囲いを破る
「殺せ、アイツを殺せぇぇぇっ!」
ギースの叫びに従ってギースの手下のチンピラ、ゴロツキ、その他大勢が俺に殺到してくる。
「……遊びだったと? 負け惜しみを言うな」
セレシアが俺を睨みつけ、セレシアの背後にいたローブの集団が魔術の発動を準備する。
「と、捕らえろ! きっと彼らは援軍だ!」
衛兵連中がギースとセレシアを味方だと判断し、俺に向けて兵を突撃させようとするが、状況が呑み込めてないせいか、衛兵連中の歩みは慎重だった。
「良いね、混沌としてきた」
「何がいいんだ」
放たれた魔術をゼティが剣を振るって生み出した衝撃波で掻き消す。
しかし、その直後に味方が放った魔術に合わせて飛び出していたセレシアがゼティに迫る。
もっとも、その動きは俺に見切られてるわけだけどね。
俺はゼティに飛び掛かるセレシアに飛び掛かり、その体を空中で叩き落とす。
「貴様っ!」
「言ったろ? 今回は手を抜かないってさ」
俺はセレシアに向けて走って距離を詰める。
ローブの集団が俺に向かって魔術を放ってくる。
「はい、ヘタクソ」
しかし、飛来してくる魔術は俺に届くまでにマー君が構築を分解し、俺に届くことなく消え去る。
俺はそうしてマー君の援護を受けて、セレシアに迫る。拳を構え、振りかぶり、全力の一撃を叩き込む体勢、対してセレシアは盾を構え俺の一撃を待ち受けている。
「上等だぜ」
食らって見るか? 俺の本気を──
「なんてな」
俺はセレシアに拳を叩き込む直前でその拳を止めて後ろに飛び退く。
攻撃を待ち構えていたセレシアは俺の行動に虚を突かれ、そこに一瞬の隙が生まれる。
そして、隙が生まれれば見逃さない男が一人──
「殺った」
セレシアの意識の範囲外、頭上からゼティが落下しながらセレシアの背中に剣を突き立てる。
息を漏らし、血を吹き出して、膝を突くセレシア。ゼティは即座に剣を引き抜くとセレシアから距離を取って剣を構える。
「一回、殺されたくらいで私は死なないぞ」
セレシアは口元の血を拭うと平然とした様子で立ち上がりゼティに向きなおる。だが──
「寝ぼけてんの?」
俺に背を向けてんじゃねぇよ。
俺はセレシアの背中に思いっきり蹴りを入れると、セレシアは前につんのめり、そうしてつんのめった先ではゼティが長剣を大きく振りかぶっている。セレシアは咄嗟に盾を構えるが、次の瞬間にはゼティのフルスイングを受けて盾で防御しながら大きく吹っ飛んでいった。
「袋叩きなら?」
「使徒も余裕だ」
俺とゼティは吹っ飛んでいったセレシアの方を見ることなくハイタッチ。
組んで戦れば負ける気がしないね。
「遊んでんじゃねぇよ、馬鹿ども、囲まれてんだよ」
はいはい、分かってますよ。
俺はマー君の声に返事をすることなく、振り向きざまに蹴りを叩き込み、背後に迫っていたゴロツキの意識を刈り取る。
「隊形を崩してんじゃねぇ! こっちに来い!」
俺とゼティはマー君の魔術によって、ジュリアンとマー君の傍に引き寄せられる。
そうして引き寄せられると同時に、俺は近くにいたゴロツキに飛び掛かりその顔面に膝蹴りを叩き込んだうえで、その顔を踏み台にして飛び上がると、その後ろに立っていたチンピラ二人の顔面に左右片方ずつの足を叩き込む。
「手加減してんじゃねぇぞ、クソが!」
「してるつもりは無いんだけどね」
着地しながらマー君の叫びに応えつつ、武器を振りかぶって近づいてくるゴロツキの足を払って転倒させる。敵は一向に減る気配が無くて最高だぜ。
「怒られてしまったんで、ちょっとマジで拳を握ろうか」
目の前から十人ほどのゴロツキが一塊になって突撃してくる。
俺は先頭に立つ男に向かって鋭く距離を詰め、相手の鳩尾に拳をねじ込み、まず一人。
続けて、振り下ろされる棍棒を躱して、一人に金的、一人に回し蹴りで三人。
一瞬で三人が倒され、怯えから動きが硬くなった奴が一人いたので、そいつのもとに飛び込むようにして距離を詰め、顎先を掠めるような拳の一撃を与えて四人。
背後から破れかぶれに襲い掛かってくる奴に振り向きざまの後ろ回し蹴りを踵を当てるようにして鳩尾に──これで五人。
残りの五人は警戒して俺に向かってこないので俺は後ろに大きく飛び退く、するとゼティが入れ替わりに五人に突進する。虚を突かれた五人に向かって斬りこみ、その五人を一瞬で斬り捨てる。
「あんまり殺すなって言ったじゃねぇか」
後ろに飛び退いた俺はゼティの戦闘を見ながらジュリアンに近づいてくるゴロツキをぶん殴る。
すると、その直後にギースの手下がいるのも関係なしに俺達を始末しようとローブの集団が魔術を撃ってくる。
「マー君よろしく」
「タイミングは俺が決めるぞ」
マー君が魔力で俺達の周囲に障壁を築くと、魔術はギースの手下にだけ当たり、俺達は無傷。
俺達よりもアイツらの方がギースの手下を倒してくれてるね。感謝でもした方が良いのかな?
ローブの集団は交代しながら連続で魔術を撃ちこんでくるが、それでも連射が途切れる瞬間は来る。
そして、その瞬間を見逃さずマー君は──
「行ってこい」
──俺をローブの集団のド真ん中に転移させる。
「顕現せよ、我が業。遥かな天へ至るため」
ローブの集団は突然現れた俺に反応できない。そんな連中の顔面に業術を発動させた状態の俺の拳を叩き込んだ。絶対に死ぬ一発だ。高熱を帯びた内力を纏った俺の拳は触れた瞬間に相手の頭を炎に包んで焼き尽くす。
「悪いな。俺にキミらは救えねぇからさ、こうするしかねぇんだわ」
俺は拳を振るい周囲にいるローブの集団に打撃を叩き込む。
その衝撃でフードがめくれ露になるローブの集団の顔はまだ少年少女のそれだ。
こいつらは研究院に連れていかれた魔導院の学生たちの慣れの果て、魔力も魂も使える全てを抜き取られ『抜け殻』になった人間だ。
「お前らみたいになったら、もう生き返らせるってこともできねぇんだよ」
魂が無ければ俺は生き返らせることはできない。
コイツらが魂を抜かれ、魔力を奪われても動くのは代わりに魔力の籠もった石──魔石を埋め込まれてるからだとマー君は言っていた。
要するにこいつらは人間を材料にしたロボットらしい。魔術が使えるのも動力の魔石を利用しているからで、それなりに戦闘ができるのは生前に習得させた戦闘技術によるものだとか。
それを聞いて腑に落ちたのが魔導院のカリキュラム。戦闘重視なのはこうして『抜け殻』にして使うからだ。
「ロクでもねぇ、ロクでもねぇ」
俺も大概ロクでもねぇが、魔導院の連中も相当なもんだぜ。
俺は学生の『抜け殻』を殴りながら思う。
もっと楽しい未来もあっただろうに。
こんな末路を辿るような生き方をしてきたわけじゃないはずだ。
「キミらとは戦ってても、そんなに楽しくなれねぇな」
戦る前はもしかしたらって思ったけど、やっぱりダメだった。それでも俺は無理矢理、熱を上げる。
殴るまでも無く上昇した内力の熱量が周囲の空気を焦がし、それだけに留まらず周囲の存在を発火させる。
俺の業術の熱によって生み出された炎に包まれた学生の『抜け殻』たちの体は燃え尽きるまで地面をのたうち回る。
苦しみを感じるような機能は無いとマー君は言っていたから、これは自己防衛機能によるもので体にまとわりつく炎を転がって消そうという動きなんだろう。
『戻すぞ』
抜け殻はまだいるがマー君の声がして、次の瞬間には転移の魔術で俺はマー君とジュリアンの傍に戻る。
俺は即座に近くにいたゴロツキに殴りかかり、顎先を打ち抜き、昏倒させるとマー君とジュリアンの方を見る。
「問題は?」
「何もねぇよ」
そりゃよかった。
見てみるとマー君の傍にはギースの手下が何人も転がっている。
ジュリアンを守りながら近寄ってくる奴らを魔術で撃退していたんだろう。
「状況は動いてるぞ」
マー君が周りを見るように俺に促す。
周囲の状況はさっきまでとは異なりギースの手下たちは俺達への包囲よりも抜け殻の方に意識が向いているようだった。
「そっちじゃねぇ! アッシュを殺すんだよ!」
周りを手下たちに守られたギースが俺から遠く離れた場所で叫んでいる。
手下たちからすれば、『抜け殻』の連中はつい今しがた自分達に魔術を撃ってきた連中だから、そいつらの方に先に仕返ししたいって思ってるはずだ。だから、自然と俺達ではなく『抜け殻』の方に向かう連中が多くなる。そして、それに加えて──
「全員、捕らえろ!」
衛兵連中はギースの手下が犯罪者であるってことに気づいたみたいだし、『抜け殻』の連中もマトモじゃないってことに気付いて、両者は味方じゃないと判断したようだ。
「ちゃんと、協力関係を結んでおかなきゃ駄目だよな」
後ろか忍び寄ってきたチンピラを振り向かずに裏拳で仕留めながら俺は呟く。
俺らにとっては良い状況だが、さてどうしたものだろうかね。
「このまま、どさくさに紛れて抜け出すか?」
マー君が『抜け殻』の方に無造作に魔術を撃ちながら俺に聞いてくる。
そのアイディアは悪くないとは思うんだけど、でもね──
「行かせると思うか?」
セレシアが俺とゼティの前に立つ。
最初は俺を狙っていた敵が、今は誰が自分の敵かも分からない混戦状態に陥っている。
そんな中でセレシアは俺達をしっかりと見据え、剣と盾を構えている。
「……ジュリアンは?」
「だ、大丈夫……」
そりゃよかった。顔色が悪いようだけど、悪いがキミの体調は無視するぜ。
「マー君、ジュリアンを連れて先に行け。こいつは俺が相手をする」
「わかった」
了解の返事をしながらマー君はナイフを持って襲い掛かってくるチンピラを武器にしている特殊警棒で殴りつける。
「もう、目が覚めた。油断はしない」
「そうかい、そいつは良いね」
俺とセレシアの間をギースの手下の集団が『抜け殻』に向かって通り過ぎていく。
その最中に俺は横から襲い掛かってきたギースの手下をセレシアの方を見据えたまま、殴り倒す。
セレシアの方も俺のことを見ながら、襲い掛かってくるギースの手下を盾で殴りつける。
そして、ギースの手下たちは過ぎ去り、それと同時に俺はセレシアに向けて飛び出した。
「目が覚めた所で悪いんだけど、二度寝でもしてもらおうか」
俺は駆け出した勢いのまま飛び上がり、セレシアに対して頭上からの一撃を加えようとする。
その動きに対して、当然セレシアの視線は跳躍した俺に向かう。だが、その瞬間、周囲の乱戦状態の只中から抜け出したゼティが身を低くして、背後からセレシアに襲い掛かる。
上下に加えて前後からの攻撃、前方頭上からの攻撃は俺で、背後足元からの攻撃はゼティだ。
回避は不可能に近いが、さぁどうする?
「二対一で来ることは分かっていたぞ!」
セレシアは僅かに後ろに体を傾けると、そのまま後方宙返りで後ろから迫っていたゼティの刃をゼティの体ごと飛び越える。けど、そうなると──
「飛んだらこっちの狙い通りだぜ」
後ろに飛び上がったセレシアに向かって俺は飛び掛かる軌道を維持したまま叩き落とすように拳を振るう。だが、その拳は空中で身を捻って構えられたセレシアの盾に受け止められる。セレシアは空中にありながら俺の拳の衝撃を受け流して、無事に着地して見せる。
「良いじゃねぇか」
空中で拳を防がれた俺は着地すると同時に再びセレシアに向けて駆け出す。
同時にゼティも動き出し、今度はゼティが剣を構えたまま跳躍し、セレシアに襲い掛かり、俺は飛び上がったゼティに合わせて、身を低くして滑り込むようにセレシアの懐に飛びこもうとする。
俺達の連携に対してシステラは盾を体の前に構えたまま逆に突っ込んでくる。
セレシアは仕掛けようとする俺に対して逆にぶつかってくる勢いで迫り、俺は近づくセレシアに咄嗟に拳を突き出す。しかし、その一撃は盾で受け止められる。その結果、俺とゼティの攻撃は同時にはセレシアに届かずタイミングがズレる。俺に遅れてゼティが放った頭上からの一撃をセレシアは剣で受け流すように防ぐと、即座に後ろに飛び退いて距離を取る。
「俺達の攻撃を捌けるとはやるじゃねぇか」
セレシアは距離を取ると息を整えつつ、俺とゼティを油断なく見据える。
「遊びは無しと言わなかったか?」
ゼティが俺に言いながら動き出す。
剣を構えて真っ直ぐセレシアに向かって突進。セレシアはゼティの放った突きを盾で受け流すが、そのタイミングで横合いから俺が飛び掛かりながら蹴りを放つ。しかし、俺の蹴りもセレシアは剣で受け止める。
守りが硬いぜ。でもな──
「詠唱──魔弾『鷹の眼』」
俺とゼティの攻撃の間隙を縫って放たれるマー君の魔術。
速度特化の魔力の弾丸が俺とゼティに意識が集中していたセレシアへと知覚の範囲外から突き刺さり、その胸に風穴を開ける。
「悪いね、こっちは三対一なんだわ」
さっき、俺を置いて先に行くと言っていたマー君はジュリアンと一緒に実はその場にとどまっており、セレシアに仕掛けるチャンスを狙っていた。
俺らの会話を真に受けたうえに直後に俺とゼティが連携してきたせいで、意識を俺達の方に割かなければいけなくなったセレシアはマー君の存在を忘れていた。というか、忘れさせたんだけどな。
「三対一で手加減無しに真面目に戦ったら、こうなるって分かるんだろ?」
俺らが不真面目だったら、袋叩きにするっていう真っ当な戦術を取らずに一対一で戦って上げたんだけどね。残念ながら、今日の俺らはクソ真面目なんでね。
「卑怯な連中め」
「なら、そっちは間抜けな奴って言えばいいのかい?」
セレシアは俺を睨みつけながら立ち上がる。
胸に空いた穴は既に塞がり、見た目はノーダメージ。
「そちらのやり口は分かった。もう油断は──」
言っている最中にギースの手下がセレシアに襲い掛かる。
セレシアが攻撃を受けて膝を突く様子は周囲の連中も見えていたので、チャンスだと思ったんだろう。
強い奴には弱いが、弱ってる連中には強いのがチンピラってもんだ。チンピラたちはセレシアが傷を負って倒せそうだと思ったからセレシアに狙いを定めて襲い掛かっている。
「邪魔だ!」
セレシアが『抜け殻』の指揮官だってのは分かってるだろうし、『抜け殻』に恨みを抱いた連中は優先的にセレシアを狙うだろうね。
セレシアは自分に近寄ってくるギースの手下を片っ端から薙ぎ倒しつつ、俺達の方に向かってきているが、いかんせん数が多く、一向に俺との距離が詰まる様子はない。
「チャンスだし行こうぜ」
俺は、俺達に向かう行く手をセレシアが阻まれている今こそチャンスだと思い、ゼティやマー君に声をかけて、この場を抜けて賢聖塔に向かうことにする。
敵を一か所に集めておけば、突破した後は楽だぜ。セレシアは最大の戦力で来ただろうし、この場を抜ければ賢聖塔まで俺達を阻むものはない。
「待て、アスラカーズ!」
俺達はセレシアの声を背中に受けながら、その場を後にし賢聖塔へと向かうのだった。




