vs宣教師
前門のヴィルダリオ、後門のシャルマー。
遭遇からの戦闘は挟撃の状況から本格的に開始だ。
前が虎で後ろが狼だったら、楽勝だったんだけど、猛獣より強そうな連中だから簡単にはいかないだろう。
「邪神アスラカーズも大したことないね」
「なんだよ、ご承知だったのかい?」
知ってたから躊躇なく戦闘に入れたのかね。
殺人の現場を見られたから目撃者を始末するって理由だけじゃなかったってことか。
「俺が何者か知ってるなら、ラ゠ギィと俺との休戦協定も聞いてんだろ? 戦っていいのかい?」
「関係ない。俺達と奴の考えは違う」
「そう、僕らはイザリアの犬のラ゠ギィとは違って自由に動いて良いからね」
あぁ、そうですか。そりゃあ良かったぜ。
「じゃあ、キミらをぶちのめしてもラ゠ギィからゴチャゴチャ言われずに済むって──」
俺は話してる途中に動き出す。まずは正面にいるヴィルダリオの方だ。
現時点で判明している限りシャルマーの攻撃の威力は大したことが無いから無視しても良い。
「──ことかな!」
突き出した俺の拳をヴィルダリオが長剣で受け止める。
身軽なタイプの剣士じゃない。俺の攻撃に躊躇いなく防御を選んだのと体格を見る限り、重装備に身を包み、足を止めて相手の攻撃を受けながら斬り合うタイプの剣士だ。
「やはり軽い拳──」
何か言おうとしたので、俺は良く動く口とそれがついている頭を標的に上段蹴りを放つ。
俺の蹴りはヴィルダリオの側頭部にクリーンヒットする。
「何か言ったかい?」
だが、ヴィルダリオは微動だにしなかった。
「蹴りも軽いと言おうとしたのだ」
「嘘つけよ」
こいつ、かなり硬いな。
自分の体を内力でガチガチに強化してやがるから、普通に殴っても効かねぇか。
とはいえ、ガイほどじゃねぇ。それなりに内力を込めれば守りをブチ抜けるだろう。
「今度はこちらから行くぞ」
ヴィルダリオは何のダメージも無い様子で剣を構え、俺に斬りかかる。
俺はその斬撃を後ろに下がって避けるが──その瞬間、俺の胸元が袈裟斬りに斬られる。
「──っ」
傷自体は浅いが血が傷口から流れ落ちる。内臓には届いていないが肉は確かに斬り裂かれた。
剣の間合いから完全に逃れたはずなのに、どうやらヴィルダリオは斬撃の有効範囲を延長する何らかの能力を持っているようだ。
「大道芸かい?」
「首を落とされても減らず口が利けるか?」
ヴィルダリオが言いながら剣を俺の首に向かって横薙ぎに振る。
俺の立つ位置はヴィルダリオの持つ剣の長さよりも遠くだ。それでも躊躇いなく剣を振るうってことは間違いなく、斬撃の有効範囲の延長の能力だろう。
「俺の首はキミには届かねぇよ」
俺は後ろに逃げるのではなく前に出る。
そして首を守るように腕でガードを固め、ヴィルダリオの振るった刃を受け止めた。
斬撃の有効範囲の延長って言っても色々とあるが、俺はヴィルダリオのそれは剣の長さを一瞬で伸ばすタイプの能力だと判断し、物理的な防御を選んだ。
「斬られた時に実体の刃の感触があったんでね」
受け止めたヴィルダリオの刃は持っていた時の二倍以上の長さに伸びている。
路地裏って限定された空間じゃ振り回すのが無理だから、俺に触れる一瞬だけ伸ばしたって感じだろう。
さて、速攻で能力を見切られた気分はどうだい? まぁ、答える暇は与えないけどね。
俺はヴィルダリオが剣を戻すよりも先に距離を詰めて殴りかかろうとするが、俺は直後に背後から感じた気配を受けてシャルマーの方を振り向く。すると、振り向いた瞬間にシャルマーのナイフが俺を狙って飛んでくる。
「隙を作ったよ、ヴィル」
シャルマーの方を向いたことで背後を見せた俺に対しヴィルダリオが斬りかかってくる。
「俺に隙なんかねぇよ」
だって、後ろから斬りかかってくるのが分かってんだからね。
俺はシャルマーの方を向いたまま、脚だけを後ろへ撥ね上げ、突っ込んできたヴィルダリオの顔面にカウンターで足を入れる。
その瞬間、シャルマーが再びナイフを投げつけてくる。
俺はそのナイフを手で叩き落とすが、直後に連続してシャルマーが無数のナイフを投げつけてくる。
同じような攻撃が効くかよ。そう思って無数のナイフを拳で叩き落として防御したつもりだが──
「っつ──」
真正面から投げられたはずなのに、何の気配も感じられなかったナイフが一本、俺の太腿に突き刺さった。
「もう一本」
シャルマーが再びナイフを投げてくる。
その瞬間、聞こえてくる飛翔するナイフの風切り音。
その音に注意を傾けて俺はナイフを拳で叩き落とすが、気付かないもう一本が俺の肩口に突き刺さる。
「ちっ」
これで二本くらったわけだが、傷自体は浅いから問題はない。
ただ、そうして攻撃を受けたことで、俺の意識がシャルマーに向いた瞬間、背後からヴィルダリオが斬りかかってくる。
俺は振り向き、ヴィルダリオの剣に対して正面を向いて拳で叩き落とす。
防具で防御するのは無理だった。ヴィルダリオの剣には内力が込められており、防げば防具の方が駄目になる。
こうなってしまえば俺の素手の方が防御に適している。内力を大量に込めれば、素手でも刃は受け止められるからな。
「それで、いつまで防げる?」
「いつまでも」
振り下ろされる刃に拳を正面から叩きつけて弾く。即座に切り返して放たれる袈裟斬りの刃を手刀で叩き落とす。叩き落とした刃が跳ね上がってくるのを掌底で流すと、俺は前蹴りを放ってヴィルダリオを蹴りで押しのける。
「遊ぶなよ、ヴィル」
背後からシャルマーがナイフを投げてくる。
俺は振り向きながら裏拳を放ち、飛んできたナイフを叩き落とす。
すると、俺が背を向けた瞬間にヴィルダリオが長剣の突きを放つ。俺は即座にヴィルダリオの方を振り向くと、平手打ちで長剣を弾いて突きの軌道を逸らすと、その状態から後ろ回し蹴りで背後から迫ってくるシャルマーの投げナイフを弾き飛ばす。
「遊んでいるつもりはない」
シャルマーの方に一瞬でも意識が向いた隙を狙いヴィルダリオが仕掛けてくる。
防げるタイミングじゃない。俺は守ることを捨てて攻めることを選択し、前に出る。
だが、前に出ようとした瞬間、背中に突き刺さるシャルマーの投げナイフ。それによって一瞬だが俺の動きが止まる。
そこをチャンスと思って一気に詰め寄ってくるヴィルダリオ。それに加え、俺の後ろに立つシャルマーが投げた手裏剣が俺を追い抜き、そしてブーメランのように戻り、俺に向かって飛翔する。
正面からはヴィルダリオとシャルマーの手裏剣。足を止められたせいで攻撃も防御もタイミングを外された。
「無傷の勝利とはいかねぇか」
俺は飛んでくる手裏剣を拳で叩き落とす。直後に背後から投げられたナイフが俺のふくらはぎに刺さり、太腿に突き刺さる。足を狙って刺さったナイフのダメージにより、俺は真っ直ぐ立っていられず、膝から崩れ落ちそうになる。
「死ね」
そこに長剣を振りかぶり、脳天を狙って斬りかかってくるヴィルダリオ。
拳で防ぐのは無理。というか、マトモに防御するのは無理。となれば──俺は即座に決断し、振り下ろされる剣に対して右腕を盾にする。直後、振り下ろされた刃が右腕を切断し、俺の右肩を深く斬り裂く──だが、それだけだ。
「残念でしたってなぁ!」
右腕を犠牲にして剣の威力を弱めたことで、即死は避けた俺は無事に残った左腕を振り上げ、ヴィルダリの顎を真下から、かち上げるアッパーを放つ。俺の拳をマトモに食らったヴィルダリオの体が浮き上がり、跳ね飛ばされるように吹っ飛んだ。
「それで充分だ、ヴィル」
シャルマーが傷を負った俺に向かってナイフを投げてくる。
風切り音が聞こえて飛んでくる投げナイフ。
俺は振り向くと、それに意識を集中させ、飛んでくるナイフを叩き落とす。そして──
「そう何度も通じねぇよ」
そのナイフに隠れて飛んできていた、もう一本のナイフを指で掴み取る。俺の視覚を潰すのが狙いのだったんだろう、右眼を狙ったそのナイフを防いだと同時にシャルマーが動き出す。そして、動き出したと同時にシャルマーの姿が俺の視界から消失した。
即座に攻撃が来ないことから高速移動ではなく姿を隠す術だと俺は判断し、そして──
「思い出したぜ」
風切り音で注意を引く投げナイフ。それと自分の姿を隠す術。
似たような技を使う奴らと俺は戦ったことがある。
「姿を隠す術は『潜風』だったか?」
自分の存在を空気と同化させる術だ。
この世に存在する全ての物と一体化することを理想とする仙理術士達が使う術。
その中でも、特に『ゾ派』っていう連中が得意としていた術で、空気と自身の存在を同化させることで自分を不可視にし、そのうえ空気になっているから、攻撃も通らなくなる。
「思い出したら、いくらでも対処できる」
俺は自分の右腕側に左の拳を勘で突き出す。
その瞬間、姿を現したシャルマーの胴体に俺の拳がねじ込まれた。
攻撃の瞬間には姿を現さないといけないんだから、出てくる時を狙えば攻撃は当たるさ。
「投げナイフの技は『鳴虫』だったか?』
特殊な投擲技術な投げたナイフは相手の意識を引く独特の風切り音を響かせ、その音に意識が向かった所に同時に投げたナイフが突き刺さるって感じだったと思う。
仙理術士の流派の中でも『ゾ派』ってのは暗殺や諜報向きの術を得意としてる流派だったからな。戦闘技術はこういう不意打ちや騙し討ちに特化してる。
まぁ、普通に戦っても強い奴はいたけどね。ゾ゠アルタンって奴なんだけど、そいつは俺が全力を出さないと始末できなかったし、俺の使徒でいうとガイやルクセリオと同格かな。
「──くっ」
俺の拳を叩き込まれたシャルマーだが、即座に体勢を立て直しナイフを抜き放ち俺に斬りかかる。
鋭い太刀筋だが俺の拳の方が速い。俺はシャルマーの顔面に拳を叩き込み、吹っ飛ばす。
「シャル!」
ヴィルダリオが復帰し、剣を構えて俺に飛び掛かってくる。
狙いは俺の右腕側。右腕の再生は終わっていないから、右腕は防御には使えない。だが──
「狙いが見えすぎだ!」
俺は逆に距離を詰め。ヴィルダリオの懐に飛び込み、左の拳を鳩尾に叩き込む。
その衝撃に身体をくの字に曲げながら後ろに飛び退くヴィルダリオ。だが、ヴィルダリオも即座に体勢を立て直し、剣の長さよりも遠い間合いから振り下ろすような軌道で剣を振る。
「俺は言ったぜ? 狙いが見えすぎだってなぁ!」
俺は振り下ろされる軌道に合わせて拳を突き出すと、一瞬にして数メートル長さまで伸びたヴィルダリオの長剣の一撃を弾いて防ぐ。
「剣を伸ばすとかは『バ派』の技だったな。思い出したぜ」
『バ派』は仙理術士の中でも武器の操法に長けた流派だ。正確には鉱物とか無機物の操作だけどな。
長剣を素材の金属を仙理術で操って、刃を伸ばすとかやってたんだろう。『バ派』の連中は主にゼティが相手をしてたから良く知らねぇけどさ。
「俺達の技が分かったところで──」
剣を防がれたヴィルダリオが続けて攻撃を放とうとする。だが、遅い。
俺は距離を詰め、ヴィルダリオに一撃を叩き込もうとする。それに対してヴィルダリオの顔には耐えられるという自信が浮かんでいた。実際に殴っても耐えられたからな。じゃあ、これはどうだろうか?
俺は左の拳ではなく切断された右腕をヴィルダリオに向けて突き出した。もっとも、正確には切断された腕の断面から伸びていた骨だけど。
「これは効くだろ?」
再生を調整すれば、骨だけを先に再生できるし、再生させる際に鋭利な状態にすることもできる。
その結果、槍の穂先並に鋭くなった俺の右腕の骨はヴィルダリオの腹部を貫いた。その代わり──
「──っ痛ってぇぇぇ!」
俺も声を出す。そりゃ骨でぶん殴れば痛いに決まってるぜ。
内力で強化してるから強度が上がってるとはいえ、痛いものは痛い。
「貴様──!?」
腹をぶっ刺した程度では死なないヴィルダリオの首に俺はヴィルダリオの腹から引き抜いた右腕を突き刺す。これでコイツは一回死亡。そして──
「……お前も一回だ」
背後から音も無く忍び寄っていたシャルマーのナイフが背後から俺の心臓を抉る。
これで俺も一回死亡確定。だけど、まだ死んでねぇ。まだ再生の可能な負傷だ。
「じゃあ、キミもだな」
俺はヴィルダリオの首から右腕を引き抜くとナイフが刺さった状態のまま振り返り、俺のすぐそばにいたシャルマーの頭を掴み、地面に叩きつける。そして、すぐさまその首をへし折り、そしてその体を蹴り飛ばして遠ざける。
「上等だぜ、キミら」
俺はヴィルダリオの体も蹴飛ばして遠ざけ、一息つく。
心臓に刺さったナイフを抜くと再生が始まるが、その再生を邪魔するように、俺が殺したヴィルダリオとシャルマーが復活し、そして──
「流撃!」
ヴィルダリオが復活と同時に仙理術士の十八番の『流撃』を放ってくる。
ヴィルダリオは斬撃を飛ばす『バ派』の流撃。その必殺の一撃を俺は横に跳んで回避する。
「流撃……っ!」
回避した先に飛んでくるのはシャルマーの投げナイフ。だが、それが『ゾ派』の流撃。投擲物に内力を乗せ、それに触れた相手に破壊力を直接伝える流撃だ。
ヴィルダリオの攻撃を回避したタイミングを狙ったシャルマーの攻撃を避けるのは無理だった。じゃあ防ぐかって言うと、それができる威力じゃない。となれば、俺はどうするか──決まってるだろ、正面から消し飛ばすのさ。
「顕現せよ(アライズ)、我が業──」
業術によって内力が熱を帯びる。
俺は熱を帯び、炎を放つ内力を飛翔するナイフに向かって拳を突き出しながら解き放つ。
「ペネトレイト・ブレイズ」
拳に乗せて放たれた内力は炎となって一直線に進み、シャルマーの投げたナイフを消し飛ばす。
街中じゃ『プロミネンス』は威力がありすぎて使えないから下位互換の『ブレイズ』だが、それでも威力は充分。俺の放った高熱の内力はナイフを消し飛ばすだけでは止まらず、それを放ったシャルマーまで届き、シャルマーの体を呑み込み、その命を焼き尽くす。
「これで二回だぜ?」
二回殺された程度じゃ死に切らないシャルマーの体は即座に元通りになる。
状況は変わらず一対二の挟み撃ちだが──
「キミらは大したことねぇなぁ」
最初に俺の事を大したことないって言ってたけど、そっくりそのまま返すぜ。
自分達の言ったことが間違いだったってことを俺に理解させられた、シャルマーとヴィルダリオはイラついた顔で俺を見ている。
良いね、そういう顔で見られると嬉しくなってくるぜ。
「ま、俺も仙理術士相手に手を抜くってことはできないんでね。いつもよりもマジで戦ってるから、キミらが情けないザマなのはしょうがないんだけどね」
ぶっちゃけた話、本気の度合いで言えば、この世界で黄神とかと戦った時以上なんだけどね。
でも、それは言わない。ちょっと余裕を見せたいからね。
「ムカつくよ、アンタ。僕は嫌いになったよ」
一人だけ二回死んでるシャルマーが俺を睨みつけてくる。
「そりゃ良かった。キミが俺を嫌いなのは俺に敵わないからだろ? 嫌われるとか妬まれるのは俺の優秀さの証明だから、どんどん嫌ってくれて良いぜ」
俺が煽るようなことを言うと、シャルマーの内力が膨れ上がる。
「こっちもウォームアップが終わったばかりなんだよ」
「そりゃ素晴らしいね。このままだったら、俺の方は冷めてきそうだったからさ」
「──ヴィル、様子見はもう良いよ。コイツはここで殺そう」
シャルマーが言うとヴィルダリオの内力量も爆発的に上昇する。
良いね、ハッタリじゃなかったか。これなら、もっと楽しく戦れそうだぜ。
「具体的にどうやって殺すのか教えてくれるかい?」
俺は本気を出そうとしてるシャルマーに訊ねる。すると、シャルマーは手に持ったナイフで自分の手首を横に切り裂き、そして──
「こうするのさ」
手首から流れた血が滴り落ちる。
俺の意識がそれにを向かうと、俺の背後にいたヴィルダリオが動き出す。
ただ、その動きは俺を狙ったものではなく、ヴィルダリオは自分達が殺した男の死体に向かう動き。ヴィルダリオは死体に剣を振るい、その手を手首から斬り落とすと、俺の頭上を飛び越えるように投げてシャルマーへと投げ渡す。
その手はシャルマーの手に掴まれた瞬間にシャルマーの手にズブズブと沈み込むように取り込まれていった。その瞬間、シャルマーの内力の量が更に上昇し、そして──
「究竟──独尊太母」
……どうやら、俺は読み違えていたようだ。シャルマーを只の仙理術士だと。だが、その実こいつは瑜伽法を使える仙理術士っていう、俺が今まで一度も戦ったことのない、そんな相手だと俺は想像もしていなかった。
「なるほど、ここから本気ってことか」
良いぜ、ここまでが第一ラウンドだ。
それじゃあ、本気の第二ラウンドを戦ろうじゃねぇか。




