計画通りの展開
まぁ、良いセンスしてるよねって話だ。
これを考えたラ゠ギィっていうか、贋のコインを作った奴はさ。
細かいディテールはラ゠ギィじゃなく、そいつが考えたんじゃないかな。
ハッキリと贋物と分かるのもあれば、よく見ればわかる贋物、そして本物か贋物か簡単には見分けられないもの。最後は本物より出来が良い贋物。出来が悪いのも良いのも、おそらく計算してやってんだろう。その気になれば、全部本物より出来が良い奴を作れるんだろうけど、あえて出来が悪いものも用意している。
これは贋金づくりとその利用に関して理解がある奴じゃなきゃやらない手口だ。
それを今回のコインに応用してやがるんだろう。
「結局の所、このコインってのは信用の上で成り立ってるんだ」
まぁ、お金もそうだけど、それは今は置いておこう。
俺達が集めていたコインってのは赤神神殿が供給してるもので、神殿が価値を保証してくれるから、多くの人間がコインの価値を信用していたし、その信用があったから、出場資格としても認められていた。
「だけど、それは贋物の氾濫によって崩れた」
お金もそうだけど、贋物が溢れるほど本物の価値も下がるんだよね。
コインを、普通のお金に置き換えると、二割から三割の確率で贋金が混ざってるとしたら、そんな通貨は使いたくないだろ?
仮に俺が生まれた地球の日本で考えれば、ATMでおろしたお金に贋札が20%くらいの確率で混ざってる。コンビニのお釣りの20%は贋金だったとしたら。もう日本円とか使いたくなくなるだろうね。
悪貨は良貨を駆逐するって諺はそういうことだ。お金が消え去るんじゃなく、そのお金を使う奴がいなくなるってだけの話さ。
俺が地球で生きてた時にもたまに話題にもなってたけど、キャッシュレス決済が一般化してる国が進歩的だとか言うような風潮があったけど、実際は現金が偽造されるのが一般的なせいでマトモに使えなかったりする国もあったりして現金の信用が無いとかの事情もあったりするんだよね。
まぁ、それは今はどうでもいいか。
「このままいけば、このコインの価値はそこらの鉄くず以下になるぜ」
俺は本物のコインを一枚掴むと店の床にそれをわざと落とす。
こんな無価値なものを剣神祭の出場のために必要な物とするってどうなんだろうね?
つーか、仮に出場の条件にしたところで、誰も納得しないけどな。
「贋物の可能性が常につきまとうコインはもう信用がない。いくらでも贋物で枚数を増やせるから、コインを多く集めるという行為に価値が無くなったってこと? そのうえ仮に集めても贋物を贋物と見極めるのが難しいから、贋物だけでも剣神祭に出場できるかもしれないし、そんなの誰も認めないから、もうコインに価値は無い?」
簡単にまとめてくれて、ありがとうリィナちゃん。まぁ、概ねそんな感じ。
「──で、この状況こそが俺が望んでいたもんなんだよね」
セレシア、リィナちゃん、システラが俺を見る。
その眼差しには困惑しかないけど、こうする以外、勝ち筋が無かったんだよ。
俺も、おそらくラ゠ギィもな。
「既に勝者が決まっている盤上を崩すには前提を崩すしかない。コインの枚数で勝てないのならば、そもそものコインの価値をゼロにし、コインを集めることの意味を無くす」
俺もラ゠ギィもそんな考えに至ったってわけ。
打ち合わせなんてしてないが、考えることは同じだったし、結果的に協力し合ったことになる。
それで俺もアイツもコインの価値を下げるまでに色々と手を打っていた。
まず、コインの流通が停滞して現状を打破することを狙い、俺は賭け試合を通じてコイン集めをしていた。同じようにラ゠ギィは教会を通してコインを買い集めた。ラ゠ギィは単純に集めるだけだったが、俺の方は色んな剣術流派のメンツを潰して、それぞれの流派が他の流派からコインを奪わないといけないような状況になるようにし仕向け、そしてそれは成功した。
コインの流れが再び動き出すと、コインを貯めていた有名流派が危機感を抱き、神殿にコインを寄越すように言いだす。そこも俺の読み通り。
そして、そんなことになれば、神殿の貯蔵していたコインは無くなり、コインを持っている俺かラ゠ギィに接触してくるだろうってことも読めていた。
俺はそれから少し後を考えていたけれど、ラ゠ギィはそこで既にコインの価値を落とす手に打って出ていたんだろうね。で、神殿にコインを返す際にアイツは贋のコインを混ぜやがったって感じだろう。
「俺よりも教会の連中の方が手段を選ばねぇみたいだね」
俺も贋のコインを作って混ぜるってことは考えたし、それもやろうと思っていたけど、ラ゠ギィ達の方に見事にやられちまったぜ。
特に贋コインづくりの奴のセンスが良かった。おそらく流通する枚数を計算しながら、出来の良い贋物と悪い贋物の分量とか決めたんだろうね。贋金だけで儲けたいなら精巧な贋金だけを使えば良いけど、贋金の信用を落とすなら、精巧なだけじゃなく贋物が出回ってるってハッキリわかる証拠となる出来の悪い物も用意する必要があるってことを分かってる。
こういうセンスはおそらくラ゠ギィには無いものだろう。
アイツは殴り合った感じだと根っこは真っ向勝負を得意とするタイプみたいだしな。
「アウルム王国から来たんだよな」
俺は贋のコインを手に取って眺める。
おそらくこれを作った奴はアウルム王国──俺のツケの支払いを頼んでいるラスティーナの国にいるんだろうね。
まぁ、アウルム王国に行く用事は無いし、そんなに気にすることじゃないようにも思うけど、一応気には留めておこう。
「それで、結局この後はどうなるんだ?」
おっと、セレシア達への話はまだ続いていたんだった。
で? 何の話だったったけ?
「それだけ揉めるような要素があるならば剣神祭は中止になるのでは?」
「まぁ、それは俺も心配だったけどね。でも、そのことを心配する必要はねぇよ」
だって、予定通り開催するって人を集めて公言しちまったからね。
俺達にとって一番マズい展開は延期することだったんだよ。俺達のやってることなんか、少し冷静になれば対処できることだし、開催が伸びれば伸びるほど俺達は不利になった。だから、冷静になるタイミングが無いよう混乱した状況で剣神祭を強行して欲しかったのさ。
普通に考えれば、やめておいた方が良いって思いそうなもんだけど、神殿側はそういうわけにはいかなかったんだろうね。ここら辺が神様が実在している宗教組織の辛さだよね。
神様が留守にしてくれてるなら神様の名を使って俗世の連中に対して特権階級のように振る舞えるけど、実際に神様がいると神様の名前を使って好き勝手はできなくなるからね。
神様が留守なら、その隙を狙って聖職者は地上における神の代理人として神の側にいるように振る舞えるけど、神様がいるなら聖職者は神に仕えているだけの人間として、人間の世界に属する者として社会とと折り合いをつけていかなきゃいけないから色々と配慮が必要なんだろう。
その配慮ってのがどういうものなのか、イグナシスに詳しくない俺は分からんけど、赤神とイグナシスの有力者の間で板挟みになってる赤神神殿は大変だろうね。きっと、お金とかいっぱい動いてるだろうし、剣神祭が開けないと赤神神殿は困ることになるんだろう。
だから、神殿は剣神祭を延期できない。俺達に都合の良いことにね。
「一週間もすれば神殿から発表はあるだろうさ」
その時にどういう発表をしてくるかも想像はつくぜ。
このままだとコインの枚数で剣神祭の出場者を選ぶことはできない。
仮に選んだとしたら、不満は噴出するだろうし、そんな選択を神殿はできない。
赤神神殿は有力者に気を遣ってもいるが、同時にイグナシスの住人全員に対して誠実であることを示さないといけないから、今のまま出場者を決めることはできない。となれば、どうするか──
「ま、どうするかはともかくとして、ここまでは俺の計画通り。後はどうにでもなる」
三人が疑わし気な眼差しで俺を見てくる。
どうにも俺の信用がないね。俺は嘘をつくし、キミらに対して結構な頻度で酷いことをしているけど、俺の能力に関しては疑いを持たれるってのは心外だぜ。
「俺が全部ネタバレしたら面白くねぇだろ? キミらは赤神神殿の発表を期待して待ってるといいさ」
正直な所、その神殿の発表が俺の予想通りになるとしたら、今の内は人に知られたくは無いんだよ。
特にキミらみたいな口の軽そうな連中にはね。
「……話もキリが良いし、ちょっとトイレに行ってくるよ」
俺は自分達がいる席の周りを見回してから立ち上がる。
──さて、俺らの話は盗み聞きしてもらえただろうか?
そうしてもらうために、わざわざ、この三人とメシを食いに来たんだからさ。
性格はともかくとしてセレシア、リィナちゃん、システラは顔が良いからね。お店によっては見た目の良い奴らは、店の宣伝のためにわざと目立つ席に案内されることがある。
結構、お高いお店を選んだんだから、そんなことはしないとか思われそうだけど、お高い店だからこそ店のグレードを知らしめるために見栄えの良い客を目立つ席に置いたりする。
でもって、そうなると、そういう目立つ席の周りに座ってる連中は、可愛い女の子が何を話してるのか気になったりするじゃない。すると、本気で盗み聞きをするつもりはなくても、なんとなく話が聞こえてくる。
──で、噂話の大半ってのはそういう所か広まっていくんだぜ?
俺達がいるのはそれなりに高い店だから、客だってそれなり以上の立場の奴だ。
そういう奴らだって噂話くらいはする。いや、むしろ情報に敏感な連中だからこそ噂話は大事にするよなぁ。さて、こりゃあ大変だ。もしかしたら俺の話してたことがイグナシスの街中に広まっちまうかもしれねぇなぁ。
いやぁ、そうなったらきっと誰もコインとか集めなくなっちまうし、持ってるコインを急いで処分しようとするかもねぇ。いやぁ、大変だ、大変だ。
「これ以上、大変なことにならないように俺はお暇しますよっと」
俺はセレシア達に聞こえないように呟くと、トイレに行く振りをしてそのまま店から出て行った。
アイツらもちょっとはおかしいと思って欲しいよね。俺は何も食ってないし、飲んでないんだから、そんな急にトイレに行くってのも変だってことをさ。
そういえば奢るとか言った気もするね。でも、言っただけだしね、口約束なんて守られないことの方が多いから別に良いだろ。言行不一致なんて、どこの世にもありふれてるわけだしね。
金を払わず店から出たら、食い逃げと思われる心配がありそうだけど、そうならないために俺は何も飲み食いしてねぇんだよなぁ。飲み食いしてない奴が帰って、店に残った奴が帰った奴が払うと言って納得してもらえるだろうかね?
それを狙って最初から何も飲み食いしなかった? それだと俺が最初から奢る気がなかったみたいじゃない。でもまぁ、それに関してはなんともいえないけどね。
いやぁ、こんなことをやってたら、ますます嫌われちまうぜ。でも、こういう嫌がらせをすると、アイツらキレるから面白くて、どうしてもやっちまうんだよね。気に入っている奴にほど意地悪したくなる性分なんだよね。そして、それで嫌われても俺の方は構わないってね。別に好かれたいわけじゃない。俺が一方的に好きなだけで充分だからさ。
まぁ、アイツらが金が全く無いとかなったら大変だから、あの店の店主には何かあったら、マー君の所に請求するように言っておいてあるんだけどさ。
──まぁ、なんにせよ、あの店の支払いに関しては俺が気にすることじゃねぇや。俺が気にするべきことは他にあるしな。
さて、剣神祭の出場に関しては何とかなるとして、その後のための準備を始めるとしましょうかね。
最終話までの構想は出来上がっているんだけど、そのせいでまだ完結までの道のりが長いことが分かり、逆にモチベーションが下がっている。
そのうち、活動報告にでも次章以降のあらすじなんか載せるかもしれないので、先の展開が分かっても構わなければ、そっちもどうぞ。
2月は少し執筆を頑張らないとマズいので頑張ります。でも毎日投稿は無理。




