思い通りの結果
どうやら、赤神神殿が重大な発表をするらしい。
俺は何のつもりか、俺に会いに来たラ゠ギィと一緒に神殿へと向かい、その重大な発表を聞きに行くことにした。
その道すがら、俺はラ゠ギィに訊ねる。
「なぁ、シャルマーとヴィルダリオって知ってる?」
キミの所の関係者だろ?
つーか、キミの仲間のクソ野郎どもだよね?
そいつらが、俺を襲ってきたんだけど、俺達って協力関係じゃなかったっけ?
会う機会が無かったから聞けなかったけど、これってキミの責任問題じゃない?
「えぇ、存じておりますよ。二人とも今日もまたいつも通りの様子です」
「へぇ、そうなの」
おかしいなぁ、俺がこの間、ぶっ殺した記憶があるんだけどね。
まぁ、それはヴィルダリオの方だけだから、シャルマーはどうなったか知らねぇけどさ。
でも、二人とも生きているみたいな口振りはどういうことなんだろうね。
「お知り合いでしたか?」
「まぁね、ついこの間、殺されそうになった関係だよ」
「それはそれは」
「でもって、逆にぶっ殺してやったはずなんだけどな。なのに、どうして生きてるんだろうね?」
俺の疑問を受けてもラ゠ギィは微笑みを崩さない。
探られて痛い腹は無いってか?
「貴方が始末したというのは我々の名を騙る偽者だったのでしょう」
「へぇ、キミらって特定の個人を騙る偽者が現れるくらい有名な集団なのかい?」
宣教師ってのは秘密の組織だとばっかり思ってましたよ。
まぁ、表向きは布教のための組織を装っているんだろうけど、それだったら尚更、個人の名前を騙るのはおかしいよなぁ? 「自分達は宣教師」ですって言うんなら分かるけどさ。
「一部では有名なのかもしれませんね。もしくは我々自身も知らない所で名が売れているのか」
「そりゃいいね。自分で喧伝せずとも勝手に自分の良い評判が広まっていくとか、あやかりたいもんだぜ」
どう見ても、嘘は吐いてるよなぁ、この野郎。
どういう類の嘘なのかは知らねぇけど、嘘を吐く理由は、シャルマーとヴィルダリオの勝手のせいで俺に負い目が出来たってことくらいか。協力関係を築いている内は手を出さないって約束を言いだした方が反故にしてるんだもんね。俺にどんな難癖付けられるか分かったもんじゃないから、シャルマーとヴィルダリオが俺を襲った事実は無いものとしたいんだろう。
でもまぁ、俺に難癖付けられたところで、そうなった場合は正面切って俺と戦えば良いだけの話だと思うけどな。そういう思い切りをしてくれた方が俺の好みなんだけどね。
……いっそ、余計なことを考えなくて済むようにしてやろうかな?
「なぁ?」
俺は声をかけるのに合わせて、隣を歩くラ゠ギィの顔面に裏拳を放った。
しかし、その拳をラ゠ギィは軽々と掴み取り、受け止めた。
「何か?」
ラ゠ギィは余裕の面だ。
前にテメェが俺に喧嘩を売っていなければ、余裕で好きになってたよ。
「ちょっと虫がいたみたいだ」
「そうですか」
声と同時にラ゠ギィが隣を歩いていた俺の足を自然な動作で踏みつける。
うっかりを装っているが、並みの奴だったら足の骨が砕ける威力だ。
でもまぁ、俺は並みじゃないから、踏まれても余裕さ。
「これは失礼」
「いやいや、気にすんな。キミが軽すぎて踏まれたことにも気付かなかったよ」
女の子相手だったら気取った言葉になるかもしれないけど、男相手だと、言われてどんな気持ちになるんだろうね。まぁ、良い気持ちじゃないのかもね。だって、ラ゠ギィは一瞬だけど鋭い目で俺を睨んだしさ。これなら、もう少しでキレるかな? それじゃあ、もう少しちょっかいをかけてみようか──
「つきましたよ」
もう少し仕掛けようと思ったら目的地に到着してしまいましたとさ。
まぁ、機会はいくらでもあるし、いずれ必ず戦ることになるから、今はやめておくか。
そんなことよりは今は──
「随分とまぁ、殺気立ってんなぁ」
神殿前の広場は以前に来た時とは全く違って殺伐とした雰囲気に満ちていた。
以前は神殿の発表を期待し心待ちにしていた感じだったのに、今日は発表の内容次第では許さないって感じにも見える。
原因はなんだろうね? まぁ、分かってんだけどね。それに、こうなった元凶が俺の隣にいるしさ。
「何か?」
「キミが悪い奴だって暴露しようかなぁって思ってただけだよ」
「それはやめていただけますか?」
まぁ、やらねぇけどね。
つーか、言っても信じてもらえねぇだろうし。
「贋コインはイグナシスの経済にも影響を与えてるみたいだね」
俺はその元凶のラ゠ギィを見ながら言う。
剣神祭に出場するための聖貨は、買い取って現金に換えてくれる剣術流派やら白神教会があったせいで、イグナシスの一部では通貨の代わりになっていたみたいなんだよね。
一応レイランド王国の貨幣もあったけど、確実に換金できる先があったこともあってか、剣神祭のコインでの支払いを許してる店とかもあったとか。
だけど、贋コインが出回ったせいで、剣術流派や白神教会がコインの買取をやめたせいで、換金先が無くなったから、誰もコインでの取引をしなくなった。中にはコインの換金相場が高くなる時を見据えて、溜め込んでいた奴もいて、そいつは贋コイン騒動でコインの取引が無くなったから大損をこいたりもしている。
まぁ、とにもかくにも損をしてる奴が多いってことだ。
で、損をした怒りをどこに向けるかと言うとコインの管理をしている赤神神殿に向けるしかない。
神殿がもっとちゃんとコインの管理をしていれば自分達が大損をこく羽目にはならなかったと不満を抱き、この場にいるってことだろう。
「ま、俺らはコイン関係についてはどうでも良いんだけどさ」
それで損してるわけでもないしさ。
「トドメを刺したのが自分だという自覚の無い言葉ですね」
ラ゠ギィが自分ばかりが悪者にされるのが面白くないのか、そんなことを言いだした。
「おいおい、俺は何もしてないぜ。俺がやったことは贋物とか本物か分かる薬を売ってただけだってのに」
「その薬の効果が全くのデタラメであっても何もしていないと言えますか?」
なんだよ、分かってんじゃない。
実際、俺が売っていた薬は贋物か本物か分かるもんじゃないんだよね。
コインに薬を塗って少しでも赤い色が出たら贋物って説明はしたけどさ。でも、実際の所は本物でも赤色に変色する反応は出るんだよ。だって、俺の売ってた薬って手垢とかの酸性の汚れとかに反応して色が変わる薬だからさ。コインを手で触ってたら、それだけで本物だろうが贋物だろうが赤色に変わっちまうんだよね。
「あの薬のせいで、イグナシスの人々は自分の持っているコインに贋物があると思い込み、コインの価値を暴落させた。それでも何もやっていないと?」
人の多いところでする話じゃねぇよなぁ。まぁいいけどさ。
言い返しはしねぇけど、俺はキミの悪巧みに乗っただけだぜ?
後に乗った俺だけを悪者に仕立て上げようとするのはいただけないなぁ。
「……そろそろ始まるようですね」
ラ゠ギィもこれ以上、この場で話すことじゃないと思ったのか話題を打ち切り、顔を前に向ける。
俺も同じようにして、神殿の中から赤神の神官が出てくるのを眺めることにした。
そうして、始まる神官たちの発表──まぁ、内容は言い訳だったけどさ。
贋のコインが氾濫してる現状は神殿も想定していなかったものだった。
イグナシスの人々の損失は神殿が今後、長い時間をかけて補償していく。
まぁ、ここら辺は俺らにとっては関係の無い物で、重要なのはここからだった。
「剣神祭の開催についてですが──」
赤神神殿の神官長のエルフが顔を強張らせながら言う。
さぁ、どうなるだろうね。ここで延期になったら最悪の展開だが、そんな心配は無いだろう。
贋コイン問題でイグナシスの経済はヤバいことになってるから、剣神祭を開催して外からの金で経済を立て直したいって、イグナシスのお偉いさんたちは思っているはず。そんなお偉いさんの意向に逆らえない神殿と神官は剣神祭を開催するのは間違いないはずだ。
「剣神祭は予定通り、開催いたします」
その発表が出た瞬間、神殿前の広場にいた民衆のブーイングが鳴り響く。
そりゃそうさ。このまま開くのは許されねぇよな。
このまま開催するってことは、コインを集めた枚数で出場者を決めるってことだろ?
グランベル流って有名流派で贋のコインが出たって噂もあるのに、コインの枚数で出場を決めて良いのかい?
贋物だけ集めてるかもしれないのに、それでも枚数だけで出場者を決めて良いのかい?
そうはいかねぇよなぁ。
「ただし! 今回は贋の聖貨などの事情もあるため、剣神祭出場に際して聖貨の獲得枚数を条件にはいたしません!」
神官長が顔を真っ赤にして叫ぶ。
すると、広場に集まっていた民衆は不満を叫ぶだけから神官長の言った言葉の意味を考えるために静まり返り、そして静寂を迎えた広場に神官長の叫びがこだまする。
「また、その変更に際して、剣神祭出場者の選抜は特例として予選を行うこととします!」
よし! これを待ってたんだよ!
だよなぁ、ラ゠ギィ君?
「望んだ通りの展開になりましたね?」
「キミの方もだろ?」
俺とラ゠ギィは神官長が言ったように出場者を決めるのに予選を行うという形にするために頑張ってきたんだよ。
普通にコインを集めても出場するのは無理だと思った俺達はそもそものコインを集めるっていうルールを
ぶっ壊す方へと方針を変更し、予選を行わせる方向へ向かうように色んな工作をしてたんだよね。
コイン集めは地盤と時間が無きゃ無理だが、予選って形式だったら、俺達なら何とでもなるからさ。
「予選の内容については後日、詳しい情報を近いうちにお伝えします」
神官長はそれから細かい連絡事項を喋って神殿の中に戻っていった。
剣神祭の本戦を予定通りに行わなきゃいけない以上、予選はすぐに始まるだろうね。
恐らく2、3日以内に情報が出て一週間以内に実施かな?
「どのような予選になると思いますか?」
広場にいた民衆は、その場に留まって予選会の話をしている。
俺とラ゠ギィはその中に紛れて、その場の連中と同じような話をしていた。
「ま、想像はつくけどね。それはキミも同じだろ?」
予選って言ったって急に会場を準備することは不可能。
でも、それは人間の手ではって話で、人間にできないことをしてくれる神様がイグナシスにはいるし、その神様が剣神祭を求めている。
ということは、事情を話せば神様の方で会場くらいは用意するだろう。でもって、神様──赤神が自由に操ることができて、予選の場として用意できそうなところと言えば──
「……私には想像もつきませんね」
良く言うぜ、この野郎。
ま、そっちがとぼけるつもりなら、俺も何も言わねぇよ。
「しかし、よくイグナシスの剣術流派が予選会の開催を了承しましたね」
「そうかい? 俺はむしろ各流派の方がそうして欲しいって言ったんじゃねぇかなと思ってるよ」
俺は賭け試合をやってたらから分かるけど結構な武闘派が多かったから、予選みたいな形で競い合うのに抵抗は無いんだろう。それにグダグダとやって、コインの枚数での剣神祭の出場をゴネてたら、イグナシスの街の連中から臆病者とか思われるし、贋コインを貯めてた奴らとか思われそうだしな。
メンツにこだわる連中にとってはその方が嫌だろうから、予選でも何でもやって自分達の流派の実力を見せるって方が現状ではメリットが多いって判断したんじゃないかな。
「ま、なんにせよ、予選が開かれるならそれでいいさ」
「えぇ、そうですね。引き続き協力していきましょう」
ラ゠ギィが俺に笑いかけて握手のために手を差し出してくるので、俺も笑ってその手を握る。
良いよね、こういう協力関係ってさ。ぶち殺したいほど嫌いな敵とも共通の目的があれば手を取り合い支え合えるんだから、素晴らしいと思わないかい?
「それでは予選の会場で」
「ああ、またな」
ラ゠ギィと俺は握手し、ラ゠ギィはその場から去って行った。
そして俺がそんな協力者の背中を見ながら思うことはというと──
──馬ァ鹿。
協力関係? んなもん、ここで終わりだっての。
予選さえ始まっちまえば、後はこっちのもん。もうテメェの協力なんかはいらねぇんだよなぁ。
本戦に出るまで協力? 予選の時にキミを潰しちまった方が楽じゃねぇか。
キミだって、本当はそう思ってるだろ? お互い考えることは同じさ。
さぁて、予選会が楽しみになって来たぜ。




