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旅の途中

 

 ずっと運転してるってのも疲れるんで、夜は休むことにした。

 人通りの無い草原のど真ん中に車を停車させる。


「お腹すいたんだけど」


 車を停めるなり、リィナちゃんがそんなことを言いだした。


「そうですね、空腹です」


 ついでにシステラもそんなことを言いだす。

 テメェら、何もしてねぇ癖に腹が減ったとか要求だけは一人前だね。図々しくて素晴らしいぜ。

 俺が運転してる間に準備をするとかいう気遣いは出来ないんだろうか?

 まぁ、俺もリィナちゃんやシステラの立場だったら何もしないけどさ。


「仕方ねぇなぁ、俺が作ってやろうじゃないか」


 そう言うとリィナちゃんとシステラの顔に思惑通りって色が浮かぶ。


 なるほど、読めてきたぜ。

 俺が散々、リィナちゃんやシステラの作ったメシに駄目出しをするから、ムカついてたんだろう。

 そこで、俺が作った料理をこき下ろすことで、鼻を明かしてやろうとか、そんなことを考えてんだろうね。でも、俺を甘く見過ぎだぜ?

 俺は人間だった時はフランスの三ツ星レストランにシェフとして潜入してたこともある男だぜ? キミらとはスキルが違うんだ。


「何を作るんだ?」


 セレシアは純粋な好奇心で俺に訊ねる。

 俺は出来てからのお楽しみなんてことは言わない。

 食べる前に脳と舌と腹の態勢を整えさせるために献立を言う。

 食う奴にメニューを教えないってのは不意打ちだ。確かにその方が食った時に驚きを伴いインパクトはあるが、それは俺にとっては王道じゃねぇ。

 全てを曝け出し、相手に態勢を整えさせつつも、その上で圧倒するのが料理人の料理だ。

 なので、俺はメニューをちゃんと教えるのさ。


「バーベキューだ」


 日本式の屋外焼肉じゃねぇ。

 本場のスタイル。アメリカ式のバーベキューだ。

 俺はアメリカに長くいたからね。得意料理だぜ。

 バーベキューを料理じゃないって思う奴がいるかもしれないけど、そんなことはない。アメリカ料理って何があるって聞かれたら、俺は真っ先にバーベキューって答えるぜ?

 ただの焼き肉じゃない。仕込みとテクニックを要求される高度な料理の形態だ。


「どれくらいかかりそうだ?」


 セレシアが俺に聞いてくる。

 日も落ちてきているんで、食事ができる時間が気になるんだろう。

 俺はセレシアとリィナちゃんとシステラにだいたいの時間を教える。


「10時間以上だ」


 まぁ、それは手を抜いての話で俺が本気で作る場合は15時間はかかると思って欲しい。


「は?」


 セレシアたちが絶句する。

 おいおい、たかが10時間くらいで何を驚いていらっしゃるんだい?

 そんくらいかけなきゃ、美味しく焼けねぇんだよ。

 アメリカのバーベキューの大会とか調理時間も含めて二日間開催されるんだぜ? 俺が言った時間くらいは普通に必要なんだよ。


「まぁ、期待しといてくれよ。世界最高のポークリブを食わせてやるからさ」


 システラが管理してる俺の『倉庫』の中に肉がある。

 それと俺が使ってるバーベキューピットもだ。他にも必要な物はすべて用意できてる。

 キミらは10時間くらい待っててくれればいいさ。


「10時間も待てないんですが」


「待てなくてもキミらは待つんだよ。俺は本気で作る以上、妥協はしねぇからな」


「め、めんどくさ」


 うるせぇなぁ、どいつもこいつもよぉ。

 せっかく俺が本気になってメシを作ってやろうってのに、そういう態度は良くないんじゃないですかね?


「流石にそんなに長くは待てないぞ」


 セレシアまで、そんなことを言いだし、結局、俺でなくゼティがメシを作ることになった。

 でも、たいして美味くなかったんで、やっぱり俺が作るべきだったと思う。


 たいして美味くないメシでも、それを食ったら後は寝るだけだ。

 寝床は車の中、リィナちゃんとシステラは車の最後部に設けられた寝室スペース、セレシアは居住スペースのソファ、ゼティは助手席。そんでもって俺はというと──


「夜風を浴びながら朝日が昇るのを待つと──」


 俺は車の屋根に腰を下ろしていた。

 車自体が大きいので屋根も広い。屋根は水平でその上にテントを広げられるくらいのスペースがある。

 俺はそのスペースを独り占めして、夜風を浴びながら、暗い空を見上げる。


 風が運んでくるのは草の匂いと夜の匂い。

 夜闇に染まった周囲から、聞こえてくる虫の声に耳を澄ますと、郷愁が胸にこみ上げてくる。

 そして生じくるる世界に自分以外の誰もいないような感覚。だが、それが心地いい。

 結局の所、俺は人の世界に馴染めなかった人間なわけだし、こういう世界の方が馴染むんだろう。

 それでも、俺は俺がいる暗闇の荒野から遠くに見える街の灯りを尊いと思うんだけどね。

 どうしようもねぇ、生き物だぜ、つくづくさ。


 心が荒めば空を見上げる。

 見上げた夜空には星が輝いている。それは何処の世界でも同じ。

 この世界に宇宙があるのかは知らねぇけど、確かに空には星が瞬いている。


 雲一つない夜空。夜の空には雲が無い方が良い。

 漆黒のキャンバスには星だけで充分だ。

 逆に青空にはまばらな雲が欲しい。夕空には薄く伸びた雲が欲しい。

 空をキャンバスと見立てれば、そこに何かが欲しくなる。それが雲でも星でも何でも良いけどさ。


 見上げた空の星に俺は夢を見た。それが俺の原点。

 届かないからこそ目指すんだ。

 いつか、そこに届くと、その想いが俺を走らせる。

 いつか、いつかはと可能性が俺に足を止めることを許さない。

 全てを踏み台にして天の星に手を伸ばしたくなる、この衝動。

 そして手にした星の先に見える新たな星を手にしたいという渇望。

 それが永遠に続く。辿り着いた先に何も無くなるまで、俺は止まれない。

 だから、俺はこの世界にはいられない。もっとも──


「ま、この世界で満足できれば出て行く必要も無いんだけどね」


 俺は別にゼティと違って、この世界でも望みは達成できる可能性がある。

 だから、そこまで切羽詰まってないんだけどね。


「……何をしている?」


「星を見ていたんだよ」


 いつの間にかゼティが起きてきたようで、車の屋根の上にあがってくる。


「キミは大変だね。求めるものが具体的でさ」


 それはゼティが俺の使徒になった理由でもある。

 求めるものが具体的であるってことは、それ以外では満足できないってことだ。


「そうでもない。目指すべきものがハッキリしていないことに比べればマシだ」


 俺を揶揄するようにゼティは言う。

 ま、俺も大概で、人の事は言えないって話さ。

 ゼティも俺も求めるものがあるから色んな世界を渡り歩いている。

 使徒連中に関してはハッキリとした目的がある奴もいれば、そうじゃない奴もいる。

 セレシアなんかは実際の所、この世界から脱出する必要は感じていないはずだ。この世界にいてもセレシアなんかは困ることが無いわけだしな。俺に協力してるのも特に理由は無いだろう。

 対してゼティなんかは──


「ゼティはさ、この世界にキミが追ってる奴がいたら、どうする?」


 ゼティが使徒になった理由は仇討ちのためだ。

 もっとも、何の仇討かといえば、個人ではなく世界なんだけどさ。

 ゼティは自分の世界を滅ぼした奴を追うために使徒になった。

 そして今も追っている。だから、この世界に留まるわけにはいかない。

 もっとも、それはゼティの仇がこの世界にいない場合の話で──


「決まっている。この世界に留まり、追いかけて殺すだけだ」


「俺がこの世界から脱出したくても関係ない感じ?」


「当然だ」


 俺とゼティが一緒に行動してんのは目的が重なるからで、仮に目的が違えば俺達は一緒に行動する理由がなくなる。

 まぁ、その程度の関係だ。別に今更、確認するようなことでもないね。


「何を考えている?」


「別に何も」


 ──というのは嘘で、俺はもしかしたら、この世界で俺は満足できるんじゃないかなって可能性を考えているんだよね。だって、この世界は俺にとって都合の悪いことばかり起きすぎて、俺にとって都合が良いからね。

 何処に行っても俺とマトモに戦える敵がいる世界とか、厄介すぎて楽しいよ。まるで、俺のために作られた舞台のようだ。そうしたら、そのフィナーレはどうなるか。もしかしたら、俺の望むものがあってもおかしくはないんじゃないかな?


「何を考えている?」


 さぁね。

 ただ、ゼティとは方針が合わなくなる可能性もあるって話。

 俺はそれでも良いけど、キミはどう思うのかねって思っただけさ。


「眠くはねぇけど、横になりたい気分になってきたぜ」


 俺は会話を打ち切るように車の屋根の上に横になる。

 眠る必要はないけれど、眠れば気分は良い。

 俺が横になるとゼティは肩を竦め、呆れた様子で車内に戻って行った。


 この世界は色々と出来すぎてる。

 俺の使徒ばかり集まるし、仙理術士なんかの俺と因縁のある連中も集まっている。

 となれば、俺の使徒と因縁がある奴が、現れてもおかしくはないような気がしないかい?

 そんなことを考えていると自然と意識は途切れ途切れになり、俺はそのまま意識が途切れるのに任せて、その日は眠りについた。


 翌日からは特に何も無く車を走らせ、イグナシスへと向かう。

 街道を走るにはデカすぎるんで、街道近くの平原を進んでいく。

 そうして、出発から数日──俺達はイグナシス近郊に到着する。だが、そこで思いもがけず、俺達は足止めをされることになる。


「街道で頻発している殺人事件のせいで、イグナシスへの人の出入りが制限されている……ねぇ」


 俺は街道の脇に座り込んだ旅人から、そんな話を聞いた。

 イグナシスに近づくにつれて、途方に暮れた様子で座り込んでいる奴らが多くなったんで気になって聞いてみると、そんな話が聞けた。

 どうやら、衛兵が捜査していた事件の犯人らしき輩は同じような犯行を繰り返しながら、イグナシスに向かっていたようだ。同じ手口で殺された死体が段々とイグナシスに近づいていることから、犯人はイグナシスに向かっていると衛兵は推理したようで、検問を敷いて殺人犯がイグナシスに入り込まないようにしているとか。

 道端に座り込んでいる連中は検問の結果、通してもらえなかった連中らしいね。検問は街道でだけ行われているから、道を通らずに行けば良さそうなもんだけど、イグナシスの街中に入る際に検問を通過したって証明書の提示を求められるとか。


「どう思う?」


 俺は一緒に話を聞いていたリィナちゃんに訊ねる。

 俺はそのまま普通に検問を通れば良いんじゃないかって思うんだけどね。


「無理だと思うわ」


 そう言いながらリィナちゃんが道の脇から視線を街道に向けると、きらびやかな鎧を着た一団が道を駆け抜けていくのが見えた。


「白神教会の聖騎士団が調査にあたってるみたいだし、かなり厳しく取り調べをされるわよ」


 面倒くせぇなぁ。強行突破しちゃおうぜ?

 それか、ラスティーナの友達だとか行って通してもらおうぜ?


「なんか、ろくでもないこと考えてるでしょ?」


「ろくでもなくても、考えつくだけ素晴らしいだろ?」


 最善の答えを出すより、間違って用が最速で答えを出せることの方が世の中には求められてると思わないかい?


「強行突破とラスティーナの権威に頼るのは無し。ここはレイランド王国なんだし、変なことをすれば捕まるわよ?」


 ただでさえ、殺人犯がうろついてるらしいし、濡れ衣を着せられる可能性もあるよね。

 面倒臭いからお前が殺人犯って感じでさ。

 となると、さてどうしようかね。いくらでも、やりようはあるんだけど──


「──おい」


 俺が考えようとした矢先、ゼティが声をかけた。

 ゼティもゼティでそこら辺に座り込んでる旅人から話を聞いてきたようだ。


「この近くに村があるらしい、まずはそこに行かないか?」


 そこを拠点にして今後のことを考えるべきだって?

 まぁ、それはその通りかも。


 じゃあ、とりあえず、ゼティが言った近くの村に行くとしようか。






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