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衝撃の事実

 

 ──ジュリアンとロミリアの二人と別れを済ませた俺は、ソーサリアに残ることにしたマー君とも別れ、ラスティーナが私兵の兵舎としているらしい宿屋に向かうことにした。


 ついこの間の戦いの痕はソーサリアの市街地の各所に残っており、市民が街中に散乱した瓦礫などの撤去作業に追われている。

 死んだ奴は少ないとラスティーナは言っていたが、実際はどうなんだろうね。

 街のあちこちに死者の魂が残っているし、その数が少ないとはとても思えないと、俺は宿屋に向かう道すがらソーサリアに漂う魂を回収しながら思う。


 この世界は肉体を失った魂が行き着く先の天国や地獄、冥界といった、あの世が無いから魂は現世に残り続ける。魂が現世に残ったままだとアンデッドを生む原因になったりロクなことにならないから、俺のできる範囲で回収しておかないとね


「アウルム王国の横暴を許すな!」


 魂を回収しながら歩いているとそんな声が聞こえてきた。

 ラスティーナは魔導院の行っていた悪行を公表したけれど、それを市民が素直に受け入れるかは別問題で、ラスティーナの言葉を信じない者にとっては、ラスティーナは正義を騙り軍を率いてソーサリアを占拠した極悪人だ。

 ソーサリアの発展は魔導院の存在があってこそで、ソーサリアで生きていた人々は魔導院の恩恵を受けていたわけで、魔導院が悪事を働いていた場合、知らないうちに悪事の片棒を担いでいたことになるから、色々と受け入れがたいこともあるんだろう。


 それを仕方ないと許すか、真実を受け入れられない愚かさだと断じるかってのは、まぁ人それぞれの考えただから、俺が口に出すことじゃないな。

 ただまぁ、俺としては事実を理解できない愚かな奴や、真実を受け入れられない弱い奴を許すことも大事だと思うけどね。

 正しさしか許せない世の中は息苦しいと思うからさ。


「ソーサリアをアウルム王国の手から取り戻せ!」


 俺は言動がエキサイトしていくソーサリア市民を横目に兵の宿舎となっている宿屋に向かう。

 ほどなくして辿り着いたのはソーサリアの中心地にある立派な宿屋で、ラスティーナの手下の兵士達は宿屋の前に建物の中に入りきらない兵のための野営を築いている。

 そのせいで宿屋一帯は物々しく、一般市民は近寄りがたい雰囲気になっていた。

 まぁ、近寄りがたい以前に近くの建物に住んでた一般人は追い出してるんだろうけどさ。


「アッシュ・カラーズだけど」


 俺は野営に近づくと名乗って入れてもらう。

 ラスティーナが俺の人相を伝えてあるので問題なく野営の中に入れる。

 そうして、幾つもの天幕が立ち並ぶ野営の中に入るなり、俺の姿を見つけて声をかけてくる奴が一人。


「ようやく来たのか?」


 俺に声をかけてきたのはセレシアだった。


「よう、元気?」


 セレシアとは少し前まで敵対していたが、マー君がセレシアに勝ったことでセレシアは俺の軍門に下ることにしたとか。

 セレシアの生まれた世界は、敗者は勝者に従わなけれないけないとかいう決まりがあるらしく、俺に仕えるマー君に負けた以上、間接的に俺に仕えることにもなるとも言ってたね。


「ほどほどに元気といった所だな」


 セレシアはさっぱりとした表情であっさりと答える。

 俺と戦ったことは全く気にしていないようだ。

 まぁ、その方が俺としても気楽だからいいんだけどさ。


「俺になんか用かい?」


 話しかけてきたってことは用があるんだと俺は思って前置きを省いて訊ねる。

 すると、セレシアは辺りを見回し──


「ここで話すようなことじゃないな。少し場所を移そう」


「なんだよ、人前じゃ恥ずかしいとか愛の告白かい?」


 俺は周囲にラスティーナの兵士がいるのを確認するとセレシアに訊ねる。


「ははは、私はそういう台詞を吐かない男が好みなんで、少し違うな」


 そいつは残念だぜ。

 真面目で面白味の無い男が好みっていうなら俺は対象外だ。


「私の男の好みを聞きたいか?」


 セレシアは少女の顔に不敵な笑みを浮かべる。

 顔に似合わない余裕の感じられる態度だ。まぁ、使徒の実年齢は見た目からじゃ分からないからね。

 十代に見えて実際は三十代とかザラにあるから、セレシアも見た目通りの年齢じゃないんだろうね。


「是非とも教えてもらいたいもんだね」


 人気の無いところで二人きりでさ。


「──ついてこい」


 セレシアはそう言うと俺を野営の片隅に連れて行く。

 兵士達から完全に見えない場所というわけではなく、多少離れた程度の位置だが話し声は聞こえないだろう。とはいえ、俺達が話しているのは丸見えなので──


「なんか用なのかい?」


 俺は世間話の体でセレシアに訊ねる。

 今日のセレシアは下ろした髪を緩く編み、シンプルな革の鎧下よろいしたといった装いだ。

 まぁ、何も無いのに重装備をしてるほうがおかしいんだけどさ。


「あまり聞かれたい話ではないからな」


 だから、聞こえない位置に移動したと。

 聞かれたくないけれど、密談だと疑われるのも嫌だから中途半端な位置でお話をしようって?

 そんなに気を遣う必要もないと思うけどね。まぁ、セレシアがしたいことを尊重するけどさ。


「……正直に言うが、練度が低いぞ、こいつら」


 セレシアはチラリと野営の中の兵士達に目を向ける。

 俺もつられて、兵士達を見ると、その兵士達の中を歩むラスティーナの姿を見つけた。

 ラスティーナは兵士達を集めて演説でもするつもりのようだ。

 俺は近くに置いてあった木箱の上に座りラスティーナの方を見ながら、セレシアの次の言葉を待つ。


「こんな奴らを連れて、あの男の率いる軍勢と戦うのか?」


 あの男ってのはガイのことだろうね。

 セレシアはガイに対して随分と警戒しているようだ。


「戦うんじゃなくて、偵察だろ? じゃあ大丈夫なんじゃないかね」


 魔族の軍勢について調べることが任務だってラスティーナから聞いてるんだけどね。

 そのために個人ではなく部隊単位で任務にあたるってことらしい。


「私の経験上、未熟な兵を偵察に向かわせると、だいたい戦闘になるんだがな」


 まぁ、俺も経験上、同じ意見だけどさ。

 未熟な兵士ってのは偵察の対象となってる敵との適切な距離が分からなかったり、引き際を謝ったりするから、見つかったり、逃げられなくなったりして戦闘になる。

 そういうことが分かってても、俺達は命令をする立場にないから余計なことは言えないんだよね。

 別に言ってもいいんだけど、兵士達の頭はラスティーナなわけだし、ラスティーナが決めたことに口を挟むってのはお行儀が良くないだろ?


「経験上って言ったけど、セッシーって軍人だったのかい?」


 俺は演説しているラスティーナからセレシアへと顔の向きを変えながら、話も変える。

 俺がセッシーって言うとセレシアはその呼び方も満更ではない感じで俺の疑問に答えてくれた。


「自慢じゃないが、私は人間だった頃は将軍だったぞ。私の国では女で初めてにして唯一の将軍だった」


「へぇ、そりゃ凄い」


 セレシアは俺に胸を張り、自慢げな表情を向けてくる。

 その割には思慮深さがちょっと足りなさそうな気もするけどね。

 ま、その辺は肉体に精神が引っ張られてるってことにしておこう。

 肉体が十代だから精神も十代の頃に戻ってるって感じにさ。


「私の方も聞きたいことがあるのだが、いいか?」


 セレシアは近くあった樽に寄りかかり、ラスティーナの方を見ながら俺に訊ねる。

 兵士達が直立不動でラスティーナの演説を聞き入ってるってのに態度の悪い女だぜ。

 俺を見習おうぜ、俺はお行儀よくお座りしてんだからさ。


「マークは来ないのか?」


「来ないね。仕事を頼まれたらしくて、そっちが忙しいらしい」


 セレシアはマー君に負けて以来、マー君のことを色々と気にしてる。

 敗者として勝者に従わなければならないとか言ってるけど、本当の所はどういう気持ちを持ってんだろうね?

 俺はセレシアの横顔を見るが、腕を組み眉間に皺を寄せているセレシアの表情からは気持ちを読み取るのは難しい。


「むーん、戦力的にはいてもらった方が助かるんだがな」


 自分に一度勝ってるからか、セレシアのマー君に対する評価は高い。


「マー君の事を気に入ってるんだね」


「それは当然だろう。私に勝った男だぞ? それに──」


 否定しないとか、これはもしかするとだぜ?

 女の子から評価が高いとかマー君にとっては初めての事だろうし、これは脈ありなんじゃない?

 そう思って俺はセレシアの次の言葉を待つが──


「あの口の悪さは、反抗期だった頃の息子を思い出して微笑ましいからな」


 ──は?


「息子?」


 俺は思わず声を上げる。

 ちょっと予想外の言葉が聞こえてきたんだけど、聞き間違いだよな?

 俺はセレシアの顔を見るが、セレシアは見つめる俺を見て不思議そうな顔で──


「なんだ、言ってなかったか? 私は子持ちだぞ」


「初耳なんですけど」


 思わず丁寧語になってしまうんだけど。

 マジで予想外でどう反応して良いか困ってる。


「ちなみに曾孫までいるぞ」


 ババアじゃねぇか。

 なんでババアがシレっとした顔で十代の女の子の姿で使徒をやってんだよ!


「なんだ疑ってるのか?」


「疑ってるとか、そっちの方向性じゃねぇんだけど」


 俺の反応をセレシアがどう受け止めたのか分からないが、セレシアは俺の反応が気に入らなかったらしく、懐に手を入れると、数枚の写真を取り出し、それを俺に手渡してきた。


「アダム殿が撮っていたという私の夫の写真だ。何時どうやって撮ったのか分からないが、初めて会った時に手渡されたものだ」


 セレシアのいた世界に写真があったとは思わないので、おそらくアダムがカメラを持ち込み、それで写真を撮っていたんだろう。

 旦那の写真を撮れるくらい長期間に渡ってセレシアを使徒にするかどうか審査していたんだろうね。


 俺は渡された写真を見る。

 一枚目の写真には爽やかな笑みを浮かべる貴公子が写っていた。


「一人目の夫だ。そいつとは子供が二人」


 ちょっと気になる言葉が聞こえたんだけど、気にしないようにして俺は二枚目の写真を見る。

 すると、二枚目には知的な雰囲気の整った顔立ちの男が写っていた。

 一枚目に写っていた夫とは別人のような気がするんですが、セレシアさん?


「そいつは二人目。その男とも子供を二人作った」


「ちょっと待って欲しいんだけど。どういうこと?」


「どういうこととは、なんだ? なにかおかしなことを言ったか?」


 ……まぁ、そうだよな。

 ちょっと予想外の事で動転してたけど、別に夫が二人いてもおかしくはねぇよな。

 二回結婚すれば、夫が二人とかになるわけだしさ。


「一人目が戦で死んでしまったので、別の男と結婚しただけだが、それがおかしいか?」


「……家の都合とかで無理矢理の結婚させられたとか?」


 夫がいなくて家を守れなくなって仕方なくセレシアが嫁いだとかかな?

 セレシアは強そうに見えたけど、女の人は色々と大変だからなぁ……


「その通りだな。どこかに適当に夫にできそうな奴がいないかと思ったら丁度良く、没落しかかった貴族家があったから、そこの長男を無理矢理、私の夫にしてやった」


 ……なるほどなぁ。無理矢理結婚した側かぁ。可哀想なのはこの男の方だったのか。

 詳しくは分からないが、セレシアが脅しをかけて、この写真の男を攫ったとか、そんな感じなんだろうね。


「その当時、既に私は将軍だったからな。私がその男が欲しいと兵に言ったら、気を利かせた兵士達がそいつを攫って私のベッドに置いておいてくれたんだ」


 どこの蛮族ですかね。

 まぁ、そんな馴れ初めでも子供を二人作るくらいには仲良くしていたんだろう。

 きっと、次の写真は幸せな家族の風景が──と、思ったら三枚目の写真にも別の男が写っていた。


「それは三人目の夫だな。そいつとは子供を三人つくった」


 写真の男は野性的な雰囲気の美形だった。

 全部、顔の良い男なんだけど。この女、相当な面食いなのでは?


「ちょっと聞きたいんだけど、旦那さんが同時に二人いたことは?」


「私を侮辱しているのか? 私が同時に二人の夫を囲うような破廉恥な真似をする女に見えるのか?」


 そうじゃないとなると順番に男を乗り換えていったことになるんだけど、それだとセレシアも順調に年齢を重ねていってるよね。それなのに写真に写る男の年齢がだいたい同じなのはどういうことなんだろうか?


「二人目の夫はどうにも体が弱い性質たちで、過労死してしまったんだ。その後で、私はその男と政略結婚することとなった」


 セレシアは俺が持っている写真の男を指差した。

 たぶん、ロクでもねぇエピソードだぞ。


「その男は私の国の隣国の有力貴族の子息でな。互いの国の結びつきを強くしようということで、婚姻政策が取られたんだが、年若い乙女たちが愛の無い結婚を強いられるのを見かね、ちょうど夫がいなかった私が犠牲になろうと結婚相手に立候補したんだ。ちなみに、その当時の私の年齢は30後半……40手前だったかな」


 この写真の男もビビっただろうな。

 政略結婚で40手前の将軍も務めたような女が嫁さんになってさ。


「ついでに言っておくと、その男は若い女と浮気して私のもとから去って行ったので、あまり思い出したくない」


 俺も聞きたくないので次の写真を見よう。

 四枚目の写真もきっと美形の男が写ってると思って見てみると、そこには──


「──ショタじゃねぇかっ!」


 十歳を超えたばかりにしか見えない男の子が写っていた。

 いや、でも待て。流石にそれは無いだろ。おそらく、これはセレシアの子供の写真で──


「それは四人目の夫だ」


 やっぱりショタじゃねぇか!


「私の国に侵略された国の王子でな。せっかくなので私が戦利品として貰っておいた。そいつとも子供を三人作ったぞ」


 三人目の夫の時に40歳手前だろ?

 じゃあ、この写真の男の子を夫にした時には40歳を超えてたんじゃねぇだろうか?

 40歳越えの女と10歳くらいの男の子?

 ちょっと怖い。いや、相当怖いんだけど。


「これで私に子供がいたことが信じられただろう?」


 なんで自慢げなんですかね、この女。


「別の信じられないことを目の当たりにしたけどな」


 今は十代の女の子の姿だから想像したとしても綺麗な想像にしかならないけれど、これが40代の中年女性となるとなぁ……

 最初はマー君に脈ありそうだし、マー君に春が来たんじゃないって思ったんだけど、セレシアはちょっと……いや、でも経験豊富だから逆に良いのか?


「旦那さんが四人もいて、それで使徒になった今はアダム推しなんだっけ?」


 前にセレシアと戦闘になった時、アダムの名前を出したら反応があったんでそのことを話題に出してみる。


「旦那と言うのはやめてくれないか? 夫は私が食わせてやっていたし、家のあるじも私だったんだから、旦那と言うなら私の事を言うべきではないか? まぁ、それは今は置いておこう。聞きたいのはアダム殿のことか?」


 なんか面倒臭い話になりそうになったけれど、セレシアが自分から打ち切ってくれたんで助かった。


「アダム殿は良いな。正直に言えば私の好みだ」


「使徒になって人生リセットされたのに、また別の夫を得ようとすんのか」


「人生リセットされたからだ。 せっかくの新しい人生なんだから、新しい恋に生きてみるのも悪くない。体も新品になって処女になったんだから、新しい恋を見つけるのに何も問題はないだろう?」


 うーん……マトモそうに見えたけど、やっぱり俺の使徒だけあってセレシアもヤバい奴だったね。

 使徒として新たな人生を得たから、生前はなれなかった立派な騎士になるみたいなことを言っていたってマー君から聞いたんだけど、それに加えて新たな恋かぁ……。

 まぁ、別に良いんだけどね。使徒は変な奴が多い方が俺も楽しいからさ。ただ、楽しいは良いにしても──


「その見た目で処女とか口走るのはやめとこうぜ?」


 今のセレシアの見た目は楚々とした美少女なんだしさ。

 とはいえ、過去の話を聞かされると、顔の良い年下の男を食い散らかしてたアマゾネスにしか見えないんですけどね。


「そんなことを言うのは身内の前だけだから、心配はいらない」


 それはつまり、俺を身内と認めてくれてるってことなんだろうかね。

 認められるようなことは何一つしてないんだけどね。

 まぁ、俺に仕える使徒なんだから、身内を認められること自体はおかしくねぇんだけどさ。

 召喚した奴がいなくなったから、元の鞘に収まっただけって捉える方が自然か。


「──そこ、何をしている」


 俺とセレシアがそのまま会話を続けようとしていると、不意に俺達に向かって声が投げかけられた。

 その声はラスティーナの物で、何故、演説中の筈のラスティーナの声がするのかと、兵士の前に立っているはずのラスティーナの方を見てみると──俺を見ているラスティーナと目が合った。


 何で俺を見てるんですかね?

 隅っこの方で静かに話してる俺を見る理由は?

 もっと、目の前の兵士達に集中した方が良いんじゃないですかね?

 そう言おうと思い、口を開こうとするがそれより先にラスティーナは──


「あれだけ騒いでおいて、声が聞こえないとは思わなかったのか?」


 どうやら俺が邪魔をしていたようだ。

 ラスティーナと兵士達の視線が一斉に俺に集まる。

 さて、この状況どうしたもんかね?





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