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攻と防、術と体、武と力

再開


 ──思えば、初めて会った時から気に食わなかった。

 何が原因でそう思うかは分からない。だが、とにかく目の前の相手が煩わしかった。

 煩わしいという感覚は嫌悪に変わり、やがて憎しみに変わり、今に至る。

 相手の存在自体が許せないのだ。生理的嫌悪感よりも更に直感的な嫌悪感。

 それがガイとルクセリオ──二人が互いに対して抱く感情だった。


「──ぶっ殺してやる」


 ガイがこんな言葉を吐く相手はルクセリオしかいない。

 ヒトとして生きてきた時も一度たりとも、誰かにこんな言葉を口にしたことは無い。

 ガイにとって敵とは殺すと言わずとも軽く撫でるだけで死ぬ存在であり、気負わずとも簡単に殺せる相手であり、殺意を露にする必要はなかった。


「死ね──」


 対するルクセリオも殺意を口に出す。

 ルクセリオにとっても、ここまでハッキリと殺意を口にすることは珍しいことであった。

 別にルクセリオが暴力的ではないということではない。

 ルクセリオは不言実行。戦う際には言葉に出さずとも殺す男だ。

 しかし、そんなルクセリオもガイに対しては殺意を露にする。


 二人の視線は交錯し、互いが互いの瞳を見据え、ガイとルクセリオは動き出す。

 突進を開始するガイに対して、脚を開き腰を落として迎撃の構えを取るルクセリオ。

 ガイの身体能力は一歩、足を踏み出した瞬間にガイを加速させ、強靭な筋肉のバネがガイを砲弾のように撃ち出す。


 そうしてガイが到達する速度は超音速。

 ただの距離を詰める動きだけで音速を超えたことによる衝撃波が巻き起こり、並みの相手であればガイが動いただけで命を落とす。だが、ガイが相対するのはルクセリオ。その程度では何のダメージも与えることはできない。それどころか──


「遅い」


 その言葉と共に放たれるのは光。

 ガイの動体視力は弾丸すらも止まって見えるが、そのガイの視力をもってしてもルクセリオの攻撃は全く見えず、そして超音速で動くガイをルクセリオの攻撃は捉える。だが──


「効かねぇ!」


 ルクセリオの放つ光。

 それを受けてもガイは止まらず距離を詰める。

 先程は食らった瞬間に肉体を貫いたルクセリオの光であるが、今回に関してはガイは耐えた。

 どうやって耐えたのか、その答えは単純で──


「少し内力を込めればお前の攻撃なんか効かねぇ」


 ガイは今まで自分の能力の強化に内力を使っていなかった。

 それを使い始めたという、それだけのことだった。

 多くの者が魔力や闘気を用いて肉体を強化して戦っているのに対し、ガイはそれをしていなかった。

 その理由は単なる手加減であり、強化しなくともガイの身体能力と肉体の強度はありとあらゆる生命を上回っていた。


オレの拳が効かない相手はいない」


 ルクセリオは突進してくるガイに向かって再び拳を腰だめに構えた状態から光を放つ。

 そして「今度こそ見切る」と意志を固めるガイの体を幾つもの光が打ち据えた。

 食らった衝撃によって足が止まるガイ。全身に感じる痛みは骨が砕けたことによるものだが、砕けた骨は一秒も掛からずに再生し、ガイは再び踏み出そうとするが──


オレは死ねと言ったはずだ」


 足を止めたガイに対してルクセリオが逆に踏み込む。

 ガイは咄嗟に反応しようとするが、その反応が起きる一瞬を超える速度でルクセリオの光がガイに叩き込まれた。

 その箇所は腹の中心。ガイは耐えられると言ったが、しかしルクセリオの光の直撃を受けた瞬間、ガイの胴体は腹から真っ二つに上半身と下半身に千切れ飛んだ。だが、そうなってもガイは──


「オレもぶっ殺すって言ったぞ」


 千切れ飛んだガイの上半身。

 それが地面に落ちようとした瞬間にガイの上半身は地面に手を突き、その瞬間、下半身が再生する。

 そして逆立ちになった状態のガイはそのまま足を振り抜き、ルクセリオに向かって蹴りを放つ。

 当然ルクセリオも防御の構えを取るが、ガイの蹴りはルクセリオの防御しようとした腕をへし折り、薙ぎ払うと、そのままルクセリオの頭に叩き込まれ、ルクセリオの頭部を粉砕する。


 ガイは体勢を元に戻して立ち上がる。

 下半身は完全に元に戻っている。自前の再生能力ではなく、使徒として与えられた残機を使って再生してので服も何もかも元通りだ。対するルクセリオも即座に残機を使って頭部を元に戻している。


 これで、お互いに無傷に戻っている。

 だが、二人の距離は互いの拳が届く距離に変わっている。

 共に得意とする間合いだ。

 ガイにとっては絶対的な身体能力を振るうのに最適な距離。

 対してルクセリオにとっては──


「カァッ!」


 ルクセリオの正拳突きがガイの胸元を突く。

 ルクセリオにとってこの間合いは己の修めた武術にとって最適の距離だ。


「ラァッ!」


 胸を突かれたガイが反撃の拳を振るう。

 技も何も無い力任せの打撃だ。しかし、ガイの身体能力によって振るわれるその腕は圧倒的な速度でルクセリオに襲い掛かる。


「シッ」


 ルクセリオは振るわれた拳を腕で叩き落とすようにして防ぐと返す刀でガイの側頭部に上段蹴りを叩き込む。その衝撃によってガイの頭が揺れた時にはルクセリオの足は戻っており、ルクセリオは地面を踏みしめ、更に距離を詰めると、ガイの鳩尾に向かって密着状態から中段突きを放つ。

 その衝撃によって、とうとうガイはたたらを踏んで後ずさった。


「業術だけがオレの力だと侮ったな」


 ガイには理解できなかった。どうしてルクセリオの拳は自分に効くのか。

 業術を使ってるわけでも無いただの打撃でどうして自分に痛みを与えることができるのかガイには理解できない。


「業術の力だけで『最高の攻撃力』などという称号が与えられていると思ったか」


 業術だけが自分の力ではない。

 ルクセリオはそう言ってガイとの距離を詰めながら拳を繰り出す。


 ルクセリオが使う武術はルクセリオの故郷であるバヴェル帝国に伝わるもの。

 バヴェル帝国を建国した初代皇帝が用いたという異世界の武術『空手』を1000年以上の時をかけ、工夫し改良し最適化させたもの。それがルクセリオの用いる武術であった。


 突き、払い、打ち、蹴る。

 武を尊ぶバヴェル帝国。

 強さが個人の地位を定めるその国においてルクセリオが手に入れた皇帝という地位は最強の証。

 それを手に入れるまでに磨き上げた武術はガイに対して痛手を与えるに充分な威力はあったが──


「こっちも伊達で『最高の防御力』なんて言われているわけじゃないんだよ」


 ガイは突き出されたルクセリオの拳を額で受け止めた。

 内力と気合、そして覚悟を決めれば耐えられない攻撃では無い。

 確かにルクセリオの拳はガイに痛手を与えられるが、ガイの命を奪うほどの威力は無い。

 それに対してガイの拳は──


「そして伊達で『最強の身体能力』なんて言われてるわけでも無い」


 ガイは拳を振るう。

 技も何も力任せの腕の振り、しかしそれでもガイの使徒の中で最強の筋力で振るわれた腕はルクセリオの反応を超える速度で放たれ、咄嗟に防御の構えを取った腕を砕きルクセリオの体を吹っ飛ばした。

 ルクセリオの拳はガイを殺せないが、ガイの拳はルクセリオを殺せる。

『最強の身体能力』とはすなわち、使徒の中で最も腕力に優れているということでもある。ルクセリオが技を駆使してガイにダメージを与えられるのに留まるのに対して、ガイは腕力だけでルクセリオを殺すことができた。


「自分で鍛えたわけでもない力を誇るな」


 吹っ飛ばされたルクセリオは着地するとガイに向けて言う。

 ガイの防御力も身体能力もガイが鍛え上げたものではなく、先祖代々から受け継がれてきたものだ。

 それをルクセリオは嗤っていた。その嘲笑に対してガイはというと──


「努力でマウントを取ってくる奴はダサいと思うね。結果を伴わなきゃ鍛えても意味は無いよ」


 ガイもルクセリオもそういえば以前にこんな会話をした記憶があったと思い出す。

 お互いの強さと生き方を嘲笑しあい。そして、その結果、戦闘になり──


「その守りをブチ抜く」


「テメェの拳は通さねぇ」


 ガイは自分に痛手を与えたルクセリオが許せず、ルクセリオは自分の攻撃で殺し切れなかったガイが許せなかった。そこから二人は互いを嫌い合い、そして今もまた互いに対する憎しみを増していく。


「貴様が気に食わない」


 ルクセリオは攻めに出る。


「オレはお前が嫌いだ」


 ガイは足を止め、防御の構えを取る。


 距離を詰めながら放たれるのはルクセリオの光。

 拳を構えた瞬間、ルクセリオから放たれた光がガイを捉えるが、ガイはその一撃を耐える。

 自分の業術を食らっても、屈しないガイに対してルクセリオは──


「生き方も何も気に食わない。何が『人間を守る』だ。笑わせてくれる」


 ルクセリオの放つ光に耐えたガイは拳に力を込める。

 気合いさえあれば、耐えられることは分かった。となれば後は耐えた後で、どうやって始末をするか考えるだけだ。ガイは拳に力を込めながら──


「オレはお前が嫌いだ。人間の王だったくせに人間を大事にしないお前が嫌いだ」


 一度だけガイとルクセリオはアスラカーズから与えられた同じ任務に就いたことがある。

 その時にガイは自分の主義に則り人間を優先した。対してルクセリオは人間も異種族も平等に扱おうとした。それだけでもガイにとってルクセリオは許せない存在だった。


「人間を守るか。本当に笑わせてくれるよ、お前は」


 ルクセリオはガイが拳に力を込めていることを察しながら、それが放たれるよりも早くガイを倒そうと続けざまに光を放つ。

 ルクセリオが構えを取った瞬間に放たれる無数の閃光がガイの体を捉えるがガイは微動だにせず、反撃の機会を狙う。そんなガイに対してルクセリオは──


「人間の顔も区別できないくせに守るなどと良く言えたものだ」


 ルクセリオはガイを憎んでいる。

 憎んでいるからこそ、何を言えば相手が最も傷つくかも理解している。

 おそらく、このことは他の使徒もアスラカーズでさえ知らないだろう。

 だが、ガイを憎むルクセリオだけは気付いていた。


 ガイ・ブラックウッドは人間を区別できないということを。








2週間近く書いてなかったんで感覚がズレてる気がする

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