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深く沈むように響く

近いうちに作品タイトルを変えるかも。

日刊ランキングを見習って、もっと分かりやすいものにした方が良いのかもしれないと思ったので。

 

 業術の詠唱が始まる。


謳えドライブ、我が魔導カルマ。深く沈むように響く』


 即座に動き出すセレシア。何もせずに詠唱をさせるわけがない。

 セレシアは業術に関する知識は無い。だが、詠唱を始めた瞬間マークの纏う気配が危険な物になったのを感じとっていた。


『真理は選ばれし者だけのものではなく、叡智は尊き者にのみ与えられるものではない──』


 長い詠唱。しかし業術の発動にはどうしても詠唱が必要になる。

 業術は世界を塗り替えるための力であり、その力を振るうには今いる世界にその意思をハッキリとした形で示さなければならない。

 思うだけではなく言葉に出さなければ世界は変わらない。だから、世界の変革を求める業術使いは己の心に思い描く世界を言葉にする。


『啓蒙の声は誰にも届かず、理を説く言葉は嘲りを受ける。象牙の塔は崩れ落ち、賢者の威光は地に堕ちた──』


 これは宣戦布告である。

 この世界より自分が思い描き語る世界こそが正しいと業術使いは謳う。


『しかし、人の知の輝きは未だ以て鈍らず、べて世は事も無し──』


 詠唱を続けるマークに対してセレシアは駆け寄りながら盾を投げつける。

 しかし、投げた盾はマークが創り出した魔力の壁によって防がれる。


『真理は人の営みの中に生まれ、叡智は空気のように人と在る──』


 業術の詠唱に集中しながらも、マークはセレシアから目を離さず、魔術を用いて自分の身を守っている。


『祝福すべきはこの末路。賢人たちの姿は無く、されどその知はのこり人の世に息づく──』


 壁に弾かれ、跳ね返ってきた盾を受け止めたセレシアはマークの守りを突破して術の発動を妨害することを即座に諦め、自分の身を守ることを優先する。

 相手の詠唱がどこまで続き、どこで魔術が発動するのか分からない以上、迂闊に攻めて防御のタイミングを失うことをセレシアは避けたかったためだ。


『──我が身に墓標はいらず、この末路こそが我が慰め』


 そしてマークの詠唱は終わりを迎え、業術は完成に至る。


「……駆動ドライブ──魔導律メイガスコード消え去るべき我が遺稿ぺルデンドシ・レムナント


 唱えられた言葉、それが力を形作る。

 しかし、マークの姿は何も変わらず、何も起こらない。

 けれど、マークの前に立つセレシアは雰囲気で変化を感じ取っていた。


「何をした?」


 問う声に対してマークは肩を竦める。


「試してみろよ。たいして面白くないがな」


 マークが答えを返した瞬間セレシアは盾を投げつけ、同時に自分もマークに向かって距離を詰める。

 セレシアの仕掛けてきた攻撃に対してマークは何もせず棒立ちのまま、その攻撃を受けようとし、その結果──


「なっ──?」


 セレシアの投げた盾がマークに直撃した瞬間マークの体が煙のように霧散する。

 幻惑を見せる術もしくは既に姿を消していた?

 セレシアは二つの可能性を頭に浮かべ、その対応ために身構えるが──


「その考えは外れだ──」


 声が聞こえると同時にマークの手だけ・・・がセレシアの目の前に現れ、セレシアの首を締め上げる。

 セレシアは即座にその手を払いのけるが、直後にマークの左腕だけが無数に表れセレシアの目の前、周囲を無数に埋め尽くす。


「言っておくがそれも全て俺だ」


 どこからか聞こえてくるマークの声、直後セレシアの周囲に浮かぶ無数の腕から一斉に魔弾が放たれる。


消魔ドゥスト!」


 セレシアが叫ぶと放たれた魔弾は掻き消えるが、直後にセレシアの顔の目の前に新たな左腕が現れセレシアの顔面に向けて魔弾を放つ。直撃を受けたことでセレシアの少女の顔は見るも無残な有様になるが、即座にその傷は修復され、元通りになる。


「何をした」


「真正面から戦って勝てるようにしただけさ」


 マークは何時の間にかセレシアの傍に立っていた。


「姿を隠しておいてよく言う」


「馬鹿を言いやがる。俺はずっとテメェの目の前にいるだろうが」


 言っている最中にマークの姿が煙のように消える。

 やはり姿を隠す魔術。セレシアがそう思った瞬間、セレシアの体は不意に周辺に発生した魔力球からの光線に撃ち抜かれる。


「ネタばらししてやろうか?」


 全身を打ち抜かれ膝を突くセレシアの傍に姿を現したマークは親切心で話しかける……などということは無い。

 アスラカーズの加護は自分が不利な条件になればなるほど強く働く。

 今の状況の場合だとマークの術を何も知らないセレシアの方にアスラカーズの加護は強く働いており、そのせいでセレシアの体は頑丈になっている。

 セレシアの守りを弱くするにはセレシアがマークと比較して不利な状況を少し軽くする必要があった。だから、マークは自分が少しでも不利になるように自分の術の詳細を開示しようとしていた。


「……黙ってろ」


 セレシアは飛び上がるように起きると、手に持った剣でマークの首を刎ね飛ばした。

 だが、斬ったはずの首は再び煙のように散り、すぐさま元通りになるが、その様を見てセレシアは直感を得る。


「消えてるのではなく、身体の構成要素を変えている?」


 その答えに対し、マークは魔術の一撃を以て正解と伝える。

 至近距離から何の予備動作もなく放たれる黄金の槍の一撃。

 頭上から一斉に降り注いだ槍に串刺しにされ、セレシアは息絶える。


「使徒共はこれだから嫌になる。なんなんだろうな、どいつもこいつも勘で俺の業術の正体を当てやがる」


 使徒になるような者は大抵、戦闘経験が豊富で様々な能力を持った相手と戦ったことがあるので、初めて戦う相手でも自身の経験と照らし合わせなんとなく相手の能力を察することができる。

 マークはセレシアもそうなんだろうと思い、勿体つけるようなことはせずに自分の業術の能力を明らかにする。


「まさく御明察、俺の業術は俺という存在の構成要素を変化させるってだけの退屈な代物だ」


 復活したセレシアにマークは自分の能力を聞かせる。

 この瞬間、自分が不利になる情報を開示したことによりアスラカーズの加護によってマークの能力が上昇する。


「業術の駆動段階を発動させた瞬間、俺の体は全てが魔力によって構成された実体を持たない存在になる。なので──」


 セレシアはマークに向かって盾を投げるが、その盾はマークの体を掻き消すだけだった。


「ただの物理攻撃は効かなくなる。そして──」


 セレシアはブーメランのように戻ってきた盾を構えた防御を固めるが、そのセレシアをマークが背後から魔力で作り出した黄金の槍を手に持って貫いた。しかし、マークはセレシアの目の前にも立っている。


「魔力ってのはどこにでも存在するものだから、魔力によって構成される今の俺もどこにでも存在する」


 背中から貫かれたセレシアの顔面を警棒を持ったマークが殴りつける。

 これでセレシアの知覚の範囲内にいるマークは三人。


「どこにでも存在するってことは、どれだけ存在していてもおかしくないってことだとは思わないか」


 更に三人のマークが現れ、それらがセレシアに向けて火球を放ち、セレシアの体を焼き尽くす。

 セレシアの体は即座に復活し、マークの攻撃に備える。


「降参するなら、してもいいぜ? そっちも俺に降参を勧めていたんだから、俺も聞くのが筋ってもんだ」


「冗談を言うな」


 セレシアは盾を構えたまま話しかけてくるマークに向かって突進する。

 直後、横合いから突如現れた別のマークが魔弾を放つ。


消魔ドゥスト!」


 セレシアは対抗呪文でマークの魔弾を掻き消そうとするが、しかし対抗呪文は発動しない。

 防御手段が突然使えなくなったセレシアであるが咄嗟の判断で、盾で魔弾を受け止める。


「……なるほど、私の消魔の術も魔力を放っている。自分の存在を魔力に変えるということは私が魔力を放ったら、その瞬間に貴様の物ということか」


「ま、そんな感じだな。ただし放った魔力だけじゃなく──」


 次の瞬間、セレシアの体が弾け飛ぶ。


「お前の体内にある魔力も俺の支配下だ」


 セレシアが弾け飛んだのは体内に大量の魔力を溜め込んでいたためであり、その魔力をマークが操作したからだった。マークの業術は自身を魔力というエネルギーに変え、周辺の魔力と自分の存在を同一化させる。魔力というエネルギーは全てマークであるし、マークであるのだからマーク自身が自由にできないわけがない。

もっとも、マークがセレシアの体内の魔力を操れるのはマークの支配下にある空気中の魔力を呼吸の際に体内に取り込んでしまったからであり、吸い込んだ魔力がセレシアの元々の魔力を汚染し、マークの支配下においたからだった。これはマークの業術が顕現アライズの段階でもあった効果であるか、駆動段階に至って、その効力は遥かに増し、マークの魔力は一瞬でセレシアの体内の魔力を汚染する。


「生まれた世界の問題か。もう少し他の世界で経験を積むべきだったな」


 復活したセレシアがマークに斬りかかる。

 セレシアの世界では実体のない存在を相手にする場合は武器に魔力を込める。

 そのセオリーに従ってセレシアは剣に魔力を込めてマークを斬るが──


「魔力を込めた武器は俺に効かない」


 魔力を込めた武器をマークに当てた所でマークの存在を構成する魔力を補給する以外の効果はない。

 同じように魔力を用いて発動する魔術もマークに魔力を補給する以上の効果は持たない。

 よって、マークを倒すためには魔力以外のエネルギーを用いた攻撃ができなければならないのだが、セレシアの生まれた世界では魔力以外の力は存在せずセレシアも魔力の扱いしか習得していなかった。

 これがアッシュやゼティになれば、様々な世界で気などの魔力以外の力も習得しているので対抗できるのだが、それは今のセレシアには無理な話しであった。


「──クソッ」


 セレシアは毒づくとマークから距離を取り、状況を打開するための方法を考えようとするが、後ろに下がるより早くマークが魔術によって放った黄金の槍がセレシアの体を貫いた。


「もう詠唱の必要もない。魔術ってのは魔力を変化させて形作るものなわけだから、今のように魔力が自分の手足のように操れる状態なら息をするように魔術を変化させて形作れる」


 セレシアは自分に刺さった黄金の槍を引き抜こうとするが、セレシアが触った瞬間、黄金の槍は黒い蟲に変わりセレシアの体を食い尽くす。


「──アダマントの槍からダオス・ベルゼーブ。魔術で作られたものはどうなろうと結局、魔力だ。魔力であるなら形を変えることだって簡単だろう? 出来上がった魔術の魔力の形を変えれば別の魔術になる」


 セレシアの耳にその声は届いていないが、マークは自分の業術の情報を開示し続けることで、自分を段々と不利な状況に追い込み、業術の発動の継続を図る。

 強さに差が出れば、それだけアスラカーズの加護の効きは弱くなり、加護が弱くなれば業術を発動させ続けるのも難しくなる。

 マークの方にも業術を自分だけの力で維持させるのは難しく、業術の維持のためにはどうしてもアスラカーズの加護が必要になるので、自分を不利な状況に追い込んで加護を安定させなければいけないという事情がある。


「──で、どうする? 降参するか?」


 マークは再生したセレシアに再び問いかける。

 セレシアの眼にはまだ戦意の炎が灯っていたが、しかしセレシアは自分を取り囲む数十人のマークの姿と、それらが魔術の発動準備を整えているのを敢えて見せつけているのを見て、大きく息を吐き──


「わかった」


 セレシアは手に持っていた剣と盾を放り捨てる。

 そして、両手を挙げ──


「降参だ」


 セレシアは自身の敗けを認めた。

 アッサリと敗北を認めたことをマークは疑わし気な眼差しで見るが──


「これ以上、死んだらマズいことになりそうだったからな。召喚してもらった恩があるとはいえ、命を懸けるほどの義理は無い」


 薄情な物言いであるが、セレシアの言葉に嘘が無いと感じたマークは自身の勝利を確信し、その瞬間マークの業術が解除され、同時にセレシアの目の前にいたマークの姿も消え去る。

 いくら自分の体を魔力に変化させ自在に操れたとしても、それを統制するための本体は必要になる。セレシアの目の前にいたマークは本体ではなく、業術の解除と同時にその姿は消え去ったのだった。


「真正面からと言っていたのは嘘じゃないか」


 セレシアはそう呟きながら呆れた表情で物陰から姿を現すマークを見る。


「ま、それでもいいか」


 セレシアはどこか晴れ晴れとした表情を浮かべると、その場に腰を下ろして塔の方を見る。


「姫を攫った悪の魔導士の手下は姫を救いに現れた王子の配下に破れる。陳腐だが悪くはない」


 むしろ、その結末が良い。

 セレシアはそう思いながら、自分を打ち負かした勝者が自分の傍に近寄ってくるのを待つのだった──




セレシアにもう一段階奥の手を考えていたのと、マークの業術について更に細かい説明を入れようかなと思ったけど、キリが無くなりそうだったのとこれ以上話数をかけるのもどうかと思ったのでアッサリ決着。最初の構想だと更に5000字くらいかかりそうだった。


マークの業術(ゲーム的な説明)


『魔導律 消え去るべき我が遺稿』

発動すると……

物理攻撃無効、魔力(MP等)を使用した攻撃を吸収

分身、テレポート

魔力(MP等)を使う能力の発動妨害(攻撃、回復、防御、ステータス上昇など全て)

相手の魔力(MP等)を使って魔法発動

魔力(MP等)を持つ相手に即死効果

魔法の高速発動。

魔法発動時のMP回収。

魔法発動後、MP消費0で別の魔法を即時発動

……等々

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