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ルゥ゠リィ・ヘイズ

 

 ルゥ゠リィ・ヘイズ──アスラカーズ七十二使徒の序列七十二位。

 肩書きだけだと使徒の中では最弱と思われそうだが、使徒の序列と強さは基本的に関係が無い。

 そもそも好きな番号を選んでるだけだからな。

 一応、一桁台は別格ってことになってるけど、それだって一桁台の番号が人気がだったから取り合いになっただけで、その結果、強い奴らが一桁台を独占したことから一桁台は別格みたいな雰囲気ができただけだしさ。

 なので、ヘイズに関して言えば七十二位だからって弱いってことは無い。

 つーか、むしろ七十二位なんて中途半端な番号より欲しがる奴がいるだろ?

 序列最下位なのに強いってシチュエーションが好きな奴もいるから人気の番号なんだよ。けれど、ヘイズは七十二位を誰にも譲らずに自分の番号にしている。

 それだけで、まぁ只物じゃないってのは分かるわな。


「やぁ、こんなところで会えるなんて思わなかった」


 ヘイズは異常なほど整った顔で俺に微笑みかけてくる。

 周囲の人間が、その笑みを見た瞬間に絶対的な美を認識したことで視覚情報から脳がヘイズに魅了される。

 そして、俺に話しかけたヘイズの声を聞いて聴覚情報から脳がヘイズに魅了される。


 絶対的な美貌。

 それがルゥ゠リィ・ヘイズという男の特徴だ。

 精神汚染への耐性が無いと──まぁ、あっても効果は薄いけどさ。

 とにかく、何らかの耐性が無いとヘイズの顔を見た瞬間にアウトで、以降はヘイズに逆らえなくなる。

 絶対的な存在を認識したことで脳が本能的に従属を求めるんだ。

 素晴らしい芸術を目にした時に抱くような感動を、数億倍の濃度で脳味噌に直接ぶち込まれるような感覚だ。脳がヘイズという存在の持つ美しさに敗北し、ヘイズに逆らうことが出来なくなる。


 ──というのは、まぁ大袈裟に言ってるだけだけどさ。

 多少なりとも精神的な強さがあれば耐えられる。それでなくても慣れていれば大丈夫。

 もっと、美人──例えば俺の嫁さんとかさ。

 俺の嫁さんはガチでヤバくてね。マジで一目見た瞬間にアウト。

 ゼティですら会った瞬間に魅了されたし、マー君なんか奴隷にされてたぜ。

 ガイとルクセリオは会ったこと無いから実際にはどうなるか分かんねぇけど、おそらくアウト。

 俺の嫁さんは人間の姿をしてた只の人間だったけど、その姿は人間の枠に収まらずありとあらゆる生命にとって絶対的な美の化身だったからね。

 それを見慣れてれば、ヘイズに関しては平気さ。


「まさか、こんなところで会えるとは思わなかったぜ」


 俺が言うとヘイズはバツが悪そうに肩を竦める。

 こいつは俺の使徒のだけど殆ど顔を合わせたことが無い。

 つーか、正直な話、俺はこいつのことを全くと言って良いほど知らないんだよね。


「えぇ、100年ぶりくらい?」


「そうかなぁ、そうかも」


 周りに人はいるが聞こえて無いだろう。

 ギルドの中にいる奴らは完全にヘイズにやられちまってる。


「……100年って冗談ではなく?」


 おっと、カイル君は正気だったようだ。

 不思議だね。そんなに精神力が強そうには見えないのにさ。

 ギルドを見回すとカイル君より強そうなのがヘイズにのぼせ上がってやられちまってるってのに。


「前に言ったじゃない。俺って邪神だぜ? 100年くらい余裕よ」


 何が余裕かって、そんくらいの寿命は余裕って話。

 まぁ、邪神じゃなくても業術か瑜伽法が使えれば寿命なんてあって無いような物になるんだけどね。

 特に瑜伽法は最初に習得する『根』の術法が不老になる術だしさ。


「それで、ヘイズはどうしてこの世界に?」


 俺は訊ねるとヘイズは異常なほどに完成された美貌に困ったような表情を浮かべ、そして──


「長い話になるとは思わないけれど、落ち着いたところで話せないかな?」


 ヘイズはそう言って俺に目配せする。

 どうやらカイル君がいない所で話をしたいようだ。

 まぁ、|邪神(俺)がらみの話になるから、この世界の人間には聞かせたくないんだろう。

 でも、俺はカイル君と肩を組んだまま離さない。別に俺は聞かせたくないわけじゃないからね。


「いいね、メシでも食いながら、お話をしようじゃないか」


 俺の言葉にヘイズは表情を変えずにうなずく。

 読めねぇな。嫌がってるのか、どうでもいいと思っているのかも分からねぇ。


 まぁ、それ以前に俺はヘイズのことは何も分からないんだけどね。

 ヘイズは俺が選んだ使徒じゃないし、俺以外が選んだ使徒でもない。完全に自力で使徒になった奴だ。


 俺の創る世界はどの世界も条件を満たせば、俺の住む領域へと行くことができる。

 そうして俺の領域へ来た奴は俺の使徒になり、ヘイズはその方法で使徒になった。

 スカウトしたわけじゃないから、ヘイズに関しての情報は何もない。けれど、人間の身で次元の壁を越えて俺に会いに来ることができたんだから、使徒にしないわけにはいかない。

 そういうわけで俺は何も知らないヘイズを自分の使徒にした。


「それじゃあ、食事をしながら話しでも」


 ヘイズはそう言って俺とカイルと一緒にメシ屋へと向かう。

 そこでの食事もほどほどに、ヘイズは自分がこの世界に来た経緯と、この地にいる理由を俺へと伝えてきた。


「気付いたら転移していたんだ。それで行くあても無い時に偶然カイル君たちと会い、彼らと行動をともにすることに。そして一緒に冒険者として活動していた結果、イグナシスに辿り着き、そして今に至るって感じかな」


 偶然、転移してきたってことはわかった。

 そりゃあね、マー君が言っていた話だと、この世界は他の世界と繋がりが特殊みたいで、狙ってこの世界に転移するのは不可能に近いらしいからね。それに、この世界にいる奴の気配を探るのも無理らしいから、この世界にいる誰かを探してやってくるのも無理らしいしさ。

だから、この世界にやって来るには、偶然の事故による転移か誰かから召喚されたりしないとやって来られない。なので偶然、転移してきたってのもおかしい話では無いというか、むしろそうじゃない方がおかしい。

 まぁ偶然の割には俺の関係者ばっかり転移してるんだけどね。


「そうなの?」


 俺はヘイズの話をカイル君にも聞いてみる。

 するとカイル君はヘイズの言う通りだと言ったので、俺はとりあえず納得することにした。


「それで、そっちはどうしてイグナシスに?」


「別にたいした理由じゃないよ」


 俺は隠すような話でもないので、カイル君がいる前で赤神に会いに来たこと、そしてそのために剣神祭に出場する必要があることを伝えた。


「なんだか嫌な予感が……」


 カイル君が顔を青ざめさせながら、そんなことを言う。

 どうして嫌な予感を抱くんだろうね。そんなに悪いことは起こらないぜ?

 おそらく、また神様をぶっ殺すことになるってだけだ。平和的に解決する可能性も無きにしもあらずだけどさ。


「困っているなら、手を貸そうか?」


 ヘイズは俺に微笑みを向けながら言う。

 普通の奴なら、ヘイズの美貌にやられちまうんだろうけど、俺はまぁ大丈夫。

 とはいえ、申し出自体は有難いんだよね。


「じゃあ、ちょっと手を貸してもらおうかね」


 ロクに会話してねぇし、俺に自分のことを知られないように俺を避けている気配もあったヘイズだけど、どうやら意外と困っていたようで、俺がお願いをすると──


「ボクもこの世界から出たいからね。協力は惜しまないよ」


 ゼティと同じ理由で俺へと協力するようだ。

 しかし、俺はヘイズがこの世界を出たい理由を知らんのよね。

 それもまぁ、そのうち聞けるんだろうか?


 まぁ、とりあえず今は味方が少し増えたってことを喜ぶべきかな。

 一ヵ月で剣神祭に出られるくらいのコインを集めるには人手がいるし、ここは素直に喜んでおこう。

 さて、それじゃあ、いい加減コイン集めをしないとな。






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