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地獄への旅

休む予定だったけど書き溜めておいた、章の冒頭部分だけ更新

 

 ──ガイ・ブラックウッドは荘厳な玉座の間で鼻歌を奏でていた。


「ふ~ん、ふふ~ん、ふふふ~ふ」


 陽気な雰囲気のガイ。

 だが、その足元に転がっているのは原形が判断できない程、バラバラに引きちぎられた肉塊で、ガイの様子は凄惨な場に似つかわしくないものだった。

 ガイは楽し気な表情で、自分の足元に転がっている肉塊の内の一つを拾い上げると、それは紛れもなくヒトの腕。

 その腕をガイは値踏みするように眺めてから、何の躊躇もなしにかぶりつく。そして、その肉を味わうように咀嚼し、呑み込むと満足げな表情を浮かべ──


「やっぱり、草食のエルフの肉は良いね。臭みが無くてさ」


 そう言ってガイは玉座の間の片隅に転がる人物に向けて笑みを向ける。

 ガイが笑顔を向けるのは平凡な顔つきをした人間の若者。

 その若者は血の涙を流し、ガイに対して憎しみの表情を向けていた。


「そんなに怖い顔で睨まないでよ。まるで俺が悪い奴みたいじゃないか」


 ガイは肩を竦めると足元に散乱する肉塊を蹴飛ばしながら若者のそばに近づく。


「悪いのは君なんだぞ? 人間を裏切って、あんな奴らの味方になってさ」


 ガイが人間の若者に見えるように指差したのは玉座。

 そこには女性の頭が幾つも積み重ねられていた。それは様々な種族の女性の頭部のコレクションでありエルフ、獣人、竜人といった多種多様な種族があったが人間は一人もいない。


「君が人間を裏切らなければ、俺が召喚されることも無かった。君が、君を召喚した人達の願い通りに勇者をして、人間のために戦えば、こんなことにはならなかったんだぜ?」


 ガイの前に倒れ伏す若者。それはこの世界に召喚された勇者だった。

 人類の英雄として他の種族を打倒することを使命として召喚された勇者は人間の国を裏切り、他種族の国家へ寝返った。その理由は──


「人間が他種族に対して行っていた差別や弾圧が許せなかったんだって?」


 ガイがいる世界は人間が他種族を迫害し、虐げる世界だった。

 召喚された若者はそれが許せず、他種族の味方となっていた。


「なんでそんなことするかなぁ? 俺には理解できないんだけど? 人間だったら、人間の味方をしようよ? 違う姿をしてる生き物より、同じ姿をしてる生き物に対して親近感を持つのが生物として当然の反応だと思うんだけどな。耳が長かったり、耳が動物だったり、頭から角が生えてる奴とか気持ち悪いと思わない君の神経が信じられないんだけど」


 若者はガイに対して憎しみの眼差しを向けるが、それ以上のことは出来ない。

 なぜなら、その四肢はガイに引きちぎられていたからだ。そして何も言うことができないのは──


「何か言い分があるんだったら──って喋れないよね。俺が舌を引っこ抜いて歯を全部へし折っちゃったからね」


 ガイはうっかり忘れていたと言いながら微笑む。


「君を召喚した人達からの要望でね。君は殺さず、その上で何もできない状態にして引き渡して欲しいって言われてるんだ」


 ガイは若者の頭を優しく撫でながら言う。


「歩んできた歴史は違うけど、同じ地球の生まれ、そして同じ日本人のよしみで、ダルマにする程度に収めておいたんだから感謝して欲しいよ」


 勇者として召喚された地球の若者は怒りを露にし、暴れようとするが手足を失っていては何もできない。

 できることと言えばガイに対して憎しみの籠もった眼差しを向けることだけだった。


「やっぱり裏切るのは良くないよね。相当、お怒りのようだったよ? 君を召喚した人達はさ、君が他種族の味方をして人間の国の敵対したせいで、君を召喚したことの責任を取らされて色んな人が処刑されたんだよ。それなのに──」


 不意にガイの表情が一変する。

 穏やかだった表情に何の感情の色も見せずにガイは勇者の頭を鷲掴みにすると──


「──君は何の反省も見せず、自分だけが善良だと思い、正義の味方面をして迫害される他種族の味方をして人間を殺しまわった。そして、それに我慢ができなくなった人たちによって、俺はこの世界に召喚された。君が人間にイジメられて可哀想な他種族の雌にほだされた結果が今の状況──」


 ガイの口調に先程まで見せていた柔らかさは消え、勇者を糾弾するような口調となっていた。


「君の力は君がこの世界に召喚された際に与えられた物だろ? 君を召喚した人たちは、その力を人間のために使って欲しかったのに、君はその気持ちも踏みにじって、与えられた力で調子に乗って人間に敵対し、迫害される他種族の味方をして、その挙句にエルフや獣人を嫁にしてハーレム? はは、ウケる。そりゃあ、俺が召喚されるわけだよ」


 ガイは自分がこの世界に召喚された時のことを思い出す。

 信じて呼び出した勇者に裏切られ、絶望した人々の縋るような眼差しと、それに応える自分。


「そしてこうなった。人間を守るために召喚された俺に君は勝てず、君のハーレムのお嫁さんたちは俺に殺され、今晩の俺の晩御飯」


 ガイは玉座の間に散乱する肉塊を指差す。

 原形が分からない程バラバラにされているが、それらは間違いなく勇者の妻たちであった。


「君は殺すなって言われてんだよね。まぁ、裏切者でも俺は人間を殺すのには抵抗があるから、その命令は有難いんだけどさ。ところで、どうして殺さないと思う?」


 ガイが訊ねると同時に玉座の間の入り口の扉が開き、人間の兵が部屋の中に入ってくる。

 この場所はエルフの治める城であるので通常ならば人間が入って来れるはずがないのだが、それが入ってこれるということは、つまり人間側が城を攻め落としたということだった。


「なんでも君は種馬にするんだってさ。勇者の血って子孫にも影響があるみたいだから、君には種馬として子作りをしてもらうんだって。股の棒があれば他は良いやって話で手足を引き千切らせてもらったけど悪く思わないでくれよ? でもまぁ、ハーレム作るくらい女が好きなら、願っても無い話だろ?」


 人間の兵士が手足を失った勇者を抱え上げる。

 その際に勇者が身をよじって抵抗するそぶりを見せたため、兵士が勇者の胴体につま先で蹴りを入れる。


「そういえば、子作りをしてもらう相手は全部、人間以外の種族だってさ。それで君の血を引く子供が生まれた瞬間、人間に対して絶対服従になる奴隷の刻印を刻むとも言ってたね。つまり、これから先、君の子孫は全て奴隷で、君の血筋は奴隷の血筋ってことになるのかな? 俺はそれが罰になるのかは分かんないんだけど、君はどう思う? 自分の血を引く者たちが未来永劫、全て奴隷になるってのはさ」


 抵抗する気力が無くなったのか勇者は兵士達にされるがまま抱え上げられて運び出される。

 その後ろ姿を見て、ガイの表情に浮かんでいたのは人類の裏切者を充分に痛めつけられたという満足感だった──



 ……段々と意識が覚醒してくる。


「──閣下……閣下」


 そして、自分を呼ぶ声がしてガイは目を覚ます。

 目を覚まし辺りを見回すと、自分のいる場所は天幕の中だった。

 ガイは、どうやら自分はこの世界に来る直前の世界の夢を見ていたようだと、周囲に並ぶ魔族の将たちを見て理解する。

 人間の味方として召喚された世界の次は魔族の味方として召喚されるとは因果なこともあるものだと思い、ガイは大きく溜息を吐く。


「お前ら、みんな死なないかなぁ」


 ガイは平然とした表情でその場にいた将たちに自分の想いを伝える。

 軍議の真っ最中に眠ってしまっていたガイであるが全く悪びれる様子は無い。


「閣下が、お休みの間に進軍の道のりを決定いたしました」


 ガイは欠伸をしながら適当に話を聞きつつ、テーブルの上に置かれた地図に目を向ける。

 地図上には赤い線で軍の進路が描かれていた。


「まずは最も近い都市であるソーサリアを攻め落とし、物資を確保、補給体制を整えると共に、人間世界に対する橋頭保といたします」


 ガイに説明するのは二足歩行の犬の姿をした魔族。いわゆるコボルドだった。

 ガイはコボルドの説明する戦略を即座に──


「却下」


 一言で切って捨てた。

 何故──などとは誰も聞かない。ガイは質問を許さないからだ。

 その代わりにガイは勝手に自分の考えていることを喋る。

 それは同意を求めるものではなく、既に決定事項であった。


「ソーサリアには結構、知った顔がいるから、戦場になるのは嫌」


 数日の滞在の間に言葉を交わした人間がそれなりにいるので、そういった人々が困るのをガイは避けたかった。


「で、ですが、ソーサリアを確保できなければ背後が危うくなります。そもそも、それ以前に補給も何もできず、我々は干上がることになり──」


 思わず口を挟んだのはガイに説明をしていたコボルド。

 しかし、そのコボルドはその言葉を最後まで言えず、その途中でガイに頭部を粉砕される。

 コボルドが言いたかったのはソーサリアを攻め落とし食糧などの物資を補給しなければ、進軍など不可能という事実。だが、ガイはその事実などはどうでも良かった。


「良いじゃん別に。ソーサリアを落とさないとメシが無くなる? メシが無いなら共食いでもしてろよ」


 その場にいた魔族の将たちはガイの発言を受けてガイを睨みつけるが、それ以上のことは出来ない。

 何かすれば、その瞬間に殺されるため、ガイのどんな無茶な命令にも唯々諾々と従わなければならない。

 奪われるのが自分の命だけならガイに対て逆らうこともできただろうが、ガイに逆らえば奪われるのは自分の命だけではないことを、ガイが召喚されてから今に至るまでの様々な出来事で理解している魔族の将たちはガイには逆らえなかった。


「ほら、決定したんだから動けよ。ただひたすらに前進だ」


 力尽くでガイを排除しようにも、それは不可能であることをこの場にいた魔族たちは身をもって理解している。だから、従うしかないのだが、それでも──


「しかしながら、それでは兵はちません。食糧も何もかも不足するのは目に見え──」


 勇気を振り絞りガイの決定に異を唱える魔族の将。しかし、その声を言い終わるより前に首から上が消え、声は途切れる。そして、その首はガイの椅子に座っているガイの手元にあった。


「はぁ、面倒くせ……。いつも通り、こいつの部下を昇進させておいて、次からはこの場に呼んでおいてね」


 そう言うとガイは自分の机の前に置いていた魔族の頭を床に投げ捨て、静まり返った魔族の将たちに向かって、自然な笑みを浮かべながら訊ねる。


「メシが無くなって飢え死にするのと、人間と戦って殺されるの、それか命令に従わず俺に殺される。この中で最も差し迫った危険ってなんだろうね? 答えは言わなくてもわかるだろ?」


 ガイが訊ねた瞬間、その場にいた魔族の将は立ち上がり行動を開始する。


「そうそう動け、動け」


 ガイは虫を追い払うようにシッシッと手を振る。

 そうされるまでもなく、将たちはガイの目の前から速やかに立ち去る。

 ガイに逆らうことは死を意味する。となれば、従うほかはない。

 その心中には憎しみ以外の感情は無いが、それは自分達を虐げるガイだけでではなく、こんな存在を召喚した自分たちの主である魔王にも向いている。


「さっさと進軍すれば、それだけ俺が消える日も近づくんだから、頑張れよ」


 ガイは魔王との契約で人間側の国を一つでも攻め落とせば、この世界から消えてくれることになっている。

 魔族の将たち、そして人間の領域に攻め入ろうとする全ての魔族にとってはそれだけが救いであり、それしか自分達が生き残る道はないとも、全ての魔族が直感的に理解している。

 一刻も早くどこかの国を攻め落とし、ガイをこの世界から退去させる軍に属する魔族達の想いは一つとなっていた。


 こうして、魔族の人間世界侵攻はガイ・ブラックウッドの一存によってソーサリアを素通りし、何の補給も無いまま人間世界の奥深くへと進軍するという、地獄への旅路を歩み始めることとなったのだった。






データを整理してたら昔に書いてた作品を見つけた。

そのままってのも勿体ないので休憩期間はそれの投稿でもしてようかなと。

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