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置き去り

 

「……足手まといになってるよね」


 塔へと向かう道を急ぎながらジュリアンが口を開く。

 広場を抜ければ塔のある魔導院までは一本道、その道を俺達はジュリアンの走るペースに合わせて走っていた。


「まぁ、キミだから足手まといというわけじゃないけどね」


 俺とゼティが本気で走ったらマー君だって追いつけないし、そんなマー君の走る速度にだってこの世界の大半の奴は追いつけない。だから、ジュリアンが特別、足手まといというわけじゃない。


「僕が自分の手で助けたいなんて言わなければ、もっと早く助けにいけたのに……」


 ジュリアンの息が切れてきて、走る速度が遅くなるが、マー君が即座に魔術でジュリアンの体力を回復する。


「転移はさせられないのか?」


「見える範囲じゃなきゃ無理だ」


 ゼティは転移でさっさと塔の近くまで行けないのかとマー君に訊ねたが、マー君の答えは不可能。

 さっき、俺を転移させたのもマー君の視界の範囲内だったから可能だったということなんだろうね。


「ということは、ジュリアンは自分の足で行くしかないわけだ」


 抱えていっても良いんだけど、囚われのお姫様を助けに行く奴がそれじゃあ、かっこつかねぇよなぁ?

 だけど、そうなるとどうしたって移動速度は遅くなるわけだが──


「……僕のことは置いて行っていいから、みんなだけでロミリアを助けに行って欲しい、頼む……」


 まぁ、そういう結論に陥るよね。

 でも、ジュリアンは勘違いしてるんだよなぁ。


「あのなぁ、俺達はキミがいるからロミリアを助けに行くんだぜ? 正義感に従ってロミリアを助けに行くわけじゃねぇの。 俺達は賢者様に用があるだけだから、実際の所ロミリアはどうでもいいんだよ」


「いや、俺はけっこう気にしてるんだけど」


「俺も女性が捕まっているというなら、それだけで助ける理由になると思うから手を貸しているんだがな」


 俺と一緒にするなってか?

 マー君とゼティはそうかもしれないけど俺は違うんだよね。

 意思の疎通ができてない気がするけど、いつもこんなもんだから気にすることはねぇわな。


「でも、僕が一緒に行くより、みんなだけの方が……」


 面倒くせぇなぁ。


「あのな、俺らはシチュエーションにこだわる連中なの。ロマンを求めてるの。情けねぇガキが男を見せて、自分の女を助けに行くっていうのが見たいから手を貸してんだよ」


 塔を目指して走りながら、俺はジュリアンに言う。

 俺の言葉に対してゼティとマー君は肩を竦め、溜息を吐く。

 なに自分達は関係ねぇって感じを出してやがるんだ。テメェらだって俺と同じことを思ってんだろ?

 ただ戦うだけよりは、何かのためって理由があった方がる気が出るもんなぁ。


「キミだって嫌じゃないかい? 惚れた女を助けに行くのが自分以外だなんてさ」


 嫌だから、こうして俺達と一緒に助けに行くみたいなことをしてんだろ?


「でも、それは僕の我儘で、そのために足手まといになるのは……」


「別に良いじゃねぇか、我儘を言ったってさ。他人に迷惑をかけることなんか気にせず図々しく生きた方が人生、楽しいぜ?」


 それに俺は他人に迷惑をかけられるのが口で言うほど嫌いじゃないんでね。

 人に頼られるってのもなんだかんだで楽しいもんだぜ?


「俺達は好きでキミを助けてんだ。だから、キミはもっと堂々と図々しく、俺達に対して『気持ちよく戦える場を与えてやったんだから、感謝して俺のために尽くせ』とか思ったって良いんだよ。こっちはキミの恋路の助けをするっていうヒーローの役目を与えて貰ってんだから文句はねぇさ。アイツと違ってね──」


 俺は脚を止め、後ろを振り向きながら言葉を続ける。


「一般的な感覚であれば善玉と認識される側に立って戦うってのは気分が良いぜ。そっちはどうだい?」


 振り向いた先、俺達の後ろにはセレシアが立っていて俺達を睨みつけていた。

 俺が足を止めたことでマー君もゼティも足を止めて、俺達を追いかけてきたセレシアの方を見る。


「気持ちよく戦えてるかい? 女の子を攫うような奴の側についてさ。ま、聞くまでもねぇか」


 不本意ってのが雰囲気に出てるからな。

 いやまぁ、でも偉いよ。顔には出てないし、言動にも現れてないからね。

 いやぁ、立派立派、凄く立派だね。拍手したくなるくらいだぜ。


「聞くまでも無いと思ってるなら聞くな」


 セレシアは剣を俺に突きつけながら言う。

 俺達が抜け出した時には混戦状態だった広場から問題なく脱出し、追ってきたはずのセレシアには疲れが全く見えない。二回殺して程度じゃ何も問題ないってのは予想してたけどね。


「どうするんだ?」


 マー君が俺に近づき小声でささやく。


「仕留めるつもりなら、やれるぞ?」


 あら、そう?


「なら、頼むわ」


 俺は即座にマー君の背中に回り込み、背中に蹴りを入れて、マー君をセレシアの方に突き飛ばす。


「は?」


 俺の行動が予想外だったのか、マー君は勢いよくセレシアの方に向かっていき、その間に俺は塔を目指してさっさと走り出す。


「テメェ、そういうことじゃねぇよ! 三人で仕留めるって意味だ!」


 俺の背中にマー君の怒りが届く。


「え?」

「すまん」


 困惑しているジュリアンの背中を押して、ゼティもマー君をこの場に置いて塔に向けて走り出す。

 いやぁ、マー君の言いたいことは分かってたんだけどね。でも、セレシアと戦って時間を食うのも嫌だったし押し付けてしまいました。

 今日の俺の本命はセレシアじゃなくて賢者と青神だからさ。今日は忙しいし本命以外をつまみ食いする気にはならないんだよね。


「まぁ、頑張って! マー君なら勝てるからさ!」


 最後にマー君に励ましの言葉を送って、俺達はその場を立ち去り、塔への道を急いで駆け出した──



 ──自分がセレシアの足止めを任されたことを理解したマークは吐き捨てるように愚痴を漏らす。


「クソどもが」


 煙草を取り出し、口に咥えたマークは指先に灯した魔術の火で煙草に火を点け、気持ちを落ちつける。

 冷静になって思うのはセレシアの足止めが自分である必要はなかったということだ。

 単純にアッシュたちの集団の一番後ろを走っていたせいで、後方から追いかけてきたセレシアとの位置が近かったというだけで、足止め役を任されたという理不尽にマークは気付く。


「クソだな、クソクソ、本当にクソだ」


 吸いかけの煙草を放り捨てマークはセレシアに向き直る。

 文句を言いつつも表情は既に戦いに臨むものに変わっているマーク。

 対してセレシアはというと、マークが戦闘態勢を取るまで待っていたようで、マークが向き直るのに合わせて剣と盾を構えて戦闘態勢を取る。


「さきほどは三対一でようやく私を一度殺せたことを忘れたか? 一対一で勝てるとでも?」


 セレシアの言っているように、連携以外でアッシュたちはセレシアを一度も殺せていない。

 となれば、一対一で戦った場合は勝ち目が薄いのが当然。しかし、マークはセレシアの言葉を鼻で笑う。


「三対一でようやく? は、笑わせんなよ。|使徒(俺達)はいつだって一対一タイマンの方が強いんんだよ」


 マークは武器である特殊警棒を構えながら、空いた手でセレシアを手招きし──


「名乗れよ新入り、本当の使徒の強さを教えてやる」


 使徒になったばかりのセレシアを古参の使徒であるマークが挑発する。

 その挑発に対し、セレシアはそれに乗るようなそぶりは見せず──


「──アスラカーズ72使徒序列14位セレシア・サングティス」


 ただ静かに自分の名を名乗る。


「──序列49位マーク・ヴェイン」


 セレシアの名乗りに応え、マークも名乗る。

 こうしてアスラカーズの使徒同士の戦いは始まった──







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