協力要請
──俺がガイとルクセリオの戦闘に混ざろうとしたら、ガイが帰ってしまった。
残された俺とルクセリオ。どうもルクセリオは俺と喧嘩するつもりは無いみたいで、俺はルクセリオの案内でルクセリオが世話になってるらしい、レイランド王国の本陣にお邪魔することになった。
「素晴らしい御活躍でした、ルクセリオ殿!」
本陣に到着するなり、そんな台詞でルクセリオを出迎えるレイランド王国の将兵たち。
勝利に沸き立つレイランド王国の連中を尻目にルクセリオは憮然とした表情だ。
手放しに称賛してくれてるんだから、喜んで見せるくらいやっても良いと思うけどね。
まぁ、そういうサービスをしてやるまでの義理は無いか。代わりに戦ってやってるだけでもルクセリオ的には召喚したことに対する義理を果たしてるわけだしな。
「その者たちは?」
ルクセリオの後ろにくっついてレイランド王国の本陣を歩いていると、将校らしき奴がルクセリオに訊ねてきた。俺は包み隠さず、ルクセリオの親分ですとでも言ってやろうと思ったんだけど、俺が言う前にルクセリオは──
「己の客だ」
それだけ言って後は質問するなって雰囲気を出す。
嫌だねぇ、愛想がなくてさ。俺なら聞かれたら一時間くらい話してやるってのにさ。
「こいつらと話がある。誰も通すな」
ルクセリオはそう将校に言うと俺達を自分の天幕に案内する。
魔族撃退を喜ぶレイランド王国の連中のことなど気にする様子も無く、戦の功労者であるはずのルクセリオは俺との話を優先することにしてくれたみたい。
これはアレだね。俺を大事に思ってくれてるってことかな。ドキドキしちまいそうだぜ──ってことはなくて単に自分が置かれた状況を整理したいってだけだろうけどさ。
ルクセリオが自分の状況を理解してたら、こんなに歓迎はしてくれなかっただろうね。
むしろ、俺を殺しにかかったかも。俺はルクセリオのことは嫌いじゃないけど、ルクセリオは俺のことが好きじゃないからね。
まぁ、想いが双方向で通じ合うってのは難しいから別に良いんだけどさ。
「では、話してもらおうか。何が起きてるのか」
天幕の中に入ると茶も出さず、椅子を用意することも無くルクセリオは単刀直入に質問してきた。
仕方ないので、俺は適当にそこら辺に腰かけて、ルクセリオの問いに答えようとするが──
「貴様じゃない。己が聞いているのはゼティだ」
ルクセリオが話を聞きたかったのは、俺じゃなく、俺にについてきていたゼティだった。
一応、この場には俺とゼティとセレシアがいるわけだが、この面子の中でルクセリオと顔見知りなのは俺とゼティ。そんでもって、ルクセリオにとって信用できるのはゼティだけのようだ。
悲しくなるね、俺はルクセリオの主だってのに扱いが悪すぎるよ。
まぁ、俺が話をした場合、話を盛るし、嘘も吐くんで、ルクセリオの判断は正しいんだけどさ。
出来事をそのまま話すとか芸が無いと思わないかい? 俺はそう思うんで脚色をして伝えるし、ちょっとした悪戯心で嘘もつきたくなってしまうんだよね。
「俺が話すよりは、こいつに話をさせた方が良いと思うが?」
「己はこいつを信用していない。お前が話するのが苦手なのは知ってるが、平気で何の意味も無い偽りを口にする奴よりはマシだ」
何の意味も無いってわけじゃないんだけどね。
俺が楽しいってだけでも意味があるとは思わないかい?
「信用が無いんだな」
セッシーはそう言いつつも当然だって顔をしてる。
嫌だねぇ、味方が誰もいねぇぜ。俺の日頃の行いが素晴らしすぎるのが良くないのかしら?
「みんな、俺の手を煩わせないように気を遣ってくれてるんだって思うことにするぜ」
「強がりで言ってるなら可哀想だし、本気で言ってるなら正気を疑うぞ?」
俺とセッシーがそんな会話をしてる横でゼティとルクセリオは今に至るまでの経緯を話し合う。
二人の会話に割り込むのも良くない気がするんで、俺とセッシーは雑談することにした。
「うーん、あのルクセリオという男、ちょっと好みかもしれない」
まぁルクセリオは見た目は良いからね。
褐色の肌に黄金の髪、太陽のような輝きの瞳といった感じのエキゾチックな容姿だしさ。惹かれるものはあるかもね。
「好みだとか言ってるけど、セッシーって婆さんになるまで人間だったんだろ? 精神的には年寄りなんだし、それでも男が気になったりするもん?」
「肉体的には若いからな。肉体に引きずられて精神的にも少女なんだから、美形な男に惚れるのも仕方ないと思わないか?」
仕方ねぇのかな? 良く分かんねぇや。
「貴様だってそうだろう?」
綺麗な女の子が好きだろうって?
まぁ、否定はしないけどさ。でもなぁ──
「俺は女の子と付き合うより、男とどつきあう方が好きなもんでね。今更、男女のどうこうは面倒くさくてしょうがねぇよ」
それに俺の女は後にも先にも死んじまった一人しかいないんでね、それ以外の女と深い仲になるのは色々と気が咎めるのさ。ま、俺の気分的によろしくねぇってだけの話なんだけどね。
そんな下らないことを話していると、どうやらゼティとルクセリオの話は済んだようだ。
とりあえず、俺がこの世界を脱出するためにこの世界の神を倒して回ってるって話と、白神教会が怪しいって話はルクセリオにも伝わったようだ。
それくらいのことを伝えておけば充分だとは思うけど、ちょっと捕捉をしておいても良いのかも。まぁ、それもルクセリオがこの世界にいたってことで確信を持ったんだけどさ。
「召喚されてる奴の大半が俺の使徒って時点で俺を狙ってるってのは明らかだわな」
俺の使徒以外にこの世界に召喚されてるってことに意図を感じるなって方が無理だろ?
「最初から俺を嵌めるつもりで、この世界に喚んだってのは間違いない」
使徒まで召喚する理由は分からねぇけどさ。それと──
「白神教会ってのが俺を狙ったのか、それとも教会の後ろに黒幕がいるのか。そして、どうして俺を狙ったのかって動機も分からねぇんだけどさ。ま、とにかく俺を狙ってるってのは間違いないと思うんだよね」
「貴様の自意識過剰の可能性は?」
痛い所を突くね、ルクセリオ君。
「俺は自意識過剰に関しては否定できないけれど、被害妄想は持ってないんでね。自分が狙われてるかそうじゃないかを判断を間違えることはねぇよ」
世の中の奴らみんなが俺を陥れようとしてるとか思い込んだりはしてねぇよ。
まぁ、俺的にはそっちの方が良いんだけどね。この世の全ての奴が俺の敵に回ってくれるなら、それはそれできっと俺にとっては楽しいだろうからさ。
「ま、そういうわけで色々あって困ってるから、ちょっと手を貸してくれると嬉しいんだけどさ」
俺の使徒なんだし、ルクセリオも手を貸してくれるだろ?
そう思って頼んでみたんだけど、ルクセリオは──
「断る」
つれないお返事だぜ。
なんで嫌なんだい? そう俺が聞こうとするより先にルクセリオは──
「何故、己が貴様に力を貸さなければならない?」
「そう言わずにさぁ」
「寄るな。己は貴様が嫌いだ」
ヒデェなぁ、俺が何をしたって言うんだよ。
まぁ、思い当たることはいっぱいあるけどさ。
「俺の使徒なのに、|邪神(俺)のために働くのは嫌かい? 俺が使徒にしてやったってのにさぁ」
ルクセリオは俺が直接、選んだ使徒なんだけどね。
それくらい評価してやってるのにルクセリオからの評価は低いんだよね、俺ってさ。
「誰も使徒にしてほしいなどとは言っていない。己の世界には己より相応しい奴がいたはずだ」
面倒くせぇな、またこの話かよ。
ルクセリオの世界には強い奴がいっぱいいたけど、ルクセリオが一番強かったし、俺が気に入ったからってそれだけの話なのに、いつまでもこいつはグチグチと。
「嫌われてるんだな?」
「まぁ、いつものことだ」
セレシアとゼティは我関せずって感じで俺とルクセリオのやり取りを眺めている。
味方がいなさすぎてゾクゾクしてくるぜ、孤軍奮闘ってのは胸が熱くなるね。
「まぁ、落ち着こうぜ、ルクシィ」
俺は親し気にルクセリオの名を呼ぶ。
呼び方ひとつで関係ってのは良くなるからね、愛称で呼ぶってのは大事だよ。
「その呼び方はやめろ」
あら、怒った?
ごめんねと口には出さないけど、俺は嗤ってごまかそうとする。
おっと、笑ってだったね。音は同じだけど、印象が全く違うから気をつけないとね。
「そもそも、己は貴様を信用していない。手を貸したところで、その手に後ろ足で砂をかけるのが貴様だからな」
そんなセコイことはしねぇよ。
だって砂をかけるだけじゃダメージが少ないだろ。
「俺は直接、手に噛みつくタイプだぜ?」
「どちらも同じことだ」
ま、そうだけどさ。
「先程もそうだ。貴様は戦いに乱入する振りをして、ガイを逃がしたな?」
俺がガイとルクセリオの戦闘に割って入ったことを言ってるのかね?
どうにも俺とルクセリオには見解の相違があるようだ。
「なんのことやら、単に楽しい喧嘩から俺を仲間外れにしただけだろ?」
余計な奴が来たから二人して戦うのをやめたってだけの話じゃないのかい?
「さりげなく俺の側につくような位置取りをしておいて、良く言えたものだな」
「そうだったかな? だとしても、俺はガイとは敵対してるわけだし、逃がす理由も無いと思うけどね」
「それもどうだかな、貴様はあの餓鬼に甘いからな」
「それこそ心外だぜ。俺は誰にだって優しいじゃないか? キミにだってさ」
「はっ、笑わせる」
ルクセリオは吐き捨てるように言う。
参ったね、俺の優しさが伝わらないみたいだ。
──まぁ、確かにガイを逃がすように動いたのは事実だよ。それは否定しないけどさ。
でも、あのまま勝負が続けば、どっちもエキサイトしすぎて、この世界がヤバいことになってただろうし、止める必要はあったと思うんだよね。
ま、そういう理由をわざわざ説明はしないけどさ。
言ったところで、ルクセリオは自制できたとか言い訳しそうだしさ。
「いまさら貴様が何を言おうが、己は貴様に手を貸すつもりは無い。己は己にしか従わない。頼みは当然として、神として命令されたところで貴様に従うつもりもない」
どうやら、ルクセリオは聞く耳持たないようだ。
これ以上、話しても無駄っぽいな。仮にこのまま話してても後は喧嘩になるだけだろうな。
……それはそれでいいかもしれないね。ぶん殴って言うことを聞かせるってのも楽しいんじゃない?
何の制限も無い本気で戦った時は俺が勝ったけど、俺が弱くなってるこの世界で戦ったら、どうなるんだろうか?
「失せろ」
ルクセリオが俺を追い出そうとする。
そっちが素直に言うことを聞かないように、俺も素直に言うことを聞くタイプじゃねぇんだよなぁ。
ちょっと殴り合うのも良いんじゃないかい? そう思って俺は座っていた椅子から立ち上がると、ルクセリオに一歩近づこうとして──
「失せろと言われただろう」
黙って俺とルクセリオの話を聞いていたゼティが俺の眼前を横切るように剣を突き出し、行く手を遮る。
……しょうがねぇな。まぁ、ここで喧嘩したら、たぶん色んな人間を巻き込むしな。
「おいおい、俺は何もするつもりは無いぜ? もっと信用しろって」
「見え透いた嘘をつくな」
そいつは失礼しました。
俺はヘラヘラ笑って舌を出す。
「どうやら、お邪魔のようだ。お暇しましょうかね」
これ以上、話しをしててもしょうがない。
ルクセリオが手を貸してくれるってのは絶望的だしね。
となれば、ここに用は無いし、さっさと帰りましょう。
そう思って俺はルクセリオに背を向けるが──
「手を貸すつもりは無いが、情報くらいはくれてやってもいい」
俺の背中にルクセリオの声が届く。
「貴様らはこの世界の神を探しているらしいが、レイランド王国のイグナシスという都市には神が住むという噂を聞いたことがある」
そいつはどうも。
ツンデレですか──とか言ったら、パンチくらいそうだから黙っていよう。
でも、御礼くらい言ってやろうかと思ったら──
「失せろ。そして二度と顔を見せるな」
愛想が悪いねぇ。
まぁ、情報を頂けたんだし、文句は言わねぇけどさ。
とりあえずイグナシスね。
何処にあるか分かんねぇし、情報の精度も不確かだから、一旦ラスティーナにも聞いておこうか。
ラスティーナに頼まれた魔族に関する仕事は果たしたわけだし、その報酬として情報も頂かないとな。
さて、それじゃあ、帰ろうか。用事は済んだ。




