表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/379

質問時間

 

 マークがいた宿屋に魔術が撃ち込まれた時から時間は僅かに遡る。

 魔導院の学院長室ではゼルティウスと学院長が対峙していた。


「分からんのう、何故なにゆえおぬしは儂に殺気を向けておるのじゃ?」


 学院長は心底不思議な様子でゼルティウスを見る。

 ただ、ラスティーナに対して、口裏を合わせてくれれば良いと言っただけなのに、ゼルティウスが怒りを見せる理由が学院長には分からなかった。


「王女を始末せよと言っているわけではなかろう? 単におぬしが見たという囚われていた生徒たちのことは忘れてくれと言っておるだけじゃ。黙っているだけで済むというのに何が気に食わんのか儂には分からんのう」


「本当に分からないのか?」


 ゼルティウスはいかにも好々爺といった見た目の学院長のその表情を見て、そして理解する。

 自分のしていることに関して何の罪悪感も抱いていない表情だ。それを見てゼルティウスの覚悟も決まる。


「どうやら何を言っても無駄のようだな」


「ほう、なんじゃ? 儂に刃を向けるつもりかのう」


 目の前に殺気を向けてくる相手がいるのに関わらず学院長は余裕の表情を崩さない。

 もっとも、それは学院長の側からすれば当然の反応であり、学院長にとってはゼルティウスなどは只の用務員、対して自分はソーサリアにおいて屈指の魔術士、学院長から見れば戦力差は明らかであり、どれほどの殺意をもってしてもゼルティウスが自分を傷つけることなど不可能とたかをくくっていた。


「であるならば、少し仕置きが必要かのう?」


 だが、その戦力分析は学院長の勘違いである。


「最初からこうして口を封じてしまうという方法もあったのに、黙ってくれているならば見逃してやろうという儂の善意を無駄にしおって。もはや後悔しても遅いぞ?」


 学院長は魔力を練り、ゼルティウスに向けて魔術を放つ準備をする。だが──


「黙ってろ、ガキが」


 魔術を放とうとした瞬間、学院長の両足はゼルティウスに斬り落とされた。

 目で追うことも出来ないどころか、斬られて倒れ、そこでようやく気付くような一瞬の出来事であった。


「──う、おぁああああ」


 膝から下を失った脚をバタつかせ絶叫を上げる学院長。

 しかしながら、その狼狽は演技も含まれており、学院長は自分が足を失って立てないと気付くや否や即座に浮遊魔術を使って体勢を立て直そうとする。

 その点は自分をソーサリアで屈指の魔術士と自認するだけあり、流石の対応である。だが、ゼルティウスはその先を行く。


「──判断が遅く、そもそも間違っている」


 学院長の行動を読んでいたゼルティウスは浮遊魔術を使おうとする学院長の背後に回り込んでおり、浮かぶ学院長の背中に飛び掛かると、いつの間にか手にしていた剣を背中に突き立て、押し倒すと学院長の体を背中から貫いた剣で床に縫い留める。


「俺を甘く見すぎだガキ。俺はお前程度の魔術士など何万も斬り捨てている」


「ガキだと? 小僧が舐めた口を──」


 床に縫い留められた状態で学院長がゼルティウスに食って掛かるが、そうして開いた口にゼルティウスの靴のつま先が叩き込まれる。


「俺は見た目より長生きなんでな。お前より年上だよ」


 つま先を叩き込まれた学院長の口から歯がこぼれ落ち、血が噴き出る。


「なので老人イジメではなく。年寄り同士の喧嘩だ。そちらも若者イジメをしているわけではないと分かって罪悪感が薄れるだろう」


 もっとも、傍から見れば若者が年寄りに暴行を働いているようにしか見えないが。

 それでもまぁゼルティウスの言うことは事実であり、実際ゼルティウスは学院長より長く生きているのは確かである。


「先に言っておくが、お前は殺す」


 ゼルティウスは学院長を見下ろし、冷酷に告げる。


「殺される覚えがないなど言いわけをした所で無駄だ。俺はお前を殺すと決めた。俺がそう決めたのなら、理由は俺が殺すと決めたというだけで充分だ」


 床に剣で縫い留められた学院長のゼルティウスを見上げる眼差しには恐怖しかない。

 ゼルティウスの言葉には一切の嘘が感じられなかったからだ。


「ただ、殺す前に聞きたいことがある。それにどう答えるかで、お前は楽に死ねるか苦しんで死ぬかが決まる。改めて言っておくが殺さないという選択肢は無い。お前が何を言おうが最後は必ず殺す」


 学院長が何事か口を開こうとするがゼルティウスは睨みつけ発言を封殺する。


「俺の質問に答えるが以外で口を開くな」


 ルールを決めゼルティウスは学院長に訊ねる。


「それと、あまり不用意に動かない方が良い。背中に刺さりお前を床に縫い留めている剣だが、少しズレれば大事な血管が斬れて失血死する」


 そう言われた瞬間、どうにかして自分の体に刺さっている剣を抜こうともがいていた学院長の動きが止まる。


「では質問だ──お前たちは何故、生徒たちを攫う」


「儂らが攫っているわけでは──」


 学院長が口を開いた瞬間、ゼルティウスは床に腹ばいの体勢で縫い付けられている学院長の頬を平手で叩いた。


「次は拳でいくぞ?」


「……昔から犯罪組織を使って生徒を攫っておったのは確かだ。その者たちと研究院へと入った生徒たちを──」


「生徒たちをどうした?」


「賢者様──セシアリウス様に捧げていた……」


 セシアリウス……初めて聞く名前だが、それが賢者の名前かとゼルティウスは心に留めておくことにした。


「捧げるとは具体的には何をする?」


「魔力を無理矢理に引き出し、その魔力をもってセシアリウス様は永遠の命を得ておる。セシアリウス様は自分の寿命を維持するのに生徒たちの命を使っておる」


「そんな下らないことに使っているのか?」


「くだらない? ふん、それは魔術を知らんものの立場じゃな。セシアリウス様は真に偉大なる魔術士、いずれは必ず魔導の神髄そして真理へと到達する御方じゃ、あの方の命に比べれば、そこらの餓鬼の命など無価値に等しい。儂らは無価値な命に価値を与えておるのじゃ!」


 分かりやすい悪役の物言いだ。

 自分の行動を正当化しようとした結果、無茶な理屈になっている。

 ゼルティウスはイチイチ反応する価値も無いと思い、先を促そうとも思うが──


「魔導院の生徒たちは皆、夢を持ってここにやって来た。理想の自分を目指している奴、自分を変えたいと思っている奴、もっと俗な野心を持ってる奴もいるかもしれない。だけど、どんな思いであれ、みんな希望を持って、ここを訪れている。お前らにそんな希望を奪う権利はあるのか? そういうそんな奴らの夢や希望を食い物にしていることに罪悪感は無いのか?」


 ゼルティウスは思わず口を開く。

 夢を持って訪れた者に、希望と可能性を与えるふりをしながら、結局はその夢と希望を奪っていた。

 やはり、こいつらは殺すべきだとゼルティウスは思う。

 少なくともゼルティウスの感覚では目の前にいる学院長を含め、学院の実態は悪であり、許すべき存在ではないと思ったからだ。


「魔導の神髄だの真理だのと言っているが、そういう大層なこと以外に何か現実的な見返りがあるからこそ、お前はセシアリウスとかいう輩に協力していたんだろう。答えろよ、何を貰えるはずなんだ?」


「儂はただ、純粋に魔術の発展を──」


 ゼルティウスは学院長の顔を拳で殴りつけた。


「次はもっと痛くしようと思うんだが? どうすれば本音で話してくれる? なるべくそちらの要望には応えようと思うんだが……」


 言いながらゼルティウスは懐から取り出したナイフを学院長に見せる。


「セシアリウス様が永遠の命を下さるとおっしゃられたんじゃ! 儂が忠誠を尽くせば自分が永遠の命を手に入れたのと同じ方法で永遠の命をくれると!」


 永遠の命……そんな月並みな欲望を抱くような低俗な人間だから、こうして簡単に口を割るような小物なのかとゼルティウスは思う。


「わ、儂以外にも何人かの教師はセシアリウス様に同じ取引を持ち掛けられておる! 儂だけが悪いわけではない! 研究院に関しても事実の隠ぺいに協力する者は大勢おる! だから、あんな場所が未だに日の目を見ずに存在できる──」


「あんな場所? 気になるな、研究院に入る扉を開けてもらおうか?」


「無理じゃ! それだけは無理じゃ! 研究院の扉はセシアリウス様の許可が無ければ開けられ──」


 ゼルティウスは言葉の最中で学院長の耳を削ぎ落した。


「無理だというなら代わりに賢者の話でもしてもらおうか。セシアリウスという輩について教えてくれないか?」


「そ、それは……」


 ゼルティウスはもう片方の耳にナイフの刃を当てる。

 それだけで学院長は怯え竦んで素直になる。

 こんな脅すような真似をしながらゼルティウスは学院長の反応が理解できなかった。

 自分は絶対に殺すと言っているのに、ちょっとした痛みで屈して口を開く。黙っていようがどうしようが変わらないのに簡単に屈するのは言うことを聞けば命だけは助けて貰えると思っているからだろうかと、目の前の相手の状況理解を不思議に思う。


「セシアリウス様については儂も良く知らん! ただ、偉大な魔術師で永い時を生きているとしか、それと神の祝福を受けているとも……」


 神の祝福という言葉にゼルティウス引っかかるものを感じる。

 やはり賢者と青神が繋がっているのだろうかと思いつつ、学院長の必死の言葉に耳を傾けていると──


「しかし、その御力も段々と衰え、それ故に他者から魔力を奪わなければ命を維持できずに、他者から魔力を奪う回数も年々増えており、我々が集めた生徒を回収するためにセシアリウス様は度々異界に築いた自身の住居である賢聖塔をこの地に出現させる羽目になっておる──」


 全て喋れば自分の命は助けて貰えると思っているようで学院長は必死で自分の知っていることをゼルティウスに伝えるが、その様を見てもゼルティウスは見苦しいとしか思えず、むしろ殺意を助長させていることに学院長は気付かない。


「そして今では衰えた自分の力を取り戻すために『器』を…………あっ?」


 学院長はそこまで言って何かに気付いたように言葉を止める。

『器』という言葉を口にしたことに気付いた学院長はガタガタと震えあがり──


「ち、違うのです! 儂はここまで話すつもりは……ただ、物の弾みで──」


 次の瞬間、窓の外に強烈な光が迸り、閃光が窓の外から学院長室へと向かってくる。

 ゼルティウスは咄嗟に部屋から飛び出すが、そうして飛び出した直後、学院長室に閃光が直撃する。

 それによって生じた爆風にゼルティウスは体を煽られ吹き飛ばされるが、何も問題なく受け身を取り、無傷で済ませる。


「口封じか? それにしては随分と遅かったが……」


 ゼルティウスは部屋の外から閃光の直撃した学院長を見る。

 辛うじて入り口があったと分かる場所からは煙が立ち込め、それだけで室内の破壊された様子も想像でき、学院長に関しても生きてはいないだろうということが部屋の外からでも分かった。


 何故、今のタイミングで攻撃してきたのだろうかとゼルティウスは思う。

 口封じのためなら学院長に喋らせすぎだ。だが、喋らせていたということは咎めるような内容が無かったということではないだろうかとゼルティウスは考える。

 そして学院長が最後に言った『器』これがセシアリウスの逆鱗に触れたのだとゼルティウスは推測する。


「短気なのか、そうでないのか良く分からないな」


 気配を感じゼルティウスが空を見上げると、そこには賢聖塔があり、ソーサリアの街を見下ろしていた。


「なるほど、真実を知る者、知る可能性のある者は生かしてはおけないということか」


 ゼルティウスは周囲から殺気を纏った気配が自分のもとに集まってくるのを感じた。

 そして、その者たちが続々とやってくる気配を感じるのは研究院の方向からであった。


「今なら扉があいているということか……ならば、あんな場所と言っていた、その真実を拝みに行くのも悪くないか。もっとも、まずは……」


 研究院の方向からやって来たローブを身に纏った集団がゼルティウスを取り囲む。


「こいつらを片付けるのが先か」


 ゼルティウスに向けて魔術を放つローブの集団。

 ゼルティウスは魔術を躱し、その集団の中へと飛び込んでいった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ