邪神と勇者
俺を邪神と言った男に対して俺がどうしたかというと——
「ゼティ~~!」
俺はエルディエルとの間に割って入ってきた灰色の髪の男──ゼルティウスに愛称で呼びながら駆け寄った。だって、知り合いなんだもん。
ゼルティウスは俺がこの世界に来る前からの知り合いで、つまりはこことは別の異世界の人間だ。
一体全体、なんでゼルティウスがいるんだろうか、その理由は分からねぇけど、知り合いに会えたのは嬉しいぜ。俺は親愛の情を込めて抱きしめてやろうと思ってゼティに近づこうとするのだが──
「寄るな」
ゼティは俺に剣を突きつけたままで、俺が近寄ることを許さない。
一体どうしたっていうんだ? そんな攻撃的になってさ。
俺はお前に嫌われるようなことしたか?
まぁ、いっぱいしてるんだけどな。数えきれないくらい恨まれるようなことをしてるんで、剣を向けられていても特に何も思わねぇなぁ。
「邪神がいると聞いて来てみれば、まさか本人がいるとは思わなかった」
剣を突きつけながら、ゼルティウスは俺に殺気をぶつけてくる。
いいねぇ、お前の殺気は大好きだ。つーか、お前が大好きだ!
「業術出てるぞ、頭を冷やせ」
ゼティの剣の切っ先が僅かに揺れると同時に俺の首が飛ぶ。
そのまま飛んでいきそうになる頭を手で掴んで胴体の上に戻すと、一瞬でも脳への血流が止まったせいで頭が冷えて、俺は冷静な気分になってくる。
そうして俺が冷静になったのを見計らってゼティは剣を下ろして戦闘態勢を解く。だけど、それは見せかけで、実際にはいつでも俺を斬る準備は出来ているはずだ。
「一体、今度は何を企んでいる」
「企んでるってなんだよ?」
人聞きの悪いことを言う奴だなぁ。
そっちこそ何やってんだって俺は言いたいね。
「俺をこんな世界に転移させておいてシラを切るつもりか?」
おっと? なんだか、誤解があるようだぞ。
確かに俺はゼティの了解も得ずにゼティを色んな世界に飛ばしているけれど、この世界に転移させた記憶はないなぁ。つーか、俺もこの世界は知らなかったし、転移させるとか無理だぜ?
「ちょっと待って欲しいなぁ。なんだか誤解があるようなんだが、まず俺はお前をこの世界には転移させていないし、ちょっと俺の方もトラブってて」
「ほう、そうなのか。何が起きたか話してみろ」
どうやらゼティは俺の話を聞いてくれるようです。なんだかんだで話の分かる奴なんだよね、こいつは。
でも、剣を鞘に納める様子はないんで、場合によっては俺を斬ろうと思っているのも確か。それならそれで良いし、俺に対して警戒するのは判断としては間違っていないから、むしろ褒めたいくらいだね。
「実はさぁ……」
話を聞いてくれるようなので、俺はこの世界に来た経緯と俺が弱体化していて神としての能力も振るえず、この世界から脱出できないことを、包み隠さず話す。
そうして話した結果のゼティの反応はというと──
「ざまぁ」
クッソ嬉しそうだったね。
ゼティは俺がしくじったことが嬉しくてたまらないようだ。まぁ、今まで俺がゼティにしてきたことを思えば仕方ないけどね。ヤバい世界に送り込んだり、ヤバい相手と戦わせたり、まぁ色々とさせてきたからなぁ。
でもまぁ、ここでコイツに会えたのは良いね。こいつも世界と世界の移動だったり次元移動はできるから、こいつにくっついて、この世界を脱出すれば――
「言っておくが、俺にくっついて脱出するのは無理だぞ。俺も脱出できないからな」
俺が何を頼もうとしてたのか察してくれたようで先回りして教えてくれました。
いやぁ、長い付き合いだけあって以心伝心で素晴らしいね。そうか、脱出できないか。まぁ、そういう可能性も考えてなかったわけじゃないんで、ガッカリはしないね。
「お前の言い分を鵜呑みにするわけにはいかないし、そもそも信用できない奴なので、嘘をついてるとも思うが、弱っているのは確かだな。今のお前からは殆ど力を感じられない」
そういうゼティも相当に弱くなってるよな。
俺達は、この世界の生き物とかのレベルに合わせた強さになるとはいえ、力の根っこの部分がいつもとは比べ物にならないほど弱くなっている。俺のことを笑ってる余裕はないと思うんだけどね。
「で、どうすんの? 弱ってる俺を倒す気とかあったりするかい?」
それならそれで俺は構わないんだけどね。
別にどうしても協力が必要なわけじゃないから、俺が弱ってるのを良い機会だと思って宣戦布告もありだぜ?
「馬鹿を言うな。お前を倒したところで状況が好転するかも分からないないのに、わざわざ俺の素性をを知っている身内を殺してどうする」
「そうでもないかもしれないぜ? もしかしたら俺が黒幕かもしれないし、この場で俺を始末した方がいいんじゃないか?」
「挑発は止めろ。他の奴はどうか知らんが俺はその手には乗らない」
だよね、ゼティは俺と戦う気は無いもんね。知ってました。
つまんねぇけど、戦る気が無い奴とやってもね。ゼティくらいの奴と戦るなら、お互い合意の上で最高のコンディションでやりたいって気持ちもあるし我慢してやろう。
「──ところで、そいつは誰だ?」
ゼティがエルディエルの方を振り向く。
そういえば、エルディエルのことを忘れていたね。まだ帰ってなかったんだろうか。なんだか呆然としたような顔をしているけれども、もしかして俺達の話を聞いていたんだろうか?
ゼティが話を聞かせて良い奴なのか?って、視線で俺に問いかけてくる。俺は、まぁいいんじゃない?ってつもりで肩を竦めるんだが、伝わっただろうか?
まぁ、確実に伝わっていない奴が一人だけいるのは確かだけどさ。
「貴様たちはいったい何者だ!?」
ボロボロのエルディエルは膝をついたまま、俺達に向けて叫ぶ。
俺のことをこの世界の異物って言ったくらいだから、ゼティのことも俺と同じような存在って認識できているんだろう。排除の対象が急に一人増えたら、そりゃビックリするだろうな。
ゼティが俺にどうする?という視線を送ってくる。
何者だと聞かれたら、名乗ってやるのが常識だよな。なので、俺はゼティの隣に並び、エルディエルに向けて自己紹介をする。
「俺は邪神アスラカーズ。でもってこっちが――」
「恥ずかしながら邪神の手下。アスラカーズ七十二使徒、序列七位のゼルティウスだ」
「まぁ、俺の手下って奴だね」
納得してくれただろうか?
使徒っていうのは、簡単に言うと邪神である俺のパシリみたいなもん。
俺の命令で色んな世界に行って、俺のために世界を滅ぼしたり、強い奴を連れてきたりする連中。
たまに、俺の遊び相手になってもらったりもするね。
ちなみに七十二使徒っていっても七十二人もいなくて、実際には二十人程度しかいないんで、数はハッタリだ。
「で、こいつは誰なんだ?」
「白神の所の天使でエルディエルって名前らしい」
「へぇ、こいつが白神の」
そう教えた瞬間、エルディエルの残った腕が斬り飛ばされる。やったのはゼティだ。
ゼティとエルディエルの間の距離は数メートルほどあるが、その程度の距離はゼティの間合いの範囲内だ。
「ということは、この世界を駄目にしてる連中の味方ってことだな」
ゼティも俺と同じようにこの世界の運営状況が良くないことは把握してるんだろう。で、その原因が白神とかの神様にあると思ってるんだろうね。まぁ、俺もそう思ってるんだけどね。
「白神がどこにいるか聞き出したか?」
「いいや。何も知らなそうだから見逃してやろうと思ってるんだが」
ゼティが俺に対して馬鹿かと言いたげな眼を向けてくる。いやさぁ、これまで散々いじめちまったもんだから罪悪感があってさ。
ゼティとしてはエルディエルからどんな些細な情報でも聞き出したいんだろうね。そんでもって白神をぶった切る手掛かりを手に入れたいんだろう。ゼティも俺と同じようにこの世界の神様はぶっ殺すべきだと考えているだろうからさ。
「ほら、帰れよ。二人相手に勝てるわけねぇんだから、ここは素直に負けを認めるんだな」
俺の言葉に、エルディエルは心底悔しそうな表情を浮かべている。
おぼえていろ、このままでは済まさんとか言ってくれるのかと思ったが、完全に気持ちが折れているようで、負け惜しみの言葉を放つことも無くエルディエルは転移の術を使ったのか、この場から消え去っていった。
残されたのは俺とゼティの二人だけ。さて、何を話すべきか?
「お前、何処に住んでるんだ?」
「ラザロスの外」
「いつも通り野宿かよ。まぁいい、とりあえず、そこで詳しい話をしよう」
ということでゼティの提案を受け入れて、俺達は場所を変えて話すことにした。




