次の行き先
ルクセリオから神がいるというらしいイグナシスという街の情報を得て、ルクセリオの天幕から出ると一緒にいたセレシアが──
「あてが外れたな」
「何の話?」
次の目的地になりそうな場所の情報を得られたんだし、充分すぎる成果だと思うけどね。
セレシアは何のことを言ってるんだろうか?
もしかして、ルクセリオが仲間にならなかったことを言ってるんだろうかね?
「奴が味方にならなかったことだ。仲間にするために会いに来たんだろう?」
「ルクシィを仲間に? ありえねぇよ」
どうやら勘違いをしているみたいだね、セッシーは。
ルクセリオを仲間にするとかありえねぇよ。
ぶっちゃけ、行動を共にする仲間としてはルクセリオは最悪だぜ?
「同行する仲間として見たらガイの方が遥かにマシなくらいだ」
ゼティがそう答えるとセレシアは理解が及ばないといった顔で首を傾げる。
そりゃまぁ、今の俺達はガイと敵対してるから、ガイが最悪に思えるかもしれないけど、ルクシィも大概なんだよね。俺はその理由をセレシアに説明する。
「ルクシィは攻撃能力が高すぎて、周りを巻き込むからね。戦場みたいにだだっ広い所じゃなきゃ戦えねぇのよ」
ルクセリオは核ミサイルなんかの戦略兵器みたいなもんだからさ。
それくらいの威力の攻撃を拳銃みたいにお手軽にぶっ放すんだもん。
連れて歩いて戦闘に参加させるわけにはいかないだろ? でもって、戦闘に参加させないならルクセリオを連れていく意味は無いわけで、味方にする必要性も無いんだよね。
「ルクシィの業術の能力って説明したっけ?」
どうしてヤバいか説明するのにはルクセリオの業術を知れば分かると思うんだけど。
「いや、聞いてない。光を操る能力ではないとは、お前から聞いたが──」
じゃあ、教えてやって良いかな。
ルクセリオ自身、自分の能力を隠すとかしてないし、知られたところで問題がない能力だもんな。
「ルクセリオの業術の効果は簡単に言えば『加速』だ。駆動態では拳を光の速さまで加速させるってそんだけの能力。まぁ、光の速さってのはハッタリで実際は亜光速なんだけどね、光速の80~90%とかそんなもんらしいよ」
セレシアはピンと来てないようだ。
まぁ、科学とか発達して無い世界の出身みたいだし分かんねぇか。
「亜光速の拳は放たれた瞬間に空気を構成する各種の分子と衝突し、その瞬間に核融合反応が起きる。でもって大量のガンマ線と数千度に達する熱が生じて周囲を無差別に薙ぎ払う」
パンチ一発で周囲を吹き飛ばす、核融合パンチがルクセリオの攻撃って感じ。
何を言っているか分かんねぇと思うし、俺も良く分かってねぇけど、とにかく周りにいる奴は死ぬ。
「一応、奴の顕現態は加速によって周囲に生じる影響を制御し、攻撃力の向かう方向を限定できるんだけどね」
拳を突き出した時に真っ直ぐ光線が伸びたのも業術の効果によるもの。
ルクセリオの顕現態は制御に特化してて、無差別に周囲を破壊する攻撃をある程度コントロールできる。
それが無ければルクセリオが拳を放った瞬間、ルクセリオを中心に周囲数十kmにいる大半の生き物は死に絶える。
「制御できるなら大丈夫なんじゃないか?」
セレシアの考えはもっともだ。だけどね──
「たまに制御にしくじるとしてもか?」
ゼティが溜息を吐きながらセレシアの考えを否定する。
ゼティが言う通り、ルクセリオはたまに制御にミスるんだよね。
威力の調整とかミスってる分にはまだ良いんだけど、威力を向ける方向とか範囲とかをミスられると周りが死ぬ。ルクセリオが制御するのは周囲への破壊の影響だけじゃなく、自分の業術で生じる熱とかもだし、奴の業術は致死量の放射線を平気でばら撒くからね。それを制御し忘れると、周囲一帯に生きている生命体が急性放射線障害になって遺伝子をぶっ壊されて死ぬ。
「戦略兵器の威力を人間サイズに圧縮して、拳銃のような感覚で連発できるんだもん。そんなヤバい奴を連れて歩くわけにはいかねぇだろ?」
「確かになぁ」
セレシアも納得してくれたようで何よりだね。
「ま、目的地を教えてくれただけ良いじゃない。ルクシィは筋や義理を通す奴だから嘘をついてるってこともないだろうしな」
「皇帝にもなった男だと聞いたが?」
そういえば、そんなことを言ったな。
権力者だったことがあるから、腹芸が得意だし、こっちを利用したり、陥れようとしたりするって?
「ねぇよ。バヴェル人は義理堅いからな」
生まれた国で人間性を決めるのも良くねぇんだけどね。
ただまぁ、バヴェル人──ルクセリオが皇帝になったバヴェル帝国の人間は義理堅い奴が多いのは確かだよ。
「バヴェル帝国のある世界には一回くらい行ってみるのをオススメするよ。面白い世界だからさ」
まぁ、その前にこの世界を脱出しねぇといけないんだけどさ。
「良い国なのか?」
「俺は二度と行きたくないがな」
興味を抱いたセレシアに対し、ゼティはウンザリした顔で答える。
そして、俺はゼティの答えに捕捉するように──
「ちなみに戦闘能力だけなら俺の使徒に匹敵する奴が常に何百人もいるんだよね」
そういう連中が絶対的な強さを持つ皇帝のもと大人しく暮らしてるって国だ。
法や利で縛れるような連中じゃないから、義理で結び付けるしかないんだよね。
「あまり行きたいとは思わないな」
「そう言わずにさ、連れてってやるから」
まぁ、それもこの世界を脱出できたらって話になるんだけどね。
結局は問題はそこにあるのさ。この世界から脱出するためにも、俺達はとりあえずこの世界の神を倒してその力を奪って回らないといけないわけだが──
「手掛かりはイグナシスって街の名前だけなんだよね」
俺は話を変えるようにルクセリオから聞いた街の名前を口にする。
そこへ行けばいいわけだが、さてどうしたもんかね。
ラスティーナからの情報も聞いておきたいわけだけど、ここからラスティーナのいるソーサリアまで戻る?
面倒くせぇなぁ。イグナシスってレイランド王国にあるんだろ?
せっかくレイランド王国の国内に入ってるんだから、このまま向かいたいんだよなぁ。
そんなことを思っていると、不意に俺達の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「三人ともここにいたか」
名を呼びながら俺達のもとにやってきたのはラスティーナの私兵のジェイクだった。
ガイとの戦闘の前に邪魔だからって理由で置いてきたジェイクだったが戦闘が終わったので、俺達を探しに来たようだ。
ラスティーナが王女をやってるアウルム王国とレイランド王国は同盟を組んでるらしく事情を説明すれば、こうしてアウルム王国軍に属するジェイクがレイランド王国軍の本陣の中に入って来ても問題無いようだ。
「なんか用かい?」
俺はジェイクに訊ねるとジェイクは──
「用も何も戦いが終わったのなら、速やかに殿下のもとに戻らなければ!」
「そりゃ、キミは王女様に雇われてるからそうしなきゃいけないのかもしれないけど、俺らは違うしなぁ」
戻って報告するにしても、俺らは報告することは無いぜ?
魔族軍がレイランド王国に攻め入ったけど、ルクセリオがワンパンで殲滅したとか報告するのかい?
まぁ、それもいいんだけどね。でも、俺らは俺らの都合があるんだよ。
「あぁ、そうだ。別にキミでも良いか」
そういえば聞いておきたいことがあったんだ。
「イグナシスって街のことで知ってることある?」
ジェイクはこの世界の人間なんだし俺らよりは知識があるだろ?
「急に何の話だ?」
「ちょっと旅行先を調べてるのさ」
当然、ジェイクは俺を怪しむ。
だがまぁ、別に隠すようなことでもないようで結局は教えてくれた。
「イグナシスはレイランド王国の都市の1つだ。近くに鉱山があり、良い鉱物が採掘でき、それを利用した鍛冶で発展した街だ。そして良い武具が作られることから、それを求めて優れた戦士が集まり、互いの武芸の腕を磨き合ったことから、戦士が自らを鍛える場所としても名声を得た街だ。俗には『剣の都』とも言われているな」
ふーん『剣の都』ね。
「レイランド王国が誇る最強の剣士の称号である『剣聖』の名を持つ剣士も道場を構えていると聞いたな」
『剣聖』ね。俺の知り合いにも凄い剣士はいるぜ?
どっちが凄いんだろうね。ゼティはどう思う?って聞こうとゼティの方を見るとゼティは微妙な顔をしていた。機嫌が悪いなら、ちょっかいをかけようと思うんだけど、機嫌の悪い時の顔じゃねぇんだよな。
からかっても面白く無さそうだから、話しかけるのはやめておこう。
「イグナシスに神様が住んでるとかいう話は聞いたことが無いかい?」
俺としては、実際の所、どういう街かはそんなに興味ないんだよね。
重要なのはそこにこの世界の神がいるかどうかだ。
「神が住んでるという言葉の意味が分からない。神々は天界に暮らしているのではないか?」
そういう世界もあるけどね。でも、この世界には天界はないからなぁ。
地獄とか天国とかの死後の世界。生命として死んだ存在の魂のリサイクルをするシステムも作れない世界なんだもん天界なんか作る余裕はねぇよ。
まずもって世界自体を問題なく運営する資源が足りないくらいなんだからさ。
「神が住んでるとは思わないが、赤神を祀る神殿があるとは聞いたことがあるな」
赤神を祀る神殿ね。
それを聞く限りでは可能性も無くはないって感じか。
俺としてはイグナシスに行くべきだと思うけどね。
まぁ、ラスティーナに聞いて確証を得るのも必要かな。
「ジェイク君はこれからラスティーナに報告に行くんだろ?」
俺がジェイクに訊ねるとジェイクは「そうだ」と言う代わりに頷いた。
「じゃあ、俺達はここで待ってるから、ラスティーナに報告しに行ってよ。ついでに俺はイグナシスに向かう予定だってことも報告しておいてね」
「おい」
パシリみたいに使われるのが面白くないのか、ジェイクは俺に不満気な顔を向けてくる。
嫌だねぇ、そんな顔をされると悲しくなってしまうぜ。
「みんなで行くこともないだろ? 俺達はここで待ってるのが効率的だと思うけどね。それに俺達が行かない方がキミにとっても都合が良いと思うけどな。だって、行かないって俺達は何もラスティーナに言えないってことだからね」
キミにとって都合の良い報告だけしてくれて良いんだぜ?
俺は暗にジェイクにそう伝える。すると、ジェイクは俺が何を言いたいのか理解したようで、納得したように頷くと──
「何か事情があるのなら仕方ないな。報告は私だけが行くとしよう」
そうしてください。
俺は去っていくジェイクの背を眺めながら、ラスティーナへの報告のことよりも今後の事を考えることに思考を割くことにするのだった──




