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装備調達

 

 ゼティから教えてもらった店はすぐに見つかった。

 地図もあるし、そもそも俺は道に迷うってことがない奴だからね。

 初めて訪れた場所でも、なんとなく土地勘が働くんだよ。


「古臭い店だぜ」


 到着した武具店は路地裏にあった。

 年季の入った店構えって言えば聞こえは良いけどね。

 俺からすりゃ古臭いだけにしか見えねぇ。その時点でマイナスだよ。

 まぁ、紹介された以上は中くらいは見るけどさ。


「邪魔するぜ」


 俺は店のドアを開けながら声をかけて店内に入る。

 店内は埃っぽさと武具の手入れに使う油の臭いが混じって気分が悪くなりそうだった。


 換気くらいしてくれねぇかな。

 俺は文句を言う相手を探そうとすると、店の奥のカウンターに髭面の小柄な男が座っているのが目に入った。

 おそらくドワーフとかいう種族だろう。

 種族の特性として鍛冶とかを得意とする奴らだ。俺も世界を創る時にたまに用意する種族だ。まぁ、あんまり好きじゃねぇけどさ。


「……何の用じゃ」


 ドワーフの店員は俺を見ると不愛想にそう言った。

 嫌だねぇ、これだから好きになれねぇんだよな。

 職人気質の連中が多いし、頑固だしで俺と相性が悪い奴が多いからね。


 それにドワーフがいると文明が発達しづらくなるから、俺は好きになれねぇっていうか、正直に言うと嫌い。ドワーフがいると文明が大量生産、大量消費に移行しづらいんだよね。

 職人個人の能力に依存した文化から発展しねぇんだよ。

 延々と職人の一品物が尊ばれて、工場の大量生産品が軽んじられるような文化になりやすいし、そうなると文明も自然とそういう方向に行く。

 俺は『安かろう悪かろう。でも早く多い』──文明の進む先としては、それが好きなんで、そういう文明を否定する傾向が強い職人気質のドワーフは好きじゃない、


「ちょっと武具を見せて貰いに来たのさ」


 まぁ、俺の好き嫌いと目の前のドワーフは関係ないんで俺は普通の態度で話す。


「好きにせい」


 好きにしろって言われたので俺は好きにする。

 武具って言っても武器は駄目だわな。遊びで使う武器なら何とでもなるけど、本気の戦闘をするなら市販の武器──というか、手に馴染んだ武器以外は駄目だ。


「……何を見ておる」


「鎧とか」


 まぁ、本当は鎧もいらねぇんだけどね。つーか意味をなさないんだよね。

 並みの相手だったら身体を内力で強化すれば攻撃は通らないから防具は必要ない。逆に並みの相手じゃない場合は防具で防げるような攻撃力はしてないから防具を身につける意味がない。

 だから、鎧とかはいらないんだよね。むしろ来てると動きが阻害されるから悪影響。


「……見た所、体術を得意としておるな」


 店員のドワーフが俺を見て、見透かしたように言う。

 店員だと思っていたけど、もしかしたら店主か親方かな? 偉そうだしさ。

 まぁ、見立ては間違ってるけどね。体術は得意だけど、本来の得物は刀とか剣とか槍だよ。


「御想像にお任せするよ」


 俺は店主の方を見ずに店の中に並んでいる武具を品定めする。

 飾ってあるのは質の良い武具もあれば見た目だけの物もある。そして、数打ち物なのか二束三文の値段で売られている剣の山の中に一本、名剣と言って差し支えの無い物が紛れている。


 ……うーん、ゼティが一緒じゃなくて良かったぜ。ゼティはこういう売り方は本気で嫌ってるからなぁ。

 ここの店的には見る目のある客にだけ『本物』を売ろうとか考えてるんだろうけどね。でも、客を試すようなのは俺もちょっとね。

 まぁ、ポリシーがあるんだろうから、俺は思うだけにしておくけどさ。


「……革鎧が良いだろう」


 どうやら俺は見ただけで店主のお眼鏡に叶ったようだ。

 なんだかアドバイスを貰っちまったよ。でも革鎧はいらねぇんだよな。

 いるとすれば──


「ブーツとグローブは無いかい? どっちも金属で補強されてるのが良いんだけど」


 鎧は役に立たないけど、靴と手袋はあって困るもんじゃないからね。

 まぁ、それだってシステラの『倉庫』から取り出せば良いんだけど、俺の持ってる物は質が良すぎるせいで制限がかかって使えない時もあるからさ。


「良かろう。見繕ってやる」


 愛想が悪いかと思ったけど、そうでもなかった。

 気に入った相手には優しいだけかもね。でもまぁ、それって贔屓するような奴だって証明なんだけどさ。

 ドワーフは店の奥に入っていき、店内には俺が一人取り残される。


 俺は退屈なんで、暇潰しに飾ってあった剣を手に取る。

 質はそれなりの長剣だ。それを軽く素振りする。

 振り下ろし、斬り上げ、払い、突く。型も何も無く気ままに振り回すだけの動作。

 それを何度かしていると──


「見事じゃ」


 店の奥から戻ってきたドワーフの店主がそんなお世辞を吐く。

 まぁ、世辞じゃなく本心で言ってるんだろうけどさ。でも、俺は遊んでいただけなんで、それを褒められてもね。


「剣も使えるのか?」


「いいや、ここにある剣は使えねぇよ」


 俺はそう言うと持っていた剣をもとの場所に戻す。

 だが、俺が戻した剣をドワーフは手に取ると俺に渡してきた。


「どういうことじゃ? あれほど見事な太刀筋を見せておいて、使えんということはなかろう」


 あれを見事っていうのは物を知らねぇな。まぁ、そんなことは言わねぇけど。

 このドワーフは歳をとってるように見えるけど、俺の方が実年齢は上だしな。俺の方が物を知ってるのは当然だし、それをひけらかすようなことはしない程度には行儀をわきまえてるんでね。


「本気の戦いじゃ使えねぇって話さ」


 俺がそう言ってもドワーフは理解できないと言いたげな表情をしている。

 ……面倒くせぇな、理由を見せなきゃ納得できないか。

 見せなきゃ分からないってことが分かったんで、俺は──


顕現せよアライズ、我がカルマ──」


 業術カルマ・マギアを発動する。

 俺の業術は内力を熱に宿す。そして、戦闘の際には武器にも熱を宿した内力が通る。

 今も俺が手に持った剣に熱を帯びた内力が伝わり──


「おぉっ!?」


 ドワーフが驚いた声を上げたのは俺が持っていた剣の鉄が熱で赤く染まり、段々と溶けだしたからだ。


「ま、こういうわけよ」


 手に馴染んでない武器は無意識に異物と認識するせいで俺の業術によって敵と同じく熱の直撃を受ける。

 これが服とか防具だったら、無意識でも自分の体の一部みたいに思うせいで、業術の影響を受けないんだけどね。手に馴染んでない武器だとどうにも駄目なんだよね。

 じゃあ、馴染ませりゃ良いじゃんって思うかもしれないけど。本気で戦わないのに手に馴染むも無いだろ? 俺の本気は業術を使った戦闘だから、馴染ませようにも武器がそもそも耐えられないんだよ。


「本気の戦闘の際にはこれよりも強い熱を発しながら俺は戦うのよ。だから、並みの武器じゃ駄目なのさ」


 俺は業術を解いて溶けて折れ曲がった剣を近くの棚に置く。

 弁償するしかねぇかな? あんまり踏み倒す気にはならねぇしな。


「うーむ、魔術の力か」


 魔術じゃなくて業術だけどな。

 でも、その違いを説明する気にもならねぇし、誤解してもらって結構。


「であるならば、別の剣も──」


「いいよ、勘弁してくれ」


 おそらく魔力の耐性がある武器を出そうとしたんだろう。でも、無駄なんだよなぁ。

 純粋に熱を生み出してるわけなんで魔力耐性があっても意味がない。つーか、そもそも俺は内力として魔力も闘気もミックスしてるから、魔力だけの耐性があっても仕方ないんだよ。


「とりあえずブーツとグローブの代金、それと剣の弁償をしとくよ」


 俺はドワーフがそこまで好きじゃないから、態度もどうしても普通の物になる。

 まぁ、もう少し好きになれそうな相手だったら、面倒くさい絡み方をしたくなるんだろうけどさ。好きじゃない相手だから、ゴチャゴチャ言う気にもならねぇんだよな。


「いや、しかし……」


 店主は俺に相応しい武器があると言いたげだ。

 でも、多分ねぇよ、俺の得物はいつだって──


「っ!?」


 ──それは俺が、俺の刀の姿を思い浮かべようとした瞬間だった。

 ぞわりと背筋を走る感覚。そして掌を走る感触。そこに感じるのは自分の得物を握っている感覚。

 なぜ、急にこんな感覚を抱いたのだろうか? 答えらしきものはハッキリとは出ないが──


「もしかして、ここに俺の刀があるのか?」


 剣の都で俺の刀が見つかるとか出来すぎだろう。

 作為めいたものを感じずにはいられないが、それでも──


「どうした?」


 俺の思考はドワーフの店主の言葉で中断される。

 俺は何でも無いような表情をつくり、店主に金を渡した。

 金はラスティーナから貰ってるんで、値段を気にするってことはしない。


 俺が品物を受け取った頃には俺の刀の気配は消えていた。

 けどまぁ、この街に俺の刀があるってことは間違いないだろう。

 長く使ってるからって意思を持つような物じゃないが、自己主張をしないわけじゃない。

 おそらく俺が他の武器を持ったから嫉妬でもしたんだろう。意思があるわけじゃないのに嫉妬ってのも変な話だけどさ。


 とにかく、この街で俺に赤神以外の目的ができたのは確かだ。

 並行して、そっちの方も何とかしておきたいところだね。

 ま、今はコイン集めと、そのためにダンジョンで魔物退治をするのが先かな。


 俺は武具店を出た足でそのまま依頼にあったダンジョンへと向かうことにした。

 ダンジョンはイグナシスの街の近くであり、荒れ地のど真ん中にある遺跡だった。

 その周りには野営地が築かれていた。俺は野営地には目もくれず躊躇せずに遺跡へと向かうが、そうしてダンジョンに到着した俺を待ち構えていたのは──


「おや、奇遇ですね」


 俺を待つようにラ゠ギィがダンジョンの入り口の前に立っていたのだった。




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