表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/379

賢者との対面

 

 俺が入った部屋は書斎と言うか、図書館のような場所だった。

 壁中に本が並び、それと部屋のあちこちに実験器具が無造作に置かれた部屋。

 その部屋の真ん中で賢者は大きな机に向かい、俺に背を向けていた。

 俺が入ってきたことに気づいている様子は無い。というか、いま周りがどんな状況にあるか分かってるかも怪しいくらい、平然としていた。


「こんちわー。お届け物があるんですがー」


 俺が声をかけても、賢者は俺の方を向かずに机に向かったままだった。

 良いね。周りに影響されないってのは良いことだと思うよ。ただ、俺を無視するってのはいただけねぇな。

 俺は何気なく近くの棚から本を一冊取り出してみる。

 本のタイトルとか内容は興味がない。興味があるのは大きさと重さで、俺が何気なく手に取ってみた本は俺の要求に応えていた。


「本を焼く者はいずれ人も焼くようになるらしいけど、それなら本を投げる奴はどうなるんだろうね」


 俺は手に取った本を俺に背を向けている賢者に向けて投げつけた。

 直線の軌道を描いて本は賢者へと飛ぶが、しかし、俺が投げつけた本は賢者に触れる前に魔力の防壁によって阻まれた。けれど、その結果──


「……なんだ」


 ──賢者が俺の方を振り向いた。

 振り向いた賢者は20代くらいの恐ろしく整った顔の男だった。

 金色の髪に青い瞳、そして特徴的な尖った長い耳。俺の知る限り、その耳はエルフと呼ばれる種族のもので、おそらく賢者もエルフなんだろう。


「お届け物にあったもんで、お邪魔してます」


「……何を持って来た」


 賢者は俺に対して何の関心も抱いていない眼差しを向けている。

 まぁ、そんな眼を俺に向けていられるのも今だけなんで、俺は気にしない。

 俺は堂々と賢者に対して──


「俺の拳とキミの敗北をお届けにあがったぜ」


 そう言って、椅子に座ったまま俺の方を向いている賢者に向かって一気に距離を詰める。

 だが、その瞬間、踏み出した俺の足元から何かが噴き出し俺の体を貫いた。


「……なんだ、貴様は……」


 賢者は立ち上がり、俺を見据える。

 動くのが面倒なのか、緩やかな動き。しかし、俺を見る目は鋭く、怒りに溢れている。


「……誰かいないか、私の部屋に侵入者だ」


 辺りを見回し賢者は呼びかけるが、その声に反応してくれる奴は、この場には俺以外には誰もいない。


「……あの使い魔はどこだ。なぜ、私の護衛をしない……」


「セレシアなら来ないぜ。それと、この塔でキミを守ってくれる奴も誰もいないぜ。全員、俺が始末したからな」


 何かで撃ちぬかれた体が再生され、元通りになった俺は立ち上がると同時に、横に跳び、賢者が放たれた魔力の弾丸を回避する。


「……役立たず共が……」


 賢者は俺への興味など一切持っていないようだが、自分の時間を邪魔されたことに対する怒りはハッキリとその青い瞳に浮かんでいた。


「……私のもとに下賤の者を通し、私の貴重な時間を邪魔するだと……」


 下賤ねぇ、俺は世の中の下の方で生きているけれど、、いやしいつもりはねぇんだよな。

 貶めるような発言をされると、ちょっとイラっと来るぜ。


「……これが、どれほどの損失か分かっていないのか……」


「分からねぇなぁ。教えてくれるかい?」


 俺は賢者に向かって歩きながら近づく。

 賢者の方は俺のことなど意識の内に入っていないようで、自分の時間を奪われたことに対する自分の内の憤りにしか目が言ってない様子だ。それを見て俺はこの賢者の人間性パーソナリティを何となく察する。


「なるほど、自分のことにしか興味がないってタイプの人間なのね」


 世の中の全ての存在が自分の奉仕者とか思ってのかもね。

 自分は誰かに尽くされて当然の存在だと思っているとか、そういう所だろう。

 なんで、そう思うようになったかはともかくとして、こういう手合いは誰かの人生を踏みつけても、尊い自分のためになったんだから、喜ぶべきだとか平気でほざくんだよなぁ。


「あんまり好きじゃないね」


 俺も似たような傾向があるから同族嫌悪に近い感情なのかね。


「……煩わしい」


 賢者は俺の方を見ずに頭を抱えている。

 しかし、その直後、賢者の周囲に水球が出現し、そこから水がレーザのように発射される。

 ウォーターカッターの要領だろう。水も高い圧力をかけて発射すれば金属を削れるし、そんな勢いで放てば当然、人間の体だって貫く。けどな──


「発射の瞬間が見えてれば、躱すのなんてわけないぜ」


 俺は発射された高圧の水を軽々と躱すと同時に駆け出し、賢者との距離を一気に詰める。

 その瞬間、背後からの殺気がして、俺が横に跳ぶと、俺がいた位置を水の矢が通り過ぎて行った。

 どうやら発射した水を俺が躱したのに合わせて方向転換したようだ。


「殴り合いは嫌いかい?」


 不意打ちを躱しながらも俺は駆ける足を止めることはなく、賢者との距離は拳の届く間合いとなる。

 俺は拳を振りかぶり、全力の一撃を放つ。だが──


「バリアも有りか」


 俺の放った拳は賢者を守るように現れた水の壁に阻まれた。

 単なる水ではなく強い魔力を帯びた魔術で生み出した水だ。それを高圧で循環させて壁のように膜を作り上げている。


「遠距離攻撃にバリアも有り、それと──」


 俺が呟きながら飛び退いた瞬間、足元から水の槍が出現して俺を貫こうとするが、俺は既にその場にはいない。どうやら、これが最初に俺の体を撃ちぬいた攻撃だろう。


 俺は不意打ちを回避するために飛び退きながら、手の中に隠していた指の先ほどの大きさの小石を賢者に向かって投げつける。

 攻撃として意図はない。どこまでバリアが機能するかを試すための行動で、その証拠に当たっても痛みも何も無い。

 それは見れば分かるから、バリアを意図的に発動しているなら無駄な発動を避けるために普通に当たるはずだ。逆に完全に自動だったら、俺が投げた小石にも反応するはず。そして、そのテストの結果、俺の投げた小石は賢者の頭に触れて、そのまま落ちる。

 感覚としては「当たったかな?」と思う程度だ。これにバリアを発動しなかったということはバリアは意図してのものだと俺は思ったのだが──


「……何かが私に触れたぞ……」


 賢者は頭を抱えていた手を放し、俺を見る。


「下賤の者の手が私に触れたぞ……」


 手じゃなくて小石だけどね。それも指の先くらいの大きさ。

 しかし、それさえも賢者は許せなかったようだ。

 自分でバリアを発動しなかったせいだろうと思うけれど、もしかしたら気付かなかったのかも。

 それなら、賢者は自分の知覚できる攻撃にしかバリアが張れないということになるんだが──


「……何をしている……っ! ……アスルマール……!」


 賢者が叫んだ瞬間、賢者の背後に半透明の幽霊のような存在が現れる。

 それは人形のように整った完璧な容姿を持ち、青い薄布をまとった男の姿をしていた。

 しかし、俺が気になるのはそいつの姿ではなく、そいつの放つ気配。

 俺が感じた、その気配というのは──


「青神か?」


 賢者の背後に浮かぶ青い幽霊のような存在から感じたのは間違いなく神の気配だった。


「……誰も私に触れさせるなと言ったはずだぞ……アスルマール」


 アスルマールという名前らしい神の気配のする存在に対して、賢者は自分の下僕を叱責するように居丈高な態度を取っている。


「……なるほどね、なんとなく分かった」


 どうやら青神と賢者の上下関係は賢者の方が上のようだ。

 その理由は青神が賢者に憑りつくように幽霊みたいに浮かんでいるのと関係あるのかな。

 ま、細かい事情は今はいいや。とりあえず重要なのは青神より賢者ってことだ。そうなると、それに応じたプランを考える必要があるわけで──


「……煩わしい、煩わしい。何故、誰も私の思い通りにならない。私の命令を聞き、私のために尽くすということが何故できないのだ……」


 賢者はブツブツと何か言っている。

 まぁ、大事な話じゃないだろうし、無視して良いよな。賢者の方も俺を無視してるしさ。

 俺を見ていたのも一瞬のことで、賢者はまた自分の世界に閉じこもり、それを青神らしき幽霊みたいな存在が哀れみの表情を浮かべて見ている。その哀れみの表情は自分に対してのものなんだろうか?


 まぁ、どうでもいいか。

 そこの自分の世界に閉じこもってる貴方。

 体を二、三回ノックすれば、自分の世界から外へ出て来てくれますか。


「俺のやること──つまり、ぶちのめすことに変わりはねぇ」


 俺は自分から遠ざけた距離を接近戦のために再び詰める。

 全速力で駆け出した俺を賢者の背後に浮かぶ青神は見据え、水球を出現させるが──


「……何をしている……」


 賢者がその水球の発動を止めさせ、代わりに自分が魔力弾を俺に向かって放った。

 ほぼノーモーション。マー君に匹敵する速さの魔術の発動だ。だけど、それはつまりマー君には及ばないってことで、そんな魔術が当たるわけはないだろ?


「連携が取れてねぇなぁ!」


 突進を止めず、魔力弾を拳で叩き落としながら近づく俺に対して、青神が賢者に対してバリアを張る。だが──


「……速やかに、この愚か者を殺せ……!」


 賢者が青神の意図とは異なる動きを青神に命令し、賢者自身も攻撃に移ろうとする。

 攻撃と防御の明確な役割分担もできていない、ちぐはぐな状態、それによって生じる隙は致命的。

 結果、賢者は俺の接近を許し──


「顔面を殴られた経験は?」


 俺の拳が賢者の顔に突き刺さり、その衝撃で賢者の体が吹っ飛んだ。

 命を奪った手応えありだが、この程度で終わるわけはないよな?

 俺は吹っ飛び、床の上を転がった賢者の姿を見る。

 賢者は床に突っ伏し動かなくなるが、それも少しのことで、賢者はすぐにふらつきながらも立ち上がる。


「やっぱり、一回殺したくらいじゃ死なないか」


 青神から力を貰ってるからか、俺と同じように命が残機制になってるな。


「……あ、あああぁああぁ……ああああああっ!」


 一回、死んだ賢者が発狂したように叫ぶ。


「……私を、私の命を奪ったな! 私の尊い命を」


 テメェだって色んな人間の命を奪ってんじゃん。

 自分の命だけが尊いってこと? 俺を下賤と言うが、テメェの方がいやしい考えじゃねぇかよ。


「安心しろよ、これから何十回も殺してやるから、そうしたら自分の命が尊いなんて思えなくなるからさ」


 賢者は俺に対して殺意のこもった眼差しを向けてくる。

 何度も再生できる俺らの命なんてゴミクズだぜ? それを教えやるよ。

 そういえば、命が残機制で死んでも再生できるなら、どうしてロミリアを攫って自分の新しい肉体にしようとしたのか。

 おそらく肉体は平気だけど、魂と精神が劣化してるから、ロミリアの新鮮な魂を乗っ取ろうとか考えてたからだろうな。魂は奪えば済み、精神に関しては肉体に引っ張られるから若い肉体になれば劣化が解消される。


「……貴様の名を聞いてやる……」


 賢者は殺意の籠もった眼を俺に向けながら俺の名を訪ねる。


「アッシュ・カラーズ」


 答えてやる筋合いはないけれど、俺は親切だからね。


「……私に牙を剥いた愚か者の名として、その名は未来永劫この地に遺してやろう……」


「そいつはありがたいね。永遠に歴史に名を遺せるとか男の夢だぜ」


「……そのような軽口を叩けるのも今だけだ……」


 賢者の殺気に合わせて、その背後に浮かぶ青神も俺に殺意を向けてくる。

 良いね。神を使役する賢者が俺の相手とか、ワクワクするぜ。


「こっちも名前を聞いておこうか?」


 賢者は答える必要はないとか言うと思ったが──


「……我が名はセシアリウス。貴様がこの世で最後に聞く名だ。我が名を聞けたことを誇りに思い、死ぬがいい……」


 セシアリウスね。

 それが俺の最後に聞く名前かぁ、感慨深いね。ところで──


「後ろの半透明なのは何だい?」


「……青神アスルマール……我がしもべだ」


 へぇ、そうかい。俺の思っていた通り青神でしたか。

 まぁ、それはともかくとして……


「キミの名前が最後に聞いた名前じゃなくなったぜ? そこんところ、どう思う?」


 いまアスルマールって名前を聞いたから、それが最後の名前になるんだけど、どうしようか。


「えーと、俺がこの世で最後から二番目に聞いた名前のセシアリウスさんだっけ? 速攻で自分の言葉が嘘になった気分はどうだい?」


 俺の問いに対してセシアリウスは魔力弾という答えを返してきた。

 良いね。イラついてる?


 それじゃあ戦闘開始だ。

 アッシュ・カラーズvs賢者セシアリウスwith青神アルスマールの開戦だぜ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ