の方へと引き寄せる。だが、槍持ちの聖騎士が咄嗟の反応で持っていた武器を手放した。

 その瞬間、俺は丸腰になった騎士の懐に飛び込み、鎧の上から騎士の胸を殴りつけ吹っ飛ばす。


 二人目を倒した俺を、俺の拳を受けて後ずさっていた盾持ちの聖騎士が態勢を立て直し、見据える。

 そうして目が合い、相手が動き出そうした瞬間、俺は飛び出すと、滑り込み、盾を構えた聖騎士が守れていない足を払い転倒させる。そして、転倒した聖騎士の頭を拳で殴りつけて意識を刈り取る。


「貴様っ!」


 槍を持った聖騎士が仲間を倒されたことに激昂して無策で突っ込んでくる。

 突き出された槍の穂先を掌ではたき落とし、俺は懐に飛び込むと、脚を払って転ばせる。

 その際に手放したそいつの槍を拾い上げ、俺を狙っていたクロスボウ持ちにうちの片方に投げると、そいつは矢を撃つことも忘れて、その場から回避する。同時にもう片方のクロスボウ持ちがボルトを撃ってくるが、一本だけで、しかも何処から飛んでくるか分かってるのなら簡単に掴み取れる。

 俺は矢を掴み取ると同時に転ばせた聖騎士の身体を引き起こし、自分の盾にする。


「待て、撃つな!」


 剣を持った二人の聖騎士が魔術を放とうとしていたが、俺が仲間を盾にしているのを見て、攻撃を躊躇う。その隙を突いて、俺は掴み取った矢を剣を持った聖騎士の片方に投げつける。

 俺が投げた矢は鎧の隙間に突き刺さり、剣を持った聖騎士の片方が呻き、もう片方の視線が傷を負った隣に立つ仲間に向かう。その瞬間、俺は盾にしていた聖騎士の背中を蹴飛ばして転倒させると同時に、視線を俺から外した聖騎士に飛び掛かり、兜で覆われた顔面を殴りつけ意識を奪う。

 即座に俺の投げた矢を食らった聖騎士が剣を振ろうとするが、その剣より素早く俺の蹴りが頭に決まって、剣を持った聖騎士二人は倒れた。


「たった一人に不甲斐ない!」


 とうとうナサニルが動く。

 残っている味方はクロスボウ持ち二人と盾持ちの一人だ。

 自分が動くしかないと判断したんだろうね。


「キミも不甲斐ない奴らの仲間入りすると思うぜ?」


「ほざけ!」


 ナサニルが剣を抜き放ち、距離を詰めてくる。

 その得物は以前に見た長剣とは異なり、所謂レイピアのような細剣だった。


「付け焼刃で新しい得物にしても、俺には勝てないぜ?」


 俺が挑発的な言葉を放った瞬間、ナサニルの持つ細剣の切っ先が消える。

 そして次の瞬間、俺の頬を裂けて血がこぼれた。


「私の本来の剣はこちらだ」


 剣を前に突き出した独特な構えから、ナサニルの剣が高速で突き出される。

 針のように細い剣身は鞭のようにしなり、不規則な太刀筋を描いて素早く動く切っ先が、刺突の軌道を読ませない。

 俺は手で剣を払おうとするが、その手をすり抜けて、ナサニルの細剣が俺へと届く。

 突き刺さりはしなかったが、細剣の切っ先が俺の額を掠め、額から流れた血が俺の視界を赤く染める。


「なるほど、長剣よりこっちの方が本領ってことか」


 ナサニルは細剣を持った右腕を突き出した構えを取り、そこから右腕を伸ばしリーチを稼いだ刺突を放つ。俺はやりづらさを感じ、仕切り直すために後退しようとするが、その瞬間、クロスボウを持った聖騎士が矢を放ってくる。

 俺は拳で矢を叩き落とすが、その隙を突いてナサニルが距離を詰めながら細剣で突いてくる。俺は咄嗟に手で剣を弾こうとするが、その俺の動きを見てナサニルは細剣をしならせ、突き出した俺の腕に鞭で打つように剣を振るいながら、バックステップで俺から距離を取る。


 そうして互いの間合いが開いた時には俺の腕には浅い斬り傷がついていた。

 レイピアは細くても刃がついている。普通の剣のようにぶった斬るってのは難しくても、相手の肉を裂くくらいは簡単だから、この傷もおかしくはない。


「結構、強いじゃん。リィナちゃんに絡んでる時は雑魚かと思ったけど、この感じだと普通に戦ったらリィナちゃんは勝てなさそうだ」


 リィナちゃんに対抗心を持ってるように見えたけど、ここまでの感じだとリィナちゃんを意識する必要なんか無いほど強いと思うんだけどね。でもまぁ、俺に勝てるほどは強くはないけど。


「貴族の決闘ならともかく、回復もありの真剣勝負でその武器のチョイスはどうかと思うぜ」


 命までは取らない貴族の決闘なら相手に血を流させたら勝ちだから、勝負は決まってるんだけどね。

 でも、今は真剣勝負だから相手に掠り傷を負わせるだけじゃどうにもならないぜ? そんでもって、地球と違って、傷を即座に回復させる手段がある以上、細剣は相手に負わせられる傷の深さで圧倒的に不利だ。


「偉そうな口は私を倒してからにするべきだとは?」


 ナサニルが右腕を突き出した構えから右手の細剣での刺突を放ってくる。

 100%倒せる相手にも偉そうな口を聞いては駄目ですかね? そう訊ねるより先に俺は突き出された細剣の切っ先に自分の掌を合わせる。剣身がしなるせいで叩き砕くってのは無理。それに掴むのも剣が逃げていくから無理。となれば──


「自分の手にぶっ刺して止めるのが一番だよな?」


 ナサニルの細剣が俺の左の掌を貫いた。

 即座に剣を引き抜こうとするナサニルだが、俺はそれより素早く距離を詰める。

 だが、接近した俺を見てもナサニルは動じる様子は見せず、空いてい左手を腰へ伸ばし、そして──


「かかったな」


 ──ナサニルが隠し持っていた短剣を腰から抜き放つが、その短剣が俺に届くより先に俺はナサニルの左腕を右手で押さえつける。


「細剣で牽制しつつ、短剣でグサリは良くある戦法なんだよなぁ」


 ま、最初からこういう攻撃パターンが来るってのは想定済みだったってことさ。

 俺はそれをナサニルに伝え、そして武器を持った両腕を俺の両手で抑え込まれたナサニルの顔面に頭突きを叩き込んだ。

 鼻が折れて、衝撃で上半身を仰け反らせるナサニルはたたらを踏んで後ずさる。右手に持った細剣から手を放し、ナサニルの武器は短剣だけ。

 ナサニルはやけくそといった感じで、唯一の武器の短剣を明らかに刃が届かない間合いから振るおうとするが──


「もう少し演技を上手くした方が良いね」


 俺は自分からナサニルの短剣の間合いに入る。


「この距離の方が嫌だろ?」


 至近距離でナサニルと眼が合う。その瞳に映っているのは純粋な驚きだ。

 直後、ナサニルの短剣が魔術によるものか水の刃を帯び、長剣の長さとなるが、短剣の間合いではそれを振り抜くことはできない。

 短剣と油断した所を狙い、魔術で作った刃で俺を斬ろうとしたんだろうけど、そうやって騙すなら、もう少し間合いとか、短剣の振り方とか気を付けるべきだったね。


「ま、それは今後の課題ということで──」


 敗因は分かるだろうから説明はしなくても良いだろう。

 俺はそれ以上は言わず、代わりにナサニルの顎先に拳を叩き込み、その体の自由を奪う。


「で、隊長さんはこの通りだけど、キミらはどうする?」


 俺は残った聖騎士達に訊ねる。

 すると、残っている三人の聖騎士は武器を捨てて、手を挙げ降参のポーズを取る。

 まぁ、賢い判断だね。俺的には好きじゃないけど、自分の好みじゃないからって相手の判断を否定するのは、それこそ俺の好みじゃないんだよね。


「じゃ、キミらは他の参加者に見つからないようにしといた方が良いね。倒れてる味方も隠してさ」


 戦った相手が俺だったから命までは奪われずに済んだけど、同じことをゼティやセレシアにやったら皆殺しになってたぜ?


「……我々は貴方を殺そうとしたのに、貴方は我々を生かすつもりですか?」


 おや、ナサニル君。口を聞けるんですか?

 もう少し強くぶん殴っておいた方が良かったかな?


「いい加減、覚えてもらいたいもんだね。俺は必要な時以外はなるべく人を殺さないようにしてるってことをさ」


 俺は必要に迫られたら善人でも殺すし、必要がなければ、どんな悪人だって殺さないぜ。

 例え、俺を殺そうとした奴でも、俺は必要が無ければ殺さない。そんでもって、俺は人間相手だったら基本的に殺す必要を感じないから、ナサニル達だって見逃すさ。


「ま、生かしてやってんだから頑張って鍛えて復讐しに来てよ。俺としてはそっちの方が楽しいから生かしてんだからさ」


 戦った奴をみんな殺してたら、そのうち戦う相手がいなくなっちまうしね。

 殺しを避けるのは俺の好みの問題もあれば、実利的な事情もあるって話さ。


「ぶん殴る時だって、後遺症が出ないように気を遣ってんだしさ。なるべく早く復讐に来てくれよ」


 人間相手の時は取り返しのつかない怪我は負わせないようにしてるんだよね。

 骨を折る時だって可能な限り綺麗に折ってやってるし、目とかを潰すのも頑張って避けてる。

 ──まぁ、そのせいで俺と戦っても大怪我しないって気付いたイグナシスの剣士連中が躊躇なく挑んでくるようになったけどね。


「じゃあ、俺は行くぜ? 俺以外の奴に見つからないようにちゃんと隠れてろよ?」


 俺みたいに容赦してくれる奴ばかりじゃないからね。

 そこんところ考えながら、喧嘩を売った方が良いぜ。

 さて、少し時間を食ったし、他の奴も追いついてきそうだから、少し急ぐとしようか。


 ──そうして、俺は最深部を目指してダンジョンを進むことを再開する。

 どうやらナサニル達との戦闘というタイムロスがあっても、俺は一位のままだったようで、ナサニル達以外に誰とも遭遇しないまま、ダンジョンの最下層に辿り着いてしまった。


「楽で良いといえばそうなんだろうけどね」


 ちょっと楽過ぎて面白味がねぇわな。

 こうなるんだったら、素直に他の奴らと一緒にスタートした方が面白かったのでは?

 そんなことを考えながら、俺はダンジョンの最下層を進み、その最も奥を目指す。

 最下層も迷路──とは言えねぇかな?

 赤神が面倒臭くなったのか、他の理由があるのか、入り組んだ通路もなく、幾つかの大部屋が通路で結ばれただけのフロア。それが、このダンジョンの最下層だった。


「この調子だと俺が一位通過かな?」


 俺は話す相手がいないので独り言をつぶやきながら、人っ子一人いないダンジョンの中を歩き、そしてついにダンジョンの最深部へと到着する。


 やっぱり俺が一位通過じゃないか。

 俺はそう確信し、最深部の部屋へと足を踏み入れる。

 だが、誰もいないはずのそこには──


「……何者だ?」


 俺の知らない男が既に立っており、二番目にやって来た俺を見ていた──




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