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追いつかれた怪物

 

 目を閉じれば、あの時の光景が目に浮かぶ。

 地平線まで埋め尽くす大量の死体。

 全て自分が殺し尽くし、誰もいなくなった世界。

 そして、積み上げた屍の上に腰を下ろした自分。


 全てが終わった時。

 自分の世界を滅ぼした者たちの世界を滅ぼした、その直後。

『異邦人』達の世界に渡り、目につく全てを破壊し殺し尽くした。

 飢えも疲れも知らないガイには昼夜の区別なく、その全ての時間を殺戮と破壊に当てることができた。

 一秒も止まることなく、自分の全ての存在と時間と使い切り、ガイは数年で数十億いた『異邦人』達を殺し切った。


 そうしてガイは自分の世界を滅ぼした者たちへの復讐を遂げたが、しかし復讐を果たしたところで何かが変わるわけでも無く、ガイが得たものも無い。

 結果だけ言えば、知的生命体が滅んだ世界が二つになっただけ。

 地球と『異邦人』の世界。その二つの世界を支配していた知的生命体が絶滅しただけだった。


 ガイは屍の上に座ったまま、自分が破壊した都市の残骸を眺める。

 ガイにも、もう何も無かった。するべきことも思いつかなければ、したいことがあるわけでもない。復讐を終えた時にガイの生きる上での指針は失われた。

 何も無くなったガイは、過ぎていく時に身を任せることにし、どうとでもなればいいと、そんな自暴自棄な思いに囚われ、自分の身がいつか朽ちることを信じて廃墟の中に佇む日々を送ろうとした。そんな時だった、アスラカーズがガイの前に現れたのは──


『随分と殺したなぁ』


 当たりを埋め尽くす死体を見たアスラカーズは、ガイに呆れつつも哀れむような眼差しを向け、そして──


『一人でいるのもつまんねぇだろ。俺と一緒に来るかい?』


 自信に満ち溢れた不敵な笑みを向けるアスラカーズにガイは──


 ──そこでガイの意識は現実に引き戻される。

 周囲からは白熱した議論の声がしていたがガイはそれに対して興味を持てなかった。


 それよりも気になるのはこの世界に来てから起こるこの現象だ。

 やたらと昔のことを思い出し、その時の情景が現実感を以て想起されるという現象。

 他の世界ではこれほど昔のことを思い出すことは無かったのに、この世界ではどういうわけか、昔のことを頻繁に思い出す。


「そういえば、夢の神様がいたな」


 ガイが思い出すのはナハトセーレという名の源神オリジン

 アスラカーズと同じ格を持つ、世界を創り出す権限と力を持つ源神であり、アスラカーズと友人でガイも面識がある邪神だ。

 ナハトセーレは昔の思い出を夢で見せるということもできたという話を聞いたことがあった。

 となれば今の状況はナハトセーレが関係あるのだろうか?

 ガイの脳裏にそんな考えがよぎる。だが、その考えは──


「ガイ殿はどう思われる?」


 ──質問を投げかけてきた魔族の声によって掻き消えた。


「何の話?」


 議論を交わしているような気配は感じたが興味が無かったのでガイは聞いていなかった。


「レイランド王国軍との戦についてです」


 魔族達はガイに対しては何があっても声を荒げないようにしていた。

 それは、これから戦が始まるというのに、ガイの不興を買って兵を殺されてはたまらないという判断によるものだった。


「あぁ、あの人達ね」


 敵の態勢が整う前に進軍し、敵地を占領する手はずだったのが、レイランド王国軍はこの事態を予期していたかのように魔族軍を待ち伏せており、当初の計画は崩れ去った。


 今、レイランド王国軍は岡の上に陣を張り、魔族軍を待ち受ける構えだ。

 それに対して魔族軍はどうするべきか。

 現状では二つの意見があり、一つは強行軍によって疲弊した状況では不利であることから、この場は撤退し、後退し疲労を回復したうえでレイランド王国軍と一戦交える。もしくは、とにかくこの場で一戦交えるというもの。

 ガイは正直どちらでも良かったが──


「戦えば良いんじゃない?」


「我々は疲弊しております。戦えば甚大な被害が出るかと──」


「だから良いんじゃないか。甚大な被害が出てくれた方がオレは嬉しいよ」


 ガイの発言にその場にいた魔族の将たちは信じられない者を見たような顔をして、その中の一人が机をたたき声を上げる。


「貴様は理解しているのか! 我々が負けるのは貴様にとっても不利益になることを!」


 ガイは魔王との契約によって魔族が領土を拡大しなければこの世界から出られないということになっている。魔族が戦に敗れれば、ガイのこの世界からの脱出も遠のく。

 だから魔族達はガイに協力してほしいと思っているわけだが、当のガイはというと──


「別にどうでもいいよ」


 ガイは欠伸をかみ殺しながら答える。


「別にここでお前らが全滅しても、オレは魔界に戻って残ってる魔族を連れてくればいいだけだしさ。今回は失敗ってことで全滅しても良いかなって思えてきたんだよね」


 ガイは先のことは考えていない。それどころか今のことも考えていない。

 ガイは自分を取り巻く全てを単純に気分が良いか悪いかで処理している。

 ガイが戦えと言うのは、今この場でガイは魔族が人間の軍に始末された方が気分が良いような気がするから戦えと言っているだけだった。

 少し前まではさっさとこの世界から脱出したいと思っていたが、無理なら無理で別に構わないかという気分にもなっていたので、脱出したいという気持ちは弱まっており、その代わり魔族が悲惨な目に遭うのを見たいという気持ちの方が強くなっていた。


「この世界から戻れなくなってもいいのか!」


「良いから言ってるんだけど? オレはまぁ何とかなるんじゃないかと思ってるけどね。むしろ、お前らの方が嫌だろ? 魔族嫌いを公言しつつ、誰も相手にならないほど強くて、魔族を殺すことに何の躊躇いも無い奴がいることのほうがさ」


 ガイは自分はこの世界から帰れなくても何とでもなると思っている。

 対して、魔族達の方は必死である。ガイという厄介を通り越して害悪にしかならない相手が自分たちの国に居座っている状況を何とかしなければならなかった。

 しかし、力ずくで何とかしようにもどうにもならない。何とかできるとしたら、ガイを強制的に退去させられる条件を満たすことくらいだ。


「オレよりお前らの方が切羽詰まってるよね? このまま失敗したらオレは魔界に戻ることになるわけだけど、そうなったら、今度はお前らの家族を戦場に引っ張り出すかもね。仮にこの場を逃げたとしても、そうしたら、オレは魔王ちゃんに援軍を頼むかも? 戦力が足りないから、もっと魔族を寄越せってさ」


 その場にいた魔族の将たちがガイに殺気を向けながら立ち上がる。

 尋常ではない殺意を込めた眼差しを向けられながらも、しかしガイは平然としていた。


「睨むだけで相手を殺せると良かったけど残念だね。──とにかく、お前らはどんな状況でも戦わなければいけないんだよ。そんでもって敵を倒して、魔族の領土を拡大する。それしか、生き残る術はない。俺を強制退去させる手段がそれしかないんだからさ」


「疫病神め……!」


「お褒めの言葉をありがとう。人間以外の種族にそう言われるとか望む所だよ」


 どれだけ議論しようとも結局の所、ガイに戦えと言われれば戦うほかない。

 仮に戦わず撤退を選べば自分達は皆殺しにされるだけだろうと魔族達は思う。

 その撤退が態勢を整え、反撃に移るためのものでもガイは許さないだろうとも魔族達は理解している。

 結局、魔族達はどれだけ疲弊していようが戦うほかないのだ。戦って敵を突破し、魔族の領土を増やすことでしかガイをこの世界から追放する手段はない。


「戦うことを推す以上、当然ガイ殿も戦うのだな?」


 魔族の将の一人がガイに訊ねる。

 戦うと言った当人が戦うのは自然な流れのようにも思えるが、しかしそんな当然をガイは鼻で笑う。


「オレは戦わないよ。だって人間と戦うの嫌だもん」


 ガイはそう言うと立ち上がり、唖然とする魔族の将たちを尻目に用事は済んだといった雰囲気でその場を立ち去ろうとする。


「ホントはお前らが人間と戦うのも嫌だけど、そこは契約もあるから我慢するよ。じゃあ、後はよろしく」


「待──」


 魔族の将の一人が呼び止めようとするが、その瞬間に頭が消し飛んだ。

 静まり返る天幕の中、そこから出て行こうとしたガイは最後に振り返り、魔族の将たちを見る。


「オレに色々と口出しされるのは嫌だろ? オレは何も口を出さずに後ろで見てるよ。でもって、オレは後ろでお前らがちゃんと戦ってるかどうかも見ててやるから、しっかりやれよ?」


 それはつまり逃げることは許さないということであり、魔族達はこの瞬間、戦う以外の選択肢は無いことをハッキリと示されたのだった。


 天幕から出たガイは自分が言った通り魔族が戦うのを後ろから見るための場所へと移動しようとするが、しかしそのガイの前に立ちはだかる者たちがいた。


「なに?」


「聞いたぞ。貴様は俺達の家族も犠牲にするつもりだな?」


 それは魔族の兵士達。

 殺意に満ちた眼差しの兵士達がガイの前に立ちはだかっていた。

 そんな兵士達に対しガイは呆れたように肩を竦めてみせる。


「犠牲にされたくなければ勝てばいいじゃない」


 言いながらガイは勝てるはずもないと思っていた。

 自分が散々、体力的にも精神的に追い詰めたのだから魔族達に人間の軍と戦うような力は残っていないとガイは知っている。


「負けたらの話だよ? 負けたら、今度はお前らの嫁とガキを戦場に連れてくる。それが嫌なら頑張って勝ちなよ?」


「貴様っ!」


 魔族の兵士が声を上げ武器を抜こうとした瞬間、胴体が弾け飛ぶ。

 目にもとまらぬ速度で放たれたガイの拳の魔族の兵士の命を奪ったのだった。


「なんだかさぁ、お前らは俺のしていることを非難するけど、お前らだってこれから人界を侵略したら、俺がしているのと同じようなことを人間にもするだろ? 自分達がやられる側に回ったら、文句を言うとかカッコ悪いよ」


「俺達はまだ何もしてないだろうが!」


 将来、罪を犯す可能性があるからといって、まだ何の罪も犯していない者を罰するのはおかしいという魔族の兵士達の真っ当な主張であったが、しかしガイは──


「でも、確実にすると思うよ。オレの経験上、魔族とかはそういうことをするんだよなぁ」


 それもガイの偏見に過ぎないのだが、ガイの中ではそれが真理となっているので、誰の言葉も聞く耳を持たないし、ガイは自分の行いの正義を確信している。しかし、それを他者が納得できるとは限らない。

 魔族の兵士達はガイに対して変わらず殺気を向け、そして武器を構える。その行動に対してガイは──


「文句がある? じゃあ、どうしようか?」


 ガイは訊ねるが、ガイの中で答えは既に決まっている。

 ガイの行動は当然の如く──



 ──ガイは自分が殺した魔族の死体の上に座っていた。

 背後では魔族の軍が戦の準備に追われている音が聞こえていた。

 しかし、ガイはそちらに対して興味を示すことは無く目を閉じている。


 目を閉じれば思い出すのはあの時の光景。

 屍で埋め尽くされた大地に佇む自分とそして──


「随分と殺したなぁ」


 聞こえてきた声にガイは目を開く。

 その視線の先にいたのはアスラカーズ……いや、アッシュ・カラーズ。

 アッシュはあの時のアスラカーズと同じように呆れつつも憐れむような眼差しをガイに向け──


「一人でいるのもつまらねぇだろ? 俺と喧嘩をしようぜ?」


 アッシュはあの時と変わらない自信に満ち溢れた不敵な笑みを浮かべていた──




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