権限は奪うもの
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俺達──というか、俺達が後ろにくっついていったラスティーナの私軍は魔族の軍勢が見つからずに立ち往生。
ラスティーナの予想では魔族の軍はソーサリアに向かって進軍していて、正面からかち合うはずだったのが、蓋を開けてみれば、敵の姿はどこにもない。
隊長はラスティーナの命令に従う以外の能が無いようで、敵と入れ違いになった可能性を考えずに愚直に最初のルートを進むつもりのだったようだ。
口を挟むつもりは無かったけれど、流石にこういう事態にもなれば、俺も口を挟まないってわけにいかないんで俺は隊の先頭を進んでいた隊長のもとに直談判に向かい、そして──
「──だからさぁ、もう入れ違いになってるんだって」
俺とセレシアは魔族の侵攻ルートを説明したわけだが、納得はいただけないようだ。
ラスティーナの私兵達を束ねる隊長はジェイクという若い男だが、どうにも頭が固くていけないね。
せっかく話し合いで済ませようとしてんのに、そういうのは良くないぜ?
「……貴様らの説明には根拠がない」
ジェイクが口を開いた瞬間、ジェイクの顔面をセレシアが思いっきり殴りつけ──おっと、違うね。
ジェイクの頬をセレシアがこの上なく優しい手つきで撫でる。互いに穏やかな気持ち話し合うためのスキンシップ的なボディタッチって奴だね。
「根拠がない? だからなんだ? 貴様は我々と議論をするつもりなのか? 下士官風情が偉そうに」
「やめろって、セッシー。俺達は話し合いをしてるんだからさ」
穏やかに行こうぜ?
周りを見てみろよ、この軍の指揮官クラスはみんな静かにしてるぜ?
まぁ、意識が無いから静かなのも当然なんだけどね。
話し合いなんていったけど、実際の所は隊長連中の所に殴り込みをかけ、全員ぶちのめして、指揮権を奪おうとしてるって感じ。
気に入らない命令には従わないし、間違った命令を出してる奴がいたら、その間違いを正さないとな。
俺は人間だった時からこんな感じだから、組織に属するってのが無理だったんだけど、でも気に入らない奴に従ったり、おかしな命令に従わなきゃいけないんだったら、俺は組織や集団に属するなんて御免だぜ。
「別に従わなくても良いぜ? でも、俺達はラスティーナから、お願いされてここにいる助っ人で、その上ラスティーナからはもしもの時は俺達の判断を優先しても良いって言われてるしなぁ」
セレシアが初耳だと言いたげな表情で俺を見る。
そりゃそうだろうね、だって口からでまかせだしな。
「そんな話は聞いていない」
「キミ如きに聞かせる話じゃないからね」
なんで内密の話を私兵の隊長風情に教えなきゃならないのかね。
なんて、そんな話は全く無かったけどね。でも、本当か嘘かを今この場で確かめる手段はないわけで、今すぐ確かめられないなら、強引に押し通すことは余裕だぜ。
「キミが認めたくなくても、今みたいな状況になった以上、指揮権は俺に移る。キミの主であるラスティーナ殿下と俺との約束だ。そのことを、ご理解いただけるとありがたいんだがね」
俺の言葉が信用できないのかジェイクは黙っているが、いつまでも黙っていられるもんじゃない。
とにもかくにも、このまま西に進んでいったって魔族を見つけることはできないんだから、俺らの考えを呑んでもらわないとね。
「物分かりが悪い奴は面倒くせぇよなぁ」
別にジェイクの了解を得る必要はないんだよね。
この場でジェイクをぶちのめせば、指揮官不在になるし、そうなれば隊を掌握するのは簡単だからね。
むしろ、ジェイクがいなくなった方が楽ってこともあるぜ? でも、そうするとジェイクが可哀想だしね──
「そうだな」
俺がジェイクをどうしようかなぁって思っているとセレシアがジェイクの頭をぶん殴って意識を刈り取る。
「あーあ」
俺が暴力的な行動を避けようとしていたのに、どうしてそんなことをするのかな?
俺はあと一回ジェイクと言葉を交わして、それで駄目だったら、ぶちのめそうって、かなり有情な対応を取ろうとしてたのにセッシーは問答無用で殴るんだもん信じらんねぇぜ。
「なんだ? 何かマズかったか? 私が指揮権を奪う時はいつも現場責任者を始末していたんだが──」
「それは別に普通だけど、俺達は文明人だからね。まずは話し合いをしないと駄目だぜ? まずは『俺の言うことを聞かないなら、ぶっ殺す』って言って、それから殴らないと」
いつまでも未開の蛮族的なメンタリティで生きてちゃ駄目だって話さ。
セッシーは軍人だった時に、いつもこうやって上官をぶちのめして指揮権を奪ってたって情報も入ったわけだけど、それはまぁ、俺も似たようなことをやったことあるから別に良いと思う。
「とりあえず主だった連中は意識が無いから、暫定的に俺達がこの軍の指揮官ってことで良いかな?」
周りを見るとジェイク他、部隊長らしき連中も俺とセレシアにぶちのめされて地面に転がっている。
誰も指揮を取れそうにないんだから、俺達が取っても良いよね。
ただまぁ、俺は軍隊を動かすってのは良く分からんからセレシアに任せることになるんだけどさ。
「誰も反対する者はいないのだから構わないな? 文句があるならばラスティーナ殿下に直接言え」
セレシアがジェイクの副官に脅すような眼差しを向けながら言うと、副官は頭が千切れるくらいの勢いで首を縦に振った。
ジェイクは意識が無いので、ジェイクの副官を通して命令を出すのが良いだろうと思ったから、ぶちのめさないであげたんで、素直に応じてくれて助かるぜ。
兵士達に向けて急に俺達がボスだって言っても納得は出来ないから、既存の命令系統を使い、ジェイクが指示を出してる風を装うってのも大事だよね。
「じゃ、後のことはよろしく」
とりあえず、力業でラスティーナの私兵は掌握したから、その後のことはセレシアに任せよう。
俺は軍事の事は分からないわけじゃないけど興味が無いからね。
指揮権を奪うってイベントは楽しんだわけだし、それ以外はそれ以外を楽しめる人に丸投げって感じ。
「任せておくといい。私はこう見えても何十年も軍人だったのだから、大船に乗ったつもりでいろ」
胸を張って言うセレシア。
今の見た目は十代の女の子だけど、中身は曾孫までいたっていう歴戦の戦士だから任せて良いだろう。
まぁ、セレシアの生きてた世界は蛮族に毛が生えたレベルだし、歴戦って言っても、それはセレシアの世界での戦の話で、この世界だとセレシアの経験は適用できない可能性もあるからセレシアの言葉を鵜呑みにはできないんだけどね。
ま、色々と考えるより、まずはお手並み拝見と行こうか。
──ほどなくしてセレシアはラスティーナの私兵たちを三つに分けて敵の捜索にあたらせることに決め、その命を兵に下した。
一方、俺の方はここに来てようやく、ラスティーナの私兵団の全容を把握することができた。
良く分かってなかったから、軍だったり、隊だったり、隊長だったり、指揮官だったりと色々と呼称がぶれたが、ここに来てようやく理解できた。
まず、このラスティーナの私兵の集団は、ラスティーナの私兵団でジェイクに関しては隊長ではなく団長。
で、団長の下に何人かの隊長がいるって編成。隊長は4人で、それぞれが100人の兵を率いているとか。ジェイクの直接の指揮下も100人なんで総勢500人。
だけど、この500人ってのはあまりあてにならない数で、実際は戦闘以外の作業を行う奴も含めての数だから、実際に戦える奴は300人もいないかもね。
敵の数は分かんないけれど、1000以下の数で敵国に侵攻するとは思えないし、魔族の軍に関しては戦える奴だけで軽く10000超えるだろうね。
こっちは戦える奴が300人だとしたら、端から勝負にはなんないし、そりゃラスティーナも適当に敵の陣容を把握したら帰って良いよと言うわな。
まぁ、その割には私兵団を集合させて行軍させるとか、良く分かんないことをやってるけどね。
私兵団を小さな隊に分け、散開して敵の捜索及び索敵と動向の調査とか、そういうことは考え付かなかったんだろうかね?
そんな話をセレシアにしてみると、セレシアは──
「そういった高度な軍事行動をできるほど、こいつらの練度は高くない」
そんなもんかね。
まぁ、21世紀の地球の軍隊では一般的なことだって、それは訓練によって兵士の知識や技能を画一化して、高度な連携を必要とする集団行動をできるよう教育してるから当たり前にできてるんであって、そんな訓練プログラムなんて存在しない世界じゃ、号令に合わせて一斉に行動させるのだって大変かもしれないもんな。
マジの中世レベルの軍隊だったら『右を向け』って号令で全員が右向いただけで規律正しく統率の取れてる集団って言われそうだしね。
『右を向け』の号令に従うのなんて簡単かと思うかもしれないけど、結構大変なんだぜ?
まず、右って概念を理解できてなきゃ駄目だし、動くタイミングだって覚えなきゃいけいないし、そもそも命令に従わなきゃいけないって感覚を養うって所から教えないといけないしな。
軍隊なんかは統率の取れた行動を取らせるためには、まずそこら辺から教えて知識や技能の最低限のラインを定めなきゃいけないんだろうね。
その最低ラインが、この世界はまだ低そうだし、きっと俺が考えてるような作戦行動はできないんだろうね。
「本当は三つより更に細分化して行動させたいが、それができる連中じゃない」
セレシアはそんなことを言いながら俺に地図を見せてくる。
地図には幾つかの点と三色に分けて色を塗った部分があった。
色を塗った範囲を三つの部隊が分担し、捜索するんだろうね。
でもって、この点というのは多分、各部隊の連絡要員の集合地点を示してるんだろう。
通信機やらが無い以上、連絡は人の手で行わないといけないけど、連絡の度、それぞれの部隊を追いかけて直接、連絡するのは難しいから、集合地点に定期的に連絡要員を集めて情報交換させるとか、そういう感じかな?
ま、詳しいことはセレシアが分かってるだろうし、俺は知らなくてもなんとかなる。
そんなことより俺にとっては大事なのは──
「俺はどこの隊にくっついていけばいいんだい?」
三つに分けるってことは俺もそのどれかに入るってことだと思ったんだけど違ったかな?
「我々の捜索範囲はここだ」
我々──ってことは俺とセレシアは一緒かな?
そんなことを考えながらセレシアが指差した地図上を見ると、その捜索範囲はソーサリアの遥か北だった。
「私はガイがどういう輩かは知らないが、このルートを行くだろうと思っている」
「一番の本命ってことね」
だから、俺とセレシアの二人が一緒に行くわけか、もしかしたらゼティも一緒かね?
根拠については後で聞くとして、問題はガイと魔族の軍勢を見つけたらどうするかってことだ。
「俺達が見つけたら、そのまま戦闘に突入するが構わないよな?」
もしも俺達のいない二つの隊が魔族の軍勢を見つけたら、敵の数や編成だけを偵察させて撤退させるって周知させておいて欲しいね。数からして勝てるわけねぇんだから無理する必要はないって感じにさ。
俺達のいる隊に関しても戦闘に参加するのは俺達だけにして、ラスティーナの私兵には戦わせないようにするのが良いと思うんだよね。俺達なら敵がいくらいても大丈夫だけど、ラスティーナの私兵連中は普通の人間だから数には勝てないしね。
「ああ、それで良いと思う」
セレシアからも了解を頂けたわけだし、じゃあその方針で魔族の捜索開始と行こうか。
早く見つかって欲しいが、どうなるかね。
結構、時間のロスはあったわけだし、俺の予想だと行軍速度は速そうだし、追いつけるかどうか──などと、思ってから数日後、俺達はアッサリと魔族の姿を見つけることになる。
ただし、それは──
「この先で大量の魔族の死体を発見しました」
俺達の隊に所属する兵士が青い顔でセレシアに報告してくる。
おそらくガイが我慢できずに始末したんだろう。
それだけなら、予想外でもなんでもないのだが、その兵士は追加の報告で重要なことを伝えてきた。
「それに加えて生きている魔族が一匹、その場に座り込んでいまして──」
どうやら生き残りがいるようだね。
大量の死体があると言っても、それは魔族の軍の全員ってわけじゃないだろう。
魔族の軍勢の行方を知るために、その生き残りの魔族から話を聞くとしようじゃないか。




