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村へ

 

 検問とかのせいでイグナシスにはすんなりと入れなさそうなんで、一旦近くの村に行くことになった。

 そこで少し様子を見るって感じだ。


 街道が封鎖されている理由はこの辺で起きている殺人事件の犯人がイグナシスに入るのを防ぐって理由らしい。なので、まぁ犯人が捕まれば検問は解除されるだろうけど、俺の勘ではたぶん捕まらないだろうな。

 もうイグナシスに入り込んでるんじゃないかって俺は思う。イグナシスに近づきながら犯行を繰り返してるらしいし、直近の殺人が発見されたのがイグナシスのすぐ手前なんだぜ?

 殺人の数日後に事件に気づいて、今更イグナシスに入れないようにしたところで、もう遅いだろ。

 だから、犯人が捕まることを期待して待つっていうよりかは──


「──着きましたね」


 色々と考えながら車を運転している内に村に着いたようだ。

 助手席に座っていたシステラが窓の外を見ている。


「走っている時に随分と目立ってましたけど、大丈夫でしょうか?」


 そうなの? 考え事をしていたせいで全然、気付かなかったよ。

 でもまぁ、良いんじゃない。


「俺は目立つのが好きなんでね。望む所って感じさ」


 俺の答えにシステラは呆れたような表情を浮かべると、視線を窓の外に向ける。

 そんなに目立つのが嫌かねぇ? 俺は大好きなんだけどね。

 注目されると気分が良くならないかい?

 それに加えて目立つと厄介事が寄ってくるいうのも目立つのが好きな理由だぜ。

 目立つと目を付けられ、揉め事や厄介事がやってくる。揉め事、厄介事が好きな俺にとっては望む所ってやつさ。


「とりあえず車を停められる所を見つけて、そしたらちょっと村を見て回って宿を取るか、車中泊か決めようかね」


 ちょっと見た感じでは村の規模は大きくない。

 宿は厳しそうな気がするが、それもまぁ実際に見てみないとな。

 俺は村はずれの空き地に車を停め、他の連中に声をかける。


「俺は残ろう」


「私も残ります」


 話し合いの結果、ゼティとシステラが車が盗まれないように見張りとして残ることになった。

 まぁ車を動かして盗めるとは思わないけど、留守中に車上荒らしされるのは嫌だからね。誰かに残っておいてもらった方が良いだろう。


「コイツと一緒とか凄く嫌なんだけど」


「まぁまぁ」


 必然的に村を回るのは俺とセレシアとリィナちゃんになった。

 リィナちゃんは俺を見ながら露骨に嫌そうな表情をうかべ、それをセレシアがなだめている。

 良いね、そんなに俺の事を気にしてくれてるとか嬉しいぜ。人間関係で最も良くないのは無関心だと俺は思うんでね。


「いい? 絶対に問題を起こさないでよ?」


 リィナちゃんが俺に念を押してくる。

 しかし、念押しされてもねぇ。俺は問題を起こさなくても問題の方から俺に寄ってくるんだよね。

 せっかく寄ってくれたのに何の歓迎もしないってのは悪いと思わないかい?

 少なくとも俺はそう思うんで、問題の方を盛大にお出迎えしてるだけだよ。


「こいつ絶対に分かってない!」


 俺が何も言わず自信に満ちた顔を向けるとリィナちゃんはヒステリックに叫んだ。

 その叫びが聞こえたのか、周囲にいた俺達と同じくイグナシスに入れなかった連中が一斉にリィナちゃんを見る。


「まぁまぁ、私も見張っているから」


 セレシアがリィナちゃんをなだめにかかる。

 俺の事を見張るとセレシアは言うが、セレシアも大概な気がするんだけどね。

 まぁ、つまらないことは気にせず村の中を見て回ろうじゃないか。


「──思ったよりも賑やかね」


 思ったより? 思った通りじゃないかい?

 村の中に入るなり、リィナちゃんが感心したように呟いた言葉に俺は疑問を抱く。

 イグナシスに入れない連中が、いっぱいいるんだから、行くあてが無い奴が近くの村に宿を取ったりするのは当然だろ? だから賑やかなのも当たり前。


「商人も多いな」


 セレシアが村のあちこちに開かれた露店を見ながら言う。

 イグナシスに入れなかったと思しき商人たちが地面に布を広げ、そこに商品を広げている。

 イグナシスで商売ができないんだから、仕方ないよな。

 イグナシスに入れるのを待って、イグナシスで品物を売るより、売値が少し安くなってもいいから、ここでさっさと売り払い、どっか別の街に行こうって考えだろう。

 客は同じようにイグナシスに入れなかった旅人や商人で、ここで取引を済ませて、この土地からはさっさと出ていこうって気配が感じられるね。


「この調子だと宿を見つけるのは無理かね」


 まぁ、宿に泊まるより車中泊の方が快適ではあるんだけどさ。

 ただ、共同生活ってのがね。たまには個室が欲しいって気にもなってんだよなぁ。


「そもそも宿があるの?」


 リィナちゃんが疑問を俺に向けてくる。


「あるとは思うよ」


 おそらく、この村ってイグナシスの街向けの食糧を生産するための村だしね。

 大都市ってのは食糧生産には向かないから、その周辺に幾つかの食糧生産のための農村を作るもんだ。

 例えば東京が江戸だった時の足立区や練馬あたりが、それにあたるかな?

 近くの大都市の奴が取引に来るから、そういう連中が泊まるために宿なんかは整備されていると思うから、宿自体の心配はいらないけどね。


「ただ、人が多すぎてなぁ」


 まぁ、宿は満室だろう。

 ゴネても仕方ないし、車で寝るしかないと思うね。

 諦めて帰ろうかなって気分になりそうになるけど、それだけってのも芸が無いしね。

 時間はあるんだし、少し露店でも見ていこうか?

 そう思って、俺は周囲に目をやると──


「ほう、これはなかなか良いものだな」


 俺よりも先に宿探しに飽きていたセレシアが露店の商品を見ていた。

 手に取っていたのは全長60cmほどの片手剣。セレシアはそれを入念に確かめている。


「いかがでしょうか? イグナシス産の武具と比べれば見劣りしますが、なかなかの業物でしょう」


「あぁ、そうだな。貰おう」


 セレシアはそう言うと腰に下げていたポーチから金の入った袋を取り出すとその中身を商人に渡した。

 この女は何ですかね? 人が宿探しをしようとしている隙に買い物ですか?


「見ろ、良い買い物をしたぞ」


 俺が見ていたのを知ってか知らずかセレシアが買った剣を見せびらかしながら俺に近づいてくる。

 それを見てリィナちゃんは──


「イグナシスで買えばいいのに……というか、そもそもイグナシスに向かう商人がなんで剣なんか売りに来てるの?」


 リィナちゃんが疑問を呟く。

 剣の都って呼ばれるくらい武具の製造で有名な街に、質の劣る武具を売りに来るというのがリィナちゃんには理解できないようだ。

 まぁ、俺には何でイグナシスに剣を持って来たかは分かるけどさ。


「イグナシスで適当な職人に銘でも刻んでもらうんだと思うよ」


 平凡な剣でもイグナシス産とか銘打っておけば価値が跳ね上がるだろうしね。

 こういうのは地球でも良くやられてるよね。産地偽装とかの例と同じように考えれば数えきれないくらいある。


「なんでそんなことを?」


 その説明をしてやっても良いんだけど腹とか減らない?

 俺は食わなくても肉体的には平気だけど、精神的に何か腹に入れておきたい気分。

 せっかく、新しい土地に来たんだから、その土地の物を食いたいじゃん?


「説明してやっても良いけど、立ち話ってのもね」


 辺りを見ると酒場らしき場所が見えた。

 村って言っても人の出入りは結構あるみたいだから、酒場くらいはあるんだろう。


「あそこでちょっとメシでも食ってかない?」


「えぇ……」


 リィナちゃんは嫌そうな表情を浮かべる。

 言うまでも無く俺とメシを食うのが嫌なようだ。

 俺が何か面倒ごとを起こすと思ってるんだろう。

 まぁ、起こすだろうけどさ。


「ふむ、私は賛成だ」


 リィナちゃんは嫌そうでもセレシアは俺に賛成みたいだ。

 多数決だと2対1で酒場に行くことになったけど、リィナちゃんはどうするだろうね。


「……はぁ、いいよ、行こう」


 最後はリィナちゃんも折れて、俺達は酒場に向かうことになった。

 車で待ってるゼティとシステラには悪いけど、アイツらにはお土産でも買っていってやればいいだろう。


 ──酒場の中は、村の中と同様に賑わっていた。

 店内にいるのは、見ただけで旅人と分かる連中ばかりで、村人の姿は見えない。

 まぁ、ガラの悪そうな奴も多いから、村人は近寄らないんだろうね。


 俺達は店の中に入ると酒場の給仕に案内されて席につく。

 給仕は恰幅の良い中年女性だ。席に座るなり、注文は何かと聞かれたので、一番出ている料理を頼む。

 そして俺達はおとなしく料理が来るのを待つことにしたのだったが、そうして俺達が料理を待っていると──


「なんだ?」


 店の外が俄かに騒がしくなる。

 俺は特に何も思わなかったが、セレシアは気になったようで酒場の入り口に視線を向けながら訊ねるような口調で呟いた。

 俺が感じる気配は10数頭の馬と馬と同じ数の鎧を着た人間のものだ。店の方に近づいてくるのも分かる。


「トラブルの匂いがしてきたぜ」


 厄介事が近づいてきた気配がする。

 さて、誰がらみだろうか? 俺がらみだと最高だけどね。

 そんなことを考えていると、酒場の入り口が壊れるくらいの勢いで開けられ、無遠慮に鎧を着た一団が酒場の中になだれ込んできた。


「教会聖騎士団だ! 罪人を匿っているという通報があった。この店を調べさせてもらう!」


 どうやらやってきたのは白神教会の聖騎士たちのようだ。

 犯人が匿われているってことで、この酒場に調査に来たとかそういう感じだろう。

 でも、本当にいるんだろうかね?


「この店に街道の殺人事件の犯人がいるのか?」


 セレシアが小声で俺に訊ねてくる。


「いるわけねぇよ。まぁ、犯人を捜しに来たってのは間違いないだろうけどさ」


 正確には犯人になってくれる・・・・・・奴を探しに来たんだろうけど。

 犯人を見つけるまで検問を解くことはできないけど、犯人は一向に見つからない。

 街道が封鎖されてるとイグナシスの経済にも悪い影響が出るから封鎖を辞めろと言われてるけど、だからといって犯人を見つけずに検問を解いたら聖騎士団の面子が潰れる。なので、とりあえず犯人をでっちあげて仕事をしたってことにして面子を守ろうとしてるとか、そんな感じじゃないだろうかね?


「このまま放っておけば、犯人は捕まったことになってイグナシスに入れるようになると思うぜ?」


 見ず知らずの酒場の客が一人犠牲になるけどね。

 さて、俺はどうしようか?

 このまま見過ごすのは楽だけど、厄介なことになるのは俺が口出しすることだよな。

 楽を大事にするか、楽しいを大事にするか悩みどころだぜ。


 ──もっとも、俺はそんなことを悩む必要はなかったんだけどね。

 だって、厄介事の方から俺達に近づいてきてくれたんだからさ。


「……おや、そこにいるのはマルスリーナでは?」


 酒場の中に踏み込んだ聖騎士の一人がリィナちゃんを見て、その本名を口にする。

 リィナちゃんは聖騎士団が店に入ってきた時から顔を伏せていたんだけれど、どうやらお知り合いがいたせいらしい。


 さて、俺に面倒を起こすなと言ったリィナちゃん?

 どうやら、今回の面倒はキミの方に寄ってきたようだぜ?

 こういう時はどうするんだろうね? 解決法を見せてくれよ。






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