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通話中

再開。

久しぶりの執筆なので調子が出ないけれど。

 

 強制的に転移され、ダンジョンの中で孤立したのはヘイズだけではない。

 ラ゠ギィも同様にダンジョンの中を一人彷徨っていた。

 もっとも、その顔に不安は無く、むしろアッシュと分断されたことに安堵している様子もあった。


「流石にあれ以上をあの方に見せるわけにはいきませんからね」


 ラ゠ギィはダンジョンの通路を歩きながら一人呟く。

 その直後、ラ゠ギィを背後から急襲する影が現れるが──


「もっとも貴方がたには、見せても問題はないので」


 襲い掛かってきた影は鎧を身に纏った騎士の姿をした魔物。

 その魔物の攻撃を振り向くこともせずに容易く躱したラ゠ギィは、ゆっくりとした動作で距離を取ると振り返る。


「これから倒す相手に何を見せても問題はないでしょう?」


 訊ねるように言いながら、ラ゠ギィは両手をダラリと下ろす。

 すると、次の瞬間、ラ゠ギィの服の袖から何かが滑り落ちる。


「面倒なので得物を使わせていただきます」


 そう言いながらラ゠ギィが両手に持った武器を構える。それは30cmほどの長さの真っ直ぐな棒だった。

 黒く塗装された短い棒は材質が何かは見ただけでは分からない。ラ゠ギィはそれを両手に一本ずつ持っている。


「では、失礼──」


 そして、僅かな時間が経ち──たった数分後、ラ゠ギィの後ろには100体以上の魔物がことごとく粉砕されて転がっていた。全て鎧を纏った魔物達だったが、その鎧も見るも無残に陥没している。

 ラ゠ギィは自分が倒した魔物達に一瞥もくれることなく、その場を歩き去る。


「私が素手であると思い、鎧を着た魔物を送り込んできたのは悪い判断ではないと思いますがね。こちらの戦力を分析しきる前に戦力を出し切るのは如何なものかと思いますよ?」


 ラ゠ギィは自分に向けられている神の気配を感じ、その気配に聞こえるようにハッキリと言う。

 直後、怒りの気配がラ゠ギィに向けられるが、それを受けてもラ゠ギィは顔に微笑を浮かべていた。


 ──取るに足らない神だ。

 神の怒りを感じても、恐怖の感情は覚えない。

 その時点で話にならない相手だとラ゠ギィは思うのだった。

 ラ゠ギィが知っている神とそれに準ずる存在と比べれば、赤神は怖くない相手だった。

 ラ゠ギィにとって恐ろしいのは赤神ではなく──だが、その存在を思い浮かべようとした瞬間、ラ゠ギィの左拳がラ゠ギィ自身の顔面に叩き込まれた。


 自分で自分の顔を殴る。そこにラ゠ギィ自身の意思は感じられない。

 ラ゠ギィの意思とは無関係に突如ラ゠ギィの左腕が動き出し、ラ゠ギィの顔面を拳で捉えたのだった。


 ──恐ろしい相手が来たか。

 ラ゠ギィはそう思いながら、再び自分の意思とは無関係に自分の顔面に叩き込まれる自分の拳を悟ったような表情で甘んじて受け入れる。


『何をしている?』


 聞こえてくる声は教皇イザリア・ローランの声。

 聞こえてくる場所は自分の耳の横だった。ラ゠ギィは自由に動く右手を動かし、耳の横を触ると、そこには人の口が出来ていた。

 その口から聞こえてくるイザリア──ラ゠ギィにとって最も恐ろしい存在の声には何の感情も感じられない。


『私はアスラカーズとの接触は避けろといったはずだ』


 ラ゠ギィの左手がラ゠ギィ自身の口を押さえつけ、力を込める。

 ミシミシと頭蓋がきしむ音が聞こえてくるのに合わせて、今度はラ゠ギィの左手の甲に現れた口がイザリアの声でラ゠ギィに言う。


『私は全て視えている』


 ラ゠ギィの額の肉が盛り上がり、そこからイザリアの眼が現れる。


『私は全て聞こえている』


 ラ゠ギィの意思で動く右手の掌の肉が盛り上がり、それがイザリアの耳を形作る。


『私はお前に口を与え、眼を与え、耳を与え、そして『左腕』を与えた。その意味を考えろ。私を失望させるな。お前のするべきことはなんだ?』


 ラ゠ギィの左手がラ゠ギィの顔から離れる。

 ラ゠ギィは自分が弁解の機会を与えられたことを理解する。

 そして、理解した上でラ゠ギィはあえて言う。


「今はアスラカーズと手を組むのが得策かと私は考えました」


 その瞬間、ラ゠ギィの体にあるイザリアの感覚器官から莫大な量の殺気と内力が膨れ上がる。

 だが、殺されていないということはまだ大丈夫だとラ゠ギィは確信する。


「現時点では協力しますが、いずれは奴を出し抜きます。そうすることによってアスラカーズに屈辱を味合わせることができるのは間違いありません」


 ラ゠ギィは知っている。イザリアの素性を。イザリアがアスラカーズに対して抱いている感情を。

 その感情を考えれば、自分の提案はイザリアにとっては魅力的だとラ゠ギィは確信を抱いていた。


「赤神を倒すという猊下の望みを叶えるにも、これが得策かと存じ上げます」


『…………』


 眼や耳から殺気は感じられない。

 ラ゠ギィはイザリアが機嫌を直したと確信し、次のイザリアの言葉を待つ。


『許そう。やはり、お前だけだ。私の気持ちを理解してくれるのは」


 理解はしていない。ラ゠ギィはそう思うが口には出さない。

 これまでの言動からイザリアの性格を分析しているだけだ。

 そして、もっとも機嫌を取れる言葉を選んでいるだけの話である。


『アスラカーズに近づくことは許す。だが殺すな。奴を弄ぶことはしても良いが、殺すのはお前の仕事ではない──』


 では、誰の仕事か。問わずとも答えを分かる。


『──それは私の仕事だ』


 この子どもっぽさをどう捉えるべきかラ゠ギィは度々、戸惑う。

 教皇として人々の前にいる時と、自分達のような存在といる時。それぞれの場面でのイザリアの違い。

 アスラカーズが関わった際、イザリアが冷静を保てる範囲を見極める必要があるとラ゠ギィは思うのだった。


「……ふぅ」


 ラ゠ギィは無意識に息を吐く。

 気付けば、イザリアの気配は消え、体にあった眼も口も消えていた。


「行きましょうか」


 ラ゠ギィは再びダンジョンの通路を歩き出す。

 その向かう先はアスラカーズ──アッシュ・カラーズとの合流。

 そのためにラ゠ギィは一人ダンジョンの奥へと進んでいくのだった。


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