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ダンジョン攻略(合流)

 急に現れたゼルティウスに対して、カイルたちは困惑していた。ダンジョンの中で出会ったのもそうだが、自分たちを探していたというのも、訳が分からない。


 カイルたちはベーメンの村長にダンジョンの調査を依頼されて、ここにいるわけだが、ゼルティウスがいる理由が分からない。

 自分たちが失敗したと判断してベーメン村の村長がゼルティウスにも依頼したとカイルは考えようとしたが、それにしたって全滅したと判断するには早すぎる。

 それと自分たちを探していたというのも良く分からない。カイルたちはゼルティウスがわざわざダンジョンに潜ってまで自分たちに会いに来る理由に思い当たる物はなかった。


「えーっと、何か用ですか?」


 分からない以上、聞いてみるしかないとゼルティウスに訊ねるカイル。


「いや、用があるのは俺じゃなくて……」


 どう答えるべきかとゼルティウスは一瞬考える。

 カイルに、この地の領主の可能性があると今この場で伝えるべきか、しかし、そうなった場合、詳しい事情を自分は知らないことにゼルティウスは気づく。


 ゼルティウスはアスラカーズになんとなくついてきただけだなので、アスラカーズがどういう経緯で依頼を受けたのか大まかな話は聞いていないし、どういう考えを持っているのかも把握していない。

 アスラカーズに何か狙いがあるなら、この場で自分が余計なことをするのは得策ではないのでは、という考えがゼルティウスの頭をよぎる。


 そしてそんなことを考えている内に面倒になってしまい、ゼルティウスはアスラカーズに丸投げをすることにした。

 もともと、そんなに頭脳派ではないし、一人で活動しているならともかく、アスラカーズがいるなら奴に任せれば良いとゼルティウスは思考を放棄し、何も考えずに口走る。


「アスラカーズが用があるらしいんで、会いに来たんだが……」


 何も考えずにそこまで言ってから、ゼルティウスは気づいた。アスラカーズ(奴)は、その名を名乗っていたかと。

 ゼルティウスの記憶ではアスラカーズはアスラカーズなのだが、偽名を名乗ることも多いので、もしかしたらカイルたちはその名を知らないかとも思い、誰だか分からないのではという不安を覚えたのだが──


「邪神と知り合いなんですか」


 カイルの言葉にゼルティウスは何も考えずにその通りだと頷く。

 ゼルティウスの反応に困惑したのはカイルたちだった。カイルたちはそもそもアッシュを邪神だなどと信用しきってはいなかったので、ゼルティウスが自然に受け入れているという状況が理解できなかった。


「えーと、アッシュ……アスラカーズとはどういう関係なんでしょうか」

「俺は奴の使徒──」


 ここまで何も考えずに答えていてゼルティウスはふと考える。

 なぜアスラカーズが邪神だと知られているのか。そして邪神と知られていて大丈夫なのかという疑問が頭をよぎり、ついでに自分が邪神の仲間だとバレるとまずいのではないかという考えにも至る。


「──いや、なんでもない」

「申し訳ないですけど、完全に聞こえていました」


 カイルはゼルティウスが邪神アスラカーズの関係者であることは理解できた。

 しかし、そのことにどうやって追及していけばいいのか、そもそも追及するべきことではないのかという考えが頭の中で交錯し、判断がつかない現状では沈黙するしかできなかった。

 だが、カイルの仲間たちはというと──


「勇者ってのは嘘だったのかよ」

「それはまぁ、勇者と名乗っている方が都合が良かったからで、俺は勇者のつもりは無かったな。ついでに言うと、今は邪神アスラカーズの使徒の剣士ゼルティウスだ」


「前に会った時と態度が違うのは?」

「勇者っぽい態度を意識していたら、ああなっただけだ」


「もしかして、アイツが邪神ってのはホントの事なの!?」

「それは本当だ。話を聞く限り、アイツから直接聞いたんじゃないのか?」


 ギド、コリス、クロエの三人が次々に質問をする。

 困惑していたのはいつのまにかカイルだけになっており、そんなカイルを見てゼルティウスは尋ねる。


「何か俺に聞きたいことは?」


 そもそも何をしに来たのかとカイルたちは聞こうと思っていたのだが、いつの間にか関係ない話になっていたので、カイルは本題に戻そうと思ったのだが──


「アッシュさんは本物の神様なんですか──」

「そうだって言っているじゃないか」


 だが──とカイルは思う。

 アッシュ──アスラカーズはカイルの思い描いていた神という存在とはまるきり違うものであり、とてもではないが神だなどとは認められない。

 ゼルティウスはカイルの様子から、そんな考えを読み取る。


「分かるよ、俺も同じようなことを思ったしな」


「同じことって……」


「アイツが神だなんて信じられないんだろ? 俺も初めて会った時はそうだった」


「…………」


「そもそもの考え方が間違っているんだよ。神ってのが偉大で崇高な存在って前提が違うんだ。俺達がそうだと信じていた神の大半はただの使いっ走りに過ぎなくて……俺がこんな話をしても仕方ないな。詳しい話は奴に聞け」


 本当に余計な話だとゼルティウスは口が滑ったと反省する。

 ゼルティウスが知る限りだと結局の所、神というのは世界を創造する力と管理する力を与えられただけの存在にすぎない。

 しかも、その力というのは、何かしら力に目覚めるきっかけがあったり、力を得るための修行や試練があったわけでもなく、偶然に選ばれただけだとアスラカーズは言っていたのをゼルティウスは憶えている。

 アスラカーズが言うには、進化の袋小路に至った高位次元の存在が、新たな種の可能性を発見するために自分たちが管理している種族に力を与えて新たな世界を創らせているとゼルティウスは聞いている。

 その際に力を与える種族や個体は無作為の選出であるということで、神というのは偶然に選ばれただけであるのだから、特別であることの方が珍しいとも聞いており、そんな連中であるのだから、崇高さや偉大さを求めるのが間違っているのだとアスラカーズはゼルティウスに教えている。

 そして、そんな連中なのだから大半は平凡な能力しか持ち合わせていないため、出来ることは世界の概観を構築することだけで、それ以上のことは世界の管理の実務を行う存在を作って任せるしかなく、ゼルティウスが今いる世界の白神などがその存在にあたる。

 世界で語られる神というのは大半がAIみたいなものであるというのがアスラカーズがゼルティウスに教えたことだった。

 ──こんな話をカイル達にする必要も無いのは明らかだ。ゼルティウスはこれ以上、余計なことを話す必要も無いだろうと、カイル達にダンジョンから脱出するように促すことにした。


「調査はもういいから帰れ。入り口に人がいるから、そこで俺達が帰るまで待っていてくれないか?」


「いや、でも調査が……」


「それも俺達がやっておくから、お前たちは帰れ」


 ゼルティウスは有無を言わせない口調でカイル達にダンジョンから出るように促し、自分は先へ進もうとするが──


「この先は下まで階段が続いていますけど行き止まりですよ。僕たちはこれから最初の分岐の左側を調査しようと思っていたんですけど……」


 左と言うとアスラカーズが向かった方だとゼルティウスは思いだす。

 アスラカーズの状態がどうなっているかは分からないが、そちらの方にカイル達を向かわせれば、どんな巻き添えを食うか分からない。

 る気のスイッチが入っている状態ならまだしもる気のスイッチが入っていたら手に負えない。


「そっちにはアスラカーズ──この世界ではアッシュと呼ぶべきなのか?」


 不意に疑問を抱きゼルティウスの言葉が止まる。しかし、すぐにどうでも良いという結論に達する。


「左の通路の調査にはアッシュが向かっているから、お前たちは気にしなくて良い。お前たちはとにかく帰ってくれないか?」


 ゼルティウスの頼みに対して、釈然としないものを感じながらも、冒険者としての実績では自分たちより遥か上に位置するゼルティウスに問題ないと言われれば、カイル達も反対しづらく、不承不承といった様子でカイル達はゼルティウスの言葉に従ってダンジョンの入り口に戻っていったのだった。


 カイルたちがダンジョンから出ていくのを見送り、ゼルティウスはアスラカーズ──アッシュの通った道を辿ってダンジョンの奥を目指す。カイルたちが見つかった以上、ここに長居する必要もないと判断するのか、それとも最深部までの進むのかはアッシュの判断に任せるべきだとゼルティウスは考えていた。


 アッシュの通った道はすぐにわかる。アッシュの業術でダンジョンの床や壁が融けているので、それを辿っていけばいいだけだ。そうして、アッシュの通った跡を辿っていくとほどなくして巨大な扉の前に辿り着く。

 扉の前に立つより早く、中から熱がゼルティウスのもとに届いてくるのを感じ、ゼルティウスは中にアッシュがいることを確信する。ゼルティウスは中の様子を想像しながらウンザリとした気分で扉をあけると──


「うおぉぉぉぉぉっ!」


 熱気と共に雄たけびをあげるアッシュがドラゴンを殴り飛ばしていた。

 そうとうに昂っているようで、業術によって発生した熱は石畳の床を溶岩に変え、ダンジョンの壁を融かしている。そのうえ、アッシュの放つ熱が空気に伝わっているため、部屋の中の温度は何の対策もしていない人間が入れば即死のレベルまで達している。


 そんな状況下でアッシュと対峙するドラゴンはどうしているかというと、無傷とは程遠い状態だった。翼は千切れ飛んだのか一枚だけ、体のあちこちを貫かれたのか傷痕もあり、それに加えて鱗がアッシュの業術で融け落ちていた。対してアッシュはというと、攻撃を受けたのか服は破れているが、ほぼ無傷。

 両者の状態を見れば、勝負はどちらが優勢かハッキリわかり、勝敗は決したように見えるのだが、当のアッシュはというと──


「楽しくなってきたなぁ、おい!」


 相手の状態などお構いなし、自分だけ良い気分になっていた。


「こんだけやっても死なねぇってスゲェよ、おまえ! だから、俺ももうちょっと本気を出して良いか?」


 既に満身創痍の相手に対して、アッシュは相手の様子を気に留めることもせず、自分の衝動に従い力を振るうことを決める。


駆動せよ(ドライブ)、我がカルマ。遥かなそらに至るため』


 謳うようにアッシュの口から紡がれるのは詠唱である。

 業術カルマ・マギアの第二段階の詠唱。それが聞こえた瞬間、ゼルティウスは動き出していた。


『見上げた星の輝きに、地上の人は夢を見た。果てなき旅路がいま始まる』


『恐れを振り切り一歩を踏み出せ。勇気を掲げて走りだせ。共に無限へ駆け出そう。世界はお前を待っている』


そらに輝く綺羅星が──』


 アッシュの詠唱の隙を突いて動き出していたゼルティウスがアッシュの背後を取る。アッシュの周囲は業術によって超高温になっているが、ゼルティウスは闘気で身を守り接近する。

 そこまでだ──そう言おうとしたが言ったところで無駄だと直感したゼルティウスは言葉での説得を最初から放棄し、手に持った剣で背中からアッシュの胸を貫く。


「やりすぎだ」


 そう言いながら剣を引き抜き、ゼルティウスはドラゴンの方を指差す。

 ゼルティウスの攻撃で詠唱が中断され、不意打ちをくらったことで冷静になったアッシュは改めて目の前の敵を見る。

 そこにいたのは哀れなほど傷ついたドラゴンの姿で、それを目にした瞬間、アッシュの気分は業術の発動が不可能な段階にまで落ち込む。

 ズタボロの相手に業術の第二段階まで使おうとしていたことに気付いたアッシュは自分の舞い上がりっぷりが恥ずかしくなり、同時に戦う意欲もなくなってしまう。


「はぁ……。もう俺の負けで良いから、後は任せた」


 そして戦う意欲を失ったアッシュはボロボロのドラゴンに背を向け、ゼルティウスに選手交代を告げると、自分は部屋の隅に座り込んでしまうのだった。





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