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怪物退治の準備

 

 ラスティーナの演説中にセレシアと話してたら、目をつけられてしまったぜ。

 小さい声で話してたのに……ってこともねぇな。普通の会話の音量で話してたら、そりゃ気付くわ。


「人が話をしている時に……」


「そいつは失礼。別に聞いてても仕方ない話だと思ったから──」


 おっと、皆さんの視線が怖いですね。

 ラスティーナだけじゃなくて、ラスティーナの手下の兵士連中まで俺を睨んできやがるよ。

 俺の物言いが気に入らない? じゃあ、訂正しようかね。


「つまんねぇ話をダラダラと聞かせられても何も響かねぇなぁ」


 正直に言ったけれど、これでお気に召すかい?

 ま、そういうことじゃないってのは分かってるから、普通にキレてくれて良いぜ?


「何がつまらないと言うんだ?」


 ラスティーナの眼が座ってらっしゃるよ。

 嫌だねぇ、王女様ともあろうものが、そんなに殺伐とした眼差しをしてたら駄目だぜ?

 もっとお姫様らしく可愛げのある……って、これは女性差別的な考えだから良くないね。

 まぁ、それはともかくとして、何がつまらないかって?


「つまらなすぎて記憶に留めておこうって気も起きなかったから、何を言ってたか忘れちまったよ」


 最初から聞いてなかったから分からないってだけなんだけどね。

 それを素直に言えばいいのかもしれないけど、俺はそれができない男なもんでね。


「……はぁ」


 ラスティーナは俺の挑発的な言葉に対して溜息を吐くと──


「もういい、お前にマトモな振る舞いは期待してない」


 おや、許されちまったよ。

 てっきり、俺を睨みつけてる兵士達に俺に襲い掛かるように命令でも出すかと思ったけどさ。


「出発は明日だ。それまでは大人しくしていてくれ」


「努力はするけど。約束はできねぇなぁ」


 俺の無礼な物言いが気に入らないのか、兵士達の俺を見る眼差しには殺気すら感じられるくらいになっている。

 嫌だねぇ、そんなに気に入らないなら俺に襲い掛かってくればいいのにさ。

 ラスティーナが俺に対して気を遣ってるのは俺が強くて役に立つという理由だけなんだし、俺をこの場でぶち殺して、俺より強いってことを証明できるなら、俺に仕掛けてくるのだって許されるんだぜ?

 そこら辺を見抜いてくれると俺としては楽しいんだけどね。


「……セレシア殿、その男を見張っていてくれ」


 ラスティーナは俺の前から去っていく前にセレシアにそう言い残した。

 おいおい、こいつは俺の使徒だぜ? 主である俺を差し置いて命令とか──


「よし、任せろ」


 俺の隣に立つセレシアから良い返事が聞こえ、次の瞬間、俺の顔面にセレシアの拳が叩き込まれた。

 不意打ちの衝撃で思わず、俺の足元が僅かにふらつくが、倒れるほどじゃない。

 俺は殴ってきたセレシアから距離を取り、セレシアを見据え──


「てめぇ、何のつもりだ」


「やはり仕えるのなら王女が良いと思ったからな」


 まぁ、そうだよね。

 権力を持ってる相手に仕える方が良いもんね。


「恨むなよ? 常により良い主を求めるのは騎士の常。主君を七度変えて本物の騎士と呼ばれるのだからな」


 まったく悪びれていない様子からセレシアの世界の騎士ってのは主を変えるのは普通の事のようだ。

 まぁ、俺はセレシアに褒美を与えられるわけじゃないし、褒美を与えられない奴はマトモな主じゃないから、マトモじゃない主に盲目的に仕えてる方が悪い騎士って考え方もあるよな。

 それと七回も主を変えられるのはそれだけ有能ってことの証明だから、それを理想とするって考え方もあるよな。無能じゃ七回も主を変えられないぜ?

 普通の職業で考えてみても、騎士ってのを正社員とすれば、七回も転職しながら、、その度に前の会社よりもいい会社の正社員になってるとか、とんでもなく有能じゃなきゃ無理じゃん。

 だからまぁ、主君を変えてこその騎士ってのも間違いじゃないと思うんだけど──


「とはいえ、相手が悪いとは思わないかい?」


 俺じゃなくてラスティーナの方が良いとか、ちょっと許せねぇな。

 俺にも悪いところはあるかもしれないが、簡単に味方に付く側を変えるキミにも悪いところがあるんじゃねぇかな?

 ちょっと反省させてやろうか?


「思わないな。なぜなら──」


「なぜなら?」


「王女についたのは私だけじゃないからな」


 セレシアがそう言った瞬間、俺は背後を振り向くと、そこにはゼティが立っていた。

 ゼティは俺を凄まじい形相で見ており──


「また、面倒ごとを起こしているな?」


 次の瞬間、俺は鞘に収められたゼティの剣で思いっきり頭を殴られて意識を失った──




 ──まぁ、意識を失ったって言っても数秒なんだけどね。

 とはいえ、ゼティやセレシアと揉めても、そこまで面白くも無いので、俺はそれ以降は大人しくしてることにした。

 俺は縄で縛られて、野営の中にあった天幕の中に転がされている。


「いい加減、相手を見て喧嘩を売るということができないのか?」


 天幕の中にはゼティとセレシアもいる。

 どうやら俺の監視のようだ。

 別に監視なんかしなくても逃げないし、誰にも危害を加えるつもりは無いんだけどね。

 俺の性格を良くは知らないセレシアは俺が何も考えずに暴れる乱暴者だと思っているんだろう。


「嫌だねぇ、俺は相手を見て喧嘩を売ってるってのに人聞きの悪いことを言いやがるぜ」


 俺が喧嘩を売る相手は──


「分かっている。強い相手にしか喧嘩を売らないと言っているんだろう。戦闘に限らず、権力やら何やら、とにかく人より優れたものを持っている相手にしか喧嘩を売らないのがアスラカーズという男だったよな」


 良く分かってるじゃねぇか、ゼティ君。

 俺は縄に縛られた状態で起き上がり、天幕の中の地面に胡坐をかいて座る。


「とはいえ、王族に見境なく喧嘩を売るのはやめろ。敵に回しても損なだけだ」


「俺は損得で敵を選ぶってこともしねぇんだけどね」


 俺は戦いたい奴と戦うし、揉めたい奴と揉める。


「それでも、この世界では有力な後ろ盾だ。控えろ」


 マジ説教じゃん。

 ゼティももう少し余裕を持ってもらいたいね。

 セレシアもそう思うよな?


 そう思ってセレシアを見ると、セレシアは欠伸をしていて、あまり真剣に聞いていない様子だった。

 ゼティはこの世界から脱出したいから、ラスティーナという情報源にもなる存在を大事にしようとしているけれど、セレシアの方は別にこの世界から脱出しなくても良いと思ってるし、ラスティーナに関しても当座における自分が仕える有力な主程度にしか考えていないから、それほどこだわりもないようだ。


「話は済んだか?」


「済むも何も最初から話なんかしてねぇよ。ゼティのこれは鳴き声みたいなもんだからな」


 俺が適当に頷いてりゃ済むし、なんなら黙っててもゼティは引き下がるからな。

 とはいえ、俺のこの物言いにはイラっと来たようで、ゼティは座ってる俺に向かって剣を振り下ろす。

 それを体を捻って躱すと、剣が縄にかすったのか縄が切れて俺の体が自由になる。


「随分と仲が良いことで」


「そりゃまぁマブダチだからね」


「殺されたいのか?」


れるもんなら、殺ってもらいたいもんだぜ」


 ゼティが俺に殺気を放つが、本気で俺を殺す気は無いってのは見え見えだ。

 セレシアにもそれは分かってるようで呆れたように言う。


「じゃれつくのは終いにして、これからの話をしよう」


 そうだね。

 ゼティも異論は無いようで頷く。


「結局の所、私達はラスティーナの配下の兵士と一緒に魔族の軍の動向を偵察しに行くということで良いんだな?」


 セレシアの問いに俺は頷く。

 セレシアがわざわざ聞いてくるのは俺に他に何か狙いがあると思ってるからだろうね。

 まぁ、実際、他にも狙いはあるんだけどさ。


「その結果、ガイの率いる軍勢と戦闘になり、ガイ自身と戦うことになっても構わないのか?」


「まぁ、それも仕方ないかな。とりあえず、ラスティーナの頼み通りに働いて恩を売っておかないと、この世界にいる他の神の情報ももらえなさそうだしさ」


 黄神、青神の他の神についてもセレシアは王家の伝承とかで情報を持ってそうだし、それを引き出すためにはアイツのためにも少しは働いておかないといけない。


「黒神はガイが倒したと言っていたな?」


 ゼティが俺に問う。

 魔族に召喚された際にガイは黒神と戦って倒したとか言っていたのは確かだ。ガイの性格を考えれば、黒神ってのと遭遇したんなら間違いなく倒してるだろうし、信憑性はあるんだよな。

 だけど、そうなると──


「それが本当だと、マズいことになるんだよなぁ」


 俺の答えにゼティも深刻そうに頷く。

 セレシアだけは良く分からないようなので、俺が説明することにした。


「ガイが本当に黒神を倒していたのなら、その黒神の力は何処にいったのかって話になるんだよ。魔族の住む領域に残ってるのか、それだったら、黒神が倒された場所に行けばその力を俺が吸収できるんだけど、そうじゃ無かった場合──」


「ガイが黒神の力を吸収していることになる」


 俺の言おうとしたことをゼティが先回りしてセレシアに伝えた。

 俺はそれに捕捉して話を続ける。


「確率としてはガイが吸収してる可能性が高いというか、間違いなくガイが吸収してるだろうな。アイツはそういう生き物だしさ。ガイが吸収している場合、黒神の力はガイを倒して奪うか、ガイに放棄させなきゃ手に入らなくなる。だから、マズいんだって話さ」


 ガイが素直に放棄してくれるなら良いけど、そうじゃなきゃガイを倒さなきゃいけない。

 どうしてマズいと思うか分かるだろ?


「……倒せるのか?」


 セレシアが俺を見る。

 口調は疑問形だけど、俺を見る眼差しは「無理だろ」と言っているようだね。

 まぁ、この間の戦闘ではほぼ負けみたいな結果だし、そう思うのも分かるんだけど──


「得物があればな」


 俺はセレシアの疑問に対して、俺に武器があれば戦いにはなると思うことを伝える。

 俺が得物を持って、ゼティとセレシアがいれば戦いにはなるだろう。幸いなことに全員が近接戦闘タイプだしな。


「だが、刀は失くしたんだろう?」


 ゼティが痛い所を突いてきやがった。

 セレシアがそれを聞いて俺に確認するように訊ねてくる。


「失くした?」


「そう、失くしたんだよ。この世界に来る前には持っていたんだけど、この世界に転移したら何時の間にか俺の手から消えてたんだよ」


「他の刀ではダメなのか?」


 そりゃ、駄目ってことはないけどさぁ。


「普通に使う分には良いんだよ。単純に剣術だったりを使う分にはな。けど、全力で戦闘した場合、俺の使っていた刀以外は俺の力に耐えられねぇんだよ」


 ガイと戦う場合は全力での戦闘になるし、そこら辺の武器を持っていっても使い物にならない。

 じゃあ、手詰まりかというと、そういうわけでもない。


「刀は駄目でも、それ以外の俺の装備を持ち出すしかねぇかな」


 愛刀ほど信頼性も耐久性もあるわけではないが、俺は刀以外の武器も持ってる。

 それを使えば、ガイとは戦うことはできるだろう。だけど、問題はその装備が──


「その装備は何処にあるんだ?」


 セレシアが俺の思ったことを先回りして口に出す。

 問題はセレシアが言った通り、装備がある場所だ。

 まぁ、場所と言っても、遠いところにあるわけじゃないんだよ。

 ただ、持ち出すのにちょっと困る置き場所で──


「──システラの収納領域ストレージだ」


 俺が装備の置き場所を口にするとゼティが「あぁ、なるほど」と微妙な表情を浮かべながら納得したように頷く。

 ゼティも何が面倒なのか察してくれたようだ。


 システラに俺の装備を出してくれって言わないといけないんだぜ?

 しかも、あのガキ、反抗期の真っ只中で俺と口を聞くのも嫌がってやがるからなぁ。


「どうした?」


 事情を知らないセレシアは俺とゼティの表情を見て訝しむ。

 まぁ、システラの方は面倒臭いけれども、何とかなるだろう。

 とりあえず装備の方は何とかなるとして、ガイと戦うにあたって、それだけじゃ物足りないよな。

 となれば、後できることは何だろうか?


 俺はセレシアを見て思う。

 多少なりとも戦力を増強するために、できそうなこといえば──


「なぁ、セレシア?」


「なんだ?」


 これしかない。

 そう思い、俺はセレシアに──


業術カルマ・マギア瑜伽法ユーガ・アルスを覚えようか」


 アスラカーズの使徒の用いる術式。

 その習得を提案したのだった──




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