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真実と間違い

指先を怪我してキーボードを打つのが大変なので更新ペースが落ちます。

 

「それで、誰が僕の兄なんだい? 教えてくれよ」


 シウスが俺に訊ねる。さて、どうしたものか。

 カイルが貴方の弟ですよって言ってみても良いんだがな。

 確証は無いけど、俺の勘ではカイルはただの冒険者ではなさそうな言動や物腰、雰囲気を持っているから、伯爵の隠し子である可能性は高い。だが、それを知った場合シウスがどうするかだ。

 街の様子を見る限り、マトモな奴ではないよな。ラザロスの代官は奸臣に操られていると言ったが、こうしてシウスと顔を合わせてみると、その可能性は少ないように思える。シウスの眼差しには強烈な自我が感じられて、そんな人間が誰かに踊らされるとは到底思えない。

 そうなるとイクサス伯爵領における圧制や街中でみた非道な行いは全部シウスの意思でやっていることになるので、それはそれで別の問題が生じてくるわけだが。


「知ったところで僕は何もしないさ。身の安全は保障してやるよ」


 そうは言ってもなぁ。

 俺は俺と一緒に領主の息子の前に突き出された他の連中の様子を窺う。

 カイル達は顔面蒼白のままシウスに対して跪いている。そういえば、何も事情を話してなかったな。なんの関係もないジョンがこの場にいるのは流石に可哀想だと思うね。

 俺とゼティは突っ立ったまま、お互いに顔を見合わせる。


「無礼だぞ!」


 さっきまでヘラヘラとしていたギースレインがシウスの前に来るなり急に真面目になって、領主の息子で領主代行をしているシウスに対して頭を下げないことを叱ってくる。

 そうは言っても、俺らは領主の息子相手に下げるような頭は無いんだよな。俺なんか生まれてこの方、一度だって誰かの下についたことは無いわけだし、今更こんな程度の奴に頭を下げるってのはなぁ。俺が頭を下げるのは悪いことをした時だけだぜ?


「構わん、好きにさせろギース」


 シウスがそう言うとギースレインは口を閉じる。言いなりかよカッコ悪いなぁ──なんてことは思わない。

 俺はギースレインのように人に従って生きるってことが出来なかった人間だし、それが出来るのは凄いと思う。煽りじゃなくサラリーマンとか立派だなぁって思うよマジで。

 俺に出来ないことやってる人間ってのは尊敬に値すると思うしさ。


「もういいから、勿体ぶらずに、さっさと僕の兄上を教えてくれよ」


 そんなに頼みこまれたとあっては、教えないわけにはいかないなぁ。まぁ、実際はそんなに頼まれてるわけでもないけどな。


「そこのカイルってのが伯爵の隠し子だと俺は思う」


 俺は素直に教えることにした。

 隠したって話がこじれるだけだし、さっさと教えて相手の出方を窺う方が俺の性に合ってる。

 俺の言葉に驚くカイル達。つっても、本当に驚いているのはカイル本人で他のギドやクロエ、コリスなんかは驚きつつも納得したような顔をしている。全く無関係のジョンに至っては周りが驚いているから、凄いことなんだろうって思ってノリで驚いているようにも見える。


「なるほど、確かに言われてみれば気品のある顔立ちだな。物腰もどことなく高貴な感じがする。どこぞの貴族の御落胤と言われても納得できる」


 シウスはカイルを眺めつつ、そんな評価を下す。となれば、カイルが伯爵の隠し子で間違いないかと、俺がそう思った時──


「しかし、気になるな。カイルと言ったか? お前は歳は幾つだ?」


 急に呼びかけられたカイルはしどろもどろになりながらも自分の年齢を答えようとする。

 おいおい落ち着けよ。相手はお前の弟なんだぜ? 兄の威厳を見せなきゃ。


「あ、う、えぇと、16歳です」


 ようやくといった感じでカイルが自分の年齢を答える。

 すると、その途端シウスの口から笑い声が漏れる。その理由は俺にも分かる。


「俺は20歳だぞ? どこの世界に年下の兄なんて存在するんだ?」


 もしかしたらいるかもしれないじゃん。最初から否定するのは良くないと俺は思うね。ちなみに俺もいないと思っているけどさ。

 いやぁ、初歩的なミスだね。そのことを全く考えてなかったぜ。カイルの年齢をちゃんと聞いておくべきだった。


「いやぁ、期待させて申し訳ないね。まぁ誰しも間違いはあるもんだから、勘弁してくれよ」


 俺はシウスに対して頭を下げる。これに関しては間違えた俺が悪いから謝っとかないとな。

 素直に間違いを認める俺にゼティが訝し気な視線を向けてくるが、俺だって間違えることはあるさ。何か裏があると思っているなら、それは俺を過大評価してるね。


「ふむ、何か隠していないか?」


 ゼティだけでなくシウスの方も俺の態度が怪しいと思ったようだ。

 他の連中は素直に俺が間違えたことを馬鹿にしてるような気配があるんだが、この二人はそうではないようだ。


「なんで、そんなことを思うんだ?」


「苦労して探した相手が求めていたのと違ったのに、なんとも思ってなさそうだったからさ」


「俺は失敗してもクヨクヨしないタイプなもんでね。既に気持ちを切り替えているのさ」


 シウスが俺に視線を向け、俺の考えを鋭い眼光で俺の心の奥を読み取ろうとしている。しかし、それも一瞬のことで、シウスは眼差しを柔らかくすると、俺に笑みを向けてきた。


「まぁ、今のところは信じよう」


 本当は信じてねぇくせにさ。


「誰でも間違えることはある。しかし、そのせいで僕の時間が無駄になったのも事実だ」


 シウスは口元に笑みを残したまま、わざとらしく天を仰ぎ見る。

 俺が勘違いしてカイルを連れてきたせいで、御立派なシウス様の御貴重な御時間は御無駄になられてしまったようで、無駄に失われた時間を思いシウスは嘆いたふりをしているようだ。

 もっとも、その矛先は俺だけでなく他の奴にも向かっているようで──


「ギィィィス。貴様は言わなかったか? 僕の兄上を見つけたと。それも確実だと言っていたなぁ。そして決して、手間を取らせないとも言っていなかったかぁ?」


 シウスはねちっこく言いながら、ギースレインを手招きする。

 ギースレインはというと、主であるシウスの命令には逆らえないようで、怯えた顔でシウスのもとに近づいていく。いやぁ、立派だねぇ、絶対にロクなことにならそうなのにさ。

 俺がギースレインを拍手してやりたい気分で眺めていると、ギースレインはシウスに頭を引っ叩かれ、椅子に座ったままシウスに蹴られる。すると、ギースレインはその場で四つん這いになって、シウスの足元に跪き、シウスの足置きになる。

 俺達に対してあれだけ偉そうな感じだったのに、シウスの前ではどこまでも従順なのは、なんだか複雑な気分になるね。そんなにシウスが恐いのか、それとも弱みでも握られているのか。


「ところで、噂で聞いたんだが、貴様は世界最強だそうだな?」


 シウスは跪くギースレインの頭に足を乗せた状態で俺に話しかけてくる。

 俺がそうだと答えるより早くシウスは口を開く。質問したが、その実まるで聞くまでもなく分かってるって感じで、俺の強さを疑っていないようだった。


「僕の時間を無駄にしたんだから、少しくらい償いをしてもらわないとな」


 それはまぁ、構わねぇけどさ。何をしてほしいんだ?

 俺が聞こうとするより早く、シウスは自分の足置きになっていたギースレインを俺の方へ蹴飛ばす。


「そいつと戦って、僕に世界最強の強さを見せてくれ。そうすれば、今回の事は忘れてやる」


「なるほど、時間を取らせた御詫びってことか」


「そうだ。まぁ余興と思ってくれていい。だが、余興といって、あまり手を抜かれてもつまらんからな。だからギース、お前は全力でやれ。そいつに勝てば、今回の不手際は見逃してやる」


 シウスの言葉を受けて、ギースレインは俄然やる気になったようで、眼の奥に闘志が宿る。

 もっとも、宿っているのは闘志だけじゃないけどさ。ギースレインの眼にはシウスに対する怒りや憎しみもこもっている。しかし、シウスには逆らえないので、その怒りや憎しみを俺にぶつけて発散しようって思いが透けて見える。


 俺としてはギースレインには恨みとかは無いし、シウスに詫びる必要も感じていないから、戦う理由は無いんだけどね。でもまぁ、りましょう。

 俺でストレス発散したい奴、俺の強さを見たいって奴。そいつらの要望には応えてやらねぇとな。







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