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場を変える

 

 アッシュとセレシアに挟まれた二対一。その状況になってもガイは余裕を崩さない。

 片方は自分にようやくダメージを与えられる程度、片方は全くの問題外。

 となれば、ガイが余裕をもって二人と対することは当然である。


「せめて、かすり傷でも負わせられる奴を連れてくれば良かったね」


 手を地面につき、四足獣の構えを取ったガイが駆け出す。

 地面を手で叩いた勢いで加速し、向かうのはアッシュの方。

 セレシアの方は無視しても問題ないというのがガイの判断だった。


 一瞬で距離を詰め、飛び掛かるように殴りかかるガイ。

 しかし覚醒トリップ状態のアッシュはその拳を受け流し防ぐと後ろに飛び退き距離を取る。


「そろそろ見切ってきたぜ?」


 脳内物質の過剰分泌が生み出す陶酔感で酔っぱらったようなアッシュの顔にも若干の余裕が見える。


「いくつか世界を渡り歩いて多少は変わってるかと思ったが、やっぱり動きは変わらねぇな」


 飛び退き距離を取ったアッシュに対し、ガイが追いかけるように跳躍する。

 それは砲撃のような突進となってアッシュに襲い掛かるが、アッシュはそれを横に跳んで躱す。

 だが、躱した先には既にガイが回り込んでおり、着地の瞬間を狙ったガイの拳がアッシュの脇腹を貫き、その衝撃でアッシュの体が吹き飛ばされる。


「見切られてようと、こっちの方が性能スペックは高い」


 見切られようが反応できない速度で動けば問題ない。

 受けられようが守ることのできない力で殴れば問題ない。

 肉体の持つ性能が違うのだから、その性能差で蹂躙するのがガイの戦い方だ。


「性能差だけで勝負が決まるってなら、俺はこんなに戦いが好きじゃねぇんだよなぁ」


 吹き飛んだアッシュは地面に激突しながらも受け身を取って起き上がり、その口元に笑みを浮かべながら言う。その瞬間ガイは追撃のために動き出すが──


「私を忘れているようだな」


 アッシュとの間にセレシアが立ちはだかる。

 ガイの動きが見切れなかったはずのセレシアはしっかりとガイの行く手を塞ぎ盾を構えていた。

 邪魔だと思い、ガイは先にセレシアを叩き潰そうと拳を突き出す。

 アッシュですら辛うじて防ぐことしかできない自分の拳をセレシアが防げるとはガイは思わなかった。

 だが、その考えはセレシアという使徒を甘く見た考えだった。


 高速で突き出されるガイの拳。

 セレシアは自分にとって必殺となりうるその一撃を盾の表面を滑らせるようにして受け流す。

 一発で仕留められると思った相手に防御を成功させられたガイはそのことについて疑問を抱くより素早く、二撃目を放つ。だが、その拳もセレシアは盾で受け流す。しかし、受け流すたびにガイの拳で盾が削れていた。

 即座にガイは三発目を放つ。驚くよりもまずは始末する。そう思って放たれた三度目の拳。

 セレシアはその三発目も防いで見せる。しかも、その防御はただ受け流すだけではなく、受け流す方向をコントロールし、ガイの腕を押さえつける。


「甘く見たな?」


 ガイは即座に体勢を整えようとするが、その瞬間、セレシアの後ろにいたアッシュが距離を詰めてガイの背後に回り込むと、背中がガイの脇腹を内力を込めた拳で殴りつけた。


 殴られてもダメージは軽い。

 ガイは即座に背後に振り向くとそこにいたアッシュに向けて手を伸ばすが、伸ばした瞬間にはアッシュは後ろに飛び退き距離を取っていた。


「逃げてばっかりだな」


「そう言うなら、こっちから行こうか?」


 ガイは必要ないと言うようにアッシュに向けて駆け出す。

 自分の拳を防がれてもセレシアには危険を感じていない。だから、ガイはセレシアを無視してアッシュに向かう。事実、セレシアはガイの動きを全く捉えられておらず、ガイが動き出してもセレシアは反応できない。


 アッシュは向かってくるガイとの距離を取るように後ろに跳ぶ。

 それで稼げる時間は一秒にも満たない。アッシュが下がるよりもガイが詰める速度の方が速い。

 だが、アッシュにとってはそれで充分だった。その一秒にも満たない時間がアッシュに防御の猶予をもたらす。もっとも、その防御はアッシュ自身が行うものではなく──


「私を気にするべきだったな」


 再びセレシアがガイの前に立ちはだかる。

 アッシュとガイの間にあったほんの僅かに距離に割り込んだセレシアは盾を構え、ガイの拳を受け流した。

 これで防がれたのは四度目、流石に四度も防がれれば、ガイはおかしいと気付く。セレシアはガイの動きを捉えられていないのに、それでも気付いた瞬間にアッシュとガイの間に立っている。


「二対一で戦ってるんだぜ?」


 セレシアが防いだ瞬間、アッシュが別方向からガイを殴りつける。


「その通り」


 ガイがアッシュをに反撃しようとするとアッシュは後ろに跳び、距離を取る。

 その瞬間セレシアがガイとアッシュの間に割り込み盾を構えて、ガイの攻撃を受け流す。


「オレより柔らかい癖にやるね」


 ガイの眼がセレシアに向けられる。

 ガイはセレシアに向き直り、拳を叩き込む。だが、その拳もセレシアは受け流してみせる。

 それはガイとは異なる防御。

 ガイが肉体の強度に任せた防御力を誇るのに対し、セレシアの防御は武具を用いた防御技術に自信を持つ。ガイが使徒の中で最高の防御力を持つのに対し、セレシアは使徒の中でも屈指の防御技術。

 それは自分の身を守る力ではなく、仲間の身を守るための力。


「だけど、自分の身を守るには不向きだ」


 ガイの視線がセレシアに向けられたと同時に放たれる無数の拳。

 それをセレシアは防ぎ切れず、盾が割れ、セレシアは衝撃で後ずさる。

 ガイはその隙にアッシュの方に向かって動き出すが、それを見てアッシュは──


「あんまり、そいつを舐めない方がいいぜ」


 アッシュの言葉の直後、ガイの視界にセレシアが滑り込む。

 その瞬間、ガイは気付く。セレシアが自分を見ていないことに。

 そうして気付いた瞬間、ガイはどうしてセレシアが自分の動きを見切っているかのように動けたのかを理解する。


「オレを見ていないな?」


 ガイは視線をアッシュに向けると、アッシュは不敵な笑みを浮かべていた。

 その笑みが答えだ。

 セレシアはガイではなくアッシュの動きを見てガイの動きを予測していたのだとガイは理解する。

 アッシュの立ち位置、体の向き、それを見てセレシアはガイの動きを予測し、アッシュに迫る方向を見極め、アッシュとガイとの間に割り込む。

 セレシアの持つ経験がそれを可能としていた。人間として生きていた人生の中で身につけた技術と戦いの経験だ。


「だったら、先にアンタを狙おうか」


 ガイはアッシュよりもセレシアを狙うことを決めて、セレシアの方へと駆け出す。

 セレシアはガイの動き自体を見切ってるわけではなく、アッシュの動きを見て対応してるだけだ。

 直接狙われれば、セレシアは対応できない。それがガイの判断だ。


「来い──」


 そう言った瞬間、セレシアの体が吹き飛ぶ。

 割れた盾で防ごうとした瞬間、背後に回り込んだガイがセレシアの頭を打ち砕く。

 ガイの動きを捉えられないセレシアには防ぐことはできない。


「──前言撤回、できれば私は狙うな」


 気付いた瞬間には一回死んだセレシアは復活した瞬間、ガイに向かってそう言う。


「それは無理かな」


 ガイはセレシアの頼みを無視して続けてセレシアに襲い掛かる。

 セレシアは盾を構えて、正面から来たガイの拳を受け流すが、受け流したと思った瞬間にガイが背後に回り込み、セレシアの頭をもぎ取り、もぎ取った頭をサッカーボールのように蹴り飛ばして粉砕する。


「ちょっと、待て──」


 セレシアは再度の復活すると同時にアッシュを見る。

 見た瞬間にセレシアの胴体をガイの拳が貫く。


「打ち合わせと──」


 三度目の復活。

 セレシアはアッシュに戦闘の前の打ち合わせと違うと言おうとしたが、それを言う前にガイの手刀で首を切り飛ばされる。

 戦闘前の打ち合わせでは、セレシアがガイの攻撃を防いだ際に隙ができたガイを攻撃するという話だった。そうしてアッシュがガイの攻撃の流れを断ち切ることで、ガイの連続攻撃でセレシアが死ぬのを防ぐという計画だったのだが、その計画を提案したアッシュはここに来て何もしなくなった。


「おい──」


 四度目の復活。

 ガイはセレシアを先にマトモに動けなくなるまで殺そうと、セレシアにだけ集中しており、アッシュから意識を外していた。同時にセレシアも攻撃を防ぐためだけにガイに意識を向けて、アッシュから意識がそれる。


「再生できなくなるまで殺すよ?」


「断る!」


 突き出されるガイの拳。

 それをセレシアは割れた盾でなんとか受け流すと、右手に持っていた剣で反撃するが、しかしガイの体に叩きつけた剣は容易く折れる。


「そんなナマクラで斬れるほど俺の体はやわくない」


 ガイが大きく拳を振りかぶり、セレシアに殴りかかる。

 セレシアは咄嗟に割れた盾を構えるが、ガイの拳を受けた瞬間にセレシアの盾が砕け散る。


「くっ」


 絶体絶命の窮地。

 こういった事態にならないためにセレシアとアッシュと連携していたはずなのに、気づけばアッシュの存在は消えていて、いつの間にかセレシアとガイの戦闘になっている。

 それをセレシアは騙されたなどと思っている余裕は無かった。

 セレシアは両手に持っていた武具の残骸を放り捨て、目の前のガイに対して腕で防御の構えを取る。

 その構えを見てもガイの方のすることは変わらない。ただ力任せに殴るだけ、それだけセレシアの命など簡単に奪える。


「終わりだ」


 ガイはそう言ってセレシアに全力の拳を叩き込もうとした、その時だった。

 意識の外にあった声が二人の耳に届いたのは──


「──此処ここに築くは覇道奈落。無辺に広がる煉獄無尽れんごくむじん


 そして意識の外から聞こえてくるのはアッシュの詠唱。

 アスラカーズの瑜伽法ユーガ・アルス。その究竟アルス・マグナの発動のため詠唱だった。

『修羅闘獄陣』──アスラカーズの瑜伽法を知るガイは拳を叩き込もうとしていたセレシアからアッシュの方を向き、即座に詠唱を妨害するために動き出す。だが、そうして動こうとしたガイにセレシアが組み付いた。

 セレシアはアッシュが何をしているのかは分からないし、アスルマール究竟アルス・マグナというのもどういうものか知らない。それでも積み重ねた戦闘に関する直感が、ガイの動きを止めることセレシアに選択させる。


「邪魔だよ」


 ガイは自分に組み付いたセレシアを払いのける。

 その間、約一秒。ガイの知る限りでは詠唱はまだ完了しない。一秒でセレシアを退ければ余裕があるとガイは判断した。だが、その一秒がガイにとっては命取りとなる。


「──省かれ、略され、一つの界。薄く隔てる布一枚。行きて帰るは一つの


 詠唱が違うとガイは気付く。

 それはガイが知っている『修羅闘獄陣』の詠唱ではなかった。

 ガイは危険を察し、妨害ではなく退避に移ろうとするが、それも間に合わない。

 何時の間にか地面に突き立てられていた四本の棒がガイの周囲を囲むように四角形の結界を作り出し、そして──


究竟アルス・マグナ、修羅闘獄陣」


 詠唱が完了すると同時にアッシュは手に持った真紅の布を十数メートル以上の大きさに変えガイの上へと放り投げる。結界で囚われたガイはそれを避けることもできない。

 ガイの上に布がかぶせられると真紅の布はガイを包み込んで丸くなり、そして収縮を始める。

 ガイが包まれている以上、ガイより小さくなる筈がない布はすぐにその大きさをガイが明らかに入らないサイズまで小さくなり、そしてすぐに肉眼では捉えられないほどまで小さくなり、最後には消えてなくなった。それと同時にアッシュの姿もその場から消失する。


 残されるのはセレシアだけ。

 状況の分からないセレシアは真紅の布が消えるのとアッシュが消えるのを見届けてもなお、その場に留まっていた──



 セレシアのいる現実世界からガイの姿が消え去った次の瞬間、ガイはアッシュが瑜伽法で創り上げた空間の中に降り立っていた。

 アスラカーズの究竟アルス・マグナ『修羅闘獄陣』は相手をアスラカーズが創り出した空間の中に引きずり込むという術だとガイは理解しているので驚きはない。

 闘獄陣の内部についてもガイは多少は知っているため、まずは自分がどの階層にいるかを知るべきだと思い、辺りを見回す。


 ガイが見回したその空間は先程までいた平原の真ん中とは全く違う場所。

 そこは高層ビルの乱立する夜の市街地の中だった。

 中世ヨーロッパ風の世界観の場所から、地球の21世紀風の空間に放り出されてガイは困惑するが、その困惑は世界の変化だけではなく──


「東京?」


 ガイの立つ場所から見えるビルの中には見覚えのあるものも多かった。

 それはガイがいた地球にもあったビルであり、廃墟となった東京をねぐらとしてガイには見慣れたものも多く、それがこの場を地球の日本、そして東京ではないかとガイに思わせる。

 もっともガイの見たものと違い、それらのビルは華やかな往時の姿そのものであったが──


「ようこそ、我が領域へ」


 立ち並ぶビルと目に痛いほど輝く街並みに気を取られたガイのもとに聞こえてくるアッシュの声が頭の上から聞こえてくる。ガイはアッシュの姿を見ようと首を上に向けると、アッシュは案内標識の上に腰を下ろしてガイを見下ろしていた。

 だが、ガイが注目したのは標識に書かれていた「新宿」という文字であり、それを見てガイはここが東京であると確信し、そしてこの階層が東京を模して創られた階層であることも理解する。


「ここは闘獄陣、第71階層。階層名は『朱塗拘速道しゅとこうそくどう』、テメェは初めてだよな?」


 ここは──とガイが訊ねるより先にアッシュが説明を始める。

 ガイはそれに嫌な予感を覚え、アッシュから距離を取ろうとするが、そんなガイを見てアッシュは──


「良くねぇなぁ。道路の真ん中に突っ立ってるとかさ」


 呆れたようにアッシュが言った直後だった。

 ガイに横合いから高速で迫る物体が激突したのは──


「俺と一緒に交通ルールでも勉強するかい?」


 ガイに激突したのは自動車。

 白いセダンが一切スピードを緩めることなく激突し、ガイを撥ね飛ばした。

 そしてガイを撥ねた車はそのまま走り去っていく。


 何が起きたのかと思い、ガイが辺りを見回そうとした瞬間、別の車がガイを轢き去っていく。

 ダメージは無いとはいえ、状況が分からず困惑するガイに対して標識の上に座るアッシュは──


「車道に人が立ち入るのは良くねぇって習わなかったかい? あぁ、ごめんごめん、テメェの時代は車なんて殆ど走ってなかったし、それを教えてくれる奴もいなかったか」


 ガイは立ち上がり、自分の足元と周りを見て、ここが道路であることを理解する。

 そして、この場所が他の道を見下ろせるような高い位置にあるということも。


「高速道路は初めてかい? つーか、こんなにいっぱい車が走ってるのを見るのも生まれて初めてだろ? 地球人類の華やかなりし頃って奴だ、存分に楽しむといいぜ」


 アッシュはそう言うと案内標識から飛び降り、真下を走っていた車の屋根に飛び降りると、その車に乗ったまま去って行った。

 そして状況が呑み込めず取り残されたガイは、すぐさまアッシュを追うことを決断し、車が行きかう道を走り出した──






事情により9月中旬から更新が滞ります。

9月末までペースが戻ることはないでしょう。

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