待ち時間
ジェイク君がラスティーナからの返事を持ってくるまで、俺達は待機することになった。
俺達と言っても、俺とゼティとセッシーだけなんだけどさ。ここに来るまで一緒だったラスティーナの私兵はジェイクと一緒にソーサリアに戻って行ったし、レイランド王国軍も魔族軍を撃退するっていう仕事を果たしたんで帰ってしまった。なので、残ったのは俺達三人だけだ。
「ま、この方が気楽でいいんだけどさ」
ルクセリオの知り合いだって言ってレイランド王国軍の連中から食い物と酒、寝床になるテントを貰ってるから生活するのに困ることは無い。
場所はだだっ広い草原を見渡せる丘の上、そこにテントを立てて、俺達はジェイクが来るまで待つ。
人間は好きだけど、人間社会に馴染めない俺にとっては野宿の方が気分的に良い。人間だった時から、ちゃんとした屋根の下で眠れたことは少なかったわけだし、こういう生活の方が俺には合ってんだろうね。
まぁ、犯罪者だったりテロリストだったりをしてたせいで街中にいるのが難しかっただけなんだけどさ。
「こういう暇な時じゃねぇと修行もできねぇし、良い機会ではあるよな」
呟きながら俺が見るのは、俺の隣で瞑想をしてるセレシア。
せっかくだし、もう少し戦力になるように鍛えてる。
本来なら、使徒として色んな世界を旅させて、そこで自分なりに力を高めて欲しかったんだけどね。
まぁ、それができる状況でもないんで仕方ない。
業術や瑜伽法の修得だって、本当はそれが一般的に普及してる世界──例えばルクセリオの生まれた世界とかに行って、現地の奴と戦ったりしながら完成させるのが一番だけど、そういうのも無理だしね。
「……いつまで、こんなことをしてなければならない?」
セレシアが目を閉じたまま俺に訊ねてくる。
集中力の無い女だなぁ。
「キミが強くなるまでだよ」
俺がセレシアに課してるのは内力量を増やす修行だ。
瞑想を通して、自分の内に眠る力を見つけ、引き出すって感じ。
「内力量の差ってのは戦力の決定的な差になるからね。増やしておいて損は無いよ」
俺はそう言って、セレシアに何度もした記憶のある説明をする。
「量を増やすってのは使える内力の種類を増やすってこと。セッシーは現状、魔力と闘気を使えるわけだけど、これを更に増やす」
内力ってのは自分の内側から生じるエネルギーの総称だ。俺が普段言っている魔力や闘気に加えて霊気や妖力だったりも、全部ひっくるめて内力って言うのはセレシアには説明しただろうか。
「一つを極めるのにだって限界はあるから、並行して色んな内力を鍛える。1つを100まで鍛えるより、1を100まで集める方が楽なんだぜ? だから内力の量だけならそうやって増やした方が良い」
そのために今は瞑想をして自分の内面を見つめ、使えそうな力を探すってわけさ。
まぁ、その内、種類を増やすだけじゃ駄目にもなるけど、その時は鍛えりゃ良いだけの話だからな。
「……参考に聞いておきたいんだが、お前はどれくらいの種類の内力とやらを身につけているんだ?」
「だいたい1000種類。でもってその全てを10000まで鍛えてる」
セッシーの内力量は魔力が100で闘気が50の合計150くらいかな。
対して俺は単純計算だと合計10000000くらい。実際は単純なたし算じゃないことあるから、なんとも言えなけどさ。
まぁ、でもこれは俺の本来の能力の話で。
この世界だと弱体化してるから、使えるのは5か6種類でそれを120くらいの量って感じかな。
なので単純計算だと俺の内力量は600~720ってところだろう。
「まぁ、数字は遊びみたいなもんだけど、戦闘になったら内力量の差ってのはかなり大きいよ」
内力量が多いってのは単純に使える内力が多いってことだからね。
身体能力の強化にも技や術を使うのにしたって、内力は多ければ多いほどいい。
「だから、内力量を増やしなさいって俺は言ってんの。お分かり?」
「……まぁ、言っていることはなんとなく分かる」
じゃあ、おとなしく修行をしましょうね。
俺は酒でも飲んでダラダラ過ごしてるからさ。
「お前も修行をした方がいいんじゃないか?」
俺が近くにあった酒瓶に手を伸ばそうとすると、不意にゼティの声が聞こえてきた。
声の方を振り向くと、血のついた剣を持ったゼティが立っていた。
「まーた、殺してきたのかよ」
「俺達を狙っていた盗賊共だ。生かしておく理由が無い」
草原のド真ん中にテントを立てて野宿してるんで、俺達は盗賊や山賊とかからは良い獲物のように見えるらしい。
俺はそういう連中は放っておいても良いと思うんだけど、ゼティは違うらしく気配を感じると殺しに行く。
「俺は殺しは好かねぇんだけどね」
「知っている」
まぁ、俺も俺の都合で人を殺すことはあるから、偉そうなことは言えないんですけどね。
とはいえ、悪党だからって問答無用で殺すのは好みじゃねぇよ。
どんなクズみたいな奴でも可能性ってのはあるしね。今はゴミでも未来はどうなるかは分からないんだから、殺すのは勿体ないだろ? 可能性はゼロに近くても、生かしておけば今はカスでも将来は立派な人間になるかもしれない。
現状だけ見て、生きる価値が無いってするのはどうかと思うぜ? 今を生きるのに精いっぱいの寿命の短い連中がそうするのまでは俺は否定しないよ。ただ、俺達のように長生きする連中はもっと先を見据えるべきだとおもうね。
まぁ、そういう考え方を押し付けるのも、お行儀が悪い気がするんで俺はしたくねぇけどさ。なので文句を言うだけに留めるてるってわけ。
ま、ゼティにも色々と理由はあるしな。とはいえ、理由があるにしても、今のゼティは──
「御機嫌がよろしくないように見えるね」
「さぁな」
愛想の感じられない態度で返事をしたゼティはそこら辺に無造作に置いてあった椅子に腰かける。
そして懐からミュージックプレイヤーを取り出すとイヤホンをつけて音楽を再生し、俺との会話を拒絶する態度を見せる。
ミュージックプレイヤーはシステラに預けてあったゼティの私物なんで、それを取り出して音楽を聴こうが何をしようが、俺にはどうでもいいんだけどね。ただまぁ、態度が露骨に悪いのは気になるね。
何が原因だろうか?
まぁ、考えるまでもなく分かるんだけどさ。
ゼティはイグナシスに行くのが嫌なんだろう。
『剣の都』なんて言われてるような場所をゼティが好きなわけねぇもん。
ゼティは剣士で剣術も大好きだけど、剣士が集まるような場所は好きじゃないんだよね。
どうして好きじゃないのか理由は聞かないけど、態度に出るんだよなぁ。
ま、それでも一緒に来ないとは言わないんだから充分だと思おう。
隠しきれず態度に出てるくらいなら可愛いもんだ。
「……来たか」
ゼティがイヤホンを外す。
誰かが近づいてくる気配を感じたためだ。
俺も気配を感じているので、そちらを見ると、馬に乗ったジェイクが近づいてくるのが見えた。
一緒にいるのは……リィナとシステラだな。
なんで、その二人がいるのかは分からねぇな。まぁ、推測する限りでは俺のお目付け役とかそんな感じでラスティーナが寄越したんだろう。
お目付け役って言っても、リィナとシステラに俺を止められるわけが無いだろうに無駄なことをするもんだぜ。
「待たせたな」
ジェイクは馬に乗ったまま俺達に近づくと、馬から降りて俺に詫びる。
それに対して、リィナとシステラは不機嫌な表情を隠さず、言葉を発することもしない。
「別に待っても無いけどね」
良い休養期間になったよ。
とはいえ、そろそろ飽きてもきてたんだけどね。
「ラスティーナ殿下から御言葉を預かってきた」
それは待ってたんだよね。
さて、どういう情報がいただけるんだろうか?
「殿下は貴様らがイグナシスに向かうことを承諾された。御言葉はそのことについてだけだ」
それはつまり、イグナシスに神がいるから行って良いってことだろうか?
詳しい情報を持ってこないのは伝言役のジェイクに余計なことを知られたくないためかな?
まぁ、何でも良いけどさ。
「私の任務はここまでだ。イグナシスには私ではなく、この二人が同行する。貴様もこの二人の事は良く知っているだろうから紹介の必要はないだろう」
リィナちゃんとシステラだからね、顔見知りだよ。
別にこの二人が一緒に来るのは良いんだけどね。ただ、ちょっと聞きたいんだけど──
「マー君は?」
リィナとシステラよりマー君いた方が助かるんだけどね。
マー君をくれるんだったら、二人は返すし、ついでにセレシアも付けるぜ?
三対一とか悪いトレードじゃねぇだろ?
「マーク殿は今もソーサリアで指揮を執っておられる」
指揮を執るって……あぁ、なんとなく分かった。
きっと、思いもがけず文官としても使いやすかったからラスティーナはマー君を手元に置くことにしたんだな。それでマー君も俺についてくるよりは王女の下で仕事をしてる方が俺と旅をするより遥かに楽だから、そっちを選んだってことね。
「では、さらばだ」
挨拶もそこそこにジェイクは立ち去る。
自分が乗ってきた馬に加え、リィナとシステラが乗ってきた馬も連れていってしまった。
俺はこの場に置き去りにされたリィナとシステラを見て──
「お久しぶり」
親し気に挨拶をする。
挨拶は大事だよね。印象が良くなるからさ。
まぁ、既に印象が最悪な相手には意味がないけどね。
「二度と会いたくなかったんだけど」
「会わないというのは無理にしても、もう少し間を置きたかったです」
リィナとシステラの二人はそう言ってプイっと顔を逸らす。
可愛げがあって良いね。不満を言うだけなら可愛いもんだ。
本気で嫌なら殺しにかかるからね。それが無いってだけで、俺の好感度は底を打ってないってことは明らかだ。
「こらこら二人とも、そんなに邪険にしては良くないぞ。せめて取り繕うことくらいはしなさい」
修行を中断したのかセレシアが俺のそばに寄ってくる。
セレシアが近づくなりリィナとシステラは俺ではなくセレシアの方に駆け寄り、セレシアの背後に隠れる。どうやら、俺よりもセレシアの方が好感度が高いようだ。
男女比が2:3とか結構、困りそうでやだなぁ。
多数決とかになったら男の側が不利じゃん。まぁ、多数決で決めるってことはないんだけどさ。
とりあえずイグナシスに向かうのは俺とゼティ、セレシア、リィナ、システラの5人か面子としてはこれってどうなのって思うけども、まぁ何とかなるか。
「じゃ、早速イグナシスに向かって出発しようか」
善は急げってね。
再会を喜ぶほど久しぶりの出会いってわけでもねぇし、誰が誰かを自己紹介する間柄でもねぇしな。
話は道すがらできるんだから、さっさと動き出そうぜ。
そう思って提案したわけだが、そんな俺の提案にリィナちゃんが水を差す。
「イグナシスまで徒歩は無理」
「なんで?」って顔で見るとリィナちゃんは俺と言葉を交わすのは嫌なようで何も言わずに俺のそばに立っていたゼティに話しかけるようにして──
「単純に距離があり過ぎるの。馬を調達しなきゃ辿り着くまでどれくらいかかるか分からないわ」
距離だけの問題なら特に問題は無くね?
俺とゼティなら頑張れば馬より速く走れるしさ。
もっとも、そうなると案内役がいなくなるしな。
「とりあえず近くの街に行って、そこで足を調達しなきゃ」
それも面倒くせぇ。
必要なことにしても、どっか寄り道するのは嫌だなぁ。
となるとアレしかねぇよな、リィナちゃんに見られるのはどうかと思うけども、まぁ良いや。
「システラ、収納領域を開いてくれ」
目的地に向かう足が無いっていうなら、それを出そうじゃないか。
「何を?」って顔をしているシステラに対して俺は続けて──
「俺の『車』を出せ」
足が無いんだから仕方ない。
俺の車にみんなで乗ってドライブと洒落込もうじゃないか。




