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行動再開

 

 ──俺がシャルマーとヴィルダリオと戦ってから数日が経った。アイツらの大暴れのせいで破壊されたイグナシスの街の復旧はそれほど進んでいない。ただ、街の中心地というわけではなかったのが救いで、街全体に極端な影響は出ていない。もっとも、だからといって普段通りというわけじゃない。


「暇だぜ」


 俺はイグナシスの街の広場の片隅に腰をおろして、ダラダラと過ごしている。

 賭け試合をやろうにも、街の中は自粛ムードで、挑発しても誰も乗ってこない。

 まぁ、それ以外にも理由があるんだけどね。で、それは俺が原因で──


「あ、クズだ」


 通りすがりのガキ共が地べたに座る俺を指差して言う。

 俺は近くに転がっていた石を拾って笑いながら投げつけると、ガキ共はキャッキャッと笑いながら逃げていった。

 こんな感じに通りすがりのガキでも俺が誰か分かるレベルで顔が売れすぎてんだよ、俺が道行く人に喧嘩を売ってコインを奪う厄介者だって情報と一緒にさ。そんでもって、それに噂の尾ひれがついて、俺はとんでもないクズみたいにイグナシスの街中の連中に思われてる。

 俺がシャルマーとヴィルダリオからイグナシスを守ってやったのに、そのことへの感謝も無いんだぜ? まぁ、俺がやったって言ってないんだけどね。


「そこら辺どう思うよ?」


 俺は俺が座っていた場所の隣で敷物の上に果物を並べて売っていた露天商に訊ねる。

 ついでに、その果物を貰うと、文句を言いたげな視線を商人が向けてきたので──


「請求はジルベイン流で」


 ツケでヨロシクってこと。俺はジルベイン流の師範代やってあげてんだから、ジルベイン流で俺の生活費とか出してもらうのも当然だろ?

 まぁ、実際の所は当然じゃないけれども、アイツらはタカっても大丈夫な奴らのように思うし、可能な限り寄生させてもらおう。


「おい、ガキ共」


 遠巻きに俺を見ていたガキ共に敷物の上に置いてあった商品の果物を投げつける。


「ちょっと、旦那」

「これもツケで頼むわ」


 ツケが効くって素晴らしいね。

 金を出すって面倒が必要が無いんだからさ。ついでに支払いも俺以外の奴がやってくれるから最高だぜ。

 さて、果物だけじゃ腹は膨れねぇから、もっと腹に溜まる物を食おうか。でも、その前に商人に──


「もう少し、仕入れ先を選んだ方が良いぜ? キミの売ってるの不味いからさ」


「失せろ!」


 はははは、元気で素晴らしいね。

 俺のアドバイスを聞く気はねぇって。まったく、客の言葉は素直に受け取るもんだぜ。

 まぁ、俺が直接金払ってるわけじゃねぇから、俺は客とはいえないのかもしれないけどさ。


「さてさて、じゃあ次は何処を冷やかしに行きましょうかね」


 広場には幾つもの露店や屋台が並んでいる。

 俺はその中から目を付けた一つの屋台に向かうと、そこの店主に頼んで肉を串に指して焼いた物を貰う。

 当然、支払いはツケ。ジルベイン流の奴らに払ってもらう。


「他人の金で食うメシのなんと美味いことか」


「クズのセリフだな」


「おっと、ただの肉焼きマシーンだと思ってたら口が利けるとはね」


 マシーンって言葉は分かんねぇかな。

 まぁ、いいや。どうやら、この店主は俺がジルベイン流の金で好き勝手、飲み食いしてるのが気に食わねぇようだ。でもまぁ、俺はどう思われても別に構わねぇしなぁ


「なぁ、酒の一杯や二杯をサービスするって気は無い?」


 俺は屋台に寄りかかりながら店主に訊ねる。

 何か文句を言いそうだったので、俺は懐に入っていた銀貨を見せる。

 すると、店主は舌打ちしながらも屋台から離れて酒を買いに行った。

 さて、俺を放って行ってくれたってことは、俺に店を任せるってことで良いのかな。


「おかわりを貰おうと思ったんだけど、いないってことは俺が代わりに焼いてても良いよな」


 店主がいない間は俺が店主ってことで。

 とりあえず、焼き場に立った俺は店主が串に刺しておいた肉を焼き始める。そんでもって焼き上がる度に勝手に食べる。でもまぁ、そのうち飽きてくるので──


「おい、ガキ共」


 俺からのおこぼれを期待してるのか、遠巻きに俺を眺めていたガキどもを手招きし、串焼きをタダで渡す。肉を焼くのも食うのも飽きたぜ。酒もいらねぇかな。そもそも、俺はメシを食わなくても平気な存在だしね。


「ツケの支払いはジルベイン流に頼むって言っておいてくれよ」


 俺はガキ共にそう言うと屋台を後にする。

 俺は今度は広場の片隅にあったベンチに腰をおろす。すると、白神教会のマークが入ったほろをかぶせた馬車が広場を通り過ぎていくのが見えた。

 破壊された区画の復旧には白神教会も積極的なようで、食糧や建材などの支援物資が積まれた馬車が街中を走っているのをよく見る。


「原因は教会の連中なんだけどね」


 シャルマーとヴィルダリオっていう白神教会の宣教師が街を壊したなんてことは教会の連中もイグナシスの誰も知らない。もしかしたらラ゠ギィくらいは知ってるのかもしれないけど、知ってたからってわざわざ言うわけもない。

 シャルマーとヴィルダリオが暴れたことで結果的にはイグナシスの連中は教会に対して好意的になった。人道的支援ということで、物資を持ってきてるんだから悪感情は抱きにくいよな。ただ、本当にイグナシスの住人を助けるためだけなのかってのは疑問があるんだけどね。

 そもそも数日で支援物資を用意して運び込めるって準備が良すぎないかい? 俺は何か裏があると思って見ているんだけど──


「ノロノロするな! 今日中に運び込まなければならないんだぞ!」


 そうして俺が疑わし気な眼差しで教会の荷馬車の一団見ていると不意に一人の騎士が目に入った。

 そいつは確か聖騎士団の隊長で、以前にリィナちゃんに絡んできた覚えのある──


「よう、忙しそうだね」


 俺は興味が湧いたので話しかけることにした。


「誰ですか、私に気安く話しかけるなど無礼な……」


 ぶっきらぼうにそう言いながら俺の方を見た聖騎士──ナサニル・アルマンドという名前の聖騎士団の隊長は、俺を見た瞬間に驚愕の表情を浮かべて後ずさる。


「な、なぜ、貴様が?」


 なんだよ、そんなに怯えんなよ。

 前に会った時に揉めて、小突いただけじゃねぇか。


「おい、集まれ! 襲撃者だ!」


 お、るかい?

 いいぜ。話しかけたのはそれが目的じゃなかったんだけど、俺は楽しい方に流されやすい男だからね。

 戦う方が楽しそうだから、そっちに流されても文句はねぇよ。

 でもまぁ、一応聞いておこう。


「ちょっと聞きたいことがあったんだけど、キミらは俺に殴られてから話すのがお好みなのかい?」


 キミらはマゾヒストなのかね。

 俺に殴られないと話す気にならないとか、俺の拳を代価にしてんのかい?

 まぁ、当然、そんなわけはなく。俺が聞きたいことがあっただけと言うとナサニルは俺に疑うような視線を向けながらも、腰に帯びていた剣の柄から手を放した。

 ここで、そんな反応をする時点でコイツは俺に勝てないって本能的に理解してるってことだ。話し合いで済みそうだと分かった瞬間、安心しやがったからな。


 ナサニルはそこまで弱くはなさそうけど、この感じだとちょっと物足りないかな。

 聖騎士団の六番隊の隊長って考えるとどうなのって思いそうになるけど、隊長だからって強くある必要も無いか。重要なのは集団のリーダーを務める素養があるかだしな。


「聞きたいこととはなんですか?」


 俺に訊ねながらナサニルは荷馬車を進ませる。

 俺とラ゠ギィが協力関係にあると知ってるからか、ナサニルに俺を邪険にする感じはない。まぁ、単純に俺を怖がっていて機嫌を損ねたくないだけかもしれないけどさ。

 俺は歩きながら話そうと促し、ゆっくり進む馬車の隣をナサニルと並んで歩く。


「この馬車の積み荷が何なのかって聞きたかっただけだよ」


 まぁ、シャルマー達に家を潰された住人に配る食料や建材があるってのは知ってるんだけどね。


「食べ物や木材、石材です」


 ナサニルの答えも俺の知ってる内容を出ない。

 だけど、俺が知りたいのはそういう表向きの積み荷じゃねぇんだよなぁ


「それ以外には何も積んでないのかい?」


「当然でしょう」


「キミは中身を確認したのかい?」


「いいえ。していません」


 じゃあ、食料かどうか分かんねぇじゃん。


「これって、何処からの支援物資?」


「アウルム王国の白神教会からです」


 それもおかしな話だよなぁ。

 ここからアウルム王国まで数日で来れる距離かい? 

 つーか、街が壊されたって情報が遠くのアウルム王国にまでいって、それから数日で支援物資が届くっておかしくない?

 もしも情報を一瞬で送る手段があっても、物資の準備が数日で終わるわけねぇだろ。

 そもそも、イグナシスがあるレイランド王国が何の支援もできてないうちに、他所の国の支援物資が届くとかおかしいだろ。


「随分と早いお着きだことで」


 俺は皮肉を込めて言うが、ナサニルは気付いていない様子で胸を張って言う。


「ラ゠ギィ殿の御慧眼です。あの方は何かが起きると予測され事前に準備をしていたようです」


 本当にそうかぁ? これって本当に最初から支援物資として準備されてたものかい?

 本来は別の目的で用意した物を混乱に乗じて、バレにくい形でイグナシスに運び込んだとか、そういうことはありえないかい?

 まぁ、聞いたところで、ナサニルが知ってるとは思えないしな。


「何処へ運ぶんだい?」


「まずはイグナシスにある白神教会に運び、そこでラ゠ギィどのが物資の仕分けを行い。必要な人々に分配するとのことです」


 やっぱり、ラ゠ギィじゃねぇか。あの野郎、何か仕掛けるつもりか?

 ……まぁ、仕掛けてくれるのは助かるんだけどね。

 俺の方も若干、剣神祭に関しては手詰まり感もあるし、おそらく向こうもそうなんだろう。

 互いに弱みを見せるのが嫌だから、情報の共有はしていないが、剣神祭の出場に関して、奴と俺の考えてることは同じだろう。となれば、ラ゠ギィのしそうなことはだいたい想像がつく。


「ところでコイン集めは捗っているかい?」


 俺は何気なくナサニルに訊ねる。

 白神教会が積極的に剣神祭に出場するためのコインを集めていることはナサニルも当然知っているだろう。


「厳しいですね。ラ゠ギィ殿も半ば諦めていられるのか、積極的に集める必要はないとおっしゃられています」


 ふーん、なるほど。『集める必要はない・・・・』ね。

 いいね。アイツのやりそうなことが分かった、俺もそれを利用させてもらう。


 俺はアイツを利用する。アイツも俺を利用する。素晴らしい協力関係だね。

 さて、それじゃあ俺も俺のためにアイツの策に乗っかるとしよう。そんでもって、ここから剣神祭の出場に向けて本格的な行動の開始をしていこうか。でもまぁ、最後に勝つのは俺だけどね。






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