報酬の話
「どこ行ってたんですか!」
俺とラ゠ギィがダンジョンのボスを倒し、戻るための道を探していると、ほどなくしてカイル君たちと再会した。
どうやら、俺達が転送された先は完全な別エリアというわけではなく、転送される前にいた場所から少し下の階層だったようだ。
カイル君は俺と会うなり、文句を言ってきた。
カイル君たちの様子を見ると、最後に見た時に比べてくたびれた様子だったので、俺と会うまでに結構な数の魔物と戦ってきたんだろう。それでも何とか無事なのはカイル君たちも強くなってるってことなんだろうね。
「ちょっと遊んでたら道に迷ってね」
俺は赤神と揉めたことはカイル君たちには言わなかった。
別に理由はないんだけど、何となくだ。
ぶっちゃけ、カイル君たちを巻き込むこと自体に躊躇いはないんだけど、俺のプランだとここでカイル君が赤神に目を付けられるのは避けたいんだよね。だからまぁ、カイル君の身を案じてるってよりは俺の都合の話さ。
「遊んでたって、途中の魔物も倒さずに……はぁ」
カイル君は俺に何か言いたげだが、途中で諦めて大きな溜息を吐く。
「まだ魔物を倒さないといけないんですから、先を急ぎましょう」
ここで色々と文句を言っても仕方ないってカイル君は判断したんだろう。
気持ちを切り替えて先へ進もうと言いだした。でもなぁ……
「下の階層に行く必要はないと思います」
ラ゠ギィがカイル君の提案を一蹴する。
俺もラ゠ギィの意見に同意するね。
カイル君には分からねぇと思うけど、このダンジョンから赤神の気配は消えているし、ダンジョンに大量に現れた魔物は赤神の仕業だったんだから、元凶がいなくなれば問題は解決したと思うぜ。
「魔物の大量発生の問題は解決しました。これ以上、ダンジョンにいる必要はありませんよ」
「そうは言われても……」
カイル君はラ゠ギィの言葉の意味が分からず、鵜呑みにはできないようだ。
まぁ、そりゃそうだよね。急に魔物はいなくなったみたいなことを言ったって信用はできないよね。
「俺もラ゠ギィと同意見だぜ」
下の階ってのがどうなってるか気にならないわけじゃないけどね。
ただ、それは暇潰しでやれば良いだけの事だし、今の状況でするようなことじゃない。
「いや、でも……」
カイル君も強情だなぁ。まぁ、強情って言うよりは常識的な判断か。
俺らが言っていることを無条件で信用する方がおかしいわな。
俺らももう少し言葉を尽くせばいいんだろうけど、そこまですんのも面倒くさくてなぁ。
「──だったら、今日の探索は切り上げて、地上で少し待てばいいじゃないか」
声がした方を見るとヘイズがこちらに歩いてくるのが見えた。
そういえば、思った通りカイル君たちとは一緒じゃなかったんだね。
俺は想像していたから、驚かなかったけどカイル君たちも、いなくなった筈のヘイズが現れても驚きもしないってのは変な話だね。そもそも全く話題にしてなかったのも変だぜ。
「貴方も転移させられていたようですね」
ラ゠ギィがヘイズを見据えて言う。
ヘイズの美貌に惑わされていないのかラ゠ギィの顔にはヘイズに魅了された奴にありがちな、のぼせたような表情は浮かんでおらず、むしろ警戒するような色が浮かんでいた。
「あぁ、そうなんだよ。ボクは貴方たちほど強くないのにね」
俺はヘイズの姿を改めて見ると、戦闘の影響か僅かに薄汚れていた。魔物の中に手こずる相手がいるとは思えないんだけどな。
そんなことを思いながら見る俺の視線に気づいたのか、ヘイズは取り繕うように愛想笑いを浮かべて俺と視線を合わせる。
「ちょっと相性が悪い相手がいたので手こずってしまいました。いや、恥ずかしい」
「その手こずった相手ってのを聞いてみたいね」
俺の使徒が手こずるような相手とか戦ってみたいんで、教えて欲しいぜ。
今から、倒しに行くからさ。
「鎧を着た魔物ですよ。ボクは攻撃的な能力を持っていないもので、ああいう相手は合わないんです」
「ふーん、そう。そういうのは俺は得意だから、わざわざ倒しに行く必要もねぇかな」
俺の言葉にヘイズは申し訳なさそうな顔を浮かべながら肩を竦める。
顔が良いせいか、何をやっても絵になるから羨ましいね。
「あの、話してる場合じゃないと思うんですけど」
カイル君が俺とヘイズの間に割って入る。
話してる場合じゃないらしいけど、俺にはそういう場合なのか分かりませんねぇ。
話をする場合でも良いんじゃないですかねぇ。
「そちらの──ヘイズ殿が言うように地上に戻るというのに私も賛成です。地上で様子を見て魔物が増える様子が無ければ、依頼は達成したと報告し、魔物が増えているようでしたら、再びダンジョンの中に、それで問題は無いのでは?」
「何でキミが仕切ってんだろうね?」
キミは俺の敵なのに仲間面して俺へ指図かい?
偉そうに仕切られてると反抗したくなるんだけど。
「私は提案しているだけです。決定権は貴方に預けていますので、どうぞ御自由に決めてください」
「いや、あの、僕は決定権を預けたつもりはないんですけど」
カイル君がおずおずと口を挟んでくる。良いね、素晴らしい援護射撃だぜ。
「だそうですよ、ラ゠ギィ君? 適当なことは言わないでくれますかねぇ」
「何故、貴方が嬉々としているのか理解が難しいのですが。そこの彼の発言は貴方の不利益以外の何物でもないと思うのですが」
「俺は自分の利益を優先してないんでね。俺が不利益を被ったとしても、それによって相手に少しでも嫌な思いをさせられるなら、俺としては望む所なのさ」
「厄介極まりない人ですね」
文句があるなら、俺を黙らせるかい? 喧嘩をするなら望む所だぜ。
俺は僅かに殺気をラ゠ギィに向けるが、ラ゠ギィはシレっとしたそれを表情で受け流す。
良いね、そのつれない感じ。袖にされると振り向かせたくなるって時点でラ゠ギィが言ったように厄介な男だぜ、俺はさ。
「……はぁ、もういいです。一旦、地上に戻りましょう。このままだと喧嘩になりますし」
俺とラ゠ギィが互いを睨みつけていると、カイル君はそんなことを言いだし、仲間を連れて俺達から離れていった。その進む先は通ってきた道であり帰り道だ。
カイル君は地上に戻ることを選んだようだ。となれば、俺はどうしましょうかね。
──まぁ、そもそも俺も地上に戻ることに賛成だったんだけどさ。
ラ゠ギィもヘイズもカイル君の後ろについて帰り道を歩き出したんで、俺も地上に戻ることにした。
そうして地上に戻って、一晩をダンジョンの前で過ごすと、ダンジョンの魔物は増えてなかったので依頼は完了ということになった。
そうなるとは次は報酬の話だ。
「約束通り、コインは俺の方が多めに貰うぜ」
俺とラ゠ギィはイグナシスの冒険者ギルドに戻り、報酬を受け取る。
俺の方が魔物を多く倒したから剣神祭に出場するためのコインは多く貰うという話になっていた。
「どうぞ、約束ですので」
ギルドの受付で金と一緒に報酬として渡されたのは100枚ほどのコイン。
貰いすぎじゃねぇかなぁと思って受付の女の子に話を聞いてみると適正な量だそうだ。
俺が受けた依頼は結構、大変なものだったらしく、その分報酬も多いとか。
「では配分はそちらが決めてください」
ラ゠ギィはそう言って俺にコイン配分を求める。
さて、俺が多く貰って良いって話だったよな? じゃあ、こんなもんで──
「8:2でどうだい?」
100枚のコインを俺が80で、そっちが20。
「……10:0でないのを良しとするべきでしょうか?」
ラ゠ギィの眼が据わり、俺を睨みつける。
怖いねぇ、文句があるなら殴りかかってきても良いんだぜ?
でも、ここではどうかと思うから、場所を変えようか──
「あのぉ、分け前で揉めるにしても、ここではちょっと……」
受付の女の子が怯えた顔で俺達に苦言を呈する。
泣きそうな顔の女の子にやめてくださいって言われたら、やめなきゃね。
まぁ、本気で戦る気なら、誰に何を言われてもやめねぇけどさ。
ラ゠ギィの方に戦る気が無さそうだから、俺も本気にはなれねぇよ。
「勝者の権利ですので、この結果は受け入れましょう」
ラ゠ギィはそう言うと、20枚のコインを受け取り懐に収める。
「ですが最初に約束した通り、剣神祭に出場するためにお互いにコインを出し合うということはお忘れなく」
「忘れてねぇよ」
ただし、出し合う時に何枚か出し忘れるかもしれないけどな。
そんでもってどういうわけか俺の仲間が何人か、そっちの陣営より多く出場するとかするかもしんねぇけどさ。まぁ、ラ゠ギィの方も同じことがあるかもしれないし、お互い様ってことで良いだろ?
「……では、また機会があったら協力しましょう」
「そうだね、機会があったら助け合おうぜ」
ま、次はねぇだろうけどさ。
助け合ったところで、お互いに相手を出し抜くことしか考えてねぇんだもん、協力の意味がねぇよ。
ラ゠ギィもそれは分かってるんだろう、形だけの挨拶をして俺の前から去って行った。
そして、ギルドに残されたのは──
「剣神祭に出場するんですか?」
カイルが俺に話しかけてくる。ヘイズはいないようでいつもの面子が揃っている。
カイル達は現場は同じでも俺達とは別口の依頼だったので、報酬も別だった。
手には金とコインの入った二つの袋を持っている。
「そういえばカイル君達も冒険者だからコインとか持ってるんだよね?」
依頼を終えたら冒険者ギルドから貰えるんだろ?
キミらは出場しないんだし、俺にコインをくれるとかしない?
「何を考えているか想像がつくんで言っておきますけど、僕たちはコインを持ってませんよ」
はぁ? それって冒険者稼業をサボってたってことかい?
俺が訊ねるより先にカイルの仲間のクロエちゃんがギルドの一画に設けられたテーブルとそこにいた男を指差す。
「コインはあの人が買い取ってくれるのよ」
「買い取りがあんの?」
いやまぁ、ありえるか?
剣神祭に出場するためにコインを買うとかさ。
「けっこう良い値段で買い取ってくれるんだよな」
カイルの仲間のギドが嬉しそうな顔で言う。
良い値段ってことは個人でやってる感じじゃないだろうな。
出回ってるコインは一枚や二枚じゃないわけだし、それを全部買うってことは貴族とかか?
「僕たちは剣神祭に出るつもりは無いんで、コインは必要ないですし、それならお金に換えて貰った方が良いかなって」
換金をギルドが黙認してるってことは、どっかの有力者がやってることかね。
イグナシスには剣術の名門道場とかも多いらしいし、そこの連中がコインを買い取って自分の身内を多く出場させようとしてるとかかな。
「最初から不正ありきだってのは想像してたけどさぁ」
やり口が露骨だぜ。
赤神を祀ってる神殿から、イグナシスの有力者にコインが一定量譲渡されるってのは聞いたけど、その上で更に買取までやって集めてるとか、よっぽど余所者──イレギュラーな奴を出場させたくないんだね。
「でもよぉ、最近、白神教会の連中も換金を始めたって聞いたぜ? そっちの方が高く買ってくれるって噂もあるし、そっちに行かねぇ?」
ギドが口にした情報は教会でも換金をしているという情報だった。
おそらくラ゠ギィの差し金だろう。あの野郎も手段を選ばずにコインを集める気だ。
となれば、俺だって同じことをするぜ?
「おいおい、そんな奴らに売るとか良くないぜ? キミらも知った通り俺も剣神祭に出場したいから、コインが欲しいんだよね」
だから、言わなくても分かるだろ?
俺はカイル君が持っているコインの入った袋を指差す。
するとカイル君は──
「いくらで買ってくれるんですか?」
──お金と交換とか言いだした。
おいおい、よろしくねぇなぁ。そういうのはよろしくねぇよ。
「俺とキミらの仲じゃない。タダで譲ったってバチは当たらないと思わないかい?」
「えぇ……」
「ここで金銭を使った取引をしたら、俺とキミらの絆ってのはなんだったのかって話になるぜ? 俺とキミは親友じゃないか、親友のためにちょっとこう、物をくれるとか悪い話じゃないと思うんだけど──」
ぶっちゃけ、説得する気は無かった。
話の流れ的に教会に行くみたいだし、そういうことなら、その途中で盗むなり何なりすれば良いからね。
でもまぁ、この場で済めば面倒がないと思って、俺はカイルと話したわけだが、そんな俺の説得に対してカイルは──
「──コリス、今すぐあの人に換金してもらってきて」
俺の言葉に耳を傾けることなく斥候役のコリスちゃんにコインの入った袋を渡した。
そして袋を受け取ったコリスちゃんはというと、一目散に走り出した。
「あ、テメェ」
俺は走り出したコリスちゃんを追いかけ、一瞬で袋を奪い取る。
ちょっと素早いくらいで俺を出し抜けるとは思わないで欲しいね。
そう思った矢先──
「誰か! 報酬を奪われました!」
カイル君がギルド中に聞こえるくらい大きな声で俺に濡れ衣を着せてくる。
参ったぜ、飼い犬に手を噛まれるとはこういうことか。
従順なだけかと思ったが俺を嵌めるとはやるじゃねぇか、予想外だったぜ。
腕っぷしで敵わないなら頭を使う。分かっていても実行するのは難しい。素晴らしいね、全く。
俺は周りを冒険者に取り囲まれながら、カイル君を褒め称えたい気分になっていた。
「まぁ、落ち着けよ、皆さん。ちょっとした誤解があるんだ──」
そして俺は俺を取り囲む冒険者達に素晴らしい弁解を決めてやった。
結局の所、俺は悪くないって話だ。
他人の物は俺の物、俺の物は他人の物で、世界の全ての人々が持ち物を共有することで争いは無くなるんじゃないかって話をした。そして俺がカイル君たちの物を奪ったのも、まぁ許されるんじゃないって話をし、その結果──
──俺はイグナシスの冒険者ギルドを出禁になった。
なんでも同じ冒険者から盗みを働くのはよろしくないらしい。ついでに、サイスの冒険者登録証を盗んで使ってたのがバレたってのもよろしくないらしい。サイスからは穏便に済ませるようにと連絡が来てたらしく、それがあったから出禁だけで済んだとか。
出禁になったのは痛い──まぁ、そもそも誰かに雇われるのとか好きじゃねぇから、別に冒険者ギルドを出禁になっても精神的には痛くないわな。
本気で困るんならもっとマシな弁解をしたっての。実際、冒険者として依頼を達成してコインを集めるのはあんまり効率が良く無さそうだったしな。とはいえ、これから先どうやってコインを手に入れたもんかね。
その辺りをこれから考えねぇとな。ちなみに、カイル君たちのコインは彼らが教会に換金に行く途中にスリ盗ってやったので、カイル君たちからは20枚のコインを得ることができた。
結果、俺の所持枚数は100枚。これが多いのか少ないのかも分かんねぇし、調べることも考えることも多くて困るぜ。




