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贋物氾濫

 

 さて、せっかくだから帰る前にちょっと寄り道をしていこう。

 そう決めて、神殿から出た俺が向かう先は冒険者ギルドのある建物の前。

 他人の冒険者証を使ったってことがバレて出禁を食らってるんで、俺は建物の前の道に座り込んで待つ。

 通りすがりの奴らが俺の事を見てくるが、一目見ただけで、俺が誰か気付いて、そそくさと立ち去っていく。

 だが、何か用事でもあるのかギルドの中へ入っていく奴もいて、そうなると次は──


「ギルドの前に座り込むのは―─うわ……アッシュだ」


 ギルドの職員が表に出てきて建物の前の道に座り込んでる俺を注意しに来たが、座り込んでいるのが俺と知らなかったのか、俺を見た瞬間に関わりたくないって顔になる。

 良いね、そういう露骨な感じ。嫌がられるほど構いたくなるぜ。


「何の用でしょうか」


「そんな他人行儀に話さないでよ。俺とキミらの仲じゃない」


「私たちの関係を考えれば他人行儀になっても仕方ないと思いますが」


 俺が何をしたって言うんだい?

 出禁を食らった後も、実は冒険者連中とちょくちょく揉め事を起こしてたことを言ってんのかい?

 一端いっぱしにタフガイ気取ってたそいつらに喧嘩を売って、ぶちのめしたことを言ってんのかい?

 俺を舐めるような武勇伝を酒場で謳ってた冒険者の頭、酒瓶でぶん殴った結果、酒場を半壊させるような大喧嘩になったことを言ってるのかい?


「全部、俺だけが悪いわけじゃないぜ? 仮に俺が悪いにしても、俺の方からお詫びしてんだから許してよ。それにキミらだって賠償金は貰ってるんだから話はついてるだろ?」


 お詫びの言葉に治療費、損害賠償、騙し取った金も返してるんだぜ?

 まぁ、俺からじゃないんだけどね。


「アウルム王国の王女に賠償を請求できるわけがないでしょうが!」


 おっと、怒られちまいましたね。

 何をそんなに怒ってのかしら。


「自分で払ってくださいよ」


「俺は現金は持ち歩かない主義なんでね」


 正確には代価を払うための金だけどね。

 俺は現金は人にあげるためだけに持ってるだけだからさ。

 支払いってのは基本的に全部ツケ払いで、俺以外の誰かに払ってもらってるんだよね。


「別に王女に請求することを気にすることはねぇって。俺が問題を起こした時の責任はラスティーナが取ることになってるし、俺がやらかした時の請求もアイツに行くってことで、了承を貰ってるんだぜ?」


 まぁ、嘘だけどね。そんな同意は貰ってないからね。

 でも、アイツは金を払ってくれると思うぜ。俺はそういうの分かるんだ。

 俺も伊達に人にタカって人生を生きてたわけじゃない。タカっても大丈夫な奴を見極める能力に関しては自信があるんだよ。そんな俺の勘ではラスティーナは大丈夫って気配がある。


「ラスティーナが嫌なら、レイランド王国のルクセリオって奴に請求しろよ。ポンと金を出してくれると思うぜ?」


 他所の国の王女が無理なら、この国にいるなら大丈夫だろ。

 ルクセリオも俺がやらかした時は金を出してくれるって確信があるぜ。


「その人って、最近話題になってる王国の将軍じゃないですか……」


 俺も酒場の噂話で聞いたぜ。

 俺が聞いた話だと、とんでもない魔術師で魔族の軍勢を魔術一発で壊滅させ、丘を消し飛ばしたとか。

 随分と脚色されてるよな。ただまぁ、大人しい方にだけど。


「なんだよ、ルクセリオも嫌なの? じゃあ、ソーサリアにいるマーク・ヴェインって奴に請求したらいいよ。ソーサリアの魔導院で働いてると思うんだけど、そいつなら大丈夫だろ」


 王女や将軍よりかは請求しやすいだろ?

 まぁ、その代わりマー君は金持ってないだろうけど。


「それならまぁ……」


「良かった良かった、これで問題解決だ。じゃあ解決ついでに、ちょっと人を呼んで欲しいんだけど?」


 俺は冒険者ギルド出禁だからね。中に入って人探しはできないから、こうやって軒先で座り込みをして職員が出てくるまで待たないといけないんだよね。


「……職員を使い走りにしないで欲しいんですが」


「キミが俺のパシリになるのと、俺がギルドの中に入るのはどっちがキミの平和につながるんだろうね」


 良く考えてみたらいいんじゃない?

 でもまぁ、考えなくても分かったようで、職員は俺に訊ねる。


「誰を呼んできて欲しいんですか?」


「カイル君たちがいたら呼んできてよ」


 俺がそう言うと職員は溜息を吐きながらギルドの中に戻っていった。

 ほどなくして、ギルドの中から出てきたのは、さっきの職員だけだった。


「いないみたいですね」


「ああそう。じゃあ、ここで待っててもいい?」


 俺は再びギルドの軒先に座り込む。

 すげぇ嫌な顔をされてるが、ちょっとした意地悪でやってるだけなんで、俺の望み通りの反応で素晴らしいね。そんなに嫌ならギルドの中にいる冒険者に言って、俺を実力で排除すればいいのにさ。

 まぁ、それが出来ないから、職員だけが顔を出してるんだろうけどさ。


「勘弁してくれませんか?」


「しょうがねぇなぁ」


 別に嫌がらせを第一の目的としてるわけじゃないからね。

 とりあえず、この場は出直そう。そう思って俺が立ち上がった時だった。

 ギルドの中から、声が聞こえてきて、そして──


「厄介な客がいるそうだな! 何処のどいつだ!」


 ギルドの中から現れたのは俺の使徒のセレシアだった。

 そういえば、しばらく顔を合わせてなかったが、コイツはこんなところで何をやってんだろう?

 もしかして、冒険者にでもなってたんだろうか? それでギルドの一員として外に厄介な奴がいると聞いて、問題解決に乗り出してきたとか?


「甘い対応をしていると、そういう奴はつけあがる! 今の内に私の剣の錆にしてくれる!」


 抜き身の剣に盾を持って完全武装のセレシアが吠える。


「セッシー」


 俺は辺りを見回し不届き者を斬って捨てようとしてるセレシアに声をかける。

 すると、セレシアは俺の存在に気づき、俺がその不届き者だと気付かないまま話しかけてくる。


「こんなところで何をしている、アッシュ」


 そりゃ俺のセリフだよ。

 まぁ、質問を質問で返すのもどうかと思うんで、まずは俺の方から答えるけどさ。


「気晴らしに散歩してる最中だよ」


「え?」って感じで俺の近くにいた職員が俺の顔を見る。

 それを見てもセレシアは何も感じなかったのか、セレシアは平然と自分のことを話し始めた。


「私の方はお前に言われた通り、コイン集めをしているところだ」


 やっぱり冒険者になってたかぁ。

 遊んでたわけじゃなくて驚いたよ。

 ぶっちゃけ、何も期待してなかったんだけどね。


「ふふ、かなり集めたから驚くぞ?」


「別にもうコインの枚数とかどうでもいいんだけどね」


「ちょっと待っていてくれ、すぐに持ってくる」


 俺の言葉を聞いてなかったのか、セレシアはギルドの中に戻って行った。

 取り残されたのは俺とギルドの職員。


「とりあえず、知り合いの方に会えたようなので、私は失礼しますね」


 ギルドの職員はそう言うとそそくさとギルドの中に戻っていた。

 すると、それと入れ違いにセレシアが戻ってきたが、セレシアと一緒に──


「うわ、アッシュ」

「クソマスター……」


 リィナちゃんとシステラもセレシアと一緒にギルドの中から出てきた。

 どうやら、この三人でパーティーを組んで冒険者をやってるようだ。

 セレシアはともかく、リィナちゃんとシステラは俺の姿を発見するなり、ゴミを見るような眼を俺に向けてくる。

 ところでシステラさん、自分の創造主にクソをつけて呼ぶのは良くないと思うぜ? マー君じゃねぇんだから、クソクソ言わないで欲しいね。


「どうだ、こんなに集めたんだぞ?」


 セレシアだけは俺に対して何も思う所は無いようで、中からジャラジャラと音がする大きな袋を抱えて嬉しそうに報告してくる。

 いやぁ、頑張ったね。そんなに集めるとか大変だったろう。でも──


「それ、もういらないから別に集めなくていいよ」


 俺はセレシアが抱えてる袋を指差して言う。

 まさかキミらがちゃんと集めてると思わなかったから何も言わなかったんだよね。

 つーか、必要ないと確信してから、会う機会がなかったから言えなかったんだわ。

 ぶっちゃけ、役に立たなそうだったし、説明するのも面倒だったから言ってなかったんだけどね。


「は?」


 セレシアの目が細まり、腰に帯びた剣に手をかける。

 おっとキレそうだ。これは弁明した方が良いかな? でも、それって俺のスタイルかい?

 違うだろ? ここで煽るのが俺のスタイルじゃないか。


「殺されたいか?」


 おっと一足飛びでセレシアが剣を抜きやがった。

 白昼堂々、往来で刃物を振り回そうとするとか、俺の使徒らしくて良いね。


「ちょっと駄目だよ、セレシア」

「落ち着いて!」


 リィナちゃんとシステラがセレシアをなだめようとする。

 その二人の必死の制止が聞こえたのか、セレシアは冷静になるが──


「そんな小娘二人の泣き落としで剣を収めるとか、丸くなったもんだぜ」


 俺は三人まとめて煽ることにした。

 理由? 特にない。


「「はぁ?」」

「私が丸くなっただと?」


「小娘と言われて反応する時点でガキなんだよなぁ。ついでに、そのガキに丸め込まれるような奴を丸くなったと言わないで何て言うんだい?」


「私を侮ってタダで済むと思ってるか?」

「ぶっ殺されたいの?」

「もう我慢の限界です」


 セレシア、リィナちゃん、システラの三人が俺を睨んでくる。

 良いね。キミら全員、俺とりたいわけ? いやぁ、4Pとかモテる男は困るぜ。

 ま、流石に今日はそんな感じじゃねぇから、俺のクソ野郎っぷりを見せるのもここまでにしておこう。


「悪い悪い、本気じゃねぇんだ。許してくれって、なぁ?」


 俺が謝るってのが予想外だったのか、三人は面食らった様子だ。

 次いで、気が抜けたのかキョトンとした表情を浮かべる。まったくチョロい連中だぜ。


「お詫びに何か奢るからさ。それで勘弁してくれよ」


 俺の申し出に三人は疑うような眼差しを向けてくるが、それも一瞬で俺に誠意があると勘違いした三人は俺に対して殊更偉そうに──


「まぁ、そんなに言うなら奢られてやってもいいか」

「ちゃんと誠意を見せなさいよ」

「安い店はやめてくださいね」


「OK、OK、お嬢様がた。お高いお店にご案内しますよ」


 そんな流れで俺が三人を案内したのは、イグナシスの中でもそれなりのお値段のするお店。

 伊達に遊び歩いてるわけじゃないから、そういう店だって知ってるのよ、俺はね。

 まぁ、当然、支払いはツケで請求はラスティーナかジルベイン流だけどさ。いやぁ、人の金で食うメシは美味しいね。


「好きなだけ頼んでいいよ」


 俺はお詫びに奢るといった建前、遠慮しないで良いと伝えて三人に好きなだけ料理を注文させる。

 でも、俺はその料理に手を付けない。だって、俺も一緒になって食べたら、三人の取り分が減るだろ? だから、俺は食べないのさ。


「──ところで、どうしてコインが必要なくなったの?」


 肉を切りながらリィナちゃんが俺に訊ねてくる。

 流石にセレシアやシステラよりは色々と考えているんだろう。

 俺の方針転換にリィナちゃんだけは疑問を抱いたようだ。


「確かに。剣神祭とやらに出場するのには、コインを集めなければいけないのではなかったか?」


 セレシアが肉の詰まったパイを切り分け、自分の皿に乗せる。

 その隣ではシステラがシチューの中に入った肉の塊にフォークを突き立て口に運ぼうとしていた。


「剣神祭に出場する気が無くなったんじゃないですか?」


 システラはそう言うと肉の塊を口の中に放り込んで、咀嚼を始める。

 こいつら肉しか食ってねぇなぁ。女の子らしく、甘いものでも頼みなよ。

 おっと、女の子らしくってのはあんまり良い言い方じゃないね。女性ならこうだろうって当てはめて考えるのは駄目だよな。まぁ、それは男に対してもそうなんだけどさ。女らしくを要求するのが許されないのなら、男らしくを要求するのも許されないことだよね。


「いいや、剣神祭には出るつもりだよ」


 何の話か分かんなくなりそうだから、余計なことを考えるのは止めておこう。

 とりあえず今日は剣神祭に関連する話だけにしておこうね。


「じゃあ、なんで?」


 リィナちゃんは食い下がってくるなぁ。他の二人はどうでもいいってなってるのにね。

 まぁ、いいけどね。リィナちゃんが色々と知りたがるのは弱いからだろうしさ。セレシアは割と何があっても、自分なら何とかなるって自信があるから細かいことは気にしない。まぁ、その点で言うとシステラは何なのかってなるけど、システラは単に興味が無いだけだろう。

 とにかくリィナちゃんは弱いから自分が不利にならないように色んな情報を得ておきたいんだろう。弱いことを自覚して行動するのは俺は嫌いじゃないぜ。


「もう、そのコインに価値が無いからだよ。ちょっとコインを出してみてくれ」


 俺がセレシアが肉にフォークを刺しながら、コインが入った袋をテーブルの上に置いた。

 行儀が悪いなぁ。まぁ良いけどさ。これから、もっと行儀が悪い事をするんだしね。


「ちょっと失礼」


 俺は料理をどけてテーブルにスペースを作ると、袋の中からコインを無造作に一掴みし、十数枚のコインをテーブルの上に広げる。


「何かするのか?」


「何もしねぇよ、ちょっと見てみな」


 俺は三人にテーブルの上に置かれたコインを見るように促す。

 すると、真っ先に気づいたのはリィナちゃんだった。

 気付いたリィナちゃんは険しい表情を浮かべるが、言葉にするのを躊躇っているようなので、代わりにリィナちゃんの言いたいことを俺が言ってやることにした。


「そう、贋物だよ。この中の何枚かはね」


「なんだと!?」


 俺の言葉に目を見開いたセレシアがテーブルの上のコインを食いつくような調べる。

 するとセレシアも気づいたようで、信じられないといった表情を浮かべる。


「でも、これはギルドの報酬で貰ったものよ? どうして贋物が紛れ込んで──」


 リィナちゃんがもっともな疑問を口にする。


「ギルドは神殿からコインを貰ってるんだぜ? 冒険者に報酬の一部として渡すようにさ。紛れ込んだとしたら、その時点で紛れ込んでたんだろうよ」


 まぁ、神殿もコインは白神教会から貰ってるんだけどね。

 神殿はコインの貯蔵が無くなっていて白神教会から返してもらって、ようやく配ってるくらいだ。

 何処で紛れ込んだかを考えるなら、教会が返した時。でもって、紛れ込んだというよりは、故意に混ぜたんだろう。

 何処で贋作のコインを作ったのかまでは分かんねぇけど、俺の勘じゃ、食料や資材なんかを運び込んだ馬車の中に一緒に詰め込んでいたんじゃねぇかな?

 つまり、この贋コインは教会の──というかラ゠ギィの仕業。

 でもまぁ、そのことを俺はこいつらには言わねぇけどさ。だって、言ったら怒りの矛先は教会に向かうだろ? それじゃ困るんだよ。こいつらに限らず、怒り向けて欲しいのは赤神神殿へとだ。


「こうしてはいられない。すぐにこれを取り換えてもらわなければ」


 セレシアがテーブルの上のコインに手を伸ばそうとするが、俺はその手より早くコインを奪い取った。

 セレシアが俺の行動に対して、睨みつけてくるが、俺は気にせずコインを再びテーブルの上に戻して混ぜる。


「どれが贋物かわかるかい?」


「何を言っている贋物はさっきの──」


 言いながらセレシアが贋のコインを手に取る。

 そんなセレシアに俺は──


「俺は一枚だけが贋物とは言ってないぜ」


 そう言いながら袋の中から更に一掴みして、十数枚のコインを無造作に広げる。すると──


「あっ!」


 興味なさげに見ていたシステラですら一発で気付くような贋のコインが混じっていた。

 でも、それだけじゃないんだよなぁ。俺はリィナちゃんを見ると、リィナちゃんは変わらず険しい顔を浮かべていた。


「もしかして、これも?」


 リィナちゃんがおずおずと指差したコインは本物と遜色がない代物だが確かに贋物だった。

 コインに彫られた紋様こそ同じだが、大きさがほんの少しだけ小さい。


「じゃあ、これとこれはどっちが贋物かな?」


 俺はテーブルにあった二枚のコインを指差して三人に訊ねる。

 形はどちらも全く同じで区別がつけられない。違うのは経年劣化によるものと思われる色褪せ具合だ。

 片方は古く、片方は新しい。


「この綺麗な方が贋物じゃない?」

「正解」


 まぁ、本当は綺麗な方が本物なんだけどね。

 正解ってのは見事に騙されてくれた反応に対して正解って言ったこと。


「じゃあ、これは?」


 俺は同じくらい綺麗なコインを二枚指差す。

 すると、三人は分からずに首を傾げ、勘で贋物の方を示す。

 でも、残念二つとも贋物です。


「まぁ、簡単には分からないくらいは良くできてるってことさ。例えば、これも贋物だぜ」


 そう言って俺が指差したのは見事な出来栄えのコイン数枚。

 本物より出来が良いコインだが贋物だ。


「ちょっと待て、どうしてお前は本物か贋物か分かるんだ?」


「そりゃあ、見分け方があるからだよ」


 本物には赤神の力──『神気』が込められているけど、贋物にはそれがないからね。

 ただ、その『神気』を感じられる奴は俺のような神か、俺の使徒みたいな連中。

 ただしセレシアみたいにまだ使徒として未熟な奴は無理。つまり、この世界の大半の連中には贋物か本物かを確実に見極める手段はないってことだ


「一目見ただけで贋物と分かるのもあれば、贋物か本物かを見分けるのは不可能に近いものもある。取り替えて貰っても、それが贋物の場合だってあり得るとか思わないかい?」


 贋物と本物の区別がつかないんだから当然だよね。

 でも、そのこと以上にマズいのは──


「ギルドの報酬で渡しているくらいだし、相当に出回ってるぜ?」


 それはつまり冒険者からコインを買い取ってるイグナシスの剣術流派にも行き渡ってるってことだ。

 今はそんなに騒ぎになってないけれど、すぐに贋物のコインの話は広まるぜ?

 見ただけで贋物って分かるコインから、よく見なければ分からないもの、本物と全く変わらないもの、本物より完成度が高いもの。贋物が見つかる分なら良いけど、逆に贋物を本物として扱ったりしてしまうことだってあり得ると思わないかい?


「どうして神殿は贋物を見抜けなかったんだ?」


「単純に混乱してたんだろ? 細かい確認ができないくらい切羽詰まってたのさ」


 シャルマーとヴィルダリオが暴れた直後で混乱してたし、それに加えてイグナシスの剣術流派にコインの供給をせっつかれてたみたいだから、教会から返却されたコインをちゃんと確認してる暇も無かったんだろう。

 シャルマー達にラ゠ギィと連携する意識があったとは思えないが、結果的にはシャルマー達が引き起こした混乱がラ゠ギィの陰謀のアシストをしたことになる。


「だが、分からないな。なんでお前はコインをいらないなどと言うんだ? この状況ならば尚更、コインを集めて贋物ではない本物を確保しなければならないんじゃないか?」


 セレシアは、なおも俺に疑問を向けてくる。

 おいおい分かんねぇかなぁ。リィナちゃんは何となく気付いてるみたいだけど?

 ま、別にクイズを出してるわけじゃねぇから、すぐに答えはあげるけどさ。


「贋物ではない本物って言うけど、それが本物であることをどう証明するんだい?」


 俺はできるけどさ。でもまぁ、できるけどそれを万人に納得させる形にするのは俺でも不可能だぜ?


「さっきも言ったじゃねぇか、贋物と本物を簡単に見分けることは不可能だってさ。本物を見分ける手段が無い以上、どれだけ集めても本物の保証は無いんだぜ?」


 俺は本物は分かっても、それを本物だと納得させられないから、どんなに本物のコインを集めても本物だと認めては貰えない。

 さて、こんな状況で俺がコインを集める意味があるだろうか?

 いや、俺だけじゃない。他の奴もコインを集める意味はあるかい?


 じゃあ、最初からコインを大量に確保してた奴の勝ち?

 果たしてそうだろうか? 俺は贋のコインが出回りだした時期を把握してるけど他の連中はどうだい?

 もしかしたら、ずっと前から贋のコインが出回っていた可能性は?

 大量に集めておいたコインの大半が贋物である可能性はあるんじゃない?

 だって、贋物と本物を区別する方法が無いんだから、持ってるコインが本物である保証は無いぜ?

 まぁ、贋物と本物を区別する方法が無いってことは贋物である証明できないってことではあるんだけどね。


「確かにコインを集める意味は無くなったかもしれないが、ならば剣神祭の出場に関してはどうするんだ? 剣神祭はコインを集める必要があるという話じゃないか」


 まぁ、待てよ、セレシア。

 それはこれからお話してやるからさ。

 追加の料理でも注文して待っててくれよ。




このままだと10000字を超えそうだったんで区切り。

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