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「──というわけで、俺達は行くからキミらはお留守番しててよ」


「何が、「というわけ」なのかは分からないんだが」


 ラスティーナが俺のことを睨んでくる。

 なんだよ、言わせたいの?


「ロミリアを助けに行くから、キミらはお留守番ってことなんだけど」


「それは分かってる」


 じゃあ、何が分からないのかって話だよなぁ。

 あぁ、もしかして何で女性陣がお留守番かってことが疑問なのか。


「これから囚われのお姫様を助けに行くんだぜ? お姫様が目を覚ました時、王子様の隣にお姫様以外の女の子がいたら変じゃん」


 ロミリアを助けた時、ロミリアが最初に目にするのがジュリアンだとして、その隣にシステラとかがいてみろよ。自分がいない時に他の女の子と仲よくしてたのかって感じにならない?

 そんな風に思うのは俺だけか? 囚われのお姫様を助けに行くのなら全員男性のパーティーの方が良さそうな気もするんだけど、その考えはおかしいかな?


「僕は全然気にしないけど……」


 気にしようぜ、ジュリアン。

 女の子の気持ちってのはどこに地雷が潜んでるか分かんねぇんだからさ。

 ま、それは男も同じだけどね。つーか性別とか関係なく人間なんてそんなもんさ。


「足手まといになりそうだからいない方が良いって話でもあるんだけどね」


 リィナちゃんとシステラが俺のことをムッとした感じで見てくる。

 おや、怒らせちゃったかな? でも、いられても困るのは事実なんだよなぁ。


「面倒なことに巻き込まれないように地下室にでも隠れててくれよ」


 酒場の表側は廃墟になってるけど、地下室は無傷で残ってるから、事が済むまで地下室に隠れててもらった方が俺達はやりやすい。ジュリアンを守りながらラスティーナやリィナ、システラにまで気を配るってのは結構な負担なんだよね。


「わかった。そう言うなら私たちは言われた通りおとなしくしていよう」


 ラスティーナは俺の本音を理解し、納得してくれたようで了承してくれたが──


「ただし、そちらがどういう行動を取ろうとも私の方ではアウルム王国の人間に連絡を取らせてもらうが構わないか?」


「問題無いよ」


 なにがあったかを自分の国に伝えるって話ね。

 王女を危険な目に遭わせたとか知ったら、ソーサリアに兵士でも送り込んでくるかもね。

 それはすぐってわけにはいかないだろうけど、この騒動が収まったら間違いなくアウルム王国の介入があった方が政治的にもソーサリアの統治的に良いわけだから、今の内に連絡しておいた方が今後のことを考えればスムーズだ。


「じゃ、行こうか」


 ラスティーナとの話は済んだんで、俺達は賢聖塔に向けて出発する。

 街の真ん中にあるわけだから道案内はいらない。俺達は最短距離でソーサリアの街の中心へ向けて進む。


「ところでさ、よく研究者とか探究者タイプの奴が真理とか叡智とかを追い求めてるけど、それはマー君的にはどうなの?」


 賢聖塔を目指して歩きながら、暇潰しがてら俺はマー君に訊ねる。

 魔術士としての技量だけで言えばマー君は俺が知る限りでは最高だからね。

 魔術関係の話とかを聞くにはマー君が一番だ。


「どうって言われても馬鹿なことをしてるなぁとしか思わねぇよ」


 へぇ、意外な答え。

 魔術士とかは研究第一みたいな雰囲気あるから、肯定的な意見が出るかと思ったけどね。


「でも、魔術を通してこの世の真理を得るというのは全ての魔術士の目標だから、そういうのが普通なのかなって」


 マー君の答えに対しジュリアンはこの世界の常識を口にする。

 一般的な感覚を知るってことは大事だよね。まぁ、その一般的な感覚が絶対に正しいかは分かんないけど。


「そもそも魔術を通してってのが間違ってんだよ」


 マー君はこの世界の一般的な魔術士の感覚に対して吐き捨てるように否定する。


「この世の真理って大それたものを観測しようってのに、どうして魔術っていう一つのフィルター、一つの眼鏡、一つの窓で全てを見れると思っているのか、そしてたった一つの視点から見て何で全てを理解できると思ってるのか、俺には分からねぇよ」


「でも、魔術を極めれば……」


「魔術の知識で理解できる世界の真理は、魔術によって観測できる事象の真理だけで、それだけでこの世の全ての真理を獲得できるわけがないだろ? この世は魔力だけで成り立っているわけじゃないし、魔術でだけ組み立てられているわけじゃない。魔術を極めたとして本当に分かるのは魔術のことだけだ。一事に通じたからといって万事に通じるわけじゃないってのは当然だろ?」


 魔術士として凄腕になったからって何でもできるわけでもないし、何でも分かるわけじゃない。

 例えば、一流のプロスポーツ選手だからって、それ以外の分野においても一流の能力や見識を必ず持ってるってわけはないのと似たような感じかな。でも、不思議なことに一つの事に一流の人間は全てが一流のように思い込む人々は少なからずいるし、当人もそう思ってしまい、割と偏った意見や思想を平気で撒き散らすんだよね。


「最初から間違ってんだよ、ここの賢者とかいう奴はな。魔術だけで解き明かせるほどこの世は単純でもないってことが分かってないから、絶対に辿り着けない真理の探究に固執して無駄な時間を過ごし、最後はイカレて終わる。そして、他の連中も間違ってる。魔術で分かるのは魔術のことだけ、なのにそれを叡智に辿り着く手段だとか、さも高尚な物のように捉えて、持ち上げてるから間違いに気付けないし、仮に気付いても何も言えない」


「……じゃあ、マークにとって魔術は何?」


 他の人間の……というか、この世界の人間にとっての魔術の価値を否定するなら、マー君にとっての魔術というのはどういう価値を持つ者なのか、ジュリアンが聞きたいと思うのは当然だよね。

 きっと、ジュリアンは何か立派な答えが返ってくる……というよりは立派な答えを返して欲しいと思ってんだろうけど──


「ただの道具だよ」


 マー君の答えはジュリアンの願った答えとは全く違う物だろう。

 まぁ、答えに関して理想の物を願う時点で間違ってるとも言えるんだけどね。


「人生を懸けるようなものでなければ、誇りを持つようなものでもない。ただの道具であり、ただの技術。

 そりゃあ、俺も昔はお前らのように考えてた時もあったけど、不意に気付いたんだよ。これって別に大したもんじゃねぇなぁって」


「……それは」


 ジュリアンはマー君の答えに対して納得できないようだ。

 まぁ、そうだろうね。ジュリアンにとっては魔術ってのはこれまでの人生において大きな重みを持つものなわけだし、それを軽んじられるような発言をされれば納得できないのも当然だろうね。

 マー君の場合は色んな世界を渡り歩いて色んな魔術の形を見てきたから、今のような結論に達してしまったんであって、そういった自分の経験をから導き出した答えを何も知らない奴に押し付けるのはお行儀がいいとは俺は思えないね。

 もっとも、マー君の意見自体には俺も賛成だけどね。

 魔術なんて、たかが魔術だよ。色んな世界を見てきたけど魔術の地位なんて色々なわけだし、そういうのを見ると、そこまで本気になれないわな。


「……お喋りはそこまでだ」


 ──どうやら議論をしてる暇もないらしい。

 ゼティがスッと前に出る。

 その動きに合わせて、俺はゼティの隣に立つように前に出て、マー君は後ろに下がる。

 前列は俺とゼティ、真ん中にジュリアン、最後尾にマー君という配置だ。


「えっと、どうしたの?」


「敵が来たんだよ」


 そう言って最後尾に立つマー君がジュリアンの動きを止める。

 ジュリアンの安全はマー君が確保。俺とゼティは周囲の敵に備える。

 敵が来るのは前の方から、結構な集団が隊列を組んでこちらにやってくる気配がする。

 俺達がいる場所はソーサリアの市街地の広場。開けた場所で隠れられるような所はない。

 もっとも、隠れるつもりは無いんだけどね。


「先手を取るか?」


 後ろにいるマー君の方から煙草の臭いがしてきて、続けて俺に確認を取ってくる。

 ゼティは既に剣を抜いている。いいね、みんなる気満々みたいだ。

 でもまぁ、待てよ。戦う相手の顔くらいちゃんと確認してからにしようぜ?


「──そこで止まれ!」


 止まってんじゃん。

 俺は前からやって来た集団が俺達を見つけるなり言いはなって来た言葉に心の中で反論しつつ、相手の姿を確認する。

 ソーサリアの街の衛兵か何かだろう。魔導院から言われて俺達を捕まえるなり始末するなりしにきたかな?


「殺すなよ?」


 俺はゼティとマー君に言う。

 ジュリアンは良いや、手加減とかできるような実力じゃないから、無理なことは要求しない。

 衛兵連中は何も知らないだろうし、純粋な正義感で俺達に向かってきてるんだから、殺すのは良くないよね。でも──


「いやがったぞ、アイツらだ!」


 別の方向から広場に集まってくる集団。

 それは見るからにゴロツキといった感じで、その先頭に立つのは──


「アァァァッシュゥゥゥゥっ!」


 ──逃げたはずのギースだった。

 どうやら、俺への復讐のためにやって来たようだ。

 殺意を俺へ隠すこともなくぶつけてくるギースとそれに怯えた様子で従うゴロツキとチンピラの集団。

 なかなか良い組み合わせだね。


「なるべく殺すなよ?」


 俺としては善悪で奪う命を区別するってのは好きじゃないんで、悪党だからって殺しても良いとは思わないんだけど、ゼティとマー君は俺とはちょっと考え方が違うからね。余裕がある時なら、殺すなと言っていたかもしれないけど、今は状況が状況だから二人の判断に任せることにしよう。


「相変わらず人気者だな」


 ゼティが周囲を警戒しながら言う。

 皮肉のつもりで言ってんだろうけど、俺には誉め言葉にしか聞こえねぇよ。


「人を惹きつける魅力に溢れてるもんでね。ファンになる奴が尽きねぇのさ」


 ほら、言ってるそばからファンのおかわりだ。

 更に別の方向から、転移によってセレシアが率いるローブの集団が現れる。

 これで俺達は広場の中央で三方向から敵に囲まれたわけだ。良いね、好きなシチュエーションだぜ。


「アスラカーズ、我が忠誠を示すため、貴様を滅ぼす」


 セレシアが剣の切っ先を向けて俺に宣言する。

 後ろにいるローブの集団もセレシアの言葉に反応して俺へと殺気を向けてくる。


「……仕方ねぇな。あいつらは殺していいぞ」


 ローブの集団に関しては諦めた。

 ゼティとマー君が持ってきた死体を検分した結果、どうにもならないというのが俺の結論だ。

 つーか、殺すってのも今更なんだよな。生きてないのに殺すとかな。むしろ、殺すってのはアイツらを人間として認める最後の弔いだ。


「こちらの方針は決まってる。あちらのる気は満々。なら、いつでも始めて良いわけだが、さてどうする?」


 俺はゼティ達から離れて広場のド真ん中に立ち、周囲の敵を全て見渡す。

 こっちの数は4人で、相手は全部合わせて1000人くらいか?


「……足りねぇなぁ」


 1000人が俺を見る。他人から注目を浴びるってのは楽しいぜ。その注目に殺意がこもってれば尚更ね。

 俺が世界の中心に立っているような感覚。

 ま、実際にこの場の中心にいるのは間違いないんだけどね。誰もが俺を見て、俺に向かって来ようとしているからね。

 自分が世界の主役の気分。目立ちたくないとか敵を作りたくないって奴はこういう気分を味わいたくないんだろうかって不思議に思うぜ。


「アスラカーズっ!」


「アァァッシュっ!」


 セレシアとギースがほぼ同時に飛び出し、俺に襲い掛かってくる。


「良いね。始めたくてたまらないとか戦る気に満ち溢れてて嬉しいぜ」


 敵の数は少ないが気合いは充分。さぁ、楽しくろうぜ?

 俺は飛び掛かるように襲い掛かってきた、ギースの腹に振り向きざまに蹴りを叩き込んで、その体を吹き飛ばす。そして、即座にセレシアの方に向き直ると、セレシアが構えて突進する盾に向かって全力の拳を叩き込んだ。


「今度は遊び無しで戦ろうか?」


 俺の拳の衝撃を殺し切れずにセレシアは吹っ飛び、ローブの集団を巻き込む。

 しかし、セレシアは当然にしても巻き込まれた集団も何事も無かったかのように立ち上がり、俺へと殺意を向けてくる。


「──上等だ」


 俺を睨みつけてくるセレシア。


「目的を忘れるなよ」


 ゼティがセレシアの視線を遮るように俺の前に立ち、ジュリアンとマー君が俺の後ろに立つ。


「この数を相手に勝てると思ってるのかよっ!」


 吹き飛んで地面に転がっていたギースが身を起こしながら叫ぶ。

 それは、この場にいる全員の思考を代弁しているものなのかもしれないが、俺からすれば、ただの1000人だ。


「逆に聞きたいね。この数を相手に勝てると思ってんのか?」


 こっちは4人もいるんだぜ?

 1万、10万、100万が相手でも俺は同じことを聞くぜ。

 何億、何兆いても俺はたぶん聞く。その程度の数でこっちの4人に勝てるのかってね。


「みんなで算数のお勉強でもしようか? 実技でさぁ!」


 数比べだ。4と1000のどっちが大きいのか教えてるやるよ。


「全員、ぶっ倒してやるよ。かかって来い」


 周囲にいる敵の戦意が高まり集団はジリジリと距離を詰め、俺達を取り囲む。

 さぁ、それじゃあ、この囲みを突破して塔に向かうとしようじゃないか。






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