装備調達
「私が言いたいのは貴様らはシステラに対して厳しすぎるということだ!」
──俺とゼティは絶賛お説教中。
説教をしているのはセレシア。
「まず認める。努力しているのなら、それを適切に評価するべきだと思わないか?」
十人も子供を産んで曾孫までいるセレシアは教育に関しては一家言あるようで、システラの親代わりをやってる俺達の日頃のシステラへの態度が許せないそうだ。
「システラから聞いたが、貴様らはいつもシステラの嫌がることばかりしているそうじゃないか。親として、子どもを苦しめるような真似をして恥ずかしいと思わないのか!」
「親ではないんだけど」
俺は製造の手伝いをしただけだぜ。
「親ではなくとも親代わりだろうが!」
言い返したら次の瞬間、そんな言葉と共に頭に木の棒を振り下ろされた。
当たっても怪我が無いと思ってるから手加減がねぇな。
もっとも、木の棒程度じゃ俺にダメージは与えられないんだけどね。
「貴様もだゼルティウス!」
セレシアは俺に続けてゼティに向かって木の棒を振り下ろす。
ゼティはそれを甘んじて受けるが、ゼティの頭にあたると同時に木の棒はへし折れた。
「いいか、親でなくても貴様らは年少者に対して大人として正しい振舞いをしなければならないんだ」
『しなければならない』とかいう言葉は嫌いなんだよね、俺。
まぁ、それはともかくとして俺も言いたいことはあるんだけどな。
「年少者って言ったってシステラとか百歳とかだぜ?」
それを子供扱いするってのはどうなのって思う。
つーか、よくよく考えてみたら、セレシアよりシステラの方が年上なんじゃねぇの?
セレシアが何歳で死んだかは分からないから、ハッキリとは言えねぇけどさ。
「大人と子供を分けるのは生きていた時間ではなく経験だ!」
そうなんですかね?
セレシアは断言するけど、そうとは限らないんじゃないかな?
まぁ、それについて議論するつもりはないんで掘り下げないけども。
「システラから話を聞いた限りでは、貴様はシステラを外の世界に出さず、ずっと倉庫番をやらせていたらしいじゃないか。生まれてすぐの少女を閉じ込めて仕事をさせるなど監禁と同じだぞ!」
いや、たまにシステラも好き勝手に転移してたぞ。それで転移した先で女神プレイしてたみたいだしな
弱い異世界人に自分の収納領域に入ってる使徒連中の使わなくなった武器や道具をあげて、崇拝されるみたいなことをやってたみたいだしさ。
ほら、セッシー、キミの後ろにいるシステラの顔を見た方が良いぞ。バツの悪そうな顔してるぞ。
──でもまぁ、あんまり外に出してなかったのは悪かったかもとは思うよ。
そのせいで世間知らずに育っちまったわけだしね。
「自分達で世間知らずに育てたくせにそのことを棚に上げ、システラを馬鹿にするような言動をしていたそうじゃないか。そんな真似をして人として恥ずかしくないのか!」
ガチ説教だぜ。
まぁ、真剣に聞いてるわけじゃないから何一つ心に響かないんだけどね。
そろそろ終わりだろうし、適当に神妙な顔でもしていよう。
「こいつ、絶対に反省してない」
システラがセレシアの背中に隠れながら俺を指差して言う。
すると、セレシアがキレた表情で腰に帯びた鞘から剣を抜き放つ。
「私の言ったことを理解してるか?」
「理解してるぜ、もちろんさ」
頭では理解はしてるけど、心には響いてないけどね。
「なら、謝れ。今までシステラを心を傷つけてきたことを謝れ。そして誓え。これからはシステラを一人の人間として尊重し、システラの嫌がることをせずにシステラの気持ちを大切にすることを誓え。それが間違った行いをした大人として正しい振舞いだ」
「今まで悪かったね。これからは気を付けるよ」
謝るだけで済むとか、お手軽でありがたいね。
俺が謝ると隣に座っていたゼティも──
「あ、ゼルティウスさんはいいです」
システラ様からゼティは謝らなくていいというお言葉がございましたとさ。
ナチュラルに差をつけてくるこの態度、いやぁ御立派だ。というわけで俺だけがシステラにこれまでのやってきたことを謝るとセレシアはシステラの方を見て──
「謝ったんだから、許してやれないか?」
「それはまぁ……とりあえずは」
とりあえず許すってことだろう。
システラの答えを聞いたセレシアは許すことができて偉いって感じでシステラの頭を撫でる。
「えへへ」
いい子いい子されてシステラは嬉しそうだ。
気持ち悪いなぁ……おっと、微笑ましいって思うべきだね。
今まで母親からの愛を得られなかった女の子がようやく愛を得られた瞬間とか思うようにしよう。そう思えば感動的だね。
「それじゃあ、許すついでにコイツの頼みも聞いてやってくれないか?」
セレシアはシステラの頭を撫でながら空いた手で俺の事を指差す。
システラは嫌そうな顔をしているが、セレシアに頼まれると──
「ママが──じゃなくて、セレシアが言うならいいけど、何をすればいいの?」
このクソガキ、俺が頼んだ時はガン無視だったくせにセレシアの頼みは素直に聞きやがる。
態度だって俺の時はクール気取ってんのに、セレシアには甘えん坊か? 俺の方が付き合いが長いのにヒデェ話だぜ。
「嫌かもしれないが、コイツの装備を出してやって欲しい」
「うん、それくらいだったらいいよ」
秒で解決かよ。泣きたくなってくるぜ、マジで。
俺達の普段の苦労は何だったんだって感じだよ。
「……それでは、マスター。どのような品をご所望でしょうか?」
システラはセレシアのそばから離れると正座をしたままの俺を見下ろしながら、そう言った。
どうやら、不満はあるようだが、セレシアに頼まれた手前、素直に出してはくれるようだ。
なら、俺も遠慮せずに、システラの収納領域の中にある俺の装備の中で欲しい物を言うとしよう。
「そうだね、俺が欲しいのは──」
──システラに俺の装備を出してもらった翌日の朝。
ラスティーナの私兵は隊列を組み、出陣の準備をしていた。
俺とゼティとセレシアは兵士達の中には入らず、少し離れた位置で兵士達に同行する手筈になっている。
俺達は基本的には部外者だし、あんまり一緒にいても兵士達も嫌がるだろうし、こっちも動きづらいだろうというラスティーナの配慮によって、俺達の位置は決められていた。
「こっちの準備はそれなり。問題はこいつらだよな」
ラスティーナの号令を受けて兵士達が意気揚々と出陣を始める。
魔族の動向を調べるってだけなのに、随分と大掛かりだし兵士の戦意が高すぎる気もするんだよなぁ。
ラスティーナはどの程度、戦の事を分かってんだろうか?
「装備の具合はどうだ?」
兵士達が隊列を組んで野営地から出て行くのを眺めているとセレシアが近づいて話しかけてきた。
「骨を折ってもらった甲斐はあると思うぜ」
俺のためにシステラをなだめてくれたんだろ?
面倒をかけて悪いねと言おう思ったら──
「貴様のためではなく、可哀想な少女のために力を尽くしただけで、貴様のそれはついでだ」
そう言いながらセレシアが見るのは俺が腰に巻いた布。
俺がシステラに出してもらった装備の一つだ。
「ま、キミにかけた面倒の分くらいの働きは見せられるとは思うぜ」
俺はそう言うとセレシアと一緒に歩き出し、出陣する兵士達の一団の最後尾につく。
さぁ、それじゃあ行くとしようかね。
敵は魔族とガイ・ブラックウッド。
厄介なことになりそうで楽しみだぜ。




