翼は折れて
貫いた拳をエルディエルから引きぬくと、エルディエルはそのまま落下していく。翼が燃えているんだから仕方ないね。
翼から体に火が燃え移り、火だるまになってエルディエルは地面に叩きつけられる。俺もずっと飛んでられるわけじゃないんで、落下するけれども、こっちは無事に着地する。
「どうした? ほら、早く再生しろよ。まだまだ戦れんだろ?」
翼は燃え落ちたけれど、体はまだあるんだから頑張れよ。
腕も一本無いけど、すぐに生えてくるだろ?
全身の火傷も少しずつ治り始めているみたいだし、いけるいける!
腹に開いた穴は、ぶち抜くのと同時に焼け焦げてるけど、それもまぁ何とかなるだろ?
だから、早く立ち上がって俺と戦おうぜ。
「一応、教えとくけど、俺も不死身ではないよ。武器とかに魔力や闘気を一定以上の強さで纏わせて、それで俺を傷つければ、俺の闘気に干渉して、俺の傷の治りが遅くなったりする」
ヒントを教えてやらないと勝負ならなそうだから、今の内にヒントを教えてやることにする。
別に俺は圧倒的な強さで勝ちたいわけじゃなく、楽しく戦いたいだけだからね。俺が一方的にボコボコにするのはそんなに面白くないんだよ。
本当だったら自分の力で気づくのが良いんだけど、そんな余裕は無さそうだから、俺から教えるのだって仕方ない。
「ついでに、俺の業術の熱は普通に闘気や魔力で防げるぞ。まぁ、俺の闘気より強くなきゃいけないんだけど、でも頑張れるよな?」
気合いと根性さえあれば何とか出来るだろ?
俺は出来るって確信してるし、今までも気合いと根性で何とかならなかったことはないから、お前も自分を信じて限界を越えようぜ?
ちょっとテンションがおかしくなってる?
でも仕方ないよな。業術ってのは自分の衝動をぶちまけてるんだから、発動中はどうしても気持ちが昂っちまうんだよ。特に俺のはな。
「ほら、立て! 早く立て! 早く再生させて、もっと戦ろうぜ!」
俺はエルディエルが立ち上がるのを待つ。
翼は元には戻らないし、腕も生えてこない。腹の穴は塞がってきているようだが、なかなか治り切らないし、焼け焦げた体の方も再生は途中で止まっている。辛うじて顔は元に戻っているようだが、それ以外は再生が追い付いていないようだった。
でもまぁ、問題ないだろ?
俺はそれくらいなら、まだ戦えるぜ。お前もそうじゃないか? まだ戦る気はあるよな?
俺を倒さないといけないんだろ? だったら頑張らねぇとさ。ほら、立ち上がれって。
「私は……神の命を受け……この世界の、異物を……排除する」
「そうだ、その意気だ!」
そうして俺のボルテージも最高潮に達しそうになった時、不意にエルディエルと目が合う。
その眼にあるのは俺への怯え。威勢が良いのは口だけでエルディエルの気持ちは既に折れているようだった。威勢が良いのは口だけで、それを理解した途端、俺のやる気がフッと消える。
また、やり過ぎちまったなぁ。ちょっと楽しくなってきちまうとやりすぎちまう。
誰もが俺の気持ちに応えられるほど戦る気に満ちているわけじゃないのに、一人で勝手に盛り上がって、俺の楽しさを押し付けちまう。
その結果がこれだ。心が折れて虚勢を張るしかできない可哀想な奴を作って終わり。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
さっきまでの楽しい気分は消え失せて、戦る気も無くなってきた。
付き合わせておいて勝手な言い分だけど、もう良いかな。
どうせ、こいつは何も知らないだろうし、聞き出せることも無いだろ。放っておいて良いんじゃないか?
「私は……まだ……」
「もう良いよ。ごめんな、無理させちまったね」
戦えるって言いたいのかもしれないけど、無理だろ?
目の奥にある怯えが隠せていないんだもん。そんな奴とは戦う気になれねぇよ。
「帰っていいよ。見逃してやるからさ」
俺は戦闘態勢を解いて、戦う意志が無いってことを表すために両手を挙げる。
もういいだろ? 傷もこの場では治らなそうだし、帰って治療に専念した方が良いよ。
それで、俺のことは忘れて平和に生きると良い。俺もキミにはもう関わらないようにするからさ。
「ふざけるな!」
エルディエルがボロボロの体を起こし、無事な方の腕を振り上げて、俺に攻撃を仕掛けようと魔術を発動しようとする。
「もういいから、やめとけって」
そう言って、俺は防御の態勢を取ることもせずにエルディエルの好きにさせる。反撃する気分にもならないし、攻撃を食らったところでダメージを食らうとは思わない。
俺はエルディエルに背を向けて、その場を立ち去ろうとする。背中から撃ちたければ撃てば良い。俺は反撃をする気にもならねぇから、撃ちたい放題だぜ?
しかし、エルディエルは俺が背中を向けているのにも関わらず、なかなか攻撃してこない。
ビビってるんだろうか? ビビってるんだろうね。まぁ仕方ない。エルディエルの方は撃てば、俺に反撃されると思ってるから余計なことは出来ないんだろう。
そういう所が駄目なんだが、それを責めるのもね。俺が調子に乗って戦ったせいで、そんな風になってしまったんだから、俺が何か言うのは駄目だろう。
「じゃあね。気力が戻ったら、また戦ろう」
そうなっても、俺はもう本気は出せねぇと思うけどさ。
心が折れると分かった相手に酷いことは出来ねぇしな。
「待て!」
そう言っても待てないよ。待ったところで、何にもないだろ?
だが、そう思った瞬間、俺は足を止めることになる。
それは唐突に俺に目掛けて何処からか発せられた殺気のせいで、殺気と共に何かが、この場に近づく気配を感じ、俺は足を止める。
「待てっ!」
急に俺が足を止めたのに驚いたのか、反射的にエルディエルが腕から光弾を放った。
俺は振り向き、放たれた光弾を弾こうとするが、俺がそうするまでもなく光弾は消え去る。
何が起きたかって?
誰かが光弾を切り裂いて消し飛ばしたんだ。
いつの間にか俺とエルディエルの間に何者かが立っていて、そいつがエルディエルの攻撃を妨害したようだ。
俺は改めて、そいつの姿を確認する。
そいつは赤いメッシュが入った灰色の髪の男だった。
俺へ向けられた攻撃を防いだようだが、俺の味方のつもりはないようで俺に剣を突きつけている。
その眼は俺への敵意に溢れており、俺に対して男は言う。
「会いたかったぞ、邪神アスラカーズ」
そうして俺の正体を口にした男に対して、俺が何を言ったかというと──




