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鉄の墓場

 

 今日もまた新しい朝が来た。

 俺は朝日に誘われて、ねぐらにしているイグナシスの街中の廃墟から這い出る。

 俺の今のねぐらは先日シャルマーとヴィルダリオによって破壊された街の一画に廃墟だ。俺は宿が好きじゃないんでね。瓦礫の中に寝床になりそうな場所を見つけて、そこに住んでいる。


 灯りも何も真っ暗な瓦礫の中に鼠みたいに入り込み、硬い床に座って寝るってのは郷愁に浸れていいぜ。人間時代もこんな感じだったし、殺伐としてた頃の自分も思い出せる。

 人間時代の最後の方は顔が売れすぎて、どこのホテルにも泊まれなくなってたしさ。仮に泊まれても、三十分後には現地の警察だったり軍隊だったり、俺の懸賞金を狙ったギャング、果ては一般人ですら、俺の泊まってる所に襲撃かけてきたくらいだったからな。

 もう、宿に泊まるより野宿の方が落ち着くくらいだったし、今もその時の感覚が抜けてないみたいだ。

 まぁ、そんなことを思いだしたり、再認識してても仕方ねぇし。そもそも、どうでもいいことだよな。

 今は現在いまのことを考えよう。


 ──で、考えるべき、現在の問題はというと……


「カイル君いますかぁ?」


 俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。

 俺は建物の中に入り、カイル君がいないか自分の目で探す。


「いや、出入り禁止って話だった筈ですけど……」


 ギルドの職員の女の子がウンザリした様子で俺に話しかけてきた。


「昨日は出入り禁止だから座り込みしてるって言ってたのに、何で今日は乗り込んでくるんですか……」


「だって、そっちの方がキミらは嫌がるだろ?」


 時と場合に応じて攻め方を変えるのは普通だろ?

 嫌がらせも考えようによっては攻撃なんだから、パターンを変えるのは当たり前だと思わないかい?

 つーか、そもそもキミらが出禁と宣告した所で、俺がそれに素直に従うと思ってるなら、俺に対する認識が甘いね。


「……はぁ、もういいです。好きにしてください」


 職員は諦めたように言う。

 うーん、あっさり引き下がられるとつまらねぇな。

 じゃあ、ギルドの中にいる奴らはどうかな?

 正義感の強い奴が俺に食って掛かってきたりしないかね?

 良いぜ? 今の状況は誰がどう見ても俺の方が悪者なんだし、気兼ねなく気持ちよく倒せる相手だと思うぜ? まぁ、俺と喧嘩して倒せるならだけどさ。


「──なぁ、俺の事どう思う?」


 俺はギルドの中にいた冒険者の一人に近寄り、肩を組んで訊ねる。

 ちょっと反応が遅いね。されるがまま、俺に接近を許すとかさ。


「寄るな」


 冒険者は密着した俺を突き飛ばそうと腕を出すが、その腕は空振る。

 そいつが動こうとした瞬間には俺は既に距離を取っていたからだ。


「キミ、のろまって言われないかい?」


「フンッ」


 俺の問いに答えることなく冒険者は鼻息荒く、その場から去って行った。

 俺は他の奴にも俺の事をどう思うか訊ねようとしたが、ギルドの中にいた冒険者は俺と関わりあいになりたくないようで、俺から目を逸らしてそそくさとギルドから出て行ってしまう。


「なんだよ、つまんねぇなぁ」


「アナタがいると仕事にならないんですけど」


 仕事にならないなら今日は休んじまおうぜ?

 なんだったら、俺と一緒に遊びにでも出かけるかい?

 俺も暇だから──


「──すいません、何かあったんですか? みんな出ていってるみたいで……」


 残念、暇じゃなくなってしまったぜ。

 入り口の方から聞こえてきた声の主を見ると、そこにいたのはカイル君だった。

 カイル君は俺の姿を認識した瞬間──


「すいません、急に体調が悪くなったので帰ります」


 すぐさま俺に背を向けてギルドの中から出て行こうとする。

 俺は好きにすりゃ良いと見送る。だって、出て行ったとしても追いかけりゃいいだけだからね。

 しかし、ギルドの職員はそういうわけにはいかなかったようで、必死の形相でカイル君を呼び止める。


「待って、アッシュ・カラーズ担当係!」


 冒険者ギルドには俺を担当する係ってのがあるんだね。

 俺に付きっ切りで俺のお世話でもしてくれんですかね? それとも俺の監視かな? まぁ、どっちでもいいけどさ。


「うぅ……」


 おや、カイル君が振り返って戻ってきた。

 かなり悩んでる顔だけど、見捨てるわけにはいかないと思ったのかな?

 素晴らしいね、そういう善良な所は好きだよ。


「探してたんだぜ、カイル君」


 俺は動作の気配を消してスッと近づき肩を組む。

 だが、そうしようとした俺の腕はカイル君の身体に触れることなく空振った。


「できれば、近づかないで欲しいんですけど」


 カイル君は何時の間にか俺と距離を取っていた。

 俺が距離を詰めるのを見極めて、俺から逃げたってことか。

 俺も本気だったわけじゃないけど、カイル君は俺の動きに反応できたってことになる。

 いいね、好きになりそうだぜ。


「逃げんなよ。仲良くしようぜ?」


「勘弁してください」


 カイル君は本気で嫌がってる様子だ。

 まったく、そんなに嫌われるようなことをしてるかね。

 俺と関わると厄介事に巻き込まれるから退屈しないと思うけどね。

 俺がカイル君の立場だったら、俺みたいにトラブルを持ってくる奴とか大歓迎なんだけどね。

 でもまぁ、何を喜ぶかは人それぞれだから、俺の基準で語るのは良くないか。


「探していたって言ってましたけど、何の用事ですか?」


 どうやらカイル君は俺と雑談をする気は無いようだ。

 しょうがねぇ、俺もさっさと用件を言うとしよう。


「ちょっと探し物があるんだけど手伝ってくんない?」


 カイル君は露骨に嫌そうな顔になったが、そんなカイル君に俺は細かい説明をし、そして──


「この辺にありそうなんだよなぁ」


 ──カイル君と会ってから数時間後、俺はカイル君のパーティーと一緒にイグナシスの街の外にいた。

 場所はイグナシスの街がある山から北に一時間ほど歩いたところにある窪地。そこに俺とカイル君、ギドクロエ、コリスの五人で訪れていた。


「ここが『鉄の墓場』……」


 カイル君が窪地を見下ろしながら、この場所の名を呟く。

 イグナシスの住人がその名をつけた理由は見てわかる物で──


「うわ、すげぇ。ほんとに武器や防具が捨てられてるぞ」


 ギドが窪地を見下ろしながら興奮を隠さずに言う。

 鉄の墓場という名がつけられている理由は武具の廃棄場所だからだ。

 ここにはイグナシスの鍛冶師や剣士たちが武器を捨てに来る。そして捨てられた武具は積み上げられ、窪地を幾つもの武具の山を作り上げている。


「私は魔術士だから良く分かんないけど、武具って再利用したりしないの? ていうか、鉄をそのままって勿体ないんじゃない?」


 クロエちゃんが疑問を口にしたので、このあいだ知った知識をさも昔から知っていたような口振りで話すことにした。


「イグナシスの鉱脈は尽きることが無いらしいからね。無限に材料が取れるんなら、材料を大事にする必要も無いんだろ」


 鉱脈が枯れないってあり得るのかって疑問を抱きそうになるけど、案外そういう世界は多いんだよ。

 鉱物資源に限らず地下資源全般が枯渇しない世界。ほっとくと地の底から鉱脈が生えてくるみたいな感じにしてる世界とかね。

 例えば、ゲームとかで採取ポイントがあったりするが、あれは少し時間を置けばまた取れるようになる。それと同じことを現実でやってる感じが、資源の枯渇しないタイプの世界だ。


「へぇ、そうなんだ」


 疑問は持ってたみたいだけど、そこまで答えを知りたかったわけじゃなかったようで、クロエちゃんはあんまり興味が無い様子だ。


「本当にここに探し物があるんですか?」


「その筈なんだけどね」


 俺はイグナシスの連中から鉄の墓場って場所があると聞いてピンと来たんだよ。

 実際、ここに来てみたら俺の探してる物の気配はあるんだけど──


「どこにあるかまでは分かんねぇんだよなぁ」


 見下ろしてても仕方ないし、とりあえず降りてみよう。

 そう提案して、俺は窪地へと降りる。


「……近づいてみると凄い……」


 窪地の中に降りると、コリスちゃんが無表情のまま呟く。

 周囲を見回すと折れた剣や槍、壊れた鎧が辺り一面に散らばっており、また、それらが積み上げられたことで出来上がった小高い丘が幾つもあった。


「えーと、この中から何か見つけるって?」


 ギドが積み上げられた武具の山に近づき、それに手を伸ばすが、触れたと同時に手を引っ込めた。


「けっこう切れ味あるし、この山の中から何かを取り出すとしたら大変だぜ?」


「……錆びた刃物で傷を負うと大変」


 そりゃあ大変だね。

 でも、俺はそういうことを承知でキミらに頼んでるんだよなぁ。


「俺は依頼人として冒険者のキミらに頼んでるんだぜ? 大変でもちょっとは頑張ってもらいたいね」


 俺がそう言うとカイル君は溜息を吐き、そして不承不承といった態度を崩さずに言う。


「依頼された以上は頑張りますけど、まず何を探してるのか教えてもらいたいんですけど」


 あれ? 言ってなかったっけ?

 言ってなかったかもなぁ。じゃあ、教えとかないとどうにもならねぇよな。


「俺がキミらに探してもらいたいのは剣だよ」


「剣ですか?」


「そう、俺の剣。それがここにありそうな気配があるから、見つけて欲しいってのがキミらへの依頼さ」


 正確には刀だけどね。でも刀って言って通じるかは分からねぇし、剣って言っておくことにした。

 前にイグナシスの武具店に行ったときに、イグナシスの近くのどこからか俺の刀の気配を感じるって出来事があったからね。イグナシスの近くにあるってことはおそらくだけど間違いは無い筈なんだ。


「……剣をこの中から探す?」


 カイル君の問うような言葉に合わせてカイル君のパーティーの全員が絶望的な表情を浮かべる。

 辺りには一万本以上の剣と鎧の破片が山のように積まれていて、その山が幾つもある。俺はこの中から一本の剣を探して欲しいって頼んだんで、絶望的な表情になるのも仕方ないかな。


「何か手掛かりとか無いと、ちょっとそれは無理なんじゃないかな……」


 絶望した顔のクロエちゃんが弱気なことを言っている。

 無理かどうかはキミらが決めることじゃないと思うんだけどね。

 無理かどうかは依頼人の俺が決めることだよ。

 まぁ、流石に何の手掛かりも無しに剣と言っても見つけるのは無理だろうし、ちょっと手助けになるような物を用意してやろうか。


 そんなことを考えながら、俺は地面に落ちていた剣の破片を拾い上げると、それに自分の内力を流し込み、そして剣の破片で自分の掌を斬り、流れ出た血を破片の先端に塗りつける。


「紐みたいなものくれない?」


「……ん」


 俺が言うとコリスちゃんが紐をくれた。

 俺は破片に紐を括りつけると、紐の端を持ち、剣の破片を紐で吊るす。


「方位磁針って知ってる?」


 俺がカイル君たちに訊ねるとカイル君たちは首を横に振る。

 そもそも、この世界が地球と同じようにN極が北を指すとは限らないしね。

 となると、方位磁針みたいに──って説明は無理だね。

 とりあえず俺は同じものをカイル君たちの人数分つくり、それぞれに渡す。


「まぁ、原理はともかくとしてキミらに渡した紐で吊ってる破片は俺の探してる剣の方を示すから、それを手がかりに探してくれ。まずは全員の破片が向いている方を確認な」


 カイル君たちに渡した破片の俺の血を塗りつけた先端は一様に同じ方向を向いていた。


「じゃ、その方向を探してちょうだい。それじゃあ後はよろしくね」


 手掛かりになる道具も渡したんだから、頑張って依頼を果たしてくれよ。俺は帰るからさ。


「ちょっと待ってください。僕達だけにやらせるんですか?」


「そりゃそうでしょ。俺はキミらに依頼したんだぜ? 依頼人が一緒になって探すのってどうなんだい? それしたらキミら必要ないじゃん」


 まぁ、そもそも俺はこういう地道な作業は嫌いなんでね。

 でも、それをハッキリと口に出さないという分別はあるぜ。

 だから、俺はこういうのさ。


「俺は忙しいんでね。後はキミらに任せるぜ。頑張って、俺の剣を探してくれよ」


 実際、忙しいんだけどね。だから、こういう作業はカイル君たちに任せる他ない。

 後はカイル君たちに任せて、俺はさっさとイグナシスの街に帰るとしよう。




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